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図書室の怪談③ 晴れた日の雨漏り

「あれ、ここってひょっとして本棚かなんかが元々置いてあった?」

「はい、雨漏りした時に低めの本棚がここに置いてあって、そこにあった本が濡れてしまったので本棚を移動しました。ほらあそこに置いてある書棚です」

梢が指さすと、部屋の脇の壁に不自然に低めの書棚が置かれていた。

「ちょっと見せてもらっていいかな」

「かまわないけど、そんなことが雨漏りの原因と関係あるの?」

花梨が不思議そうに聞いた。

「ほとんどないね。でもすべての事を把握したうえで判断はしたいんだよ」

そう言うと移動した本棚に近づいてまじまじと見つめた。

「主に記録ものの書棚なんだね。ここ10年くらいの会報や同好会の文集なんかが置いてあるんだね」

「そう、ほとんど学生は見ないような校の刊行物ばっかり収められていたんだよお兄ちゃん」

「文芸部や歴史研究同好会なんかの会報なんかもあるね」

そう言うと和也は歴史研究同好会の会報を1冊取り出すとパラパラとめくって眺めていた。

「濡れてしまった会報はどうしたの?」

「ああ、それは奥の司書室にとってあります。本当は誰も読まないから処分しようとしたんですけど、会報関係のバックナンバーはとっておくことになっていて濡れた会報しかとってないということで保管してあります」

千春が答えた。和也は話を聞きながら、手にした同人誌をめくり続けて見つめていた。

「おや、なんだこれは」

「何々先輩?」

「いや、何か会報の中に数字が書いてあるんだけど」

「どれどれ‥」

奈美が覗き込むと、会報の中に数字とアルファベットの羅列が書いてあった。Counternear8rTK2501-S

「何かの落書きみたいですね」

「どれどれお兄ちゃん、何かのパスワードじゃないかな。きっと紙が無くてとっさに会報の開いていたページにメモしたんだよ」

「そんな感じに見えるね」

そう言いながら、書棚から他の歴史研究同好会の会報を取り出すとページをめくった。

「こっちの同人誌には書いてないね。念の為に他のも見てみようか」

また別の会報を取り出すとページをめくって確認した。

「やっぱり何にも書いてないね。花梨の言うとおりパスワードの羅列かな。数字が書いてあったのは令和3年9月発刊だね。ここの棚を見ると歴妍は年4回会報出してるんだね」

そう言って取りだした会報を元の書棚に戻した。

「ところでお兄ちゃん、雨漏りの件は結局どうなったの?」

「あぁ、それは‥言葉で言うのは簡単なんだけど‥。誰かプラスドライバーと大き目な三脚用意出来るかな」

「それなら司書室に大きな三脚あるから持ってくるの手伝って」

「千春はドライバーそこの引き出しのどれかに入ってるから探しといて。ほらお兄ちゃんこっち」

花梨について司書室についていくと鍵が掛かっている。

「図書室担当の森先生が鍵の管理しているから、理由話して借りてくるしかないかな」

「それじゃあ、それは図書委員の皆さんに任せてその間にもう少しいろいろ見せてもらおうかな」

カウンターに戻ると、花梨が3人の図書委員に鍵の件を伝えた。

「じゃあ、私が鍵の件は森先生に話してくる」

希美がそう言うと図書室から出ていった。

「それじゃあもう少し図書室内を見せてもらうね」

和也は図書室内をくまなく見て回る。その後ろを花梨、千春、奈美の3人がついて回る。梢は図書委員の仕事がある為にカウンターに残った。

「こんなんで、本当に何か分かるのかな?」

千春がいぶかしげに言った。

「お兄ちゃんならきっと解決しちゃうよ」

「そうだよたった今も落ちる本の謎解決したばかりだったの忘れたの?」

「どこか外に出れるところ近くにあるかな?」

「それなら図書室出たすぐの階段の脇の出入り口から出れるけど」

「じゃあそこから外に出ようか」

和也に続いて3人の女子が一度図書室を出て、廊下を直進して一部屋先の右にある階段脇の出入り口から外に出た。サンダル履きのまま土間コンクリートの上を歩いて図書館の方へ歩いていく。

「うんやっぱりね」

「やっぱり?」

「ほら図書室の脇に非常階段が3階から設置されている」

「それがどうかしたの?」

その問いには答えずに図書室脇の非常階段まで歩いていくと和也は建物から10m程度離れると、外から建物の長さを指を定規代わりに数えていた。今度は非常階段に近づくとじっくりと眺めている。右手の人差し指を立てたまま、目を閉じて口にあてた。しばらくの間沈黙の時が流れる。直後、和也の目が開かれた。

「さて、すべて謎は解けたと思うよ」

「え、本当なの?」

千春が驚いて叫んだ。

「お兄ちゃん説明してよ」

「一度図書室に戻って、司書の先生を呼んでこよう。すべては職員がいる前で説明した方がいいね」

4人は図書室に戻ると、図書室担当の森教諭がいた。

「あなたが花梨さんのお兄さんね。希美さんの話では雨漏りの件で確認したいから、三脚を使いたいってことなので私も説明していただければと思って」

図書室担当の森教諭は50代後半に見えるおとなしそうな女性だった。

「それはちょうどよかったです。いろいろとご説明しようかと思っていたものですから、こちらから先生をお呼びに行こうかと考えていました。それではまずは晴れの日の雨漏りの件からご説明します。まずは三脚をお借りいたします」

森が司書室の鍵を開けると希美と大きな三脚を運んできた。

「よくこんな大きな三脚ありますね。てっきり用務員室から借りてくるかと思いました」

「たまに天井付近の棚の本を取ったり戻したりするから用意しているのよ」

「7尺の三脚か、これはありがたい」

「7尺って?」

千春の質問に

「あぁ、2m10㎝の長さの事だよこれなら作業がしやすい。ではこの三脚をここにお願いします」

和也が雨漏りのあった場所に移動して指示した。

「あ、はい」

言われるがままに三脚を据え付けると、

「ドライバーは?」

梢がカウンターに用意してあったドライバーを手渡した。

「それでは見ていてください」

和也は三脚に上がると雨漏りのあった部分の天井の仕上げ材のビスをドライバーで外していく。6本のビスを外すと天井のボードが外れた。

「あ、これ受け取ってもらっていいかな」

そう言うと天井ボードを千春に渡した。

「さて、雨漏りの原因はこれだよ」

そう言って天井裏の配管を指差した。

「お兄ちゃんそれ何の配管?」

「これはエアコンの冷媒配管。ほらこの部分、保温帯が外れていて中の銅管が見えているでしょう。これが雨漏りの原因さ」

「綾瀬君、それが何で雨漏りの原因なの?」

「冷媒配管内には冷房を使うと、外の室外機からそこの室内機に約10度以下に冷やしたフロンガスの液体が流れるんですけど、この冷媒配管の銅管の周りを断熱材で密閉しないと天井裏の空気に含まれている、水蒸気がこの配管部分で結露してしまいます。それで水滴になって落下してくる。空調機器の話では良くある話なんです。だから暑い日の冷房使用後の雨漏りと聞いて、現場を見て、室内機は天井埋め込み型と確認した時点でほぼ確証を持てました。後は先生、このままボードを外しておきますから設置業者に連絡して、保温をやり直してもらってください。それでこの件は解決です」

「えっと、よく分からないんでけど工事が悪かったってことでいいのかしら?」

「はい、工事ミスですね。多分施工業者に冷房使用後に天井から雨漏りがあったこと。保護者の建築士に現場を確認してもらってこう伝えるように言われたとでも伝えればすぐに直してくれますよ。空調施工では致命的なミスですから、穏便に速やかに無料で修繕してくれるはずですよ」

「わ、分かったわ綾瀬君。でもあなたどうしてそんな専門的なこと知っているの?」

(や、やばい。またやらかした)

ふと我に帰ると、一同が下から驚きの顔で見上げている。

「家業の設計事務所で、仕事を手伝っているときに同じような案件がたまたま先日あったんですよ」

内心かなり動揺していたけど、顔に出ないように冷静さを装って、三脚から降りた。

「先輩凄い」

「お兄ちゃん専門家みたい」

「本当にすごい。ここにきて雨漏りの話を聞いて、天井見たときには理由が分かってたってことでしょう」

「たまたま、たまたまですから」

コホンと咳払いを一つして、

「さて、ここからはもう少し深刻な話をしなければなりません」

和也の顔が真顔になっていた。






第12話目の投稿になります。晴れた日の天井からの雨漏り。夏場は冷房、冬場は古くなった暖房用蒸気配管で良くある現象です。次回も図書室の謎解きは続きます。

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