第3話 コンサル稼業、始動。最初のクライアントは“氷の店”
外の風に涼しさを感じた。
俊は店の入り口に、新しく描いた看板を立てかける。
『大切な人と暖炉を囲んで』——その横には、笑顔の家族と、手にしたアイスやプリンが描かれている。
通りがかる人々が足を止め、じっと看板を見つめる様子が増えた。
その視線を確認してから、俊は店内に戻る。
「さて、今日から冬メニュー開始だ。準備はいいか?」
「はい!」とニコラが笑顔で答え、アランも緊張を含んだ面持ちでうなずく。
冬メニューは二本立てだ。
ひとつはアイスの持ち帰り仕様」。氷魔法で作った冷却石を木製カップに同梱し、家まで冷たいまま運べる。
もうひとつは、新たに加わったプリン。滑らかな食感と優しい甘さで、冷えていても体の芯まで冷やさないため、冬にもぴったりだ。
「お持ち帰りは木のカップだから、返却時にカップ代を返すって伝えるんだよ」と俊が確認する。
「はい、ちゃんと覚えています!」とニコラが胸を張る。
開店と同時に、最初の客が入ってきた。
常連の女性で、夏のころから何度も足を運んでくれている。
「外の看板を見て、昼間働いていて食べられない夫にアイスをお持ち帰りしたいの。これがそのカップかしら?」
「はい。こちらが木製のカップになります。次回お持ちいただければ、カップ代をお返しいたします」
ニコラが丁寧に説明すると、女性は嬉しそうに笑った。
「それはいいわね。また来る理由ができたわ」
次にやってきたのは、物珍しげに店内を見回す若い男性客だった。
俊は軽く会釈しながら声をかける。
「初めてですか? よろしければ、こちらプリンの試食をどうぞ」
スプーンに一口分すくったプリンを差し出すと、男性は恐る恐る口に運び、途端に目を丸くした。
「……これ、すごくなめらかですね! 甘いけどくどくない」
「ありがとうございます。こちらのプリンは冬でも美味しく召し上がっていただけます。お持ち帰りも可能ですよ」
そのまま男性はプリン二つとアイス一つを購入し、帰り際に「また来ます」と言い残していった。
昼を過ぎると、看板を見て入ってくる客がさらに増えた。
中には「この前もらったアイスがおいしくて」と、紹介を受けた客もいる。
紹介制度は夏から続いており、その効果は冬になっても衰えていなかった。
ニコラは試食を差し出しながら、慣れた手つきで紹介者の名前を確認し、記録していく。
アランは帳面に数字を書き込みながら、時折うれしそうに顔を上げた。
「今日はプリンの方がよく出ていますね」とアラン。
「だろうな。新たな甘味という物珍しさもあるしな」
俊は売れ行きのバランスを見ながら、必要に応じて材料の発注量を調整していく。
数字の管理は、夏に比べて格段に正確になっていた。
午後遅く、親子連れがやってきた。
母親に手を引かれた小さな男の子が、ガラス越しに並んだプリンを見て目を輝かせる。
「これ、食べてみたい!」
母親が笑いながら「じゃあ、ひとつ買って帰ろうか」と言うと、俊がそっと声をかけた。
「もしよろしければ、お持ち帰りにできます。暖炉の前で食べると、また格別ですよ」
親子はうれしそうに木製カップ入りのプリンを受け取り、「帰ったら食べようね」と顔を見合わせた。
男の子は歩き出しながら、早くもスプーンを握りしめていた。
閉店後、俊は帳面をめくりながら言った。
「初日にしては上出来だな。暖炉アイスもプリンも、しっかり手応えがある」
「本当に……夏とは違うお客さんが増えた気がします」とニコラ。
アランは頷きながらも、少し真剣な表情を見せた。
「……でも、これからもっと寒くなりますよね。外出する人が減ったら、どうしましょう」
俊は帳面を閉じ、二人を見た。
「そのときは、また方法を考える。季節に合わせて売り方を変えるのが商売だ。今日の反応を見れば、俺たちならできる」
その言葉に、アランもニコラも力強くうなずいた。
外の空はすっかり冬色に染まり、星がひときわ明るく輝いていた。
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