007 浜の村
15歳になったイバは荷車を押していた。
後ろを振り返って見てみると【遮蔽】と【偽装】で聖地の入り口は崖にしか見えない。
周囲を草むらが覆い、今荷車を押している道も少し離れると周囲の草原かゴロゴロとした岩場にしか見えない。
「塩の村が焼かれた10年前から長と外から来た術師が強化したらしい。なんでも【銀の鳥】が火の矢を撃ち込んで来ると言っていた」
「大丈夫なのかな? 火の矢が飛んできたりしないかな?」
「【銀の鳥】が飛び回っていたのはかなり前で、今では姿を見ないらしいから大丈夫じゃ無いか? 今でも【遠見の陣】で見ていてくれるから『荷車の白魔石が光ったら木の影や岩影に隠れろ』って言われている。聖地の上の方で術師が見張っているらしい」
「空から飛んで来るんだよね?鳥みたいに?」
「俺も聞いた話だけなんだけど、最初に【黒鳥】って奴が飛んで来て辺りをクルクル回ると、【銀の鳥】が飛んで来るって話だ」
イバは悪夢を思い出して『胸の袋』を掴んでいたが、知らないふりをしていた。
夕刻 大きな岩が突き出した崖の袂についた時に男が声をあげた。
「さぁ、ここが【聖地の岩屋】だ。丁度、浜の村と聖地の中間地点だ。この岩影に石室が掘ってあって中に荷を下ろしておくんだ。荷車はこっちの陰に隠して置く。
魔道具のお陰で【遮蔽】がかかるから盗まれることも無い。
以前は夜盗も居たから岩屋の入り口には魔道具で遮蔽術がかけられている。
夜盗も居なくなったが、魔素の減り方でちゃんと戸締りしたかバレるから鍵はかけておけよ。前の荷運びは良く怒られていたよ」
「そう言えば違う奴だったよな?」
「あぁ、奴は今、鶏小屋の番をしているよ」
「どうして代ったんだい?」
荷から食事用の魔道具を降ろして奥に進む。
イバも汁が入った鍋と小さな氷の魔道具で冷やされた菜を手に持ち続いて入る。
赤魔石を使った魔道具で煮炊きをするから、煙で苦しくなることも無い。
寒い時には暖を取る魔道具も有る。
暑い夜にも氷を伝った風を送ってくれる魔道具がある。
汁が温まり菜も火が通った。
パンも温められるが腹が空いている。
パンを口にして汁を飲んで噛み砕く。
汁に入った干し肉が旨い。
「明日、浜に着いたらここと同じ様な岩屋が浜の村にあるんだ。
そこに『干し魚』、『塩』、『干した海藻』を入れて置いて荷運びの日まで浜の村で仕事を手伝う。
全部直ぐには揃わないし、手伝えば浜の村で飯を食わせてくれて湯も使わせてくれる。寝床だって岩屋じゃ寒いだろうって家に泊めてくれる」
そこで、男は汁を椀に注いで硬いパンをちぎって浸した。
「奴は明日には荷運びをする準備が出来たからと、獣人から干し魚と交換して持っていた酒を飲んで眠ったのさ。で、起きたらもう昼過ぎだ。
慌てて荷を荷車に乗せてこの岩屋までやって来た。もう日も暮れていてしかも雨が降りそうだった。
大慌てで荷を下ろし岩屋の奥に仕舞い込んで、そのまま横になって寝ちまった」
男はニヤリと笑って話を続けた。
「朝起きたら荷が無くなっていたのさ。奴は大慌てで探し回った。
『遮蔽の魔道具』は動いていて岩屋の外の砂地には自分の足跡しか残っていない。
だから、盗まれたわけじゃない。で、奴は駆け足で浜に向かったのさ。
そしたら、有ったんだよ。
浜の岩屋の奥に運んだ筈の荷がな!
結局、酔っ払って空の荷車引いて聖地の岩屋に行ったんだろうって話になって、奴は浜の村で荷車借りて必死になって荷車引いて聖地に戻った。
聖地じゃ遅れるわ、浜の荷車借りて来るわで結局バレて、俺が聖地からの詫びの品載せて荷車を返しに行ったのさ。奴は聖地の岩屋から荷車回収しに行って、又怒られた。それで今、俺が浜との行き来をしている」
「アイツもバカだな。荷運びの方が旨味があるて聞いたぞ」
「あぁ、それな。聖地の俺らは孤児だけど、読み書きや算術そして武術も出来る。
だから浜の村の婿として声がかかる事があるのさ、女の子も同じで浜の村だけではなくって街の商人の嫁や働きに出ている。聖地の長の考えが正しいからだな。
そこでだ、お前、俺の後をやらないか?
実は浜の娘の親から気に入られていて新しく作られる浜の村に一緒に行くことになりそうだ。どうだ?」
「どうせ、15を越えて身の振り方考えないといけないしな。良いよやるよ」
「よし!話は決まった。明日、村長と話をして決めよう。先ずは祝杯だ」
イバは生まれて初めての酒を口にした。
20230626
やっと、次章に移る文章まで準備できました。
これを機に行の調整や文脈の調整行います。
20230904
200話到達で修正かけています。
尚、文中でイバが15歳で飲酒をしている記載がありますが、作中の世界での話です。




