表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/18

展示会

 教育界を揺るがす大騒動から1ヶ月が過ぎた6月初頭。和也達は駅前の25階建てビルの6階にいた。このビルは最上階が通常の2階分の高さがあり、そこに球体プラネタリウムとなっている。1階から5階までは商業テナントが入り6階と7階が和也達の住む氷山市の施設が入り、8階から上が事務所と定時制と通信制の県立高校が入っている複合型ビルで、市のシンボルになっていた。数日前のこと。

「次の土曜日、以前から話していたとおりビックHで市内高校美術部の初夏総合展示会実施になるけど、事前に作品提出していた中から、入賞者が我が部から3人でました」

キックバック事件で色々と大変だったはずの玉田教諭は、いつもと変りない口調で、放課後の美術室内で部員一同を前に笑顔で告げた。

「おお~」

歓声が上がる。

「優秀賞に近藤部長、奨励賞に土方副部長。そして最優秀賞に綾瀬君が選ばれました」

「ふぇ」

(おっとへんな声が出ちゃったよ。いいのかこれ)

「すごいっ」

「おお~」

先程より大きな歓声が上がった

「さすが和也先輩っ」

「お兄ちゃん凄い」

(うわ~気まずい)

「それでは土曜日、11時から開会式と表彰式を行うので、美術部は全員出席になります」

しばらくして準備室に玉田と和也が対峙してテーブルに座っていた。

「あの~表彰は、僕が最優秀賞をもらうのはまずいんじゃないでしょうか?」

「どうして?」

「いくら息子の姿になっているとは言え、高校生のコンクールで美大での私が最優秀賞授与と言うのは、小学生の空手の大会に大人の格闘家が出場するようなものなので‥」

「でも、綾瀬さんは今は息子和也さんなんですから、何も問題はないことにしましょう。綾瀬さんはこの先も息子さんとして生きていかなければならないわけですから」

「それはそうなんですが、ところで先生の方は色々と落ち着かれたんですか?」

学生の前では明るい様子であったが、こうして二人で話すときの姿は、非常に疲れ切っているのが一目瞭然であった。

「えぇ、おかげさまで何とか落ち着いてはきました。ただ色々と‥」

「風当たりが強いのですね」

真っすぐに顧問の顔を見つめると

「はい‥いまだに非難の言葉はいただきますし、勝手な憶測や解釈がネット上でも‥」

「玉田先生には、最も大変な役回りを担っていただき、ただ頭を下げるばかりです」

深々と頭を下げた。

「頭を上げてください。幼馴染の無念の気持ちを払拭することが出来たのは綾瀬さんご夫妻のおかげです」


 土曜日、10時過ぎに和也はビッグX 6階の市民ホールにいた。ここは市の行政センターと展示室が設置されている階で、階の3分の1ほどの広さがオープンスペースでたくさんのテーブルが置かれていて市民に開放されている。駅のすぐ脇に建つビルの為、平日だと学校帰りの受験生が勉強している事が多い。

 今は11時からの初夏市高校美術部作品展開会式を待つ、各高校の美術部員がテーブルに座って歓談していた。和也もその中の一人で、丸テーブルを囲んで花梨と美奈、副部長土方ハルミが一緒に座っていた。全員制服姿だった。

「いや~はやく始まらないかな」

「そんな時間になれば普通に始まるから」

「私も先輩や部長、副部長の表彰される姿を早く見たいです」

(僕としてはその部分カットして欲しいんだけど、そうもいかないか)

「ありがとう、我が校美術部から3人受賞は初めての事らしい。それに和也は最優秀賞だからな。うちから最優秀賞受賞が出るのも初めてらしい」

副部長の土方ハルミが言った。

「先輩達のおかげで、うちの部も有名になっちゃいますね」

「昨年受賞したのは、和也と部長の二人が奨励賞だったから、その二人が今年ワンツーフィニッシュしたのは妥当な話だし、私はまぐれみたいなものだな」

ハルミが自嘲気味に言った。そんなハルミを無言で見ている和也。

(穏やかに言っていても、彼女目が笑っていないんだよな。これはやっぱり、休学していた同級生の自分が久しぶりに復帰して描いた絵が最優秀って、やっぱり気持ちも穏やかでないのかな。本当に他校も含めて僕が表彰されるのは申し訳ない気持ちで一杯だよ。本来僕が受賞しなければ、優秀賞受賞者4人の内の誰かが最優秀賞で、奨励賞受賞者8人の内の一人が優秀賞だったんだろうから。若い才能の目を僕が潰してしまったのかもしれない)

「和也どうした? あまりうれしそうでないな。私の気のせいか?」

(おおっといけない)

「そんなことはないよ副部長。ちょっと考え事をしていただけだし、早く今年の展示作品を見たいと思っているだけだよ」

「そうか、それならいいが。ところでそろそろその私の事は以前のようにハルと呼んでくれないか」

(いや~ハルって、治江を呼んでいる感じがして呼びずらいんだよね。まあここは仕方ないか)

「分かったよハル」

「うむ、それで言い。でも本当に凄いな和也は」

「何が?」

「だって昨年まで、お前タブレットでデジタルだったろ。それに抽象画専門だった。それが今年は油彩に挑戦してしかもそれまで描いたことの無かった人物画で、あれだけ上手く描いてしかも最優秀賞受賞だぞ」

「いや、だから油彩は事故の前から父さんの本を読んだりして勉強していたんだって。学校で描いて無かっただけで家ではデッサンとかやっていたから」

「そうか、お前は努力家だな」

(ああ、純真な高校生に嘘をつくのは心が痛い)

「ところで玉田先生はまだ打ち合わせ中?」

腕時計を見ながら言った。

「だいぶ長いですね。打ち合わせって言って10分以上たつのに、まだ中で打ち合わせ中ですか」

各高校の顧問は既に業者によって展示作業の完了している展示室内で打ち合わせ中だった。

「そうだな、先生方にはいろいろと打ち合わせしておかなければいけないことがあるのだろう」

「うちの部が当番担当なのって、明日の午後と水曜の午前中でしたよね」

「そうだ、明日は私と部長が水曜日午前中は公欠で2年生2人で他校の学生と登板してもらう。和也と冬美が当番だったな」

「はい、昼休みに移動して午後から当番やりますよ。確か撤収は日曜日でしたね。でも搬入も展示作業も撤収作業も全て業者任せで、僕達は何もしないでいいんですかね?」

(ほんと昔とはえらい違いだ。昔は会場づくりと作品展示、撤収、会場片づけは全て学生でやったものなんだけど、今は全て業者任せでやってもらえる。まぁそれだけのお金を払ってやってもらっているんだろうけど)

「数年前から、全部市内高校美連が外部委託で行うようになったからな」

(各高の予算がないはずなのにどこから予算をねん出しているんだろう? 市からの補助金とかをそこに回してるのかな。いずれにせよ今は過保護なのか教育に手厚いと言った方がいいのかな)

「先輩、まだ時間ありますし何か推理してみてくださいよ」

「推理って何だい?」

「和也先輩凄いんですよ。見ただけで相手を推理して言い当てちゃう。そうだ副部長なんてどうですか?」

「本当にやるの?」

(やれやれこれ以上あんまり目立つことしたくないんだけど)

「何だい私の何を推理するって言うんだい?」

和也はロダンの考える人のような仕草で数秒沈黙して対面して座っていたハルミを見つめた。

「あんまり分かることは無いんですが、ハルが今朝寝坊したこと、それから朝食はトーストで、焦って自転車を飛ばしてここまで来た事。それから最近気になる男子学生がいて、進路と恋愛について悩んでいることなら分かります。そしてそのお相手は‥」

「うわっ、ちょっとまて、まて、まてぇぇぇぇっ」

ハルミが取り乱して和也の言葉を遮った。

「和也、君は私のストーカーか何かなのかね」

「いえ全然そんなことはありません。純粋に観察して推理しただけです。ただ推理の過程を飛ばして結論だけを言うと、周囲を驚かせる効果があると言うホームズの手法を使っただけですよ」

「本当に私のストーカーをしていないんだろうな」

「誓ってそんなことはしていません」

「副部長、お兄ちゃんとは登下校いつも一緒にいますけど絶対そんなことはしていないです」

花梨が少し怒ったように言った。

「そうか、では私の何をどのように推理したのかを説明してくれないか」

「かまわないですが、説明すると、ハルはなんだそんな事かって絶対言いますよ」

「大丈夫だ。決して言わないから、さあ、説明してくれ」

推理の理由をどうしても知りたいと、興味津々なハルミ。和也は右の人差し指を口元にあて、目を閉じてゆっくりと話し出した。

「ハルは今朝この会場に来た時に、慌てたように走ってやってきました。そしてうっすら汗も額から流れていました。つまり遅刻するかもと思って慌てて会場にやってきたということです。普段ハルは自転車通学していますから、今日も自転車でここまで来たことが推測出来ました」

「そうだな、今日もここまで自転車で来た。確かに家を出るのが遅くなってしまって焦っていたのは認めよう。でもその理由が寝坊だとどうして推理出来るのだ?」

「ツインテールの髪の結び目、今日はゴムで縛ってその上からバンスクリップでとめています。普段はリボンで直接結んでいますよね。それは時間的な余裕が無かったからです」

「それだけでは遅くなったのが寝坊なのか別の理由なのか分からないじゃないか」

「そうですね。先輩の制服の胸元、トーストのパンの粉が散見されます。朝食はトーストで慌てていたため、身支度の確認を出来ないほど急いでいたのでしょう。ですから髪の毛も普段と違って、ゴムで止めてからバンスクリップでとめたのでしょう。いつものようにリボンで結ぶのよりも時短になりますから」

言われて、慌てて制服の胸元を手で払った。

「う、寝坊したことは認めよう。ではそれ以外の‥気になるだ、男子の下りと進路の悩みはどう推理したんだ?」

トレードマークの赤い眼鏡を右手で上げて位置を直した。この仕草がハルミの気持ちの切り替えのルーティンなのだろう。

「あ、それはすみません、先日たまたまハルがスマホを操作しているときに見ていた男子の写真が見えてしまったのを思い出して。この場合それが誰なのかは秘密にさせていただきます」

「はぁ、そ、それだけのことか?」

口ではそう言っていても、動揺の色を隠せない。

「はい、この年代の女子なら好きな男子学生の一人や二人いるのは自然ですし、高校3年生なら進路の悩みがあるのも普通の事です。だからその2つを寝坊や遅刻、朝食のトーストの話と並べて話せばと考えただけの事です」

「何だそんなことなのか‥」

「ほら、言いましたよね。何だそんなことなのかって」

「あっ、すまない」

「副部長、誰なんですか? スマホの男性の写真って?」

美奈が冷やかすように言った。

「だ、誰でもいいだろう」

「あ、赤くなってますよ先輩」

「ほらほら奈美もハルをからかわないの」

和也が合いの手を入れて、奈美を制した。

「みんなお待たせ~」

玉田顧問が元気よく声を掛けてきた。

第18話目の投稿になりました。

 新章の始まりです。48歳一級建築士高校生の新たな活躍が始まります。

 次回は表彰式とプラネタリウムです。お楽しみいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ