094 再侵攻
「おいおい、タクトはもう女の子に迫られたのか〜。しかし、サランの見込み通りリョウがタカを射止めるとは驚いたな。まぁ、残りの二組は決定していたから今更だけど」
「リル様、私6歳なんですけど・・・・・」
「知っているよ。その割におじさん臭いジュン君に、なんなら、後二人くらい背負わせてあげようか?」
「いえ、結構です。」
突然始まった子供達のお見合いパーティ。
リルは何となくまだ増えそうな気がしていた。
そしてそれが、聖地に変化を与えると・・・・・
「リル様!遠見の部屋にお越しください。動きがありました」
サランから、お願いされて部屋に詰めてくれている女性が声をかけてくる。
彼女もサトリでルナやイバ、サランの念話を伝えてくれる。
「遂に来たか。うちの部署で出ている者はいるか?」
「数名が農園と浜の養殖場に出て、避難誘導をしています」
「間も無く『遮音の陣』発動します。発動完了」
「『遠見の陣』の術師、配置につきました。」
「では、行ってくる」
何度も繰り返し訓練してきた通りだ。
遠見の部屋では、ルナが術師を指揮していた。
「待たせた?」
「ううん。展開し終わったところよ。銀の筒が見えるだけで3本出て来ているわ」
「形状は?」
「ルース様の黒石板の映像で見ると、前回までと一緒の様ね」
「待たせたな」
ルースとイバが、転移して来た。
ゲーリンは階下で、術師を万が一の準備にあたらせている。
広場の大型白石板には同じ映像が映し出されていて、その船腹に3本の銀の筒が見える。
住民が住む自宅の白石板にも同じ画像が流れていて、全てのドアが開錠されていた。
大慌てで、風呂から上がる人もいた。
だが多くは、広場に集まり画面を見ている。
船には色々な光が煌めき、筒の横の光が黄色から青に変わった瞬間に銀の筒が船を離れた。
「落ちてくる!」
「3本だ!」
「何が起こるの?」
「怖いよ〜お母さん」
子供が、両親にしがみつく。
「あつ、燃えているぞ!」
銀の筒が、赤く光のカーテンを纏い出した。
「燃えてしまえ!」
様々な声が上がる。
その落下の途中、赤く炎を引いていた先端部分が割れて落ちた。
同時に筒の後ろから3つ布が、飛び出してキノコの様に広がった。
「何だあれ?」
「炎が薄くなっていくぞ!」
「先が、ゆらゆらしている」
見ていた筒の奥の物の先端が割れて開いた。
「壊れた!」
歓声が上がる。
だがそこから飛び出して来たのは【黒い鳥】
歓声は、どよめきに変わった。
「やっぱり、来やがった!」
「どこに、来るんだ!」
「1本あたり24。前回が28か32ですから減らしてますね」
タクムが見てとる。
「この周辺にはどれくらいむかってきる?」
ルースが確認させる。
「一番手前の筒の分、24全部来ますね。もう2本は海向こうの大陸の様です」
【シーグス】、【アレ】、【サイス】、【呪われた街】、【ジューア】に【黒鳥】が舞い降りて周回を始めたのだ。
そのうち【シーグス】、【アレ】の黒鳥は周回を終えた後に、こちらと反対側の領へ向かって行き、【サイス】に降りた4つのうち2つは海沿いに浜の村へ、2つは麦畑と丘の麓を辿って聖地に向かい始めた。
静まり返る人々、
「かくれんぼだね」
「そう、かくれんぼよ。声を出さないでね」
母親に言われて、子供を軽く抱く母親。
今、聖地の奥から、夫もこの子の兄と、こちらに向かって来ている。
一人で、この場にいて泣き出しそうになる子供。
その子を、側の男が睨みつける。
引き攣り余計に泣き出しそうな子供・・・・・
「余計に泣くでしょうが?!」
近づいたライラが、その男を睨みつける。
「さぁ、こっちにおいで」
子供とその親を、映像が見えない場所へ連れて行き人形を与えた。
「見ていても見なくても結果は変わらない。大人は不安で見たいだろうが子供にとっては怖いだけ。見せない方が良い。他の子もおいで!」
そう言って、広場のひと区画を【遮音の魔道具】で締め切った。
(ミクマも用意が良い。リーファの経験なんだろうね。教えられてばっかりだ)
サトリの力で、人々を宥める。
(苦手なんだけどね。ルナの後継が育って、歌ってくれると良いのだけど・・・・・)
そして、浜の村の上空に【黒鳥】がやって来た。
(ここには、人家があった記録はない筈だが・・・・・)
それでも、肉屋の港から南の岬、岩場、北の岬の間を行き来する。
岩場の向こう側は【遮蔽】と【偽装】で崖に見せている。
表面を『馬鹿蔦』で覆わせているし、内側には全ての崖を黒い【魔絹布】をかけて置いた。
海に向かって、そそり立つ一枚の崖にしか見えないはずだ。
『ほら、ここを見てみろよ』
『何だ?』
『フリダの崖に似てないか?』
『フリダ? あぁ、そういえばそうだな。でも、海はこんなに綺麗じゃ無かったろう?』
『そうだな。でも、そのうち来てみたいな』
『何だ、お母ちゃんとのデートの場所か?』
『まぁ、そんなところだ』
『次に、行くぞ!こんなところで油売っていたのがバレたら、折角の【爵位】が無くなるぞ』
『それもそうだな。リストにも上がっていない場所でうろついたら不味いな。』
【黒鳥】が岩場を離れ高度を上げて、北の岬を越えていった。
(何も無かったか・・・・・)
遠見の部屋では、一同が固唾を飲んで見守っていた。
次は、丘の麓沿いにこちらへ向かってくる。
途中、家畜の排泄物を捨てている沼の上空で停止した。
『汚泥が底に溜まっている様だな』
『臭いんだろうな。寄りたくないな』
『人が住める訳がないよな。どうする?ガスのサンプル取っておくか?』
『いや必要ないだろう。こっちの土地に侵攻するのは数十年後だ。こっちに敵対する勢力がいるかだけかの確認作業に必要無いさ』
『穀倉地帯だったみたいだけど、もう、草ボウボウで開拓は手間だな』
『3万が食えりゃ当面は問題無い。何十年かかるかね』
『子作り頑張れって事か!』
『爵位が有れば、妾も囲えるさ。軍にいて良かったな』
『さて、お仕事、お仕事。人影見つけたら、無人攻撃機出すだけの簡単なお仕事で爵位がもらえます!』
黒鳥は聖地を飛び越えて行った。
「アソコは前は無かったから興味を引いたか」
「この後、何も無かったら逆に止めると不審がれれますね」
「そうだな。様子を見るか」
丘の村の跡地を、周回している【黒鳥】が興味を持ったのは野を走る羊の群れだった。
『ここは、集落を焼いたから、その時に逃げ出したんだろうな』
『あぁ、でも入植予定地でも、結構残っているから飼う事になりそうだな』
『おや? 何だこの崖の下。拡大してみろよ』
『ウゲ〜 先住民の死体じゃないか?』
『周りに人がいた形跡もないし、世を儚んで飛び降りたってとこかな?』
『生きていても、ドローンでブスッだったから結果は変わらないか』
『次だ!次!』
『これで、終わりだぜ。前の連中が残したチャージポイントに下ろすのか?』
『いや、あそこ飛び立った機体が全機落ちた。発電能力が落ちてきているんだろう。・・・・・仕方ない。入植予定地に集中して下すぞ』
『了解。じゃあ、全機、【ルベル帝国発祥の地】へ!』
『おぉ、カッコいいなぁ』
『もう一回、無人攻撃機を前に攻撃した街に、一機だけ寄越して目立つ物だけブッ飛ばしてこちらは終了だ』
『簡単なお仕事でしたね』
『ブラドの奴が、無茶苦茶やったからなぁ。今回も抵抗勢力無しと。ここのドローンは自動に切り替えてッと、さて次のエリアに参りましょう』
『到着まで、飯食うか?』
『なんか、変わったの無いのか? 飽きて来た』
『俺この前、レーション3Bと2C混ぜて食べたら結構いけましたよ!』
『何だよそれ?・・・・・ 俺もやってみようかな?』
『気をつけろよ。一日の消費量守らないと懲罰食らうぞ』
『なら、半分こにしません?』
『・・・・・だからなぁ〜』
衛星軌道上を次のエリアに向かって、移動を開始した。




