917 間話 ファスロ・ピコ 18
もう10年以上前の話だ。
最終の補給を受ける為に、ベルザが交渉でニューロから譲り受けたスペース・ドッグに立ち寄るカイエル達 ナトル移民団。
コーカ方向からの隕石群を防ぐ為に、巨大なシールドが浮かんでいたが、その端を回り込んだカイエル達は、その姿に唖然とした。
「なんだ!この巨大なキノコは!」
キノコの様な姿で、傘と軸にあたる居住区が反対方向に回転している。
「確かに一隻のコロニー艦とは聞いていましたが、これ程とは思いませんでした」
「コチラのコロニー艦の数倍は有るぞ!」
「あの傘は何だ?」
暗い宇宙を背にしたコロニー艦は、センサーのライトやスペース・ドッグからの光が無ければ闇に溶け込んでしまう。
黒光りする異様なキノコ。
スペースドッグに、横付けする補給線がアリの様だ。
指示に従って補給艦だけが、スペース・ドッグに接岸する。
「表面装甲は、ボーライトですよね?」
「ここ迄の量を、どこで手に入れたんだ?」
「横領罪と国家反逆罪では無いですか!」
「今は、兄が国家そのものだよ。
私も含め、君達が逃げ出す事に夢中で、ルベルを顧みなかったせいじゃ無いか?」
ハイエルの意趣返しだろう、送られてきた資料に記された移民艦隊の仕様に震えだす軍人もいた。
これが本当だったら、どの移民団の護衛艦隊でも勝てないだろう。
見計らった様にコロニー艦の傍らには、新型護衛戦艦のルベルが姿を現した。
流石に主砲は、こちらを射程には入れてないが副砲がこちらを捉えている。
資料映像には、子供たちに抱かれて居住区に放牧される十数頭の羊と山羊。
久しぶりに重力のある環境で歩き出すまで時間がかかっている。
「そう言えば、兄さんはコロニー艦の新たな機能を子供の頃から考えていたね。
これが、兄さんの理想の移民団なんだ」
「重力が0.8〜9ですか!」
コロニー艦の建造に携わって来た技官が、最も接近できる補給線で近くに行くがルベルから警告を受ける。
『接近しずぎると、コロニー艦は引力を発生しているから弾き飛ばされるぞ!』
巨大なコロニー艦の本体が、重力を産み出す為に回転している。
巨大なせいで、円周部分の速度は解りにくいが高速度で回転している。
恐らく近づく事すら出来ない。
表面に触れたら弾き飛ばされるか、気密隔壁は切り裂かれる。
ご丁寧に構造図まで送られて来ていた。
「居住区は、内部で独立して回転できるんですか!」
「あぁ、子供の頃からそう言っていたな
外周の装甲回転を停めても居住区だけは、重力を保たせる。
反転応力の計算を繰り返していたよ。
戦線に出るまでは、兄は研究者だった。
軍に入り性格も体型も変わった。
だけど、自宅では良い父親をしていたよ。
書斎に籠もりだすと、食事の質まで変わる程に熱中していたな」
「私には前線で相手の動きを読み切り罠にかけ、すり潰すようにワービルを壊滅させていった姿しか思いだせません」
当時、ハイエルの上官でありながら彼の能力を恐れて、中央の軍の学校に放り込んだ元司令官が身震いした。
「ルベルからカイエル閣下への通信要求入りました。
ハイエル団長です!」
「繋いでくれ!」
映像が現れて、久しぶりに兄の姿を見る。
穏やかな表情。
「久しいな。カイエル」
「今日は、穏やかだね。兄さん」
「家族を見送るのだからな」
「順調そうだね。これが、兄さんが言っていた理想のコロニー艦かい?」
「あぁ、ボーライトが優れた張力耐性を持って居るからな。
ここ迄大型化出来た」
カイエルの制止を振り切って、ハイエルの前任司令官が騒ぐ。
「何処で、その量のボーライトを手に入れたんだ!
何故、その資源と技術を国家に提供しなかった!」
つられて周りが騒ぐ。
穏やかだった兄の顔が変わっっていく。
(あぁ、よせば良いのに・・・・・・)
「簡単な事だ。ナトルのコロニー艦が完成したからだ」
こちらの為に、資材を残さなかっただろう?
ベルザがいなかったら、このスペース・ドッグや資材は手に入れられなかった。
ニューロたちが、残していった鉄鋼材や合金類は助かったよ。
スペース・ドッグの溶鉱炉だって、ルベルの物とは大違いだ。
このコロニー艦の事を知られたら、私を始め君等以外のルベルの国民はナトルの先には行けない。
だから伏せていたんだよ」
「明らかな、国家反逆罪ではないか!」
「国民の多くを見捨てた、君等は裁かれないのか?」
「あぁ、移民特別法がある!」
「やはり、そう来たか。だが言っておくぞ。君等は、もうルベルの国民では無い。
私が、君等の国民登録を抹消した。
国の財産を持ち逃げした犯罪者として、ファルトンからの追放処分にした。
他にも麻薬使用や収賄の証拠も出ている。
ナトルへの移民団の登録では、金と宝石の類が集まった様だな。
どこも一緒だろうが、全ての移民団に通知済みだ。
内容は、改めて送るよ。
カイエル。好きにしろ」
「ば、馬鹿な!」
「俺は、やましい事ないぞ!」
喧々豪語になる艦橋司令室。
「兄さんらしいね。コイツらの罪状は掴んでいるんだ」
「あぁ、様々な犯罪を犯してくれたからな。
証拠も含めて保安部から出してもらったよ。
ナトルに建国していないからナトル国民でもない。
ただの旅人だ。
もしも、こちらに手を出したら自衛処置を取らせてもらう」
「それで、ルベルの主砲が動き出した訳か?」
コロニー艦が、キノコの傘をこちらに向けて正対した。
居住区を射線に晒さない様にしている。
「成る程。これじゃコチラの攻撃はボーライトで弾かれる訳か
敵う訳ないね。
じゃあ先に行くね。見送りありがとう」
「ナトルにも立ち寄りはするが、取り決めの通り水と空気の補給だけだ。
開発中の兵器とアバターアンドロイドを渡す。
困り事が有れば言ってくれ』
こうして、ナトルへの移民団と別れていった。
この時に、コロニー艦に放された羊と山羊の群れ。
その時実験用に持ち込まれた羊の群れで、1番の古株が『アン』と『ロック』
この番の羊は、コロニー艦の居住地が整備され疑似重力が稼働を開始した際に、仔羊として放牧されて、もう何回か仔羊を自然分娩していた。
ロリアは『ジェス』と『バッフィ』と名をつけた。
名前の由来は、勿論アンジェスとバッフィムだ。
「ジェスも、そうなると良いわね」
「でも、オスがロックとは・・・・・ロイと違ってコッチは子沢山だ」
元々は、居住空間の安定と空気浄化システムの効果を確認する為の実験動物。
それが、実証実験中の事故を乗り越え、食肉にされる事なく生き延びている。




