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図書室の怪談① 落下する小説

 放課後、和也は美術室に一度 顔を出すと図書室に向かった。

「図書室に行くなら私も一緒に行きます」

と言って美奈もついてきた。

「先輩ブググググ⋯何でしたっけ?」

「ブグローね。美奈は何か探し物でもあるの?」

「いや別に先輩が見たいっていうブグローの絵を見てみたいんですよ」

などと言っている間に図書室についてしまう。図書室は北校舎1階の端に位置していた。図書室内に入ると、入ってすぐのところに貸出カウンターがあったが、花梨の姿は無い。

「あれいないな」

「花梨ちゃんいないですね」

辺りを見回していると、奥から女子生徒達の大きな話し声が聞こえた。けれど図書棚に隠れて姿は見えない。受付カウンターの前には、テーブルがいくつか並べてあってそこで勉強ができるようになっている。幸い閲覧している学生は誰もいなかったので迷惑にはなっていなかった。

「先輩なんだか騒がしいですよ、あっちの方」

「そうだね」

声のする方へ行ってみると、書棚の間で女子生徒達4人が何やら大声あげていた。その中に花梨の姿もあった。

「きっと呪いですよ。ほら、うちの高校に伝わる図書室の幽霊の」

「そんなことあるわけないじゃない。きっと何かの偶然だよ」

「ここ毎日ですよ、先月も昨日もここの本だけ落ちてたし」

「昨年は、夜図書室内に白い人影が見えたって言うじゃないですか」

「それに夜、図書委員しかないはずなのに、どこからか話し声が聞こえてきたり」

「この図書室絶対変ですよ」

「怖い、私もう放課後一人で受付にいることできないかも」

「そうなのかな? 何かの偶然だと思うんだけど⋯」

「じゃあ花梨ちゃんは、去年から続く この本が落ちる原因分かる」

女子生徒3人から追求されて花梨が困っていた。

「えっと、あの、どうしたのかな?」

和也が声をかけた。

「あ、お兄ちゃん」

「あ、花梨ちゃんのお兄さん」

花梨が安堵の表情を浮かべた。

「珍しいね。図書館内で図書委員が大声で話しているなんて」

「そうだお兄ちゃん、お兄ちゃんなら謎が解けるかも」

「謎?」

「そうなんです。昨年から起こっている図書室の怪現象で」

「怪現象」

「そう、ここの図書室は呪われているんです」

「呪い? よくある学校の怪談ってやつかな」

「そうです。亡くなった職員の」

「なんだかたくさんあるみたいだから、それじゃあ一つずつ話を聞いていくよ。怪現象を一つずつ説明していって」

「あ、分かりました、まずは落ちる本です」

「落ちる本? あ、えっと、その前にお名前教えてもらっていいかな? みんなの」

和也が集まっていた図書委員の女子3名を見渡して言った。

3人はそれぞれ鈴木千春、安藤梢、幕田希美と名乗った。3人とも2年生だった。

「それで一つ目は何だっけ?」

「そこの棚の本が度々落ちるんです。 それも同じ棚の、同じ部分の本が」

「全部同じ本なの?」

「いえ、同じ本ではないんですが、ほとんど同じ本であることが多くて」

「どの本、いやどの場所って聞いた方がいいかな」

「はい、この部分の本なんですけど」

梢が本棚の位置を指した。2メートルほどあるスチールラック製の本棚の5段目付近だった。

「それでよく落ちている本はどの本なの?」

「大体この本が多くて、今日もこの本が落ちていました」

梢が一冊の本を床から拾い上げると気持ち悪そうに渡してきた。

「何の変哲もないハードカバーの文芸書だね。数年前に文学賞取ったやつだね」

「はい、今日もここに落ちていて2日連続だったので何だか気持ち悪くて」

和也は、渡された文芸書を外からじっと見つめていた。その後、開いて中をパラパラとめくりながら確認した。

「確かに、ハードカバーの個々の部分がへこんでいるから、高い位置から数回以上落下した痕跡があるね。特に本の中は変わった形跡はないね。それでこの本は普段はどこに収めてあるの?」

ここです。ここの並びに置いてあります。

「あ、本当だ。同じ小説が後2冊あるね」

「多分、文学賞を受賞して話題になったので複数冊購入したのだと思います」

和也は書棚に並んでいた同名タイトルの小説を2冊とも取り出して眺めている。その後、その小説の並びに収めてある別の小説も1冊づつ取り出して外観を眺めていた。本を戻しながら書棚の奥も眺めている。その姿を5人の女子生徒は不安げにじっと見つめていた。

「反対側の書棚も見ていいかな?」

「あ、どうぞ」

希美が答えた。和也は裏側の書棚に回るとじっと眺めている。

「こっちの書棚は大型の本が多いんだね。大きさもみんなバラバラでハードカバーの本ばっかりだ。この辺の本は人気あるのかな。裏側の小説の書棚は結構きつきつで入りきれない本が無理くり収めてあったけど、こっちはそんな感じじゃないよね」

「この辺の並びは芸能に関する並びなんで、人気があるから横に多くのスペースを取るようにしているようです」

「貸出簿を見ることは出来るかな?」

「あ、はい大丈夫です」

「お手数だけど、ここに持ってきてもらっていいかな」

「分かりました」

「私が取ってくるよ」

花梨がカウンターに取りにいった。

「ここと裏の小説の棚の書籍の並べ方は去年も同じだったかな?」

「はい、特に変更していません。それ以前は私達入学してないので分からないですけど」

梢が答えた。

「お兄ちゃん、貸出簿もってきた」

「ありがとう」

ファイルに閉じられた貸出簿を受け取ると、最近の貸し出しページを開いた。遡りながらページを眺め、書棚の本と見比べている。

「前回、裏の本が落ちていたのは昨日、その前は4月4日、3月27日、その前は春休み中の25日、その前が16日じゃなかったかな? この貸出簿を見ると春休み中も図書室はやっていたんだね」

「えっとあのね、春休み中はやっていたのは間違いないけど、図書委員が交替で当番しているから、お兄ちゃんが言った日に落ちていたのかみんな知っている子はいないよ」

「あ、4日の日は落ちていました。私が当番だったので覚えています」

千春が言った。

「27日も落ちていた。その日は私が当番だったから」

希美が答える。

「16日は終業式の日だったのでよく覚えています。確かにおちてました」

今度は梢が答えた。

「お兄ちゃん凄い何で分かったの?」

「その質問に答える前に、もう少し教えて欲しい。ここの図書室の出納方式について教えて」

「出納方式?」

女子4人が同時に声をあげた。

「お兄ちゃん出納方式って何?」

「ああ、ごめん。ここの図書室の本の借り方と、本の返し方。そして三つめは返却した図書を誰がどうやって書棚に戻すかその方法について」

「それならカウンターに来て」

花梨に促されカウンターに行った。

「本を借りたい人は、ここに当番の図書委員が座っているから本を持ってくるの。そうすると図書委員が貸出処理するの。ほら本の中に貸出カード入っているでしょ。ここに返却予定日の判を押して、後は本を借りたい人にこの貸出簿に学年とクラス、学生番号と氏名を書いてもらうの。その脇にも返却予定日の判を押せば貸出完了。この時に学生証で本人確認することになっているけど、これはほとんど省略化になってる」

「省略化って」

「ほとんど確認してないってこと。だってうちの学生以外ここの本なんか借りないから。それに本借りる子なんて大体同じだから顔パス的な」

「なるほど。返却の仕方は?」

「あそこの返却箱にいれるだけ。後は、当番の図書委員が貸出簿と図書カードに返却日の判を押して、大体その日の終わりごろに書棚にもどして完了」

「なるほどね」

「あの~花梨のお兄さん‥」

「僕のことは同級生だし和也でいいよ」

「それじゃあ和也さん、あの~、あなたもうちの学生なのになんでそんな事聴くんですか?」

「あ、それは‥」

「あ、いいよ花梨」

手を差し出して制止した。

「僕、事故で昨年の記憶が曖昧なんだよ。だからお手数かけちゃってごめんね」

「あ、」

梢が思い出したように声を上げた。

「ごめんなさい。私」

「気にしないでいいよ。それに本当に余計な質問しちゃってごめんね。でもおかげでこの怪現象の説明は出来ると思うよ」

「お兄ちゃん、謎が解けたの?」

「えっと、あともう一つだけ。今日も芸能の本借りられているね。随分人気あるんだね。僕が来る前には何人かお客さんがいたのかな?」

「えっと私の知っている限り二組だけ。一人はアイドルの本の貸出。もう一人は返却だけですぐに帰りました」

梢が言った。

「そのアイドルの本って横長のやつかな?」

「あ、そうです」

「ありがとう、これで納得できたよ。やっぱりこれは偶然の人為的事象だね」

女子生徒一同が和也に注目した。

「え、お化けじゃないんですか?」

「やっぱり呪いですよね」

「とりあえず実験してみようよ」

和也はそう言うと、先程の書棚に向かった。手にしていた問題の本を元の位置に戻すと、背面の書棚の前に移動した。4段目の大型の本を取り出す。書棚の奥を覗き込みながら

「多分、こういうことだと思うよ」

そう言いながら、書棚の端の方に狙いをすまして、横長の本を差し込んでいく。書棚の半分近く奥まで差し込むと、

「さあ、これで反対はどうなっているかな?」

そう言うと再び書棚の背面側に移動する。

「あっ」

和也以外が一斉に声を上げた。

「そういうことかっ」

「そういうこと。気づいてみると単純なことでしょう」

背面側の5段目の棚から、1冊の本が棚から半分程度はみ出していた。

「こちら側の小説の棚には本がたくさんあるから、一段に2列で本が収めてある。さっき確認したら、こちら側の5段目と背面側の4段目が大体同じ高さになっていることに気が付いたのさ。そしてここの書棚だけ背後に落下防止の板やスチールバーがついてない。だから横長の大型本を奥まで入れすぎると背後の書棚の本が本を押して、こんな感じに押し出したわけ。後はちょっとした衝撃か何かで落ちたんだろうね」

「落下日時が分かったのは?」

「何度も落ちていると聞いた、小説が置いてある付近の裏側の芸能本で、横長の大型図書の返却日を言っただけだよ。だって図書室の本は図書委員が分類番号並びで書棚に戻すから、ほぼほぼ同じ場所に戻すわけだからね」

「でもそれなら私達が気づくんじゃないかしら」

「それは貸出記録を見ると、あんまりこの付近の小説の貸し出しがされていないからだよ。その代わり背面の芸能関係の本は多く貸し出されている。そしてここの5段目結構位置が高いでしょ。女子の図書委員では下から見上げる形になるから、なかなか奥まで見れないんだよ。それに図書委員が返却された本の返却処理をしてから棚に戻すと、どうしても夕方、つまり暗くなってきているから、なおさら奥まで押すときに後ろの棚まで見れなくなっているからね。解決策は、小説の棚の二重陳列を止めて、奥側の書籍を全部取ってしまえば万事解決だよ」

「すご~い、図書室の怪現象が一つ解決っ」

千春が大声で言った。

「本当に一瞬で解決しちゃった」

希美と梢も顔を見合わせている。

「お兄ちゃん、お父さんみたい」

花梨が不意につぶやいた。

(やばい、やりすぎた)

「たまたまだよ、たまたま」

苦笑いを浮かべながらなんとか取り繕うとする。

「そうだ、いっそのこと他の怪現象も話してみたらどうかな?」

千春が声を上げた。




第10話目の投稿になります。お楽しみいただければ幸いです。

次回も図書室の怪談謎解きが続きます。

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