896 変化 18 陸海空 04
「アーバインでもルースとウルマの観測所で、黒点の表面に陣が浮き出る事がないかを観測し続けます」
青木スピカが、ほうこくをしめた。
「そうか、しばらくは待ちだな。アスアッドさん。ちょっと頼みがあるんだが?」
武田 豪が声をかける。
「何かね?」
「たまには、その姿でお会いいたしませんか?
あなたとは仲良くしたい」
「ふふ、そんな事を言うとハイデマンがヘソを曲げるぞ」
「ご趣味は?」
「武道と・・・・・釣りをしてみたい」
「釣り?」
「あぁ、知っていると思うが、このアスアッドの人格は本来の人格では無い。
コピーだ。
本来の人格の持ち主は死んでいる。
だが、記憶はあるんだ。
特に私は特別で、本物と同時期に生きていた。
だから、話も出来たんだ。次元通信でな。
その中で、奴が釣りの話をしたんだよ。
楽しそうでな。
羨ましかった」
『なんだ!言ってくれれば黙っていたのに!
でも、日本にいる間でも釣りはしただろう?』
「あはは、ハイデマン!
日本にいた頃は、渓流釣りが主だった。
友釣りの楽しさはあるが、やはりファイトがしたい」
「良いでしょう。フロリダでビッグファイトしましょう!
カジキをやってみませんか?」
前のめりになるアスアッド。
「是非に頼む!」
「ハイデマンさんは?」
「俺は、柳葉でゆっくりと富士と駿河湾を観ながら風呂に入りたい。
今も、柳葉で食した料理と酒が思い起こされて夢に出そうだ」
「あら、良いわね。私も温泉に入りたくなったわ」
「もう仕方ないですね。今のうちなら桜も日本に行ける。私も手足を伸ばしたい」
「準備しますわ」
「済まないな女帝」
「いいえ、それもこれも、お仕事がらみですけど、私たちからもお願いします」
「何か策を考えついたね。女帝?」
「あら、アン王女」
アスアッドを押し退けてアンが姿を現した。
「スッカリ行動的な、従来の姿になりましたね?」
アンはアスアッドより大きな竜人の女王の姿になっていた。
アスアッドが身につけていた衣服で助かった。
でなければ胸が露わになる所だった。
冠さえ顕現している。
モニタ越しといえ威厳が伝わってくる。
「この身が自由にならないのはもどかしい」
「だが、死んではいませんわよ」
「そうね。で、策は?」
「今、思いついただけです。
ファロン、アリア。
アンとアスアッド、そしてハイデマンの力を借りて一気にカタを付けるわよ」
「女帝。
作戦計画書を出してくれ。
でないと、軍とファッジスに嗅ぎつけられたら面倒だ。
CIAもまだ人員が変わったばかりで、誰が信頼おけるか見極めがついていない。
サトリの手配を頼もうと思っている」
豪が横に座るキッシンと目配せした。
「解りました。
しかし、大統領が変わる度に大きな人事異動が起こるキッシン様の母国も大変ですね」
「あぁ、だから執務に忠実だけでは、今座っている椅子は確保できないんでな。
気が休まらない」
「かと言って、CCFに優秀な人材を入れても国の機関までは動かせませんからね。
先ずは沿岸警備隊の協力者を東郷洋樹に紹介して下さい」
「成程、毒蛇を喰らう蟒蛇に、剣と知略を持って仕掛けさせるか・・」
「うふふ、蟒蛇だなんてアン王女に対して失礼ですよ。
それでは門大人。何時もの影武者を用意します」
「あぁ、頼む」
「桜も、CCFの職員として、私と一緒にお願いね」
ペニーは目を白黒させる。
話には聞いていた。
この星の大国の一つの国家代表が、実は竜人である事を。
門国家主席。
その身に宿るドラゴニア女王 アン。
ボーズと次元航法、次元通信そしてコロニー艦をファルトンに残したトウラの王の一人アスアッド。
同じく、トウラの王族であったハイデマン。
人格だけでは無い。
こうして、姿を変えて現れる不思議さ。
更にはアーバインの住民の子孫 東郷洋樹すら、その身の中に日本の戦国時代の名将 織田信長がいる。
説明を受けていても信じられない。
「ペニー・・・・・なかなか、受け入れられないけど事実だ。
だけど、彼らが救ってくれる。
その事実を受け止めるしか無い」
「あぁ、こちらに来る時に入植地での追加計画も順調だと聞いた」
「ドランドル将軍が、味方についてくれてからな」
話が纏まり、お茶が出た。
一同が近況を話し合う。
そこへ、岩屋神社から連絡が入る。
千秋と紫が送られて来た魔石板をセットした。
「トーラスから船が降りてきているそうよ。
その数10隻以上。
入植地上空に降下してきているわ」
「どこに降りる!」
アトリエに居る青木が怒鳴る。
「入植地の外れ!浄水場!
二ヶ所の浄水場の上空でアンドロイド兵が降りて作業を開始している」
管狐と三郎と月が映像を送って来ている。
数分遅れにはなるがリアルタイムだ。
朝焼けの中。
突如降下してきた補給艦。
入植地から人々が出て見守るのは、浄水場の上空に浮かぶその姿。
ドランドルは、ジェスの鳴き声で目が覚めていた。
早速起こしてくれるとは!
だから、モニタにジェスが見ている北の方向を映し出してドローンを発進させた。
浄水場は入植地の高台。
浄水場から出ている配管に、アンドロイドが跨ってバルブを操作し始めた。
「送水菅を閉じただと!」
そこに、係官がノックなしに飛び込んで来た。
ドランドルが起きて、この異常事態に対応した事を声で知ったからだろう。
「アンドロイド兵が管理所に入って来て、駐在している係官を脅しました。
ハイエル皇帝の命令だそうです」
「軍は何をしているんだ!事前報告は受けていないぞ!」
「ドランドル将軍! 軍司令部からの緊急回線です!」
「となりだろうが!まぁ良い繋げ!」
モニタが切り替わると同時に
「ドランドルだ!」
「マレリア司令官だ。ドランドル。君もこの事は事前連絡受けていないのか?」
「あぁ、驚いている」
「実は、私たちも聞かされていない。
それどころか、ここ10日ほど連絡が無い。
コロニー艦が静止衛星軌道に移行している」
「ドランドル将軍!」
「なんだ!」
「これを!」
ドローンで中継された映像には着陸した補給艦から伸びた、取水用のポートが剥き出しになっていた。
そこにアンドロイドに急かされて、浄水場の係官がパイプを接続しようとしている。
「水の供給だと!」
「上流の貯水池にも、上空からパイプが降りて来ています!」
貯水池の上に吸水ポンプを搭載している補給艦が厨二浮いている。
取水用のゲートが、貯水池の水位が下がったので全開になる。
冬が近づいている今、川の水位は下がっていた。
「これは入植者の生活に支障が出るぞ!トーラスとの回線は!」
「繋がりません!」
「コロニー艦に繋げ!」
「呼びかけに応答しません!」
「そのまま継続しろ!」
「第二浄水場!補給艦給水完了して上昇していきます。水位60%に低下!
次の補給艦が降りて来ます!」
「アンドロイド兵!防御陣形保持!接近した兵士が撃たれました!」
「被害は?」
「警告射撃の弾が跳弾で当たりました!軽傷です!」
「下がれ!相手はアンドロイドだ!壊滅させない限りこちらの被害が出続ける!」
ドランドルは次々に指示を出す。
「水を根こそぎ持って行く気だ・・・・・・・」
兵に明確な指示を出せぬまま、マレリアの声が震えている。
大輝の方も、火山島で警戒体制に入っていた。
数十キロ離れているとはいえ、港として建設がされていた場所に補給艦が降りて来た。
両サイドのパネルが全開にされた。
だが、唸り声がする程度だ。
補給艦の下から、水がこぼれ落ちている。
「何をしている?」
自室からアンジェラに支えられたワグルが出て来た。
その光景を見て
「奴ら、外宇宙に出る気だ。
あれは大気を取り込んで圧縮しているんだ。
これから何度もやってくるぞ!
北の方にあった軍用空港にも降りているんじゃ無いか?」
ワグルの読みは当たっていた。
補給艦が降りてきてアンドロイド達が、置き去りにされていた軍用機を解体して行く。
と言っても本体は、バラバラに放置して、ボーズと搭載されていた兵器類を外して補給艦に積み込んでいる。
時折、横殴りに吹き付ける雪も無視して積み込みを続ける。
「奴ら、入植者を見捨てる気だ・・・・・・」
「警戒体制!レベルを最高にしろ!トーラスの位置は!」
麗子の出産に備えてルースに来ていて、イバの留守を守る真悟が指揮をとる。
祖父のイバがまだ、ルースに帰ってきていない。
自分も責任者の一人として司令所にあがっていた。
ルナ達は子供達を安全な場所に誘導する。
タルムはウルマに飛んでそこから、海上を低く飛んで大型爆撃機が解体される光景を伝えて来た。
盾があるとは言え体温をうばわれる。
空中にいては墜落しかねない。
流氷の上に腹ばいになって偵察を続ける。
吹き荒ぶ雪のお陰で姿は隠れた。
体温も赤魔石を出して足から温める。
雪が溶けない様に、盾を三重にする事を忘れない。
青木 忍とスピカも素早く動く。
スピカは岩屋へ飛んでルースへ向かう。
次元通信のユニットは、コロニー艦に察知される恐れがあるので、まだアーバインには持ち込んでいない。
アーバインと繋いだアトリエの回線を使う。
この場合音声しか使えないが、それでも天文台とは繋がる。
「トーラス・・・・・・移動開始しています。
すみません!補給艦に気を取られました!」
「解っている。
誰か、人員を出せ・・・・望月朝陽を起こしてこい!
臨時メンバーだ!
急げ!」
「起きてますよ!お爺さんが、飛び起きたんで僕も起きました。
ついて行こうとしたら、ウルマへのパスが無くって!
何をすれば良いですか?」
「済まん!
解析官と一緒にトーラスの予想される軌道を出してくれ!
俺の予想では、極軌道だ!」
「ですよね。
補給艦は、コロニー艦との間を往復する気のようですね。
ここ、ゲートが開いています」
朝陽が言うように拡大されたコロニー艦の後部に解放された侵入口が、何ヶ所か開き始めていた。
良い目をしている。
分析官が
「随分と目が良くなったみたいだね」と聞いてみる。
「えぇ、聖地に来てから天測の距離が伸びています。
飛翔も使えるようになりました」
「だからか!居住区から飛んで来たな?」
「いけませんでしたか?」
「あぁ、ホールの中は飛行禁止だ」
「御免なさい。以後気をつけ・・・・月面から、もう2隻離陸しました!
トーラスと同型艦です!」
「朝陽!そいつからも目を離すな!」
「ハイ!」
同じ頃、ゼロに移っていたイリルも同じ光景を見ていた。
2隻の戦闘艦。
だが、イリルは自分から見えない北の方角が気になる。
「どうした?」
「済みません。ここからでは見えないんですが、北のウルマの天文台に注意を払う様に伝えてください」
脩はその真剣な眼差しに確信を持った。
イリルは星見の血を引く娘だ。
何かあるに違いない。
「解った。俺が行く!慧一、後を任せたぞ!」
「あぁ。ついでにこれうちの嫁に渡して下さい」
「なんだこれ?」
「この、奥で見つけました。貝の化石です。この辺りは昔海だった証拠ですよ。
東の外れで熱水泉を掘り当てた時に見つけたんです。風呂入りたいでしょう?」
「それは、貴重なもんだな!どっちも!」
「そうでしょう!じゃあ、お願いします」
「じゃあ、行ってくる」
「お願いします」
イリルの見送りで飛び出した脩。
出来るだけ転移陣を使う。
飛翔では空気の乱れを検知できるセンサーが、全ての戦艦に取り付けられている。
時間はかかるが遠回りでも、その方が安全だ。
今週はここまでです。
不定期投稿で、すみません。
Saka ジ




