第4話 ラッド・フォルクナー商会長の再生計画
棚に並ぶ商品を一通り見て回る。季節外れの毛皮のマントや、寒冷地でしか需要のない保存食がいくつも目についた。
「これ、いつから置いてある?」
「えっと……たぶん去年の冬からだな」
「……つまり、ほぼ一年間売れてないってことか」
「そう……なるな」
俺は在庫の山を横目に、頭の中で状況を整理する。これじゃ棚が“商品を見せる場所”じゃなく、“売れ残りを置く倉庫”になってる。どの商品がいつ入って、いつ売れたのか――まずはそれを全部、見える形にしなきゃ話にならない。
「まずは在庫の見える化だな」
「ざいこ……の、みえるか?」
「今ある在庫を一覧にして、いつ仕入れて、いつ売れたかを全部記録するんだ。そうすれば、売れてるものと売れてないものが一目でわかる」
ラッドは腕を組みながら首を傾げる。
「でも、それが分かったところで……」
「その“分かった”が、次の数字につながる」
俺は紙とペンを手に取り、大きく“KGI”と書いた。
「まずはKGIを決める」
「けーじー……なんだ?」
「ゴールだ。すなわち、最終的に辿り着くべき数字のことだ」
「数字?」
「例えば、親父さんの頃の年間売上は?」
「6店舗で4億リルくらいだったな」
「よし。それを今のお前の3店舗で超す。それがKGIだ」
「はあ!? 今は1億にも届いてねえんだぞ」
「KGIっていうのは、商会の全活動の“最終目的地”だ。この数字を超すために全部の施策をやる。届かなきゃ意味がない」
「……そんな遠すぎる目標、立ててどうすんだ」
「できるから言っているんだ。これは願望じゃなく計画だ。根拠はこれから全部見せる」
ラッドが半ば呆れたように腕を組むのを見て、俺は机に置いた紙を指で叩く。
「ただし、いきなりKGIは達成できない。そのために“途中経過の数字”を置く。それがKPIだ」
「けーぴー……?」
「Key Performance Indicator——重要業績評価指標。簡単に言えば、ゴールに辿り着くまでに踏むべき“中間チェックポイント”だ」
「中間チェックポイント?」
「例えば、客単価を5,000リルに設定すれば、月に必要な客数は2,220人前後になる。1日あたりに直すと、1店舗でおよそ74人だ。こういう数字を現実的に積み上げていく」
「……なるほど」
「これから逆算した中間目標が必要になる。これがKPIだ。KPIを設定することで、ゴールまで何をすればいいかが明確になるからな」
そう言って俺は、KGIから客数や客単価、来店頻度、在庫回転率などへ枝分かれする“KPIツリー”を描き始めた。
俺は紙の中央に大きく「KGI:年間売上 4 億リル」と書き、その下に線を引いて枝分かれさせた。
「まず、KPIツリーってもんを説明する。これは、KGIという最終目標から、達成に必要な行動や数値を枝分かれで書き出した図だ。何をどうすればゴールに行けるのか、“見える化”できる」
ラッドが少し口角を上げて興味を示す。俺はそのまま続けていく。
「図の上に KGI、つまり年間売上4億リル。そこから“どうやって行くか”を分解する。例えば——売上は『客数 × 客単価』で決まる。だから次の階層は、この2つだ」
【KGI:年間売上4億リル】
├ 客数
└ 客単価
「客単価を 5,000 リルに設定すれば、月のおおよそ必要客数がわかる。具体的には、月商 1,110万リル ÷ 5,000 リル=約 2,220 人。1 日あたりの客数は約 74 人になる」
↓
「次に、“客数” の枝をさらに分解する」
【客数】
├ 新規客数
└ 常連客数
「新規は宣伝や口コミ、常連は接客や限定品で増やす施策で伸ばす。その先には、『紹介制度の利用』『受付からの再来店率』『平均購入回数』など、具体的指標を書き込む」
さらに、
【客単価】
├ 高額商品の販売数
└ まとめ買い点数
「こうしてKPIツリーを書くと、どの枝をどう伸ばすべきか、一目瞭然になる。“計画的にゴールに近づける地図”ってやつだ」
ラッドは唸るように紙上のツリーを見つめていた。
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