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5 効果的な復讐方法と予想外の結末

私はずっと、蝶よ花よと大事に育てられてきた。


しかし、無知であること、単に笑っていればよいと育てられてきたこと、美しさを保つことこそが私の価値だと言われ続けてきたこと、そしてそろそろお前も嫁ぎ先が決まりそうだと何処の誰とも教えて貰えず準備だけしていろと命じられたことが、今になって違和感となり脳裏に蘇る。



「いいか、エフィナ。よく聞いてくれ」

ロイアルバが真剣な顔で、私の両肩を掴んで視線を合わせた。

「嫌です」

私は咄嗟に、顔を背ける。


「今回、この旅に連れて来たのは、精鋭部隊というよりも、私が心から信頼を寄せる者達だ」

「ですから、嫌です!」

何故、ロイアルバは遺言みたいなことを私に告げようとするのだろう。


「すまない。でも、大事なことなんだ。私が狂ったまま……闇堕ちしたままだったら、彼らの言う通りにするんだ。そうしなければ、君は最悪本当に……散々遊ばれた後、娼館に送られるか殺されるかもしれない」

ぐ、と私は唇を噛む。


「どうか、お願いだ。私に何かあれば、君に危険が迫ることは間違いない。君を匿ってくれる覚悟を持った者達だけを連れてきているから、必ず言うことを聞いてくれ」

ロイアルバは、自分よりずっと小さい私なんかに縋るように言った。

「最初の予定通り、私を捧げればいいじゃないですか」


皇帝の望む通りに動き、部下も危険な目に合わせず。


「私は、君が危険な目に合うことが、一番嫌なんだ」

「一番……? では、私が、貴方が死なないなら毒を飲みますと言えば、自死して下さるのですか」

私が皮肉を込めて言えば、ロイアルバは少し考えた後、「子供を五人程生んでくれた後なら」と大真面目に答えた。



私はやはり自分が一番なのではないかと呆れながらロイアルバに尋ねる。

「何故子供が必要なのですか? 子供の母親に、そんな酷いことを言わせない為? それとも、国の為に跡取りを?」

「いや、違う。私が今死ねば、エフィナは生きる意味や目的を失ってしまうかもしれない。私に対する復讐心がなくなっても、エフィナが確実に生きていく保険や足枷が欲しいんだ」


私は唖然とした。

「……それが、私の子供五人ですか?」

「五人もいれば流石に死なないかなと思って」

「……」


潔いほどの馬鹿だと思った。

そして私は、復讐を誓った相手を前にして笑ってしまった。

「……公国で会ってから、初めて笑ったな」

ロイアルバは眩しいものでも見るような顔をして、同じく笑顔を浮かべた。




***




「エフィナ! やめろ、エフィナ!!」

「これが、私の貴方への復讐ですよ、ロイアルバ」


ロイアルバは、自分の信頼する屈強な騎士達に抑え込まれ、流石に思うように身体を動かすことが出来ないでいた。


話は簡単だ。

自分の大事な主人が、亡国の公女の代わりに闇堕ちするのをよしとする仲間などいるわけがないのだ。


ロイアルバが大切だからこそ、騎士達は私の提案にのって、ロイアルバの命令に背いた。


ロイアルバが信じていた者たちを裏切らせ、私と同じく家臣に裏切られたという気持ちを味わって貰うことと、ロイアルバが本気で嫌だと考えている、私を魔窟に捧げること。


ロイアルバを殺すことや私の自害は叶わずとも、ロイアルバに一泡吹かせることが出来れば、やや溜飲が下がるというものだ。



「私が狂っている間は、書類上でも夫婦にしないで下さいね。私が闇堕ちして……正気になった時、貴方がまだ望むのであれば、その時は貴方の妻になりますから」


流石に闇堕ちした女を妻にはしないだろうと思ったが、念の為釘をさしておく。

こう言っておけば、何となく……ロイアルバは、私が闇堕ちしたままであれば、私と夫婦にはなれず、他の誰とも結婚しないまま、責任を感じて狂った私の面倒を見ると思った。


皇帝になるべくして生まれたにも拘わらず、私が狂ったままならば、ロイアルバはずっと独身を貫くだろう呪いを、私は吐く。


「くそ! 離せ、お前たち……! エフィナ! エフィナ!!」


縋る言葉を無視して一歩踏み出せば、そこは真っ暗闇。

真っ黒な口を開けて、悪夢が私を待っている。


闇堕ちした狂った私ならば、ロイアルバを刺し殺すことも出来るのだろうか?

全くそんな気はしなくて、笑いが漏れる。


「──さようなら、ロイアルバ」


私の身体は闇に、堕ちていく。


私は、私のやり方で、ロイアルバが死ぬより辛いと言っていた、復讐を果たした。




***




「──エフィナ! 戻って来い、エフィナ!!」

「……」

ロイアルバ?

私は瞬きをする。

私はどれだけの時間、狂っていたのだろう??


悪夢の中で、ロイアルバに何度も殺された。

家族も殺された。

そして、ロイアルバの隣には絶世の美女がいて、その腰を抱きながら彼は私に「公女など必要ない」と言い放った。


「……ロイアルバ、私……」

てっきりベッドの中にいるのかと思ったのだが、何かおかしいことに気付く。


ここは……まだ魔窟の中?

あれ? 何故? 時間があまり、経ってない??

最低、半年は狂ったままなのでは……もしかして、まだ悪夢の最中?


「ああ、良かった、無事で……!!」

「ロイアルバ様、公女様が戸惑われています。ひとまず馬車に戻りましょう。戻りながら、色々説明されては如何ですか」

「ああ、そうだな。そうしよう」


ロイアルバは私を抱きかかえると、そそくさと魔窟から出て、馬車に乗った。

精鋭部隊の騎士たちも一緒で、やはり時が経ったようには見えない。


「ロイアルバ、魔石はよろしいのですか?」

皇帝は、魔石の為に私を闇堕ちさせろと言っていたのに、目的を果たさないロイアルバに首を傾げる。


「ああ、魔石を生成していた悪魔は私が殺したからな。もう新しい魔石は作られない」

「……え??」

「やはり、思った通りだった。リンダンロフの王族と悪魔が手を組んだんだろう」

「どういうことか、説明して下さい」


人に何かを説明するのは苦手なんだが、とボヤくロイアルバを私は急かす。


狂う覚悟で悪夢に身を委ねた私の覚悟はなんだったのか。

一瞬で終了してしまった復讐に呆然としながらも、説明を受けなければ納得も先に進むことも出来ないと私は仏頂面になった。


そして私は、衝撃的な話を聞かされた。

魔石を作っていたのは魔窟に住まう悪魔であり、その悪魔は人々の闇を食べることで、力を増していたらしい。

皇帝は魔石欲しさで、悪魔の餌となり力となる闇を魔窟に捧げる。

悪魔は人間が抱える闇の力欲しさに、魔石という人間には生み出せない餌をぶら下げて、人間から力を得る。

悪魔に闇の力が満ちれば、魔窟から出て行ける。

あとに待つのは、帝国の破滅のみだ。


そしてそんな悪魔の野望を、魔石ごと粉砕したのがロイアルバ。

私が気を失っていたのは、僅か五分程らしい。


「ロイアルバは、なぜ魔窟に入ったにも関わらず、悪夢を見なかったのですか?」

「いや、悪夢は見た。何回も、君を殺された」

「自分が殺されたのではなく?」

「私が恐ろしいのは、君が私の手の届かないところへ行ってしまうことだからな」

「そうですか……」

「ただ、私は悪夢を見ても囚われなかったから、悪魔を倒せただけだ」

「悪魔を倒したのですか?」

「ああ」


これは賭けだった、とロイアルバは笑って言う。

悪魔と取引をした百年前の皇帝も、悪魔の力を恐れたはずだと。

だから、皇帝はその力に魅入られながらもひとつだけ条件を出していた。

皇帝の血を引く者は、悪魔の力の支配が及ばないという契約を結んだのだ。


「けれども……リンダンロフは国益をもたらした魔石を失い、再び不便な生活に戻って……国民も不満が募るのではないですか?」

「最初のうちは、そうだろうな」


しかし、その不便な中でも文明を発展させた国があるから、そこから知恵を借りれば良い、とロイアルバは笑う。


「まぁ、そんな国が……」

「はは、何を言ってるんだ。君の国だよ、公国だ」

「え?」

私は驚きに目を見張る。


「君の国は、百年前リンダンロフから独立した。これは予想だが、魔石の……悪魔の力に頼ることをよしと思わなかった者たちが、魔石を使わない国を建国したのではないかな?」

「……成る程」

「グシャナト公国は、魔石を使わない分、本来存在する自然の物質を使って独自の文明を築いていった。それは、魔石に頼り、魔石がなければ何も出来ないリンダンロフよりも、ある意味ずっと発展していると言えるかもしれないんだ」


火を起こすのも、冷たくするのも、乾かすのも、連絡を取るのも、リンダンロフでは全て魔石、魔石、魔石だ。


確かに逆に考えれば、魔石を取り上げられたら、色々滞ってしまう。


悪魔の狙いは、それだった。


ゆっくり生活に馴染み、根付いていく。

後戻り出来ない程に侵蝕した後で、魔石を餌にリンダンロフの王族を操る。



「グシャナト公国は確かに腐敗していたが、それは貧富の差が酷く貧しい者の生活水準が低いというだけで、文明自体が劣っている訳では決してないんだ。魔石を失ったリンダンロフが学ぶべきことは沢山ある。そして君は公国の君主の血を引く唯一の肉親であり、それだけでもリンダンロフが敬うべき相手でもあるんだ」


難しいことはよくわからない。

しかし、あの瘦せ細った公国民と、公国の大地のために、私にもまだできることがあると言われていることだけはわかる。


「そして、そんな君の地位は私と結婚すれば、さらに強固なものになるだろう」

単なる敗戦国の公女であるが、ロイアルバと結婚さえすれば、私を、私が切り開こうとする未来を害する者たちを排除できる権限が与えられるということか。


「腐りきった輩であったが、家族を奪われた苦しみを、君は一生私にぶつけ続けていい。しかし、最後に残された公女として、公国の民を幸せにする義務がある」

ロイアルバの言葉は、違う国とはいえこれから国を導いていく者同士だからか、心に沁みていくようだった。


「貴方への復讐は終わりました」

魔窟に飛び込んだ時に、復讐に生きる人生は終わった。

ロイアルバの私に対する気持ちを利用した復讐だったが、最低でも半年は苦しめられると思っていたのに、まさかたったの五分で終わるとは思いもしなかったが。


脳筋で裏表がなく、神に愛され運が味方してくれていそうなロイアルバだからこそ、あっさり悪魔を倒せたのだろう。


そうした幸運を手繰り寄せる力も、この男は持ち得ているのかもしれない。


「約束通り、貴方の妻になります。けれども、私はグシャナトに戻り、残りの人生はあの地に捧げますわ」

「そうだな、そうしよう。何があっても、私がエフィナを守るからな」

ぱぁ、と顔色を明るくさせてロイアルバは頷いた。


皇帝の容認を得てもいないのに、ロイアルバの中ではもう決定事項らしい。

「貴方は私のことより、自分の身と立場を守ることを考えるべきだと思いますよ」


悪魔を倒し、魔石が手に入れることが叶わなくなれば、魔石で他国への優位な外交を保っていたリンダンロフの立場は厳しいものになるだろうし、皇帝も勝手な行動を起こしたロイアルバに罰を与えなければならなくなるだろう。


「どうして私が、ここに信頼できる者たちしか連れて来なかったと思う?」

ロイアルバは大きな声で笑い、私を子供のように抱え上げると、皇城への帰路についた。

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