905 間話 ファスロ・ピコ 09
9歳の少年が6歳位の少女を前に、新聞に描かれたコロニー艦と戦艦を前にして話している。
新たな移民団のコロニー艦と随行する戦艦が発表されルベルでは騒ぎになっていた。
しかし、この二人が話しているのは、ファルトンにコロニー艦を残して行った者達についてだった。
「戦艦は無かったんでしょう!だから、戦う事はしなかったんだよ!」
「戦艦だけに乗って行ったかもしれないじゃないか!」
「でもそれじゃ、女や子供、年寄りは乗せられないわよ。
コロニー艦にはベッドや、調理場もあったんだよ。
遊ぶ為の広場も、そして本もあった!絵本もね!
本は、お父さんか゚調べているわ!」
「・・・・そんな物迄、見つかっていたのか!」
「えへへ!コロニー艦の中の写真。お父さんに見せてもらったんだ」
「俺も見てみたい!」
「じゃあ、後でお父さんにお願いしてみるわ。
ファーザ!
エル兄にも、発見されたコロニー艦の写真見せてあげたいの!
お父様に、お願いして!」
「はい。お嬢様。
ハイエル君 君の考えを旦那様に、お話ししてみてはどうかな?」
「ボーズを残して行った人たちが、命の危険を感じて直ぐにファルトンを離れたって事?」
「あぁ、」
「ファルトンに降りて街を作ろうとしたけど、慌てて逃げ出す事が起きた。
だからコロニー艦もボーズも残して行ったという事?」
「あぁ、この星で暮らした跡が見つからないから、皆んな探し回っているんだ。
でも、見つからない理由がハイエル君の考えだったら納得できるんだ。
ご当主様も驚かれるんじゃないかな?
ご説明してあげてみてはどうだい?」
「じゃあ、ボーズの写真も見せて貰いたい!」
「エアーカーのボーズじゃダメかい?」
「うん!コロニー艦に組み込まれているのは見た事あるけど、ボーズだけ見つけて軍艦に取り付けているよね?
その見つかった時のままを見てみたいんだ」
「ほらね〜エル兄は、何でも見たがり、知りたがりなんだ〜」
「だって、仕方ないだろう。
知らなきゃ使えないし、見てみなきゃ何に使えるかわからない」
「それを知ってどうする? ハイエル」
突如として声が聞こえる。
「これは旦那様。おかえりなさいませ」
「パパ!お帰り!」
映像は、ベルザとハイエルに固定されたままだ。
ベルザの父と、この映像のカメラマン ファーザの若かりし頃を写していない。
「お邪魔しています。ギルレイ卿」
ハイエルが深く頭を下げる。
成人や上の年齢ならば、膝をつくところだろう。
「先程の問いに答えてみなさい。ハイエル」
「はい。保管状況が厳重なものでしたら、ボーズの有用性から将来の子孫の為に残したと考えます。
その保管状況を知りたいです。
そして、こちらが問題ですが、ファルトンではボーズを使った武器を所有しています。
それが、ボーズを残して行った者達も所有していたかです。
もし、遺跡に配置されていたとすれば、彼らが誰かと敵対していたかが判明します」
「成程、防御陣地を持っていたかだな」
足音が、ハイエルに近づきスーツを着た男性が膝を下ろしハイエルと顔の高さを合わせた。
これが、ロリアのお祖父様。
「おじい様・・・・・」
ロリアの祖父。
アーベルト・ギルレイ卿。
ハイエルは、真っ直ぐその男性に目を向けていた。
「成程。
食事の時間まで、君の考えを聞かせてくれ。
私の持っている資料も見てみると良い。
ハイエル、良いかな?
食事も一緒にしよう。
ベルザも見るかね?」
「お嬢様はレッスンが、有るのですが・・・・・」
ベルザが首を横に振る。
この機を逃しては、資料を眼にできない。
「解りました。コース嬢には私から断りを入れておきます」
「謝礼は払っておきなさい。
こちらの身勝手で、お休みにしてもらうのだから。
ハイエル君の自宅にも、夕食はこちらで済ませて、お送りする事を伝えておくれ」
屋敷に入っていく3人を写して映像も終了した。
「そうか・・・・・ロリアのお祖父様は、ハイエルの才能を見抜いていたんだ。
これだけの才能だ。
この大型コロニー艦のコンセプトを打ち出したのが、ハイエルと言うのには納得してしまう。
そのまま、私の先輩としてシステム工学の道に進んでいたら、どんな発明をしたのだろうか・・・・・残念だな」
ハイエルが軍学校に進んだ理由。
それは、ハイエルの伝記として伝わっている。
先程の映像の3年後、ハイエル12歳。
ルベルとワービルは、同じ民族で在った国家で内戦が起こり、共和制と民主主義に分裂し互いに主張し合う国境を挟んで紛争を続けていた。
だが、衝突していたとしても、捕虜の交換や人道的な活動を求められる期間、農繁期にも互いに協定を結んで休戦する。
軍の中でも穏健派で、ワービルの高官とも胸襟を開いて実利を考える。
ハイエル、カイエルらの父親。
ドリエル・バン
ルベルの強硬派からも疎まれて、ワービルのスパイとまで言われる程。
事実、何度かルベル国内で襲撃を受けている。
だが、今回はワービルの強硬派がバン家を襲う。
ワービル国内で、休戦協定の調定にサインを交わしたドリエル。
協定は、翌日から有効となり、現在は調停の為の特例でワービルに留まっていた。
昨日から宿泊していたホテルから空港に近いホテルに移り朝を待つ事にした。
調定に入る迄に時間か゚かかり、空港の運用時間を越えてしまったのだ。
無理を通せば、専用機で有れば離陸出来る。
実際、調定に立ち会ったドーンの部下は、進路を国が消滅した空白地帯に向け帰って行った。
だが、空港職員か゚
『ルベルとの国境を越える便の運用時間外だ』
と管制業務を終えていた。
「朝 一番で帰れば良い」
そう言ってベッドに入るドリエル。
だが、彼か゚朝を迎える事は無かった。
この時、ルベル軍は休戦協定に備えて国境から下がり、武器の撤収作業を終えていた。
今回は、移民団の出発等も重なり、半年もの休戦協定期間が設けられていた。
互いにドローンを飛ばして国境から、離れた陣地まで重火力兵器の撤収を行ったことを確認し合う。
だが、夕刻なってもワービルからは、まだドローンは飛んで来なかった。
日が落ちる前にと、ドローンでワービルの陣地を監視するルベルの兵士。
「今回は、ワービルの連中。ヤケに撤収が早かったな」
「結構前から、交戦を避けていましたから、休戦期間が長くなる事を見越していたんでしょうね」
「半年か〜 そのまま停戦。
そしてファルトンから俺が去る時まで、銃を握らずに済めばなぁ〜」
「みんな、そう思っていますよ」
「国境なんて、まだ定めて諍いをしているのは、この二カ国だけだからな・・・」
「戦う意味なんて無いのに・・・・」
ルベルの陣地へ引き上げてきた兵隊達は、皆同じ考えだった。
恐らく、ワービルの一般兵の殆ども、そう思っていただろう。
だが、ワービルの兵士は陣地を離れ、移動した先は国境を越えた森の中だった。
ワービル、ルベル、連合に持ち込まれた調定書のバンのサインは消えていた。
バンの使用したペンか゚、細工されたのは明らかだが調定書としては無効。
ワービルの国内のホテルに、調定日を越えて滞在しているバンと、その一行と専用機は不法越境。
逮捕に向かった空港管理官に向かって、銃を向けて抵抗したので銃撃戦になり射殺。
同時刻に、ルベルからのドローン攻撃を受けてワービル軍か゚応戦。
保安上の処置として、ルベルに占領された地域を奪取と発表した。
ルベルからのドローンの越境は事実だが、調定に従い前線を下げたかの確認の為だった。
深夜、調定発効による休戦確認に対しての、ワービルからの応答も無く怪しんで夜間偵察モードでワービル陣地の確認に向かったルベルの前線舞台。
予定されている位置にワービル軍の姿は無く。
置かれていた重火器がデコイと判明して、警戒警報を出した瞬間に宣戦布告して来た。
完全な騙し討ち。
集結したルベル軍の両側面に越境して潜んでいたワービル軍が、重火器で奇襲攻撃をかける。
たちまち、大きく侵攻された。
バン一族か゚守るべき土地もワービルに占領され、墓所か゚あった丘はワービルが前線基地にする為に削られ谷は埋められた。
屋敷は司令部として摂取されワービルの旗が掲げられた。
当然、ルベルは国際連盟に違法攻撃だと調停を申し立てる。
だが、この二カ国を抑えれる国家はファルトンを去っていた。
それ以来、バンの屋敷や領地はワービル領になったままだ。
返されない父の遺体。
バンの領民はワービルからの移民も多く バン家もルーツはワービル領内にある。
だが革命後、共和制を取るワービルからルベルに付いたバン家。
ルベルの軍を受け入れながらも穏健派を通した。
苦渋の立ち回り。
「私とて、本音を言えばワービルの独裁者を葬りたい。
だがそれでは、肉の盾に使われている一般民衆に大きな被害が出る。
だから、私は調定の席に付く」
だが、ドリエルは利用された。
病弱な兄に代わり、軍学校に進む事に決めたハイエル。
「罠に嵌った父か゚、愚かだった」
もう国土なんてどうでも良い世界情勢なのに、国境侵略を仕掛けてくる。
残された自分の立場を守る為の浅はかな愚策。
実際、この時の作戦を指揮していた連中は昇格していた。
国力が落ちるワービルにとって、移民団に入り込むには、何らかの実績か溜め込んだ金や宝石の類を支配者に渡すしか無い。
軍功を讃えられた訳だ。
ハイエルは心に決めた。
「俺は、移民団を率いて新たな星を目指すんだ!
そして、皆んなが平和に暮らせる街を、国を作るんだ」
「凄〜い。じゃあ王様になるんだ」
「皇帝だよ!」
「王様と皇帝どう違うの?」
「皇帝の下に、王が居て小さな国を治めているんだ。
皇帝一人じゃ広い国土を治められない。
だって、その星に入植しているのはルベル国民だけだぜ!
ワービルは居ない。
ワービルが、襲ってきても俺がルベルを護る」
これは、ルベルで公開された幼い頃のハイエルの伝記。
最後のやりとりに使われたベルザ。
「解らない・・・・」
「えぇ、私もなんで、あの人が許せたのか解りません」
「残忍だと聞くし、策略家だとも聞いた」
「お母さんが言った様に、子供の頃から聡明だとは思うし、ボーズを残していった人類が消えた理由の理屈は合うわ」
理路整然とボーズが地下に収納された理由、数隻の連絡艦が残されていた事への考察も隙がない。
しかも、去り際にハイエルはファスロにこう言った。
「病の流行も考えたが、死者が出ない様な症例で地上を離れるとは考えられない。
閉鎖空間である限り、一挙に蔓延する事が避けられないからな。
ファスロ君 君もそう言った事が考えられないか、医学的な見地から考えてみてくれ。
いずれは、対応すべき事柄になるだろう」
「ハイ」
としか答えられなかった。




