第〇話
妖眼の怪奇蒐集家~狐の嫁入り~
【序幕】
朧気な視線が俺を覗いている。黄ばんだもう一方の眼球を明後日の空に投げて。
空より吊られて無数に並んだ色のない顔貌。萎びた雁首が並び、真っ直ぐな道筋を示している。さほど長くはなかった筈の石畳の小径は迷宮の様にいつまでも続く。
……何処までも続く。
俺は誘われているのか、なればこの道に果てがあるのか。
……いいやあるまい。終わりなどあるまい。
妖しき紫色の世界に囚われて、空に実った“人面樹”。
鬱蒼たるか惨憺か、列を成すそれらは“人”であったモノ。
――晴天を願う供物であるのだ。
提灯の如く闇を照らした顔の無数は、熟れて破裂しそうに灯っている。
それが、
俺の頭上に揺れている。低く、うらめしそうに呻いている。
ただし、俺が恐ろしいのは……真に恐ろしいのは――。
「ははァ」
背後より、ひたひたと。闇に紛れて歩み迫って来る、着流しを着た一人の男。
菖蒲によく似た色彩を放つ、その片目の鈍光が。
妖しく歪んだ紫色の視線が俺を見据えて、裂ける様に嗤った。
妖しき瞳に認められては、俺に逃げ場などありようもない。
空に吊られた水袋が……項垂れ、俺の脳天を見下ろしている力無い肉袋までもが、口を歪ませて嗤っていた。
俺達はただ、一つになりたかっただけだ。
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