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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
923/928

922 間話 ファスロ・ピコ 23

「私も5歳の頃には、自分自身でも異常だと認識していた。

早くから文字を覚え、物置部屋で手に入れた初等部の教科書を自室に持ち帰り、食後には読みふけり、2年後には中等部の教科書に目を通し始める。

当然、入学した初等部の授業は免除され、中等部のクラスへの転入になった。

気を良くした両親は、教科書の持ち主で有る父の弟を家庭教師に付ける。

私が一人でも学べた秘密は、この教科書にあった。

余白に細かい字で、様々な事が書かれていた。

後で知った事だが、叔父はノートを使わず中等部までは、教科書だけで済ませたそうだ。

確かに、それならば教科書一冊あればいい。

考え方を分かりやすく図で示し、更には自分の身の回りでの出来事、クラスメイトへの悪口や、前日の夕食の感想が書かれていて飽きなかった。

他人の日記を盗み読みする様な気分で楽しかったよ。

勿論、物置にあったヘルム叔父の教科書を隠し持っていた事は、最後まで秘密にしていた

私にとって祖父や父にあたる、父と兄達への不満が書かれていた。

そして、

『塩を炎に落とすと黄色く燃えた。でも、台所を塩だらけにして怒られた』

という様なちょっとした豆知識(?)が楽しく自分でも試してみた。

高学年になると、他国で発見された遺跡の情報や、宇宙開発で発見されたコロニー艦のニュースが書かれていた。

時系列が身近に感じられる、この書き込みこそが私の知識の元となった。

気になる少女達に点数をつけている。

でも一番好きな女の子が、圧倒的なのが面白い。

これが、勉強を飽きさせない。

試験の際に行き詰まっても、この余白の記述を思い出して問題を解く事ができた。

両親は、ヘルム叔父の様に医者になって欲しいと思っていた様だが、宇宙で植物、食物を育て、空気と水を循環させ旅を続ける。

小さなファルトンを作る。

物作りが好きな私が、これに心躍らない訳が無い。

貴族であった父に強請り、ヘルム叔父と二人でニューロのスペースポート(宇宙空港)やスペース・ドッグのモデルルームで宿泊体験をさせてもらった。

宇宙食は、ハイクラスの食事だったがね。

土産を買って帰ったが、両親には不評だった。

ロイ達が残していっただろう?」

「えぇ、あれは貴方が渡されたのですか?」

「あぁ、そうだ。

我が家は、ニューロ教徒では無いがルベルの上級貴族だ。

何度も勧誘を受けたよ。 

『コロニー艦に興味がある』

と言ったら、わざわざ建造中の映像や写真、設計図を出してくれた。

『写真に撮って良いか?』と聴くと、

『旧式艦だから構わない』と許可された。

自宅に帰って、ニューロの問題点を列挙した。

そして、キノコの形をしたコロニー艦の絵を描いた。

でも誰も相手にしてくれなかったよ。

中等部の同級生は、

『天才と言われているが、所詮は子供だな』

と、呆れていた。

大き過ぎたんだ。

宇宙空間といえど、回転させると生じる遠心力と、張力による歪には耐えられない。

ニューロのコロニー艦の4倍の直径、体積にすれば10倍以上。

所詮、子供の考え。

だが叔父 ヘルムだけは理解してくれた。

疑似重力の重要性に気付いてくれた。

「ボーライトが大量に入手出来れば可能だ』

と言われたよ。

【ボーライト】コイツが、私を変えていった」

「ボーライトって?」

研究室に篭ってばかりのロリアには、ボーライトすら馴染みがない。

ファスロは、ロリアに説明する。

「あまり世間には、知られていない金属だ。

ファルトンでは、産出しないからな。先日も巨大な球体を見ただろう?」

ファスロの言葉でやっと思い出した。

「もしかして、ボーズ・・・」

「あぁ、そうだ。ファルトンでは産出はしないが、インゴットならルベルでも見つけた奴がいる」

ハイエルが実物を出して見せた。

2本の電極がある親指ほどの箱。

両橋に電極が付いている。

「バッテリー型のボーズですか?」

「あぁ。ルベル工科専門学校生達が産み出した個体電池。

そのプロトタイプだよ」

「ルベルが独占的に放出した、黒い充電型ボーズ・・・」

「ルベルの地下、そして宇宙に様々な宇宙船と機器を残して消えた謎の文明。

だが、ファルトン人は残されていたオリジナルボーズが有れば、それで良かった。

そこから得られる電力を使って、日々の生活は豊かになった。

だが、工科専門学校の彼等は、新たな固体電池の外殻をボーズと同じ物にすると寿命が向上する事を発見したんだよ。

理論電気容量に限りなく近く放出しても劣化しにくい。

従来型のバッテリー式エァーカーが、空中で燃え上がり火の玉となって落ちてくる事は無くなった」

「そんな事が、あったんですか?」

操縦はしないが、ファーザが操縦するエァーカーに良く乗っていたロリアが青褪める。

「あれは、純正のボーズだからジェット噴流で進んでいたろう? 

故障はあり得ないよ」

「あぁ、ドローンでも良く飛行中にバッテリーの温度が上がって、制御不良で墜落したし、中には本当に燃え上がって海上に落ちたプロペラ式エアーカーもあったよ」

「充電型ボーズはルベルが、独占しましたよね?」

「それはそうさ、大国の連中は我先にファルトンから離れている。

大学の教授、研究者は未だ夢の中か、コロニー艦に残り無重力下での研究に没頭しているかだ。

それに、ボーライトのインゴットが見つかったのは、ニューロを筆頭とする大国のトップが去ってからだ。

ワービルによるルベル侵攻の狙いも、実はボーライトに有る。

国境に近い位置で、インゴットと加工に必要な植物は入手出来たからな。

固体電池式のボーズが出たのは50年程前。

ボーライトのインゴットを工科高等専門学校の学生が見つけて、固体電池を包んだばかりだったんだ。

ヘルム叔父は、他の学部だけでは無く他の学校にも顔を出していてボーライトのことを知った。

白い金属でアルミの様に軽く、それこそ粘土の様に薄く伸びる金属。

酸素を絶って熱加工をすると黒色化。

非常に硬くチタンを越える硬い金属に変性する。

それを、発明した固体電池に使った。

私は小惑星帯での探査訓練の最中に、惹かれる様にボーライトを満載した先史人が残した輸送コンテナを見つけてボーライトを秘匿した。

全ては、私の理想を叶える為に進めていた計画だ。

ベルザが病を隠して、私の為に大国から資材とスペース・ドッグを譲り受けたのはその為だ」

「では、母がレリアの設立と同時に貴方の元に付いたのは!」

「あぁ、私がボーライトを見つけたからだ。

異教徒である事を理由に、ニューロから追い出された優秀な人材は、スペース・ドッグで組み上げを開始したコロニー艦に心躍らせた。

そして、ボーライトの加工を命令した。

『コイツに俺が見つけたボーライトを貼り付けろ!』

張り合わせ部分に付ける薬剤を渡した。

『取り扱いに気をつけろ! 蒸気を吸えば麻薬効果で薬物中毒になる』

と言い聞かせた」

「それでは、バッフィム達が追っていた連中は!』

「そうだ。

工科高等専門学校の学生が見つけたのは、加工したボーライトの接合に使う麻薬成分からの接合剤だ。

だが、問題もあった。

蒸気として吸い続けると中毒になり、合成用の薬物を横流ししている奴がいた。

だが、合成の元となる植物の採取栽培を、余人に任せる訳にはいかない。

それに、国民の不安を抑えるのにもある程度必要だ。

私の、バカ息子達と愚弟の二人は、それを建前にして売人に繋がっている。

彼奴等の言い分だと、私も懐柔された事になっている。

入手困難な品を手に入れる事が出来るんだ。

使わない手は無い。

そこは、将軍が上手くやっている。

弟の手引きで売人達が、この艦の中にいる。

この艦の何処かに、奴等が隠した薬物やタバコに酒。

入植時には、手に入らない()()が隠されている。

バッフィム達に探させたいが、相手が何をするか解らない。

部下の二人を、あんな目にされたんだ復讐の機会を与えなくては」

「だから、あんな怪しげな宗教団体を装って顔を隠しているんですか?」

「仕方無いだろう?

彼等の元上司が顔写真や身体的特徴、本名まで流しているんだ」

「それで、あそこまで入室規制をかけた訳ですか?」

「他にも入室規制がかかっている団体が有る。

汚れた保安局の連中も、性別、顔が解らないようにコード番号で管理されていて、怪しげな医局員が嗅ぎ回った形跡がある。

ロイ老師が率いる一団の元へも手を伸ばして来るだろう」


余り、良い話ではなかった。



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