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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
98/929

096 逃亡

登場シーンが無かったミオラの登場です。

年齢が主人公達と微妙に違うので苦慮しました。

それでは、彼女にしばしお付き合いください。

三年前になる。

この頃から、ミオラは単独行動をする事が多くなって来た。

以前からミオラは差し出される【嫁取り石】を断り、丘の村々や新村そして【アレ】の周辺を回っていた。

治癒師の肩書き通りの仕事もするが、ゲーリンやメイルの仕事の手伝いもする。

今では逃げ回っている連中は、彼女の臭いをベスダミオ並みに嫌っている。


どうしても、男とそう言う関係になる事を考えたく無かった。

あの避難所の悲鳴が耳に残っている。


ライラ達が『消してやろうか?』と聞いてきたけど受け入れなかった、

ルイスに教えて貰って収納も大きくなり、治療に使う白魔石や暖を取らせる為の赤魔石、魔道具を動かす為の黄魔石など数十人分の荷物が入る様な【収納持ち】になっていた。

ゲーリンやメイルと、遊ぶうちに身についた剣術と無手の武術。

あの時、何も出来なかった事をやり直すように、彼らを追い詰める。

だから、余計に治癒師としても剣にも無手の武術にも、のめり込んでいった。


他の術も学ぶだけ学んだ。

全ては歳下のアイツに負けたく無かった。

噂やルイス、ライラ、サランから聞いていた。

【ファルバンを継ぐ男がいる。】

【サランの夫にする。】

それは、構わなかった。

だが、妹とも言えるミリアまでもが、その男とルナと【名変え】をした。

実際に逢って術を交わして、彼の優秀さに自分が及んでいないのを知った。

血筋のせいもあるだろう。

だけど・・・・・諦めたく無い。

収納も学びルクアに、頼んで陣について学んだ。

陣の起動も速くなったが・・・・・相手も速くなっていた。

治癒の巡回と称して丘の村や新村、時には【アレ】にも行った。

そこで治療を続けながら盗賊や越境者を見つけ出して捕縛や討伐に手を染めた。

因果なものだ。

同じ両の手で命を救い、命を奪う・・・・・。

だけど誰かが手を血に染めなければ、避難所の時の様に血を流し悲嘆にくれる人が出てくる。

そう心に決め剣を握り直した。



そんな時、一番北にある新村の、更に北の外れに流れ着いた小舟。

中には狐の獣人の男が、気を失って倒れていた。

怪我はないが、衰弱している。

集落からは遠い、日も暮れる。

仕方なく【収納】に舟を納めて、自分が使っている雨よけの横穴に運んだ。

【身体強化】を使えば、小柄な獣人など問題なく抱え上げれる。

敷きっぱなしのボアの毛皮で作ってた敷物に寝かせて、暖を取らせるために濡れた外套と上着、ズボンも剥ぎ取る。

治癒師なので、今更、恥じらうこともない。

弱らせてしまう方が恥だ。

脇の下に『洗浄の陣』が描かれた使い捨ての白魔石を挟み込ませて体を綺麗にする。


収納から【魔絹布】を使った【暖】の陣が描き込まれた毛布をかけてやる。

念の為に、もう一度脇の下に白魔石を挟み込み【回復】をかけた。

これで、目を覚ますだろう。

灯りの魔石を、出して明かりを灯した。

少し悩んだが、もしツレがいるなら、この方が見つけやすいだろう。

そう考えて【弱い遮蔽】だけかけておく。

数本の矢位なら弾いてくれる。


鍋に水を入れて、湯を沸かして細かく刻んでおいた干し肉の汁を作り、その中に米を入れて煮立てていく。

(目を覚ましそうだな)

少し距離を、とって様子を伺う。

「ここは?」

「浜の村の一番北に有る新村の外れだ。今は人は居ない」

「ハッ、お前は誰だ!」

「先に名乗るのが礼儀じゃないのか? まあ良い。浜の村のミオラだ。見回りに来たら小舟の中で倒れていた。服は洗って乾かして置いた。脇に挟んである魔石は返してくれ」

「あぁ、済まない。私はここより北のウルマ島に有る聖地の守り人のひとり【キラ】と言う。助けてくれて感謝する」

「礼には及ばない。仕事だ。連れはいなかったのか?」

「もう一人いた。女の守り人、犬獣人の【ペル】がいたが知らないか?」

「私が見た時には見当たらなかった。舟を降りた形跡も周辺には無かった。・・・・・どの時点で意識を無くした?」

「聖地の先で急に起きた波に攫われて、沖に運ばれてから三日目の時からだ。済まないが食わせてもらっても良いか?」

「あぁ、こちらこそ済まない。これから食ってくれ、冷まして置いた。ゆっくり食べろ。ぬるい茶も作って置いた。それを飲みながらゆっくり食べろ」

粥を入れたお椀と匙を渡しながら様子を伺う。

(干して置いた衣類に目をやったが、持ち物を探していない。着の身着のままと言うのは本当の様だ)


一膳目を食べ終わり、お代わりの粥をゆっくり冷ましながら口に運ぶ。


「何人、捉えられている?」

匙が止まる。

「どうして、それが?」

「背中の傷は鞭で叩かれた物だ。しかも、よほど長い事囚われていたな。外套も丈が足りない。女物だ。左の足首に枷の痕がある。手のひらのマメも働かされていた事を物語っている。もっと言って欲しいか?」

男は、ゆっくりと匙を使いながら

「最初は500人いてそのうち術師の集団が60人。奴らに従う奴らが140人。どうやって従わせているのかは知らない。囲われた女が40人。奴隷になったのが200ってとこか。子供はほとんど死んだ。いや、殺された」

「240人が支配者側。260人。数が合わないが・・・・・?」

「60は死人だ。生き残っているのは、俺らみたいに途中で連れて来られた20歳前後と40代だ」

「・・・・・少し、待とうか。一緒に来た女かもしれない」

「ペル!」

「キラ!」

沖に浮かぶ島との間を繋ぐ砂洲を通って、足を引き摺りながら女が歩いてくる。

「そこで立ち止まってくれ。そのままじゃここの岩場は歩けない。足を挫く」

女が立ち止まった事を見定めて、一瞬で女を抱き上げて男の隣に座らせた。

「先に足を治そう。折れてはいない様だが筋を痛めている」

ミオラは収納から白魔石を出して、左手に握り込みその手で女の腰から足の先までゆっくりと撫で下ろした。

「どうだ? 痛むか?」

「い、いぇ。ありがとうございます。すごい。治っている。元より良いくらい」

「身の丈は同じくらいだから、持ち歩いている古着で良かったら着替えなさい。一応遮蔽をかけて見えない様にしておくから。下着も有るから身につけていた物はこの袋に入れてくれ」

洗浄も使わせてやり女がさっぱりした姿で現れた。

「少し冷えてくるから」

と言って、もう一枚【魔絹布】を出して渡す。

二人共、程よい暖かさに息を吐いていた。

食事も取らせて聞いてみると、女は虚ながらも舟から見えた小島に用を足し行こうとしたらしい。

それで、立ち上がったまま歩き出し・・・・・海に落ちた。

幸い浅かったので目が覚めたが自分が船縁(ふなべり)を蹴ってしまったばっかりに、気を失った男を乗せたまま離れていったが、どうしようもなかった。

ずぶ濡れで島に上がってボーッとしていたら、灯りが見えていい匂いとキラの匂いを嗅いだので、こっちに歩いてきたらしい。

女にも同じ様な傷痕があった。

(女と言うより少女か?)

「二人とも何年そこにいたんだ?」

「冬の数から6、7年だと思う。細かい日数は解らない。一日中明るい場所にいらされて時間の感覚がないんだ」

「私も解らない。月のものが始まってからは解るけど・・・・・」

(まだ幼いって事か?)


「続けて」

「俺たちは囚われていた聖地とは別の聖地にいたんだ。こっちににも来たんだろう?【黒鳥】と【銀の鳥】が?」

「あぁ,昔な」

「たまたま、収穫を終えた畑の野焼きに出ていた俺らの家族は煙のおかげで避難所に逃げ込めた。そこには300人位いた。ここをまとめていた術師達は良い人ばっかりで人数と備蓄された食糧や塩なんかから三年は籠れるって計算したんだ。でも毎日様子を見るために出て行く奴がいた。術師が止めたんだが目を盗んで街に帰って行った。そして、帰って来なくなる。『もう来ないみたいだ。』そう言いながら街に帰って行く連中が続いた。そしたら、銀の鳥がもう一度襲って来た。街に帰っていた連中が銀の鳥に追われて・・・・・俺とペルは避難所の外に飛ばされて助かった」

「一度攻撃しておいて様子を遠くから見ながら時を待つ。出てきた所を攻撃する。【アレ】がやられた方法だ」

(イバが焼け出された時か。もう14年近くにもなるが案外二人とも歳がいっている?)

「こちらでは、私達が生まれる前に【領主の街】が焼かれた。三年後【アレ】、【シーグス】、が焼かれ更に17年後に又【アレ】、【シーグス】、【サイス】が焼かれた。それが今から13年前の襲撃だ」

「14年 俺たちはやはり7年も囚われていたのか」

「7年間は普通に生活出来てたと言う訳か? 親がいないんじゃ、普通じゃ無いが」

「最初はプオの聖地でファルバンの部隊に匿われていたんだ。俺たちみたいに街や避難所で生き残っていた人や孤児を聖地に集めて匿ってくれた。いい人達ばっかりだった。中にはファルバンじゃない一門の治癒師とサトリがいた。街の焼け跡からも地下に住まいがあったから、衣類や魔道具を集めてそんなに苦しい生活じゃなかった。狭いながらも麦も収穫できたし、聖地の前の海は豊かで春から秋の間に魚を収穫して冬の間は氷室に保管していれば問題無かった。術師が教育してくれたし、体も鍛えてくれた。5歳で親を無くした俺と当時2歳のペルは幸せに暮らした」

ペルが頷いた。

「楽しかった」

「島の中央に有った街の両側に聖地が何故か二つあって、もう片方のアメの聖地は別の術師の連中が仕切っていた。プオの術師とアメの術師は対立していて良く街で戦っていた」

男は一息入れた。

「だけど、プオの高位の術師が次々に亡くなって真冬に【魔素の泉】が止まったんだ。魔素が無くなれば海際の聖地の洞窟なんて寒くって居られない。仕方ないから街の泉に行ったら死体だらけだった。もう一つの聖地にいた術師の連中の仕業だった。こっちの聖地の魔素を止めたのも、そいつらで奴らは自分のところだけ泉を復活させたんだ。後は想像通りだよ。捕縛の魔道具つけられてその後は奴隷さ。奴らの目をなんとか盗んで舟に飛び乗って沖に漕ぎ出したら大波が押し寄せてきた。そしてここにいる」



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