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第3話 お誘い

「そうなんですね」

 梧桐が頷くと、フェリスは目を細めて笑った。

「センス良いだろ、な?」

 世界の果てのわびしい公園から、わざわざ引っ張って持ってきたんだぜ。

 何か重たい物を抱え引きずるようなジェスチャーをして、

「でもよお」

と顔を曇らせた。

 下を向く。

「このベンチ邪魔だし、元の場所に戻して来い、って言われちゃった。しかもさ、見ろよ」

 顎をぐいっ、と勢い良く上げ、首元を指差す。

「コレ、何だか分かるか?」

「あー……」

 梧桐は何とも言えない、憐れみの交じった声を洩らした。

「ウワサでしか、聞いたことないですけど」

 首元に着いていたのは、鋭い二対の牙が刻印された――ゴツいデザインの、金属の首輪だった。

 看守など、本来「犯すべからず」を課せられている者が罪人と見做された時に、その証として嵌められるものだ。

 ――つまり。

「やらかしちゃったんですね……」

「そ」

 首輪をコツコツと叩き、唇をへの字に曲げる。

「窃盗は窃盗でも、ベンチをまるまる一脚引きずってくる奴があるか、って、看守長に怒られちった。このことは報告しなければならなイーッ、ってチクられちまって、今、このザマさ」

 両の人差し指を立てて頭上に持っていき、おカンムリ、のポーズをする。

「それによお……」

 顔に手を当てる。微かに赤くなっていた。

「オレ、あいつ、狙ってたんだよな。……こっそりだけど」

 梧桐は看守長の風貌を思い出す。

 肩書きに対してかなり若い、厳格そうな黒髪の青年だった。

 バリキャリで、瞬く間にのし上がって今の地位を獲得したらしいとか、裏工作でライバルをドカドカ蹴落としてきたらしいとか、いやいやアイツはただのゴロツキで、実は親の七光りだとか。

 ――とにかく、その極めて異例な出世スピードゆえに、色々と、ウワサを小耳に挟むことが多い。

 ……あと、近ごろ、周囲をうろつきさかんにカゲキなアプローチをしてくる同僚に辟易している、とも。

「狙ってたんですね。こっそりね」

「おお。大コッソリよ」

 かはは、と彼はまた、大口を開けて笑った。

「でも、フラれちまったぜ。罪を犯したのはもちろん、ベンチを引っ張ってくるような調子っ外れとなど、到底一緒に働けはせん。暫く服役し、そのくるくるぱあ頭を冷やすと良い、ってさ」

 聞けば、総監――閻魔様直属で、罪人、並びに看守の管理を司る、えらい人――のほうは元々、三日間の謹慎くらいで済ますつもりだったらしい。

 そこに、看守長の鬼プレゼン(日頃からの私的な苦情ともいう)が加わって、最終的にこうなったそうなのだ。

「こりゃさすがに、しばらく大人しくしといた方が良いかなーって思ってさ。諦めたよ、一旦」

「一旦なんですね……」

 梧桐は呆れたように呟く。

「まあな」

 フェリスは素っ気なく返し、

「まあ、新しく面白れー奴いたら、分かんねえけどさ」

と、片頬を上げて苦笑した。

「いると良いですね」

「おー」

 フェリスは(まる)く口を開け、そのまますぐに、にん、と満面の笑みを浮かべた。

「なあ。一緒に、外界に降りてみねえ?」

「……え?」

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