表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界コンサルはじめました。~元ワーホリマーケター、商売知識で成り上がる~  作者: いたちのこてつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/111

第5話 KPIツリーによる改善始動!

俊の号令で、グランツ支店は慌ただしく動き始めた。


「よし! 店員は全員、売り場に出ろ! まずは什器を動かすぞ!」


「什器、ですか?」


ブレンナーが戸惑う。今まで動かされたことのない重い棚や台に、店員たちの顔には不安が浮かんでいた。だが、俊の言葉に彼らの表情が引き締まっていく。


「そうだ! 今までの固定概念を捨てろ! この店は、今日から新しい命が吹き込まれるんだ!」


俊は力強く言い放つ。彼の言葉に、店員たちは未来への希望を見出していた。


ラッドはそんな彼らの姿を見て、満足げに頷いた。


「面白い。私も手伝おうか」


「ラッド商会長!」


ブレンナーが驚きの声を上げる。だが、ラッドは気にする様子もなく、一番重そうな木製の棚に手をかけた。


「さあ、皆でやるぞ!」


その声に、店員たちも続いて動き始める。


木製の棚が軋む音、床を滑る音、そして店員たちの掛け声が、今まで静まり返っていた店内に響き渡る。


「せーのっ! よいしょー!」


全員が汗を流しながら、棚を動かし、台を運び、商品を入れ替えていく。


俊は全体の指揮を執りながら、一つ一つの配置に指示を出していく。


「干し果物の棚は、一番奥に! 薬草とクランダの実を組み合わせた陳列は、入り口から入ってすぐの右手に!」


彼らの動きには、無駄がなかった。俊が指示を出すたびに、彼らはその意味を理解し、迅速に行動する。


やがて、その日の閉店時間までには、店のレイアウトは一変した。


入口から入ると、まず目につくのは、新しくなった薬草とクランダの実の陳列棚。その横には、干し肉とチーズが並べられている。そして、店の奥へと続く道には、日用品や珍しい布地が置かれている。


「よし! 完成だ!」


俊が声を上げると、全員が達成感に満ちた表情で、汗を拭った。


翌日。朝一番、開店前の店内に俊の声が響き渡る。


「よし、皆。昨日は商品の最適化、ご苦労だった。今日は『接客の型』を学ぶ。みんな、不安そうな顔をしているな。だが安心してくれ。接客は、特別な才能や経験がなくても、誰でも身につけられるものなんだ」


ブレンナーと店員たちは、俊の言葉に真剣な表情で耳を傾ける。


「接客を安定させることで、お客様に安心感を与えることができる。それが、この店を好きになってもらい、再び足を運んでもらうための、最初のステップだ」


俊は自ら店頭に立ち、手本を見せる。


「いいか、こんな風にやるんだ」


「いらっしゃいませ!」


店の戸口で笑顔を作り、手を広げて声をかける。


「お探しのものがございましたら、何なりとお申し付けください!」


続けて、商品を手に取り、客に差し出す仕草。


「ありがとうございました、またお越しください!」


最後に、深々と頭を下げて見送る。


「これを毎日、開店前に全員で行う。よし、それでは今日の開店だ!」


俊の言葉に、店員たちは一斉に返事をした。


「はい!」


開店の鐘が鳴ると、俊は店先に特設のブースを設けた。木製の台に薬草とクランダの実、そして試飲用の小さなカップが並べられている。


「よく見ておいてくれ。これが『実演販売』だ」


俊の言葉に、店員たちは固唾を飲んで見守る。


俊はまず、クランダの実と薬草を手に取り、通行人に向かって声を張り上げた。


「薬草だけでは苦くて、子どもが飲んでくれない…そんなお悩みありませんか?体調は治してあげたいけれど、苦くて暴れられるのは親としてもつらいですよね」


俊の声に、一組の親子連れが足を止める。


「しかし、このクランダの実があれば解決です!一緒に煎じることで、甘くて子どもも大人も飲みやすい味に大変身!さあ一口飲んでみてください!」


そう言うと、俊はあらかじめ準備していた試飲用のカップを差し出す。母親は一口飲むと、驚きの表情を浮かべた。


「おいしいわ! これならうちの子でも飲んでくれそうだわ!」


母親の言葉に、俊は満面の笑みで言葉を続ける。


「普段なら薬草が600リル、乾燥クランダの実が700リルのところ……この実演販売でお買い上げの方限定で、2つあわせてたったの1,000リルだ!」


その声に、興味を持った通行人が次々と立ち止まり、人だかりができていく。店の前は大賑わいとなり、中には実演販売に興味を持ち、店内に入っていく客も増えていく。


そして、店内で客を迎える店員たちは、皆が俊に教わった『接客の型』を完璧に実践していた。


「いらっしゃいませ!」「よろしければ、手に取ってご覧ください」


客は、活気のある店員たちの接客に、安心して買い物を楽しむ。


そして、客の多くが薬草とクランダの実を手に取り、そのまま店内の奥へと進んでいく。彼らの手には、干し肉やチーズ、ハチミツをかけた干し果物など、次々と商品が増えていった。


俊が設計した『導線』と『抱き合わせ』が、見事に機能していたのだ。


ブレンナーは、嬉しそうに客の様子を眺めている。


「……俊さん。お客さんが、とても楽しそうです」


俊は、ブレンナーの言葉に深く頷いた。


「そうだ。商売は、物を売るだけじゃない。お客様に、買い物の『体験』という付加価値を提供すること。それが、客単価と再来店率を上げる、最高の秘訣だ」


その日の夕方、ブレンナーは嬉しそうに俊に報告した。


「俊さん! 今日の売上です!」


ブレンナーが差し出した帳簿を、俊は手に取る。そこに書かれた数字を見て、俊は目を丸くした。


「……ま、まさか……!」


数字は、昨日までの売上の三倍近くにまで伸びていた。


「信じられません! たった一日で、ここまで売上が伸びるなんて!」


ブレンナーが興奮気味に声を上げる。店員たちも、喜びの声を上げていた。


ラッドは、静かにその様子を見ていたが、深く頷いた。


「見事だ、俊。お前の言う『KPIツリー』は、この商会を変えるかもしれないな……」


その言葉に、俊は心の中で安堵のため息をついた。


(……一歩は踏み出せた。次はこの成功を王都にある店にも共有していく段階だ。ここからが、本当の勝負だ……)

執筆の励みになりますので、続きを読みたいと思っていただけたら、ぜひブックマークよろしくお願いします!感想や評価もいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ