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第二話

 ダンジョン。

 地球上に突如出現した異空間の総称だ。

 

 ダンジョンには、地球には存在しない未知の生物いわゆるモンスターが生息しており、ダンジョンに入場した者の行手を阻む罠や、時折魔法効果の付与されたアイテムなどが入った宝箱があったりする。


 ダンジョンには難易度があり、初級、中級、上級、そして特級の四つに分けられる。

 難易度は文字通りの順番だ。

 初級と中級には下位と上位があったりする。


 これらは、ダンジョンの魔力量によって決められる。

 例えるならあれだな、冒険者のランクも魔力量で決められるのと同じだ。


 入場できるダンジョンは、冒険者のランクによって制限されるが、Sランクには制限がない。

 つまり、どの難易度のダンジョンに潜っていいってワケだ。


 だがまあ、俺は初めて、とは言っても二回目だが、まずは初級ダンジョンに来ている。

 

 この一年で覚えた魔法は上級ダンジョンまで通用できるだけの実力はあるが、まあ肩慣らしだ。

 痛い思いもしたくない。

 慎重ってやつだ。

 臆病とも言う。


 俺は今高そうな剣と、高そうな防具を身に、一人初級ダンジョンに来ている。

 

 初級ダンジョン。

 岩と石で構成された洞窟を歩いていると、前方にサッカーカーボール程の緑色の玉がポツン、と一匹いてた。

 明らかスライムだ。



「……」


 

 それを見るなり、俺は思わず、剣を握る手の力を強めた。

 なんてったってこれが初めての戦闘だから。

 今から、このスライム(生き物)を俺は倒さなければならない。

 倒せないと、始まらないから。


 スライムは、緑色の半透明なボディの中心あたりにある赤い小さな球体、核と呼ばれるところが弱点だ。

 打撃攻撃に強いが、核を切るか刺すと簡単に倒せる。

 火にも弱いので、炎属性の魔法も有効だ。

 攻撃力もほとんどないので、初心者向けのモンスターとなっている。


 だが、そんな簡単に殺せるようなモンスターでも俺には荷が重い。

 生き物を殺すのだ。

 たとえ、俺たちが暮らす地球に居るような身近な生き物ではなくとも、生き物を殺すことには抵抗がある。


 それでも。

 それでも、今目の前にいるこのモンスターを殺さなくてはならない。

 冒険者になるとを決めたのは、誰の他でも無い俺だ。

 

 俺はもう、あんな思いをしないために、Sランク冒険者という肩書きを使って、世界一のお金持ちになるんだ。


 俺は剣を構え、目の前のスライムに意識を集中する。


 スライムは、洞窟のところどころにこびり付くように生えている、ヒカリゴケの様なものに身体を密着させていた。

 食事中なんだと思う。

 お腹が空いたから、食べているのだろう。

 やっぱりモンスターも生きているのだ。



「……ふぅ」

 

 …………よし、いこう。

 息を整える。

 余計なことは考えるな。

 ただ、目の前のモンスターを殺すことだけを考えろ。

 これは、俺が冒険者になった、第一歩大切な第一歩目だ。



「うわああああ!!!」



 俺は、食事に夢中なスライムの背後にいき、剣を核めがけて振り下ろした。


 剣は、スライムの身体を核ごと真っ二つに割いて、地面を叩きつけカキンッと鳴らした。


 スライムは、二つに分かれた身体がしばらくプルプルと震えたかと思えば、そのまま動かなくなり、地面には魔石を残して消滅した。

 


「はぁ、はぁ、はぁ」



 戦闘に勝利し、もう殺す相手はいないというのに、動悸が止まらない。

 息が乱れて整えようとしても、呼吸が上手くいかない。


 俺は殺した。

 俺の剣が、さっきのスライムを切り裂いたときのあの感触が、いまだに手に残っている。

 



「おっえ……」


 

 今すぐにでも、今日食べたサンドイッチが喉から出て来そうで、口を手で押さえる。

 どこかに体を預けるところが欲しくて、洞窟の壁に手をつき、しゃがみ込む。

 吐き気が収まらない。



「〜!」



 口の中まで到達してきたゲロが、出てこない様に必死に口を閉じ手で押さえる。

 しかし、抵抗虚しく、

 絶え間なく逆流し口に溜まってくるので耐えきれなくなり、口の端から生暖かい液体が漏れる。

 抑えていた手に流れ、洞窟の床に俺の吐瀉物が滴る。



「おえっ、ごぼ、おえ……」



 もう耐えられないと、必死に抑える手と口の力を弱めると、喉から口へとすごい勢いでゲロが排出される。

 器官に残ったゲロが、呼吸の邪魔し咳き込んでしまう。

 苦しさから涙が溢れる。

 ああ、辛い、気持ち悪い。



 ———カネだ。カネ持ちになれ有史。もう、こんな思いはしないように。



 そうだ、俺は金持ちになるんだ、世界一の。

 おじいちゃんと約束をしたじゃないか。

 もう二度と、あんな思いをしないように。

 こんなところで膝をついているワケにはいかないだろう。

 


「はあ、はあ、ふぅ……」


 

 ようやく一息つく。

 やっと冷静なれた。

 あんなときにモンスターに襲われでもしたら、翌日の新聞一面が俺のことになるだろう。

 Sランク冒険者、初級ダンジョンで怪我!? みたいなノリで。

 それはまあどうでもいいが、怪我するかもしれないし。

 もう、モンスター殺すのでところ構わず吐くのはできるだけ抑えたい。


 冷静になったところで、床にぶちまけた吐瀉物は処理するかどうか思考する。

 このダンジョンで俺以外には冒険者がいないことを思い出し放置することを決める。

 気にするヤツなんかいないだろ。


 スライムがいたところには魔石が落ちていた。

 黒色だが、光っている不思議な石だ。

 見ていると引き込まれてそうな魅力がある。

 その石を回収する。


 モンスターが落とす魔石は、近くの換金所でお金に変えることができる。

 スライムの落とす、ビー玉サイズの魔石一個で100円する。

 1000円稼ぐのに、スライムを十体殺す必要がある。

 

 まだダンジョン探索を続けるかと考えたところで、自分が疲弊していることに気がつく。

 思った以上に、先ほどの戦闘が効いたみたいだ。

 もう無理だと訴えかけてるのか、手に力が入らなかった。

 今日は探索はしたくないと、気力もなかった。

 初めての戦闘だったし、仕方あるまい。


 というか初めてでモンスターを殺すことに俺は成功したんだ。

 そこは褒めよう。

 よくやった俺。明日から頑張れ俺。このまま世界一のお金持ちになるように頑張るんだ。


 そう自分を鼓舞し、踵を返しダンジョンの出口に向かった。

 


 


 

 

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