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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
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918 間話 ファスロ・ピコ 19

居住区での生活。

熱効率と酸素を多く使う火を使った調理が出来ないのは当然だが、それでも手料理は許されていた。

配給される人工食材と、自ら手掛けた野菜の類を使っての食事。

ファルトンで過ごしていた時よりも豪勢かもしれない。

裕福で特権階級であったロリアでも、生野菜は滅多に口にできなかった。

だから、ロリアも大学と自宅でプランターを使い自家菜園を作っていた。

農地が残っていたルベルでさえこうなのだ、高緯度で農業に疎いアハイラは食料を求めて難民になるしか無かった。 


全てを自給自足で賄う事は無理だと解っている。

特に動物性タンパク質はロスが多い。

だから、動物性タンパク質は、合成と昆虫の幼虫を利用した合成肉になる。

ファルトンで確立されていた技術であった。

覚醒して任務にあたる者達への、ささやかな慰みになれば良い。

そう考えてコロニー艦では、固形食糧の生産と生鮮野菜の供給ができる様になっていた。

家畜として鶏の繁殖をしたが、放し飼いは上手く行かない。

別の居住区で環境を管理して育てている。

カビの一種が、鳥たちの命を奪た。

早々に、家庭飼育は禁止された。

作り出された野菜や肉、卵は居住区の者達だけでは無く、パウエル達職務に就く軍属の口にも入っている。

こうした食事の際は護衛艦や輸送艦から、移動して休暇と訓練が待っている。

軍人、軍属にとっては楽しくも有り辛い日々になる。

無重力から0.9の重力下での生活だ。

食事すらキツい。


ファスロ達が居住区の管理官の元を訪れて、連れて行く羊の準備をしていると、パウエルとその妻子がやって来た。

もう暫くすると妻子は待機室に移りCSの準備をする。

彼らは、居住者達に日頃の礼を告げ、パウエルの今後を頼みに来のだった。

挨拶を交わし、ブランデーケーキとパウンドケーキの礼をするパウエルの妻と息子。

パウエルによく似た息子が赤くなっている。

小柄で医官の制服で膝を見せているロリアを見て異性を意識した様だ。

妻もパウエルと一生を共にしたいが、こうして、まだ成人前の男児がいる。

多くの者が次々と眠りにつくなか、間も無くこの三人も時の流れを別にする。

15歳。

この歳で、父親と別れるのか・・・・・・

退官後にCSに入ることもできるが、パウエルは顧問として業務を補助し、そのまま居住区で一生を終える事に決めている。

その複雑な家族の想いは、ファスロ達には理解できない物だ。

三人は、公園の様に管理されていて簡単なスポーツも出来るエリアに向かう。

ジムの様なトレーニング施設もあるし、平原は時間帯によっては軍の訓練で貸切になる。

ロリアとファスロも、別の日に予約を入れてある。


人工子宮から産まれた2頭の子羊を先に子供達に渡して、二人はパウンドケーキを差し入れた。

そして、合成茶やコーヒー、粉末スープの(たぐい)も渡す。

保安局の連中が残していった食糧が、待機室から二人の部屋に持ち込まれて、積み上がっていた。

消費の一貫として居住区にばら撒く。

どうやって手に入れたか解らないが、ニューロの高官達が口にしている食品との表示がある。

この点は、ルベルではハイエルまでもが質素な食事をしているルベルとは大きな違いがあった。

しかも、長期保存ができる滅菌処理された包装に入っていて、これならばチビチビと食しても問題ない。

居住区の住民が恐れるのは見えない物。

それは、カビや菌の存在だ。

カビの発生は、重大な食糧損失につながるので、個人で持ち込まれた食材は直ぐ様に消費される。

どんなに留意しても菌は持ち込まれる。

人の髪や爪、更に言えば、皮膚にさえ居る。

そして、体内にも。

排泄物として排出される際に菌は拡散する。

動物にも同じ事が言える。

他の菌との生存競争が少ないコロニー艦では一気に繁殖が進む。

初期のコロニー艦では、居住区から発生した菌に侵されて、それ以上の旅を諦め、同胞の入植地へ戻り降り立った例もある。

常に、大気や土壌、排水の監視が続けられていた。


このコロニー艦が、ドッグに係留されていた時から生活を開始していた家族。

中には、出産を控えているアハイラの女もいた。

後、60日程度で第三子となる男児が産まれる。

初めての男児だ。

アハイラの女性医官が医療施設で出産準備をすすめる。

このコロニー艦での初の出産。

本来ならば、多くの注目を集めるのだろうが、秘密裏に出産の準備は進められていた。

他のエリアにも妊婦がいて、明後日にでも同じ様に手土産を携えて訪問する事にしてある。


医官と妊婦。

よく似た雰囲気。

聞いてみると、やはり姉妹だと告げられた。

医官になった妹とは違い、姉の一家は居住区で暮らす事で、移民団に参加する権利を手に入れた。

妹が目覚めた時に、彼女を迎え入れるのは姉の何代か後の子供になる。

妹夫婦には、やはり子供は居なく受精卵を冷凍保管してあり、夫婦は2年後にCSに入る予定だ。

それ迄は、居住区の担当医官として家族達の面倒をみる。

姉が産んだ赤ん坊も居住区で暮らす事になる。

パウエルの様にコールドスリープに入る事無く任務を続ける者は、年齢或いは身体的な問題で職務を離れた後は居住区で暮らす事になる。

勿論、パウエルの後に続く者たちも同様だ。


二人は、コールドスリープについての考えを、改めて居住区の人々や子供に聞いてみた。

やはり、コールドスリープに対して否定的だった。

「目覚めた時に連れ合いや、子供が覚醒できなかったら寂しすぎる。

自分自身が死ぬ事よりもそちらが怖い」

「生きている事には間違いないんだ。

あの、ファルトンの最後を見ただろう?

こうして飢えも無く、家族と仲間とで集落を作れている。

やがて仲間は家族にもなるし、隔壁の向こうの居住区画に住む者たちも新しい大地に降り立つ時には家族になっている」


400から500メートル毎に円筒を区切る隔壁。

コロニー艦を保持するために設けられている、この壁の向こうにも人が居る。

自動ドアで開閉し、非常時にはトアに続いて気密シャッターまで降りる。

「そんな事態は、起きてほしくないがね」

子供たちも、コールドスリープに入る事は嫌だという。

家族で何度も話し合ったのだろう。

親に言われただけでは無く、幼いながらも考えての事。

無理強いはせずに会話を終えた。


ロイから聞いた彼らの役割が頭をよぎる。

新しく加わった、歩けない仔羊。

今、その二頭を抱いた子供たちが歩む偽りの大地。


子供達に混じって裸足で草原を走るロリア。

飛び跳ねる様な走りは、疑似重力が0.8から0.9に調整されている為だ。

久しぶりに身体を動かせる。

「でも、まだ慣れないわね、眩暈がする」

1.0にするとコロニー艦の構造上危険だと実証されている。

ロリアと子供達がはしゃぐ姿を見ているファスロに管理官と医官がこれまでの事を話す。

彼らは知っている。

ここでの会話は記録に残される。

生きていた証の一つだ。

「横向きの加速度も有り、慣れるまでは大変でした」

「長い時間立っていると、目眩と吐き気がするんですよ。

ですから、最初はよく寝てばかりいましたよ」

「生理もおかしくなりましたね」

「上のめいもスペースドッグでは、生理が止まってしまって心配していたんです。

でも、コロニー艦での生活に移って不安定ですが生理が始まりました。

女性ホルモンの周期性が回復してきていて安心しました」

更に医官は続ける。

「ナトルへ向かっているコロニー艦の話を聞くと、この移民団は、まだ恵まれていますよ。

向こうは疑似重力0.6ですから、多くの居住区の人は健康上の問題を抱えています。

やはり、運動不足や腸の働きに影響が出ています。

でもなんと言っても、閉所に居続けることで(うつ)の症状が出ます。

かく言う私の夫も、輸送艦から降りて公園区画の整備員に回りました。

作業療法の一環なのですが、もう輸送艦には戻りたくないそうです。

同じ鬱の患者でも、ナトルからは

『深刻化すれば、周りを巻き込み兼ねないので処置をした』

との報告が有りますが、処置の内容が隔離なのかCSCに入れたのか、はっきりとは教えてくれません。

暴れて危険だったので、スタンガンで大人しくさせたと聞いています。

この艦でも、警備兵達にストレスが溜まっています。

ここの入室も制限を厳しくしました。

その・・・・・婦女暴行未遂で二人程、懲罰房に入れられています。

ロリアさんは、可愛いので気をつけてください」

やはり、生きているだけマシとは、割り切れる話では無い様だ。


「彼女は、護身術を身に付けています。大学では有名でしたよ」

「そうなんですか! めいにも教えて欲しいですね!」

「良いですよ。きっと彼女は教えてくれますよ。

ロリア!その女の子達に護身術を教えてやってくれ!」

「良いわよ。続けれる事がある方がいいものね!」


早速、ロリアが娘達の父親を簡単に投げて見せた。

自分の娘より少し大きいくらいの小柄な女性医官。

父親は、元は軍属でそれなりに訓練を積んでいる。

それが、あっさりと宙に浮かされ肘を決められて、クビに膝を押し付けられた。

驚きもしたが、首筋に押しつけられたスベスベの脚が心地よい。

子供達は新たな遊びとして受け入れて、ロリアに通う事を強請っていた。


そんな中

急に周囲が暗くなる。

子供たちが、ロリアの手を引いて帰ってくる。

大人たちも、慌てて駆け込んできた。

まだ、夜には早い筈なのに?


構造保持の為と、万が一の気密破壊による被害を減らす為に、いくつかのエリアに区切られているが人工的に照明で朝と夜を作り出していた。

同行者の管理官が、ニタニタ笑いながら二人に声を掛けた。

「室内に入ってくれ! びしょ濡れになるぞ!」

「びしょ濡れ?」

二人は言われるままにシェルターに入る。

それを見計らった様に突然降り出した雨。

「雨!雨を降らせれるのか?」

「雨を降らせているの?」

このコロニー艦だけの機能らしい。

同じルベルで建造されたコロニー艦でも、ナトルに向っている2隻のコロニー艦にも同じ様な居住区があるが、農地への水分供給は根の部分からだ。

湿度管理用の噴霧は有るが、雨までは降らせていない。

照明を暗くしたのは雨を降らす合図。

照明の熱で対流が発生すると、水分の浸透に偏りができる。



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