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図書室の怪談⑥ 新聞記事

「何の話だったの?」

廊下で待っていた花梨が開口一番聞いてきた。

「進路の話だったよ」

「進路?」

歩きながら答えた。

「僕が工学大の建築科に通うって書いたら、他県の国公立か都大の建築どうかって勧められた」

「確かに先輩の最近の成績だと国立大も目指せますね」

「で、お兄ちゃんはなんて答えたの?」

「記憶の件と、体の件、それに自宅で設計学びながら通いたいからと言っておいたよ」

「そうだよね。体の件もあるからお兄ちゃん家から出ないよね」

「うん、そのつもり」

「そう言えば、部長達も都大は勧められたって言ってましたね」

「確か、市立の総合大学だよね。この辺の地方では最大規模だったかな」

(うちの市の建築士会も都大の建築出身者いたな。でも多くが工学大建築なんだよな。さすが地元って感じで最初仕事しづらかったもんな。なんだかんだ学閥ってあるんだよな~。だから和也として地元で治江とやってくなら工学大の方が都合がいいんだけど、そんなこと設計経験のない高校教師には分かるはずないもんな)

「でもなんで第一志望を書いているのに、別の学校進めるのかな?」

「それは高校としては少しでも、ランクの高い大学、特に国公立や有名私立に一人でも合格させたいんじゃないかな。表向き掲示したときに、工学大3人合格ってよりも、東大や東北大3人合格ってなった方が,高校の指導力が高いって評価されるからね。教職員の評価なんて有名進学先に何人合格とか、野球部甲子園出場とか、目で見える形の方が評価されやすいでしょ。もちろん教育って生徒一人一人の多様な能力の向上や、生きていくための力を付与することが重要なんだけど、上からの評価だと、目に見える数字って大事だからね」

「うわ~、シビア」

(そうだよ娘、現実社会は数字がすべてだよ)

「でも先輩、それならなんで都大なんですかね? 偏差値的に的には工学大と同じくらいだと思いますけど」

「大都市で広く、社会経験を積ませたいからじゃないかな」

「なるほど。ところで先輩、私も進路希望に工学大の建築って書いたんですよ」

立ち止まって振り向きながら笑顔で奈美が言った。

「へ、奈美ちゃんもなの?」

「はい。先輩の昨日の話聞いていたら、建築って凄いなって思って。だから朝借りた、建築の本、今日帰ったら早速読んでみますね」

「うん、でもそれでいいの?」

「だって一昨日までは、何になろうかとか全然なくて。やっと興味が持てるものが出てきたって言うか」

「そうか、ゆっくり検討してみて。建築、特に設計の世界は女性でも活躍できるし、奥が深くて面白いから‥って、僕も手伝ってみてそう感じたから。ところで花梨は進路なんて書いたの?」

「工学大建築」

「花梨もなのっ」

「うん、母さん、瞳さん、お兄ちゃんと一緒に事務所で働く」

「そ、そうか‥それは楽しみだね」

(このこと治江は知っているのか。父的には複雑だな。頑張って事務所盛り上げないとな)

「だからずっとお兄ちゃんと一緒だからね。安心して」

「あ、ありがとう。そうだちょっと寄り道してから教室に帰るから、先に戻っていて」

和也は小走りに走って階段に向かった。

 放課後、この日は部活を休んで、市立図書館にバスで向かった。図書委員活動のない花梨も、奈美までついてくる。

「奈美まで部活休んでよかったの?」

「うん、図書館言ってみたかったから。ところで先輩、調べものあるって、部長達に言ってましたけど、何を調べるんですか?」

「過去の新聞記事さ」

「?」

市立図書館に行くと2階に資料室があった。

「すみません、過去の新聞記事を探していまして」

「いつ頃の記事で、どんな内容ですか。検索システムで検索しますので」

女性司書が対応してくれた。

「時期は平成3年9月からの半年間。検索キーワードは高校教師 死亡 自宅 ですかね」

「はあ‥」

司書はいぶかしげに和也を眺めた。言われたキーワードを入力すると、

「2件ヒットしましたね。11月28日に2社の新聞社からです。どちらもご覧になりますか」

「はいお願いします」

「それでは書庫からお持ちして、該当記事をコピーしてお渡ししますので、15分くらいお待ちになっていただいてもいいですか。後1枚コピー代20円かかります」

「はい、お手数ですがお願いします。その辺の本を見ています」

司書の女性は新聞を取りに向かった。

「お兄ちゃん、どういうこと?」

花梨も奈美も不思議そうな顔をしている。

「昨日、言っていたろ。以前に図書室担当の先生が自宅で亡くなっていたって」

「それは聞いていたけど、そのことがわざわざ市立図書館まで来て調べる事だったの?」

「どうにも気になってね」

「出たね、お兄ちゃんの気になった」

しばらく待つと、記事の該当箇所のコピーを持ってきてくれた。一部20円だったため40円を支払うと、資料室を出て図書館内の談話コーナーに移動した。和也は受け取った新聞記事をゆっくりと読み始めた。2社分の記事を読み終わると顔を上げた。

「何か分かったお兄ちゃん?」

「花梨達の言うところの、怨念が歩き回るとすれば、彼女の事だと思う」

「彼女?」

「亡くなったのは一関恭子、28歳。確かにうちの高校だね。自宅のアパートで発見されたのは令和3年11月29日、月曜日。朝、欠勤状態で連絡が取れなくて、その日の夕方に同僚の職員が彼女のアパートを訪ねて、部屋の中で亡くなっているのを発見した」

記事のコピーを2人に見せた。

「顔は出てないんだね」

「結局、自殺って事で処理されたんだね」

「今から4年前って事は、一緒に働いていた職員がまだいるかもしれないな」

「そうだね。高校の先生ってどれくらい同じ学校にいるのかな」

奈美が呟いた。

「例外はあるけど、うちの県は最大8年だね」

「先輩、何でそんな事知ってるんですか?」

「あぁ、事務所のお客様に高校の先生がいて、母さんと話しているのを聞いていたんだよ」

「確か、うちの高校に来て森先生7年目だよ」

「そうなんだ」

「こないだ話していた時に、2回卒業生を送り出して、今年から学年担当離れたって言っていたもん」

「そうか少なくとも彼女とは、同時期にいたかもしれないね」

 翌日放課後、和也は美術室でキャンバスに向かっていた。白と黒のジェッソを混ぜて、F15号キャンバスを灰色に大きな平筆で塗りつぶしている。

「和也先輩、何をしているんですか?」

冬美が興味津々に聞いてくる。

「油絵の下地塗りをしているんだよ。こうしてジェッソで下塗りして、乾いたら紙やすりで削ってから、絵を描いた方が描きやすいし、綺麗に色がのるんだよ」

「へ~そうなんですね。と、言うことは油絵を描くんですか?」

「そのつもりだよ。とりあえず、今日は後はキャンバスを乾かす。その間、この前の冬美ちゃんのアクリル画に上から油で色入れてくよ」

その時、顧問の玉田が入ってきた。

「早速、皆さん描いてますね。私は準備室にいますから、何か聞きたいことがあったら、遠慮しないで来てくださいね」

しばらくして、和也は下塗りしたキャンバスをもって、準備室に入っていった。

「あら、綾瀬君どうしたの?」

準備室内のテーブルで、作業をしていた玉田が声を掛けてきた。

「キャンバスの下地塗り終わったので、乾燥棚で明日まで乾燥させようかと」

「今度は、何を描くの?」

「妹にモデルやってもらう予定です」

「完成楽しみにしているわ。それにしても昨年までは人物画って描いているところ見たことなかったし、タブレット専門だったけど、筆で描いても上手だったのね」

「あ、いや、父のおかげです。後は事故の後、家で仕事手伝っている以外は、油彩画で人物描くか、まあちょっとだけ勉強していたので」

「そうか~、何がきっかけになるか分からいよね~」

おっとりした口調で返しながら笑顔を向けた。

(うわ~かわいい笑い顔だなこの先生)

「ところで、先生はうちの高校に在籍されて何年になりますか?」

「3年よ。何で~?」

「えぇ、昨日図書室で妹達図書委員と話していた時に、たまたま夜に図書室内を歩く人影の話になって。以前、在籍されていた、一関恭子さんという女性が自宅アパートで亡くなっていたそうですね」

その途端、玉田の顔が厳しくなった。

「何であなたが一関の名前知っているのかしら? あれから4年たっているから、生徒は彼女の名前は知らないはずだけど」

厳しい眼光で和也をにらみ、口調も先ほどまでとは別人のように強い語尾だった。

「先生は、一関さんとお知り合いだったのですか?」

「その質問に答える前に、あなたが答えなさい綾瀬君。どうしてあなたが一関を知っているの? 単なる興味本位なら亡くなった者に対する冒涜よ」

「申し訳ありません。実は昨日‥」

和也は一昨日図書室で起こった出来事を説明した。

「そう、そんな事があったの。それでどうして一関につながるの?」

口調はまだ厳しいままだった。疑いの目で和也を見ている。

(さっきまでとまるで別人だね)

「その歴史研究同好会の令和3年9月の会報誌に書いてあった、数値の羅列を解読して天井裏から出てきたメモの数列。この二つの筆跡が同一だったからです。そして令和3年のその後に、図書室担当の教師がお亡くなりになった。これは偶然なのか必然なのか気になりました。ですから昨日、市立図書館で過去の新聞記事を調べさせていただきました。先生、これをご覧になってください」

和也はスマホを操作すると、テーブルの上に置いた。

「これが今話した、会報の数値の羅列。そしてこっちが天井から出てきたメモの数値です」

画面をドロップすると次の天井から出てきたメモの写真が現れる。その画像を見つめていた玉田だったが、

「一関‥」

「どうやら一関先生のメモで間違いないようですね。失礼ですがお二人は、前任地での同僚かなにかですか?」

「いいえ一関は私の幼馴染なの。ところでこの天井から出てきた数値の意味は何のことか心当たりある?」

「そうだったんですね。この数値に関してはまだ分かりません」

「もし分かったら教えて欲しいの」

顔つきが元に戻り、口調も柔らかくなった。

「僕からも質問よろしいですか?」

「一関先生の担当教科と、出身の大学を教えてください」

「彼女は数学担当だったわ。都立工業大の建築学科。だから教員免許は数学と工業と持っていたの」

「やっぱりそうですか」

「やっぱり?」

「はい。天井裏にメモを残したときに、会報に書かれた数値がジプトンという、天井仕上げ材の品番でした。こんなこと建築関係者以外思いつきません」

「彼女は在学中、設計事務所でバイトしていたの。よくお盆休みとか帰省して話をした時に、楽しそうに話していたわ。ねえ綾瀬君、このことを知っているの図書の森先生だけなの?」

「はい、後はその場にいた花梨を含む図書委員4名と奈美ちゃんの5人だけです」

「あなたは今、非常に危険なことに携わっているの。絶対にこのことは、他言しないようにね」

「危険とはどのような危険ですか?」

「それは私の口からは言えないの。証拠もないのに適当なことは言えないから。でも本当に他言しないでね」

「それは一関先生の死にかかわっていることですか?」

玉田の顔に恐怖心に現れた。声が詰まって言葉がでてこない。

「大丈夫です。誰にも話しませんよ」


 その日の晩、誰もいない事務所内で光輝は画面に向かっていた。画面にはPDF画像や書類のジェイペグ画像が表示されていた。

「光、何みてるの?」

治江が室内に入ると話しかけてきた。

「ハル、これを見て。これが原因だったんだよ」

「何々?」

光輝の横に立つと、二つの大型のモニターを覗き込む。

「これって‥」

「今日、図書室内で見つけたよ。やっぱりあれの中にあった」

「そう、でもこれどうするの? これ以上は首を突っ込まない方がいいんじゃない」

「でもこれのせいで人が一人亡くなっている。下手をすると殺されたのかもしれない。だからしかるべき手を打つよ。でも誰が見方で、誰が敵か分からない状況でどうすべきか。下手すると多数が共犯の可能性もあるわけで‥」

光輝が右人差し指を立てて、口元にあてて目を閉じた。しばらくして、

「ハル、明日、添田君に連絡してくれないか。重大な秘密を取引上知ってしまった。できれば夜に来てもらえるとありがたい。ハルも同席して欲しい」

そう言うと、この後2時間以上2人は話をつづけた。





第15話目の投稿になりました。次回は図書室の怪談編、最大の謎解きになります。

お楽しみいただければ幸いです。

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