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第二十四話


「探すって、ここ結構広いですよ? それに……()()って何なんですか?」


「この時刻にしか現れないから()()なんだよジョウロちゃん。まぁとにかく少し広いが三人で探せばそうかからないだろう」


 逃げないように見張ってるからな、とフーリは安城に釘を刺し、それぞれは懐中電灯を取り出して散り散りになるとそこから奥まった所にまで伸びたお塚の群れの探索を始めた。闇に照らし出されていく狛狐の形相が少し恐ろしかったが、ツユは内心少し楽しんでもいるのだった。


「さっきメザメさんが狛狐には定まった形が無いって言ってましたけど本当ですね。みんなそれぞれの表情をしていて面白いです」


 苔が生えたり、耳が欠けたりした狛狐達の群れの間を練り歩き――やがて見つけ出したのはツユだった。


「あっ」


 そう声を出したツユの懐中電灯の光の先で照らされていたのは、なんと奇怪な()()を咥えた狛狐の姿であった。


「そこの狛狐のお塚に五十五円の賽銭を入れて()()柏手を打つをする」


「三度?」とツユは聞いた事もない拝礼作法に驚く。

 安城が代表して賽銭を投げ入れ、一行は言われた通りにして頭を下げた。


 闇に三度の拍手が響き渡る――。


 こんな事で何が起きるというのかと、ツユが眉根を下げながら顔を上げると、横笛を咥えていた狛狐の姿が何処にも無くなっていて驚いた。少なくとも今現在、何かしらの怪奇は生じている様子である。


「あとはこの先にある御劔社(みつるぎしゃ)まで行くだけだ、ついて来てくれ」


 安城に先導されて不服そうなフーリが続き、最後尾に少し遅れてツユがついていった。


 ――ああ、ここだけは綺麗だな。


 最後尾を行くツユは、闇に灯った巨大な行燈(あんどん)みたいな四角い祈祷殿を過ぎ去る際に、ガラスから透けて見えるその内部を何気無しに見た――。


 そこで何かが、のそりと動いた。黒い影の様なナニカが、腰を折って中央に座り込んでいくのを見てしまった。


 見るべきでは無いモノを見てしまったかも知れないと、青褪めた口元を抑えて瞳を震わせる。祈祷殿を小走りに後にしながら、次の鳥居を潜り始めたフーリと安城を呼び止めようとして――不意に背後に気配を感じて振り返っていた。


 ……暗い暗い暗黒の中で、石畳の道が祈祷殿から漏れた灯りにぼんやりと照らされている。


 ――その道の中心に、逆光となった人型の影が立ち尽くして、ツユを凝視していた。


 声にもならない有様で、ツユが彼等の背中にすがりつこうとするとそこで、興味深い会話がメザメとフーリとの間で始まったので黙するしか無かった。蒼白になったまま、下りになった階段を行き、泣き出しそうな顔で二人の会話に耳を傾ける。


「なぁメザメ、結局栗彦の中に入り込んだ()()の正体はわかったのかよ」


『わからんな、しかし祀っているのだから()に近い()()である事は確かだろう』


「だとしたら厄介なんじゃねぇのか?」


『ああ厄介だ。霊体であり、違う次元に棲まう神霊の類には、本来こちらからの干渉が出来ぬからだ』


 ――最もその正体も、雲外鏡の前で白日の下に晒されるのだがな。そうメザメが言い掛けると、間が悪く安城の声が被さった。


「うんうんそうだそうだ。神霊には現世の者じゃ太刀打ち出来ない、うんうんそうだ、決まってる」


 クツクツと不敵に笑う安城。なぜそんな所を繰り返すのだろうとツユが不思議に思っていると、やがて平地になったそこに紫色の御幕(おんまく)を垂らした薬力社が立ち現れた。健脚を願い、山となる程に奉納された草鞋(わらじ)が両傍に積み上げられている不思議な光景を横目にしながらもう一歩踏み込んで行くと、見るだけで億劫になる様な急勾配な階段が待ち受けていてツユの肩をガクリと落とさせた。しかも今度のは一層長い。


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