表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/2

第一話

 それはただの好奇心だった。


 ダンジョンを冒険するのを生業とする冒険者。

 

 冒険者にはランクがあり、EからAまでアルファベット順に分けられており、一番上のランクがSランクというものだった。


 ランク分けには個人の持つ魔力量によって決められていた。


 俺は魔力量を測ったら、どのくらいのランクになるんだろう、という疑問一つで魔力測定器のある冒険者連盟に向かった。


 いざ、測定を受けようとなり、測定器に手をかざした。

 

 その時測定器に表示された数字は、10,000という数字が映し出されていた。


 何これランクだとどれくらい? と測定してくれた職員の方に目を配ると、非常に驚いた様子で「上の者を呼んでこい!」と叫び、そのまま連れてこられた職員に別室に連れて行かれた。


 別室には冒険者連盟会長がいて、告げられる。



「あなたは日本で十一人目のSランク冒険者だ」



 俺はこれを聞いたとき、ワケが分からなかった。

 

 ただ自分の魔力量が気になったから魔力を測りに来ただけでSランク?

 つまり魔力量だけでいえば俺は、冒険者の中でも上澄みだと?

 驚いたことに、世界の冒険者の中で一番多い数値が4,000程らしい。

 それを一回りも上回る魔力が、俺にはあるようだ。

 つまり俺は、観測された中で最も魔力を保有するみたいだ。

 そんなあまりの突然の事実を知り、俺はただ愕然としていた。


 俺自身冒険者という職業には興味がなかった。

 

 ダンジョンに蔓延るモンスターを倒した際に手に入る、魔石と呼ばれる石を売り捌く、というのが冒険者についての簡単な認識だ。


 このモンスターというのは、ダンジョンにだけ限定される生物たちである。

 彼らは俺たち地球上の生物のように、ダンジョン内で文化を作り暮らしている。


 その上で非常に凶暴であり、()()を見かけると、ところ構わず襲いにかかる。

 他の生物には目もくれず、モンスターは人間にだけ限定をして殺しにかかってくるのだ。


 そんなモンスターに、身体を張り、時には命を賭けながら立ち向かう、そんな冒険者にはなりたいとは一切思わなかった。


 怪我をしたくないし、最悪の場合死にいたる職には就きたくなんかない。

 生きていくために職に就くのに、命を賭けて、時に死んでしまうのなら元も子もない。

 本末転倒だ。


 更にはリスクとリターンが合っていない。


 冒険者の平均年収は、日本国民の平均年収とさほど変わりないのだ。

 魔石も一個だと大した額売れない。

 毎日ダンジョンに潜ればようやく平均以上になるだろうか。


 なんなら、冒険者は税金だけでなく、モンスターとの戦闘に必要な武具防具、地図や回復薬などのアイテムは、ダンジョンを安全に冒険するには必需品。

 これらのアイテムを買うためにも金がかかる。

 しかも冒険者は個人事業主なので、経費に落とせない。

 

 このことから、冒険者という職は非常お金を稼ぐのに向いていないのが分かる。

 同じ命を賭けるというのなら、ベーリング海でカニ漁した方がよっぽど稼げるだろう。

 どっちか選ぶとしたら、俺なら迷いなくカニ漁を選ぶ。


 しかし、だ。

 魔力測定をした一年たった今、俺は冒険者をしている。


 理由は簡単。

 Sランク冒険者はカネになるからだ。

 冒険者内での優遇はもちろんのこと、高価な武器や防具、ダンジョン攻略に役立つアイテムなどが無料で使いたい放題なのだ。

 ここまでの権力があるのに、使わないというのは勿体無い。

 折角だから冒険者として世界一の金持ちを目指すことにした。


 そんな理由で冒険者を始めたことを俺は、今では後悔している。


 俺には絶望感に冒険者としての才能がなかった。


 戦う力が無いというわけでは無い。

 モンスターに立ち向かい、未知なるダンジョンを冒険する冒険者たちと比べて、俺は臆病すぎたのだ。


 だからだろう、それ故にSランクの中で唯一ダンジョン制覇を成し遂げていない俺が、最弱のSランク呼ばれるようになったのは。


 日本で十一人目のSランク冒険者と報道されたとき、それはそれは持ち上げられた。

 家族、友達、クラスメイト、はたまたTVや新聞などのメディア媒体でまで。

 世界一の魔力量を誇る十六歳の少年だなんてチヤホヤされていた。


 しかし、一年がたったいま。

 俺が成し得たことといえば、初級ダンジョンでモンスターにビビって逃げたことぐらいだろうか。


 冒険者になったからといって、いきなりダンジョンに潜るのは絶対に危険だ。

 だから、初めの一年はダンジョンについて勉強と、戦う力について学んだ。

 

 俺はダンジョンについて知っていることは、モンスターが住み、ところどころに罠や宝箱などの様々なギミックがあることぐらいだろうか。


 その程度の認識しかないのに、いきなりダンジョンに潜ったら危険なのは明白。

 危なすぎる。


 いくらSランクに認定されたからって慢心はダメだろう。

 だから俺はダンジョンの情報を集め、その合間に戦闘力向上をはかった。


 しかし、そんな姿を冒険者連盟は許しちゃくれなかった。


 折角の魔力があるんだから、初級ダンジョンくらいは簡単に制覇できるであろうと口酸っぱく伝えられた。


 十人目のSランクは、氷姫という二つ名を持つ冒険者だ。

 彼女は魔力測定を行った際に、魔力測定器を氷魔法で凍らせた逸話がある。

 その日にはもうSランクとして認定されて、次の日には初級ダンジョンを単独(ソロ)で制覇。

 Sランクの名に恥じないムーブだ。

 素晴らしいな。


 時々、早くダンジョンを攻略しろと、冒険者連盟の皆さんから連絡が度々あったが、全て一年間は勉強中です、と断りを入れていた。 

 ところがある時を境に、ぱったりと連絡が来なくなった。

 どれだけ言っても無駄なのだと気づいたのだろう。

 この時はそう思っていた。


 Sランクに認定されて半年の出来事だ。


 テレビ番組、”ダンジョンちゅ〜ぶ!”での出来事だ。

 主にダンジョンについて取り扱っており、時折有名冒険者がゲストに出演したり、元Sランク冒険者が司会を務めていたりと、かなり人気なテレビ番組だった。


 その番組で、Sランク冒険者全員呼んだみた! という企画が早速された。

 

 企画の中で、Sランクが制覇してきたダンジョンを各々が語ると言った内容なのだが、当然俺には語ることが無く。

 収録をする中で俺だけは笑いものだった。


 もちろんそんなのを放送すれば事故間違いなしなのだが、俺の部分はカットされず、全編放送された。

 しかも、テロップや効果音で脚色された俺のダンジョン制覇数0というトークはSNSを中心に超拡散された。


 そっからはもう笑いものだ。

 Sランクのくせに、世界一の魔力があるくせに、そんな言葉を何度も浴びせられた。

 中には無能だの日本の恥晒しだの、もっと酷いのもあったな。

 誹謗中傷ってやつだ。


 それでも俺はめげずに勉強をした。

 全ては世界一の金持ちになるための下積みだ、と考えて俺はひたすらに頑張った。


 そして更に半年後。

 Sランクになってから一年。

 

 俺は、勉強の成果が出たのか、攻撃魔法を全ての属性を上級、回復魔法は中級まで使えるようになった。

 これは一般的な冒険者の魔法使いが十年かけてここまで行ければかなり優秀と呼ばれるラインの魔法だ。

 そのラインを一年で超えた。

 俺には魔法の才能があったのだろう。


 戦う力を手に入れた俺は、ようやく重い腰を上げる日が来た。

 ここまでの戦う力があるなら、初級ダンジョンなら一人で制覇するのは余裕だろう。




◇◇◇




 そして俺は今、高価な武器防具を身につけ、一人初級ダンジョンの入り口に立っていた。


 俺のことをバカにした奴らを見返すために。

 何より世界一の億万長者になるために。

 まずは、初級ダンジョンの制覇といこうじゃないか。


「さて、行きますか」


 そんなことを考えながら、俺はダンジョンに入場した。






 これは一度無能と蔑まれたSランク冒険者の荒神有史(あらがみゆうじ)が、世界一の金持ちを目指す話である。


 


 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ