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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
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907 間話 ファスロ・ピコ 11

家畜の人工受精卵の作業をしているのは、ファスロが大学に戻った頃に、大学構内で見かけた事がある獣医師と畜産科の面々だった。

ファスロの事は、ベルザのアバターの開発と製作をした事で知られていた。

更に今回ベルザのメッセージで、名前が知られてしまった。

「なぁ、昔、大学の校内で見かけた事が有ったが、まさか、ここで暮らしていたのか?」

「あぁ、システム工学部の天才が医学部に戻って来たって有名だったぜ。

もっとも俺たちは、ここの施設を立ち上げるので大忙しだった。

5年になるかな?」

「そんなに長いのか?」

「農学部の連中の中には、10年近くここにいる奴もいる。

何しろ、疑似重力を変化させても、土が宙に浮かない様にしないといけない。

だが、限界がある。

だから居住区は、最外殻から独立させて回転を制御させて、安定した疑似重力を生み出させているんだ。

ハイエル様の発明だぜ。

他のコロニー艦には無い機能だ」

「やはり、ハイエル様は、システム工学や建築工学でもやっていけそうだな。

ところで、オペは人の手を使ってやっているのか?」

「お前さんが、手術用アバターを開発した事は聞いているが、本当に手術を一人でやりこなせれるのか?」

「慣れるまでが大変だが、汎用型なら予備機を積み込んである。1台回そう。

メスや鉗子(かんし)は、獣医師に合わせて取り替えてくれ。

使い方は、直ぐにマスター出来るはずだ。

そこから、使いこなせる様に反復練習だな」

「有り難い。

当面は、居住区画の牛と羊だけだが力仕事でな。

地上よりも重力は小さいが、その分止血処置や神経結束、縫合で手間取ってしまう。

アバターが噂通りなら、自分で自分の手術助手二人分の働きができる。

手術用の牛のダミーがあるから、それで練習だな」

「人工子宮はどうなんだ?」

「無重力に近い状態での受精卵の受精は、今までも他の移民団でもやっている。

実際に人工子宮での成長実験は成功率は5割ほど。

やはり、重力の影響は大きいし、他の要因もあるみたいなんだ」

人工子宮のエリアに踏み入った。

ライトが点灯するがそれでも薄暗い。

足元を照らす程度だ。

大小様々な人工子宮が置かれている。

「これは、間も無く出産状態になるんじゃ無いですか?」

羊の人工子宮に、薄らと毛が生えた羊の胎児を見つけてロリアが駆け寄る。

初めて見る人以外の胎児。

「あぁ、牛はルベルから持ち込んだ物だが、居住区にいる羊18頭のうち6頭が人工子宮で産まれている。

今回、産まれるのは冷凍して10年を迎えた受精卵からの子供だ。

ロリアさん。名前を付けてやってくれ。

後で今居る羊達の名前を連絡するよ」

「良いの?」

「あぁ、世話をしてくれる子供達も喜ぶさ」

「その子達は、CSには入らないの?」

「親が拒否をしているからね」

「でも一度居住区に入ったら、CSには入れないのよね?」

視線がパウエルに集まる。

「そうです」

「子供の中には、CSに入ろうと希望する子は居ないのですか?」

「・・・・・・・それは・・・親が決めているんでしょうね」

「私に時間を頂けませんか?」

「親を説得するのですか?」

「いいえ、子供達に決めさせます。

今のままでは、親の考えに従わせているだけですから」

「ですが、居住区の作業従事者が代を繋げません」


成程・・・・・子供同士が子供を作って自然分娩で産ませるのか・・・・

だから、医官が交代でこのエリアを担当するのか・・・・

アバターを考えなければいけないな・・・・・


「それでは、居住区で産まれた子供は、そこで生きるしか無いのですか?」

「ロリアさん。おっしゃる事はよく解ります。

ですが、コロニー艦ではこの空間が全てです。

誰も満足した生活は出来ていない。

例えば、食事くらいしか楽しみはないですが、空気とフィルターを汚さない為に、肉や野菜を焼く事は出来ない。

電磁加熱で、僅かな焼き焦げをつける程度だ。

酒も限られた分しか配給されない。

最もすぐに酔ってしまいます。

次第に飲まなくなりますね。

食事がお酒向きじゃありませんから。

喫煙はもっての他です。

それでも、この艦は恵まれています。

ルベルや他の軍艦の連中は、重力の関係で固形食か流動食。

パンも固いパンです。

飲み込むのにも苦労をします。

それでも、生きていくしか無いんです」


ロリアは、パウエルに真っ直ぐに見つめられてしまった。

あぁ、私はこのコロニー艦と人々のことを何も知らない。


「命を繋ぐ。

自分の為に仲間の為に。

私もCSを考えた事があります。

ですが、妻と子。

そして、この艦の2万の命、そして1万の受精卵を預かる身としては、CSに入る事はありえないんです。

居住区の者達もそうです。

ですから、一方通行を設定しました。

これから、施設を見て先程の思いを持ち続けられるなら、ハイエル様にお伺いを立てましょう。

いずれにしろ、移民団の団長はハイエル様です。

その意思を聞いてみてはいかがですか?」


そうか・・・・・やはり、ハイエルが考えた事か・・・・

「パウエルさん。

今日でなくとも良いです。

先に親の考えも聞いておきたいです」

「・・・・・いいでしょう。

お二人は、彼らにとっても英雄です。

羊を渡せる様になってから、ネームプレートを下げて連れていってください」

「ロリアさん。オスと、メス。です。

参考に、大人になった時のオスとメスの資料を送ります」


人工羊水に浮かんだ羊。

2つの人工子宮に浮かんだ雌雄の羊は、草を食むように口もとが動く。

「着床して臍の緒がつながるかが一番の難関だな」

着床しても、胎盤にあたる物が人工物だ。

時に拒絶反応が出てしまう。

そこさえ上手くいけば、成功率が上がる。

この事は、散々研究室で人の受精卵を使った実験を繰り返して来た二人にはよくわかる話だった。

そこで、胎盤材料の保存方法や着床方法を聞いてみると、保管方法と受精卵の着床位置に違いがある事がわかった。

カウルスの受け売りだが参考にはなるだろう。

保管方法と着床位置の話をして、その日は後日という事で研究室を後にした。



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