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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
93/928

091 誰?

「おはよう」

「おはようございます。あなた」

「お前も起きなさい」

「あっ ごめんなさい。おはようございます。あなた」

タクムの朝はいつもこうだ。

朝が弱い二人を起こすのはタクムの役目。

時には食事も作ってやる。

でないと仕事に間に合わない。

だが、今日は休みを貰った。

聖地での不思議な習慣。

数日ごとに休みを取る事を決められている。

決まった日に交代になっているが、今日みたいな日はルナが休んで良いと言ってくれる。

四人の子供達は、タクムの両親と小母達が見てくれている。

遅い朝食を済ませると、又、三人でベッドに潜り込む。

あぁ、妻達の匂いだ。

久しく嗅いでいなかったな。

今日は惰眠を貪ろう。


タカが復調し、家族と昨日から自宅で過ごしている。

療養所に近い場所と思ったが、逆に落ち着かないだろうと、仲がいいミクとアミの近くの家にした。

元の集落の人間からは離してある。

母親も姉も兄も虐待を受けていたので、ミアラが傷が残らない様に治療をして心の治療も行っていた。

その上での自宅療養だった。



ミアラは、今からやる事を誰にも告げていない。

タカの母親の心の治療。

最初に、母親の心の傷を見てみる。

その為にはその原点を知るしか無い。

こうして遡る彼女の記憶。


暴力、暴力、そして暴力。


貧しい生活の中でも、普通は生きる事を支える物がある筈だ。

子供への愛情や僅かでもあるはずの明日への希望。

だが、一切無かった。

子供への思いも憎しみに変えられている。

この場から逃げられないのは子供のせい・・・・・。


・・・・・どうして、ここまで曲がったのか

タクムに縋ったのも、タカを助ける為ではなかった。

あくまで自分が、この場から逃げ出す為。


タカの、出産前後の記憶が曖昧だ。

気になったが更に遡る。


やはり、キツい。

私が、耐えれるのか?

この女の原点まで見れるのか?

ルースの助けが欲しかった。

だが、この状況で他の者がいたら、ここまでは、この女の心は開かないだろう。

覚悟を決めて遡る。


どこにも、救いは無かった。

夫との出会いも最低だが、その前にも、どこにも救いがない。

子供に対しても恨みがある。

・・・・・仕方ない。

全く違う人生を描き込もう。

こうして、家族の記憶を書き換える事にした。


タカが、生と死の間にいる間に行われた家族の再構築。


後にタカとなる娘の受胎と同時に、羊を追ううちに崖から転落死した優しい夫。

身重の体と二人の子供を持った自分を支えてくれたのは、羊を預けてそれを買い取る肉屋の男。

彼が集落を回って、肉を買っていく。

具合が悪い娘の為に、白魔石を譲ってくれる。

『どうせ、もうすぐ効果が切れるから』と言って譲ってくれる治癒の魔石。

こうして、夫を亡くしても三人の子供を育てている母。


母親の記憶を書き換え眠りにつかせる。

倒れてしまいそう。

だけど、タカの兄と姉の記憶を書き換えなくては、酷い頭痛を我慢して姉を呼び入れようとした。


それを押し留めた手があった。

「姉さん!」

ライラは書き換えられた母親の記憶を読み取り、姉と兄の記憶の書き換えをしてくれた。

「全く無茶をするね。ルースが頼まなかったらサランと一緒に、三人の記憶を真っ新にするところだったよ」

「嘘ばっかり。私と同じ事したでしょう。嘘が下手なんだから・・・・・姉さん。ありがとう」

「礼だけにしときなさい。お返しなんて考えてもダメだよ。私ら家族だよ。家族だから当たり前の事をしただけさ」

「でも、ありがとう」

「ルースが言っていたんだよ。この女の心を誰がここまで黒く塗りつぶしたんだってね」

「やっぱり、あの人知っていたんだ」

「知ってはいたけど。どうすれば良いか悩んだのだろうね。一人じゃ済まないから」

「そうね」

ミアラは眠る三人の姿を見ていたが、まだやる事がある。

最低でも同じ集落の人間から、この家族の記憶を抜く。

「あっ、そっちは終わったよ」

「サランに頼んだの?」

「ルナと一緒にやって貰った、ルナの歌声を聴かせながらね。あの近隣の集落で知らない者がいなかったんだ。

レンも知っていたけど、あの娘はサランでもダメだった。まさかとは思ったけどサトリだったよ。

仕方ないからルナが言い聞かせたよ。丘の連中はびっくり箱だよ。厳しい生活の中で才能が産まれるのかねぇ」


タカが眠る寝室の前に夫がいた。

何も言わずにルースが肩に手を置いた。

(あぁ、やはりこの人は私に気付いてくれる)

『お願い。一緒に見てくれる?』

『良いよ、あの娘の事だろう』

『気付いていたの?』

『あの娘の影が揺れる時があるんだ。ライラもイバも気付いている。サランもルナもな。孫達も感じている』

『やはりね』

『皆思っているんだ。【あなた達、誰?】』


こうして、家族の記憶を書き換えて臨んだタカの記憶。

今度はルースにも手伝って貰う。

タカの心の中の不思議な光景。

『理解できない』

タカは産まれて来たのではない。

この世界に来たのだった。

『どう言う事?』

しかも、彼女の心の中の姿は二人。

一人はこのタカなのだが、もうひとりは狐獣人? 

でも、ミアラが聞いた狐獣人とは違っている。

彼らには、あんな大きな尻尾は無い。

しかも、6本の尻尾はあり得ない。

それに、二人の姿が成人の姿。

タカは黒髪を、長く伸ばして後ろで纏めている。

片方の女性は青い髪を肩口で切り揃えて立っている。

向かい合う二人その姿が重なって、又、離れていく。


そして、彼女の記憶は造られていた。

誰からも虐待を受けていない。

それどころか世話さえされていない。

『どうやって命を繋いで来ていた?』

母の母乳も食事も水も摂っていない。

【魔素?】しかし違う。

魔素では無いが、別の物が彼女の生を繋いで来ていた。

『だから、老人は人に見せなかった?』

彼女の記憶はただ、優しい母親と自分を支えてくれる姉と兄その記憶。

他には無かった。

やる事が無かった。

だけど、二人には解った。

やっても、定着せずに消えていくだろう。

彼女の中から出ていく事にした。


ルースが【黒石板】を調べるが、何も同じ様な話は乗っていなかった。


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