第3話 コンサル稼業、始動。最初のクライアントは“氷の店”
数日が過ぎ、秋の空気はさらに澄んできた。朝夕の風は冷たさを増し、通りの木々が少しずつ色づき始めている。
暖炉アイスとプリンは順調に評判を広げていた。
持ち帰りで購入した客が、再びカップを返却しながら「また来ました」と笑顔を見せることも増えた。
中には、看板を描いた通りの情景を実際に楽しんだ客もいる。
「この前のプリン、夫と暖炉の前で食べたんです。普段は忙しくしていて、ゆっくり話す時間なんてほとんどなかったんですけど……、あの日は久しぶりにいろんな話ができました。本当にありがとうございました」
そう話す女性の頬は、少し赤らんでいた。俊は「こちらこそ」と微笑み、心の中で、この施策の狙いが確かに届いている手応えを感じた。
日々の営業は順調だったが、月日が経つのは早い。アランと結んだ契約期間は3か月。その終わりが近づいていた。
「もうすぐ期限の3か月か……」
帳面を閉じながら俊はつぶやく。
契約更新の話をするかどうか考えていたちょうどその頃だった。
昼の営業が落ち着いた頃、店の扉が開いた。
赤髪の男が立っていた。背は高く、がっしりした体格。上質な布地の服を着ているが、仕立ては動きやすさを重視した実用的なものだ。
彼は店内をぐるりと見回し、まっすぐ俊に歩み寄った。
「……あんたが俊殿か」
「そうですが」
男は胸を張って名乗った。
「俺はラッド・フォルクナー。王都で商会をやっている」
俊が軽く頷くと、ラッドはそのまま続けた。
「従業員から“氷の店を立て直した俊という人物がいる”と聞いた。噂では、契約期間を決めて仕事を請け負っているそうだな」
「ええ。今はこの店で3か月の契約中です」
ラッドは大きく息を吐き、声を少し落とした。
「…俺の商会の立て直しを依頼しに来た。…正直に言うと、俺は経営に関してはからっきしなんだ。親父が“これからは後継ぎとしての教育もしていかなきゃならんな”と言っていた矢先に、馬車の事故でおっちんじまってな。何も叩き込まれないまま、この座に座った」
俊は静かに耳を傾ける。
「商会を継いでからは、街で売れていると聞けばすぐ買い付けに行ったが、いざ売り出すと全く売れねえ。そんなことを繰り返して、気がつきゃ、何の商会なのか自分でもよく分からなくなっちまった。親の代では6店舗あったが、今じゃ3店舗まで減っちまった。取引先も減り、資金繰りは悪化、人も辞めていく一方だ」
俊は短く息をつき、視線を合わせた。
「……お話は分かりました。ですが、今はこの店との契約が10日ほど残っています。こちらを満了したら、改めてお話を伺いましょう」
ラッドは頷き、「分かった。じゃあその時に頼む」と言い残して店を後にした。
扉が閉まると、奥で片付けをしていたアランが顔を出した。
「今の方……次の依頼人ですか?」
「そうなるかもしれないな。話を聞いた限り、状況はかなり厳しそうだ」
アランは眉を寄せ、少し不安そうに言った。
「俊さんがいなくなったら……僕、一人でやっていけるでしょうか」
俊は笑った。
「ニコラもいるし、アランも十分成長している。もう心配はいらないさ」
「でも……困ったときは、また相談してもいいですか?」
「ああ。俺もこの街にはいる。必要ならいつでも来てくれ」
そのやり取りを聞いていたニコラが、少し寂しそうに近づいてきた。
「……俊さんがいなくなるまで、あと10日くらいですよね。ちょっとさみしいです」
「ずっとここにいるわけにはいかないさ。でも、この店が順調なら、それが一番嬉しい」
ニコラは小さく頷き、「じゃあ、その日までにもっと接客上手になります」と笑顔を見せた。
俊は二人の顔を見渡し、ゆっくりと頷いた。
(……あと10日。今はこの3か月をやり切ろう)
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