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異世界コンサルはじめました。~元ワーホリマーケター、商売知識で成り上がる~  作者: いたちのこてつ


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第5話 KPIツリーによる改善始動!

今回から第5話です!

翌日、俊は倉庫に集められた店員たちと共に、木箱や袋をひとつずつ確認していった。


「干し果物――残り二十四束。うち五束は色が悪い、廃棄だな」

「薬草――人気のある種類はもう三束しかない」

「布地――仕入れてから一年以上、手がついていないものが山積みだ」


声を張りながら、俊は次々と帳簿に記し、石板に刻んでいく。


ブレンナーは青ざめながら、在庫の偏りに気づかされていた。


「こんなに……死に筋の商品が眠っていたとは……」


俊は手を止めず、木炭で線を引いた。


「これからは、帳簿だけじゃ不十分だ。誰が見ても在庫状況が分かるように――ここに表を作る」


彼は支店の壁に大きな板を掛け、品目ごとに在庫数を記入していった。さらに横に「適正在庫」を書き加える。


「干し果物――残り24束(適正40)」

「薬草――残り3束(適正20)」

「布地――残り50反(適正10)」


足りないものは赤、余っているものは青、売れ筋は金印で目立たせる。


俊は木炭を置き、店員たちを振り返った。


「これで誰でも発注判断ができる。“残り数”と“適正数”を比べれば、何を仕入れるべきか一目で分かる。

帳簿を一々めくる必要はないし、支店長が不在でも動けるようになるんだ」


店員たちは目を丸くし、声を上げた。


「……これなら俺たちでも分かる!」

「発注の判断を任されるなんて初めてだ」


ブレンナーは複雑な表情で板を見つめた。


「……今まで、私一人で抱え込みすぎていたのかもしれませんね」


ラッドは満足げに頷いた。


「これで“誰でも同じ数字を見て、同じ判断ができる”仕組みができたな。まさに基礎の整備だ」


俊は在庫表を描き終えると、店員たちを再び広間に集めた。


「物の整理が済んだら、次は店の顔――売り場だ」


ブレンナーは首をかしげる。


「売り場、ですか?」


俊は頷き、床にチョークで大きな円を描いた。


「そうだ。俺たちがやろうとしているのは、客単価を上げること。そのために必要なのが『バスケット分析』だ」


聞いたことのない言葉に、店員たちは戸惑った。


「バスケット……?」


「ああ。買い物かごの中身を分析する、って意味だ」


俊は床に描いた円の中に、架空の商品を並べて説明する。


「たとえば、この干し肉とチーズ。普通は別々の場所に置くだろう?」


全員が頷く。


「でもな、統計を取ると、この二つは一緒に買われることが多いはずだ。つまり、一緒に陳列すれば、両方手に取ってもらいやすい。これがバスケット分析だ」


店員たちは驚いたように顔を見合わせた。


「なるほど!それは思いつきませんでした」


俊はさらに畳みかける。


「さらに、買い物をしている客の動き――つまり『導線』を意識する。客は店に入って、右回りに動く傾向がある。だから、入口付近には客の目を引く新商品や目玉商品を置き、奥には日常的に買うものを置く。そうすることで、客は店内を隅々まで見てくれる」


俊の言葉に、店員たちの目が輝き始めた。


「じゃあ、この干し果物と、こっちの酒を隣に置けば……!」

「ああ、それならおつまみとして売れるかもしれない!」


ブレンナーは興奮気味に腕を組み、唸る。


「……今まで、ただ商品を並べるだけでした。こんな風に、客の気持ちになって陳列を考えるなんて……」


俊は微笑み、きっぱりと言った。


「そうだ。商品の配置ひとつで、店の売上は大きく変わる。今日から、このグランツ支店は生まれ変わる。まずは、在庫表をもとに、売れ筋と死に筋をはっきりさせよう。そして、売れ筋同士を隣に置くんだ」


ラッドは静かにその様子を見ていたが、満足げに口を開いた。


「……まるで、店の魂を入れ替えるようだな。俊、お前は本当に面白いことを考える」


俊は、床に描かれた円と、興奮した様子の店員たちを交互に見つめた。


(売上最大化の土台は、KPIツリーの不随指標に集約されている……。在庫の見える化と、商品の最適化。そして、その先の集客と販売につなげる……)


俊は心の中で呟き、声を張った。


「よし! まずは売れ筋ランキングを作って、商品の最適化を図ろう! そして、この店をこの街で一番活気のある店に変えてやる!」


俊の言葉に、店員たちは一斉に頷き、顔を輝かせた。彼らの間に、確かな一体感が生まれていく。


「さあ、作業開始!」


俊の号令で、店員たちはすぐさま行動に移った。まずは、在庫表の横に「売れ筋ランキング」と題した新たな表を作成する。過去の帳簿をひっくり返し、どの商品がよく売れたかを一つ一つ確認していく。


「薬草が一番だ! それから、干し肉とチーズ……あとは、意外なところでワインもよく売れているな」


ブレンナーは嬉しそうに声を弾ませる。今まで数字の羅列でしかなかった帳簿が、意味のあるデータとして彼らの目に映り始めたのだ。


俊はそんな彼らの様子を満足げに見守り、次に「抱き合わせ」と「処分セール」について説明を始めた。


「処分セールは、死に筋商品をただ安くするだけでは意味がない。それはただの在庫処分だ。そうではなく、価値を新たに生み出すんだ」


俊は、在庫表の「乾燥クランダの実」を指さした。


「この街ではそのままではあまり売れていないようだが、何か人気商品と組み合わせられないだろうか?」


俊の問いかけに、店員の一人がはっとした顔で声を上げた。


「あ、それなら一番人気の薬草がいいかもしれません! 薬草は人気商品だけど、そのまま煎じると苦いから、敬遠するお客さんもいたんです。でも、クランダの実を合わせると、甘みと香りが加わって飲みやすくなるって一緒に買われることがあるんですよ!」


それに続いて、店員たちが口々にアイデアを出し始める。


「じゃあ、このボロ布地はどうだ? 子どもに針仕事でもやらせてみようって親御さんはよくいるし、練習用だったら多少布地がボロくても問題ない。『子ども向け練習用裁縫セット』という名をつけて、糸や針をセットにしてみたらどうでしょう?」


「それに、この干し果物も! 少し火で炙って、ハチミツをかければ、甘いおやつになる! 疲れた旅人が買ってくれるかもしれない!」


「だったら、この古びた地図を額縁に入れては? 旅の思い出にって、高値で買ってくれる人がいるかも!」


俊は満足げに頷き、彼らのアイデアを一つ一つメモしていく。


(……そうだ。俺一人で考える必要はない。彼らこそ、この街の商売を一番よく知っている。俺の知識は、彼らのアイデアを引き出すための『引き金』に過ぎない……)


俊は心の中で呟き、笑みを浮かべた。


「みんな、素晴らしいアイデアだ! それじゃあ、このアイデアを元に、商品のレイアウトをすべて変える! 売り場の導線に合わせて、商品配置を最適化するぞ!」


店員たちは、これからの変化に胸を躍らせながら、一斉に返事をした。

執筆の励みになりますので、続きを読みたいと思っていただけたら、ぜひブックマークよろしくお願いします!感想や評価もいただけると嬉しいです。

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