897 間話 ファスロ・ピコ 01
コロニーに幽閉されているファスロピコの話が続きます。
残酷な表現があります。
ご注意下さい。
ロリアのギルレイ家もドーン家と同様に政敵が多く、ハイエルもその一人であったが、夫バロウの死後、ドーンの秘書として連合の重職にあったベルザが職務を退き、ハイエルの秘書官を務める様になって軍からの圧力は無くなった。
ドーンと共に反ハイエル派であったギルレイ家。
それが、事もあろうに夫の死後。
突如としてハイエルの秘書官に、ベルザが就任した。
最初は誰もが驚いたが、納得もした。
ルベルの上層部が国を次々に離れていく、その後ろ盾を無くしたドーン家とギルレイ家。
ハイエルが、最上位に君臨するのは当然であった。
事実、国際会議にはハイエルが国家主席代理として出席した。
超巨大国家群がファルトンを捨てていく中、残された資材や人材を引き取る。
あるいは押し付ける交渉が、残された国家間で続く中、ベルザは持って生まれた交渉術でルベルに資材と人材を集めた。
ハイエルが軍を掌握できたのも、ベルザが居たからと言っても過言では無い。
軍からのちょっかいは無くなっても、今度は反ハイエル派からの嫌がらせと、ロリアの可愛らしさは衆目を集める。
幼く知的な面差しのロリアは15歳で大学に入るほどの秀才。
体力的には、周囲の男誰もが簡単に組み伏せれる。
従って、ギルレイ家代々に仕える護衛が付くし、誘拐に備えてイヤリングは発信機にもなっていた。
ロリアが残したメモリーカード。
古いタイプではあるが高容量。
歯ブラシの中に仕込まれた特性品でロリアの右のイヤリングがカメラ、左がマイクやそのほかの情報を、バッグに忍ばせたメモリーに送る事もできた。
送り主は母 ベルザ。
元はバロウが連合で働くベルザの為に用意した。
ベルザが難病を発症して娘に譲った。
ロリアの学生時代からの記録が保存され、最後に執刀したオペの記録映像が最後。
これは聞いた話だが、初めてこのメモリーに保存されたのは学友からの告白。
すぐに消したそうだ。
それからも、
『心に決めた男性がいます』
と、振った中には見知った男もいた。
(でもコレ・・・・ロリアが誰かに撮らせている。その映像まで残しておくとは・・・まぁ、アイツならそうするな)
第三者目線でも、言い寄って来る映像を残しておく程、危険を感じていた男。
カウルス
飛び級で大学に入り医者を目指したロリア。
そのロリアとは、15歳を楽に越えた年齢差のはず。
彼は産婦人科の専攻だった筈だが、ロリアが脳神経外科の専科を修了し研究室を選ぶ際に、ロリアを待ち構える様にガルズの研究室に入っていた。
「本当にシツコい。大学に入る前にも、母について大学病院に来た時か・・・好みのタイプとか言ってくるけど、こっちはちっとも好みじゃない。
『私は、互いに内面を知らない男と付き合う気はしない!貴方の事は嫌いです!』
そこまで言い切って、振ってやったのに・・・・・
ロリアは、ガルズが研究生として受け入れてくれた事への礼をしに、学部長室へ訪ねて行った時に産婦人科医の奴がいた。
しかも、これから脳神経外科のガルズの元で共同研究をすると言う。
ガルズの目の前で、握られた右手が気持ち悪い。
何度も洗ったが、一向にベタついた感触が残る。
いっそ斬り落としたい。
止めれば良かった。
だけど、もうこの星で脳神経外科。
それも、サイボーグ化を研究する研究室なんて他にはない。
母の、犠牲を無駄にしたく無い。
カウルスは、彼の実家が経営するカウルス社が製造する人工子宮の研究者として、ガルズの研究室に入り込んだ。
カウルスは今となっては、ファルトン最大の機械メーカー。
人工子宮だけでは無く、脳を収容し生存させるボックスシステム、更には人の脳波や筋肉の動きを読み取りマニピュレータやカメラ、音声発信装置を組込んだアバターアンドロイドもカウルス社が牛耳っていた。
そこの御曹子のひとりがチャワ・カウルスだった。
45を楽に越えた独身。既婚歴は有るが長くは無かったらしい。
妻だった女は他国に渡り、カウルスが追ってこれない地へ逃げた。
小柄で幼い身体つき。
いわゆるロリであった。
人工受精卵を人の手で作った子宮で育てる。
条件をさまざまに変えて、成長を加速させる事までやろうとした。
人工子宮を研究するチームが、秘密裏に行った人の受精卵で行った実験。
成長してしまった胎児の処置に困る人工子宮の研究室。
そして、人工子宮のメーカー カウルス社。
だが生きた脳を引き受けたガルズの研究室。
そして軍が手を貸した。
ここまで来るとロイアは、カウルスを避け続ける事はできなかった。
だが、距離を取る。
一緒に食事をするにしても、必ず誰かを同席させて半分も食べない。
飲み物の類やデザートも断る。
送ると言われても、実家からボディガードを呼ぶ。
「金や女を使って、お嬢様を渡せと言って来ましたよ。馬鹿じゃないですか?」
「馬鹿なのは間違い無いし、実家で散々甘やかされて、女性も好みのタイプを買い与えたみたい。
薬物だってやっているわ。
食事中にトイレで戻しているから良いけれど。
催淫剤の類は、何度も仕込まれたわ」
「だのに、訴えても警察は動かないのですね」
「私もギルレイの女じゃ無かったら、誘拐されているわ」
「お任せください。お嬢様のお身体は、私共が命をかけてお守りします」
「済まないわね。保安局に知り合いがいるから、そちらには薬の解析を頼んでおいたの。何か動きがあるかもね」
「バッフィム様ですか?」
「うふふ。小さい頃から私とお母様を守ってくれているから知っていて当然か〜
亡くなったおじ様の教え子。他にも学生時代に仲良くなった女性も保安局にいるわ。
でも、ロイ先生が保安局にいらっしゃるとは思わなかったわ。
本当は、あの先生に学びたかった。大学を追われる事になるなんて・・・・」
「金と軍の力ですからね・・・・」
「それもあるけど、サイボーグの研究は、ガルズ先生しかやっていない・・・・・」
「お嬢様・・・・」
「ごめん!ファーザ。送ってくれてありがとう」
「べオラが、お迎えに出てきました。おやすみなさいませ。
後ろの車の連中の足止めはしておきます。早く中へ」
「でもトレーサー(発信器)を付けられているのに、気付かないなんてあるの?」
「・・・・・あれは、私共が逆買収した連中ですから。
彼らも嫌気がさしています。
今から起こる小競り合いも馴れ合いですよ。ご心配いりません」
「まぁ、人望がない方ね。益々、人として扱う気になれないわ」
「命じていただければ、どうせ、この星と共に逝くつもりですから手を下しますが?」
「いよいよの時は頼むわ。おやすみなさい。ファーザ」
「べオラ。後は頼みます」
「はい。お任せください」
そんな映像もあった。
暗い社会との付き合いもあった様だ。
ギルレイ家の女当主。
公舎に住む安月給のピコの家とは雲泥の差だ。
自分の努力だけで這い上がったピコ。
大学に進んだのが遅れたのは働いていた為。
その間に様々な技術を身につけた。
選んだのはカウルス社の下請け。
ボックスもアバターアンドロイドの技術、知識もここでみっちり身に付けた。
そして進んだ脳外科医。
サイボーグ研究に進んだのも、筋萎縮症でボックスに入る事を選んだ叔父をみてからだ。
長い時間、彼はベッドに縛り付けられて苦しんだ。
そして、まだ研究段階だったサイボーグ化手術に献体を申し出た。
だが、当時の技術ではボックスに収容されても、生存は一年を超える事はなかった。
だが叔父は、命よりも少しでも自由に意志を表す事を望んだ。
脳が入ったボックスとケーブルで繋がれたマニピュレーター。
そしてカメラと音声を認識してカメラに映し出し、脳波から音声を作り出す。
不鮮明だが、それでも意志は伝わった。
彼は新たな手を動かして本を読んだ。
厚紙で作られた絵本。
ベルザ・ギルレイの本。
ベルザは、叔父と同じ様に筋萎縮症に冒されて、この病棟の特別室で暮らし絵本を描いていた。
看護師であるピコの母に付き添われて、車椅子で病室を訪れてくれた。
それが、ピコが医学、そして脳の不思議さに惹かれた瞬間だった。
2025/08/11 誤字修正しました。




