第3話 コンサル稼業、始動。最初のクライアントは“氷の店”
(『大切な人と暖炉を囲んで』っていう言葉と、暖炉の前で家族が笑顔でアイスを食べている絵……それを看板に描けば、冬でも“食べたい”と思わせられるはずだ。アランの魔法を使えば、氷を保冷剤代わりにできる。ならば冬限定の持ち帰りもいける)
思考はそこで止まらなかった。アイス以外に、冬でも喜ばれる甘味の必要性が浮かび上がる。
卵と砂糖とミルクで作る滑らかな生地、ほろ苦いカラメル。冬でも冷たいまま楽しめるが、アイスのように体の芯まで冷えない老若男女に愛される甘味——プリン。
(……なれないこの世界では、こういう転生チートも使っていかないとな)
俊は小さく息を吐き、口元にわずかな笑みを浮かべた。次にやるべきことが、はっきりと見えた瞬間だった。
翌日、俊は店の奥で木の板と絵の具を広げていた。
暖炉の前で笑顔の家族がアイスを食べる情景を描く。母親の膝には毛布、子どもは両手でアイスを抱え、父親が笑顔でそれを見守っている。
看板の上には大きく、『大切な人と暖炉を囲んで』の文字。
「……どうですか?」
横で覗き込むニコラが目を輝かせる。「あったかそうで、なんだか幸せな絵ですね」
「冬でも食べたくなる雰囲気を出すのが狙いだ。視覚で想像させれば、足を止める人も増える」
看板の下部には、小さな文字で『冬限定・お持ち帰りできます』と書き加えた。
「そういえば、お持ち帰り用の容器はどうします?」とアラン。
俊は少し考えた。
「木製のカップにしよう。丈夫だし、氷で冷やしても割れない。買った人にはカップ代を少し上乗せしてもらって……次に持ってきてくれたら、その分を返金する仕組みだ」
「返金……?」
「繰り返し使えるから、新しく容器を作る手間も減るし、お客も得をする。しかも“また来よう”って理由にもなる」
アランは感心したように頷く。「なるほど……それなら冬でも家に持って帰って食べられますね」
看板とカップの準備が整うと、俊は次の試作に取りかかった。
作るのは、冬でも楽しめる新しい甘味——プリン。
卵を割り、砂糖とミルクを混ぜ、なめらかな液を木製の型に流し込む。型ごと深鍋に入れ、湯を張って蒸し上げる。やわらかな湯気が立ちのぼり、ほのかに甘い香りが漂った。
ぷるりと固まったら、アランの氷魔法で素早く冷やし、表面にほんのり艶が出るまで温度を整える。別鍋では、砂糖を焦がしてカラメルを作り、香ばしい香りが厨房に広がった。
俊は出来上がったプリンを三つに分け、スプーンを添えた。
「まずは試食だ。感想を聞かせてくれ」
ニコラは両手でスプーンを持ち、恐る恐る一口すくう。
ぷるりと震える淡い黄色の塊が、口の中でなめらかに溶けた瞬間、目が大きく開かれる。
「……やわらかい……。それに、優しい甘さで……すごく、幸せな味です」
アランも一口運び、少し驚いた表情を浮かべる。
「甘いのに、しつこくない……。こんな食感の甘味は初めてです。このくらいの冷たさなら、冬でも体を冷やさなそうです」
俊は二人の反応に満足げにうなずいた。
「よし、これで冬の看板商品は二つだ。暖炉前のアイスと、このプリン。両方、試食を用意して客に味を知ってもらう」
その日の午後、看板にはプリンの絵も描き足された。
『冬だけの特別甘味・プリン』の文字が添えられ、アイスと並んで笑顔を見せている家族の横に置かれている。
「……なんだか、見ているだけで食べたくなりますね」とニコラが微笑む。
「その気持ちが大事なんだ」と俊は応じた。「あとは、実際に食べてもらって、もっと広めてもらうだけだ」
こうして、氷の店は冬に向けた新たな準備を整えた。
外の風は日に日に冷たさを増しているが、店の中には、これから訪れる季節を楽しみにする空気が満ち始めていた。
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