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第十七話


 安城は伏せ目がちにして首を緩く揺する。


「わかったよ。ただ、知っている事には全て答えるが、ボクには知らない事も多いという事は承知しておいてほしい……」


 嘘っぽい安城の言葉にフーリはメンチを切ったが、彼はおっかなびっくりとしたままバタバタと手を顔の前で振る。


「あの怪奇を作り上げているのはボクら低級狐の“野狐(やこ)”の集合なんだ。あそこであんな真似を続ける理屈は、ボクら末端の窺い知る所じゃないんだよね。ボクらの中に理屈があるんだとしたらただ一つ、早く人間に憑依して面白おかしく外の世界を生きたいって事くらいだよ」


 するとツユが顔の前でポンと手を打った。


「誰かにそうしろと命じられたので応じていたと? 妖怪の世界も縦社会って事ですか」


 安城はツユに向かって目を糸の様にしながら一歩歩み寄ると、その頭をポンポンと叩いて「その通りなんだ。やー利口な人間だね」と述べた。遠くの方から悲鳴が上がったのは気のせいだろうか。ツユはこいつの軽はずみな言動のせいで誰かに恨まれるのは嫌だと思って頭を仰け反った。彼のこういう天性の女たらしというかそういった言動は、狐であるが故なのか、はたまた安城廻という人間本来の人格なのか、どちらなのだろうか。


()()()()()()()の言う様に、ボクらは元々そうする様に言われただけなんだ、それも遥かに昔の事だけどね」


如雨露(ゆきさめつゆ)です……」


 静かに訂正しているツユの耳にメザメの声が差し込んで来る。


『『異界のおみくじ』という怪奇の目的はなんだと聞け』


 ツユが復唱すると安城はパッと両手を空に投げる様な仕草をしながら答えた。


「そこに居る()()を祀り、そこに留める為」


 ――何かってなんだよと詰め寄るフーリに安城は不愉快そうな態度で答える。


「何かは何かだ。その正体を知っている者はいなかった。元々はそれを知っている狐もいたのだろうが、力のある奴から順に人との契約を交わしてあそこを出ていってしまった。通過儀礼を終えた狐が忌まわしき牢獄へと戻る理由も無いからね」


 ――牢獄、と表現された怪奇をツユが口元で繰り返していたが、メザメは構わずに続けた。


『その……()()をキミ達狐は祀り続けていると。何十年も、何百年も、それが何かも知らないままに……ん、いや待て、もしやするとそれが――』


 先程からインカムから漏れた声を聞き取り始めている耳の良い狐は、何故か得意げな顔をして前髪を流していた。


「そう、それが〈()〉。ボクはそれを今この瞬間まで知らなかったけれど、まさかあのおみくじを引き当てる人間がいたなんてね。箱毎ひっくり返すでもしない限り外に出ていけない様にしていたんだけどね。それはボクらの手法を真似て、外に出て行こうと勝手におみくじの中に紛れるからさ」


『ははァ。〈厄〉とはすなわち、そこに居るべきだった者。すなわち、 ()()()()()()()()()()()()()()()()――だから〈()〉。()()()()()()()()()であると』


「話が早いねアンタ……そうだよボクらは〈厄〉を外には出さない様に努めていた。正体を知らずとも厄災であるという事だけを知っていたからね。だから()()の機嫌を取るみたいに人を吊るして祀り続けている」


 微風(そよかぜ)が新緑を揺らし、頭上に生い茂る木々のどれかから丸くふっくらとした野鳥が飛び去った時、彼らの集う東屋の周囲に人が集まり始めているのに気付いてきた。何人かの女性がサイン色紙を持って顔を赤らめているのが見える。林田と巌も状況を察してそわそわとし始めていた。この密談もそろそろ切り上げ時だろう。しかし未だ岐阜の深山に腰を深く落としたままのメザメはそんな状況もつゆ知らずに質問を続ける。


『異界への行き方を知っているか?』


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