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第五十八話


   【拾】


 二度目の恋をしていた。


 思い返すだけで赤面する、終わった筈のあの春が、なんの奇跡か俺の元へとまた舞い込んで、桜の花弁を連れてきた。同じく文壇を志す同志。彼女は俺よりもずっと若くて前途洋々だが、俺にしたってまだこの夢を諦めるつもりは無かった。


 もう三十だと思っていたがそうでは無い。夢を目指すのに遅いも早いも無いんだ。誰かと比べて焦った所で良い結果なんて訪れない。


 道は険しいが。彼女と共に夢を目指し続けようと思った。


 自分の為にも、自分を思ってくれる人の為にも、今度は一辺倒になるのはやめよう。退路を絶って狂気に陥っても、そこに出来上がるのは俺の目指す優しい物語なんかじゃない。


 足元をしっかりと見定めながら歩いて行こう。急がないのも悪いばかりではない。これまでは気付かなかった路傍の花々に意識を向けられる。きっとそういった、些細な事を丁寧に描写出来る人こそが、文壇に長く居続けられるのだろうと、最近ではそう思うようになれた。


 ――俺もあの件以来、少し大人になったみたいだ。


 この生涯において、あまりに壮大な、怪奇譚だった。


 山沿いの、桜並木の小川の側で、俺は彼女と再会を果たした。


 俺はなんて贅沢な男なのだろうか。一度差し伸べられた手を握り返せなかったにも関わらず、彼女はいつまでも俺が振り返るのを待ち続けてくれていたというのか。


 桜吹雪が頬に張り付くくらいに強く吹いたのを覚えている。

 満面の笑みを携えて、彼女は振り返った。

 彼女も随分苦労したのだろう。

 彼女の瞳にあった筈の、子供じみた光明は消え失せて。


 暗い。

















 茫洋とした。






















 夜の海の様な瞳が、俺を見ていた。
























































「お久しぶりです。()()さん」








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