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絵画紛失事件

 放課後、美奈に連れられて、美術部の部室に赴いた。心配だということで、花梨も一緒についてきてくれた。美術部は 部室棟の3階にある美術室と、その脇にある美術準備室が部室として使用しているとのことだった。中に入ると、入り口付近の脇に置かれた大テーブルには、たくさんの無地のF4号キャンバスが置かれ、その周りに10脚以上のイーゼルと木製の作業椅子が円形配置で置かれていた。大テーブルの上には使いかけの沢山の色のアクリル絵の具、たくさんの筆、プラスチックの水彩画用バケツにぼろ布それに工具が無造作に置かれていた。室内には4名の学生がいた。

「和也君だ」

「和也先輩」

「和也大丈夫か?」

和也の顔を見て数人が声あげた。 副部長の3年生土方ハルミ赤い眼鏡がトレードマークでツインテールに髪を結っている。会計の3年生松本比呂はイケメン。2年生の中森秋葉と小泉冬美。それに美奈と外出中の3年生部長の近藤勇実の計6人が現時点での、和也以外の部員らしい。記憶が無いことは知れ渡っていて、それぞれに自己紹介された後に、明日の新入生歓迎イベントの準備をしていると説明をされた。光輝は記憶がない事情を適当に説明した。本当に和也の記憶が全くない。だから息子がどんな立ち位置にあったのか知るために、去年和也が描いた作品を全部見せてもらった。

「和也君の記憶を思い出す手助けになれば」

そう言うと、ハルミが、昨年和也の描いた作品集を持ってきてくた。A3版の大きさのクリアファイルに印刷されたPC画が20数枚収められている。

「和也君はタブレットでデジタル絵画多いんだよね。あとは スケッチブック残ってるやつだけだよ」

手に取り1ページづつじっくり眺めている。

(和也の奴、こんな絵を描いていたんだ)

「本当に記憶がなさそうだね」

比呂がイケメンの顔を心配そうにして言った。

「ありがとうございます。ご心配かけて申し訳ない。でも大丈夫。そのうち記憶は思い出すし、身体は元どうりだから」

「本当に和也君だけど、しゃべり方はまるで別人みたいだね」

「比呂、そう言う言い方はやめろよ」

ハルミがたしなめる。

「別に構わないですよ」

渡されたクリアファイル越しに顔をじっと覗き込まれても、息子の記憶がないんだから、どんな関係のあった学生かは分からなかったが、そこは笑顔で当たり障りなく返した。1枚ずつ絵を見ていると、息子はこんな絵を描いていたんだなと初めて知ることができた。

(いつもタブレットで何か描いているようだったけど、こんな絵を描いていたのか。血は争えないとはこのことだな)

「そうそうハルミ先輩、机の上散らかってたから余計な物片付けときました。 どうせ明日のイベント用の物まだ出したりしますよね」

秋葉が言った。部員達は慌ただしく明日の準備を再開した。光輝は大テーブルで和也の作品をじっと眺めていた。花梨もその脇に座っている。

「あれ、イーゼルに置いてあった部長の絵誰かしらない?」

ハルミが大きな声で言った。

「去年部長がキャンバスに描いた書いた絵がないんだ。明日 展示会のイベントで使おうと思って用意しておいた。みんな見ているだろ」

「あ、そこのイーゼルに立てかけてあったやつね」

「ちょっとみんなで探してくれないか」

部員一同が室内を探し回っているが、見当たらないようだった。

「おかしいな、なくなるはずなんか無いのに」

「どうしたんですか?」

さすがにちょっとした騒ぎになっていたため光輝もほっておけずに質問をした。

「ここに置いてあった絵がなくなったんです」

秋葉と自己紹介した女子学生が説明してくれた。

「どんな絵だったんですか?」

「えっとキャンバスに描いてあるアクリルの絵なんだけど。 去年部長が描いた人物画で」

「それでその絵をなんのために、どこに置いてあったんですか?」

「 明日美術部のイベントで使おうとそこのイーゼルの上に乗せてあったものがなくなっているらしいんだけど」

秋葉が一脚のイーゼルを指さした。

「さっきまで置いてあったわけだし無くなるはずは無いんだけど」

「 えーとどんな人物画なんですか?」

「冬美ちゃんの顔が描いてあったの。冬美ちゃんをモデルに写生会した時のだから」

秋葉が冬美を見た。

「 キャンバスの大きさは何号ですか?」

「 えーと Fの8、 F 8 号」

「それじゃあ、すぐに分かる大きさですね。いつまではそこにあったのですか?」

「3人が来る前まではあったのを記憶してるかな。えっと明日の部活勧誘会の写生会で見本にしようと準備してたんだ。だから明日のモデルは冬美にしてもらうことになっている」

ハルミが説明した。

「ところで部長はどこに行ったのですか?」

「明日の勧誘会の全体打ち合わせに生徒室に行っているんだ。さっき部長がいた時までは、確かにそこに飾ってあって」

「 このイーゼルに掛けてあったんですね」

「 ああそうだ、部長が打ち合わせに出た後すぐに和也君達、美奈と花梨ちゃんが来たから、その間に無くなったとしか言いようがない」

いつの間にか光輝達の周りに全員が集まってきている。

「推理してみましょう。確かいくつか使ってないキャンバスの余ってる在庫ってどこに置いてあるのですか?」

「それならこっちだ」

ハルミに案内されて美術準備室に連れていかれた。乾燥棚脇にある、棚にいくつものまだ使ってないキャンバスが置いてあった。

「ここにうちの部費で買ったキャンバスは置いてある」

「確かF 8でしたよね」

和也は棚の中を確認した。F 4 F 6 F 8 F 10 F 20までのキャンバスが置いてあった。その中にF 8のキャンバスは重ねて5枚ほど置いてあった。1枚1枚手に取って確認する。

「なるほど」

1枚の白紙のキャンバスを手にしたままじっくり眺めるとそのままキャンバスを持って美術室に戻った。

「さて皆さん、よく見ててくださいね」

持ち帰った白いキャンバスをテーブルの上に置いた。

「どうしたのそのキャンバス?」

「 隣の保管庫から持ってきました。さあ見ててください」 和也はそう言うと机の上に置いてあったマイナスドライバーを手にして、キャンバスの布をとめてあるステーブルをドライバーを使って抜きながら下地の木材から剝がしていく。キャンバスの上の布が剥がれると中からもう1枚のキャンバスが現れた。

「 これだよ部長の描いた冬美ちゃんの絵」

「えぇぇぇぇぇっ」

一同が驚愕の声を挙げた。

「なんでこんなことが分かったの?」

秋葉が声を挙げた。

「えっと、僕が来た時中森さんテーブルの上片付けしていましたよね。その時テーブルの上にあったこのキャンパスが出ていたことで片付けましたよね。明日のイベントで使うキャンバスはテーブルの上に重ねてあるキャンバスを見るとF4号であることが分かります」

「そう、明日は体験者にはF4キャンバスに描いてもらうことになっている」

「だからそこにF8号の無地キャンバスが出してあれば、使わないものだと思って中森さんは片づけたのでしょう」

「うん、その通り。余計なキャンバスが置いてあると思って片づけました」

「部長が外出されてから僕がここに来るまでに4人の学生がいる中でF 8号サイズの絵を持ち出すことなんて無理ですよ。ましてアクリルでこれだけ綺麗な、鮮やかな絵が書いてあるこんなものを持ち出すことは不可能に近いと考えました。不可能なことを排除した時、残った事実。 それは中森さんがまっさらのキャンバスを片付けていた事実。僕は見ていました。見た目でだいたい F 8位の大きさだと思ってましたからね。だとすれば誰かが描いた絵の上からキャンバスの布を貼って新たなキャンパスを作ったと考える可能性もあったわけです」

「でもなんでそんな事思いつくの?」

「このテーブルの上に置いてあったステーブルを打つためのタッカーの存在です」

和也がハンドタッカーを取り上げた。

「それとこのテーブル上にあるステーブルの針。多分打った時に不発だったんでしょうね。針を挿入した時に、一発目のステーブルは確認のために空打ちすることが多いんですよ。美術室の机の上にタッカーと試し打ち後のステーブルの針。 当然キャンバスの布を張る作業を思い出します。つまり、おそらく、そして誰もこの事実を知らない。 僕がここに来た時から このテーブル上に無地の8号のキャンバスが置いてありました。つまり考えられる可能性はただひとつ。 部長が僕が来る前にこのキャンバス、無地のキャンバスを作っていた。 それを下に絵が描いてあるとは知らずに中森さんが準備室に片付けたという真相です」

そこへ 部長の近藤勇実が戻ってきた。

「和也、体大丈夫? 心配していたんだよ。でも元気そうだね ん、みんなどうしたの? あれそれ剥がしちゃったんだ」

「これ部長が絵の上から被せていたんですか?」

ハルミが尋ねた。

「うん僕だよ。ほら明日の体験イベントで、冬美モデルに描かせるじゃん。その時にパッと早描きしたよって、すでに出来上がった絵が下から出てきたら、みんな驚くかなと思って準備してたんだけど」

「すご~い和也先輩が言っていたとおりだ」

「お前本当に和也か?」

「まるで名探偵みたい」

一同が一斉に和也を見た。

「えっと、たまたまです、たまたま」

「ところで、和也は部活どうするんだ?」

「みんなが迷惑じゃなければ美術部継続でお願いしたいと考えています」

「迷惑なんてあるわけ無いじゃないか」

「お帰り和也」

「お帰り先輩」

その後は光輝達も手伝って翌日の準備を行った。

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