895 変化 17 陸海空 03
「本日は大陸からの中継で参加していただいていますが、アスアッド王に説明していただきます」
モニタに現れたのは、背に羽を出して尻尾も出したアスアッド。
筋骨逞しい胸には青い鱗が輝いていた。
アスアッドは、初めてCCFの一堂の前に竜人での姿を現した。
「アスアッドだ。
王の敬称は要らない。
ただの客人だ。
余り話をするのは苦手でな。
だが、トウラで組立てを終えたシャトルにボーズを組み込む作業に立ち会った経験が有るのは私だけだからな。
先に、楽な姿になって座らせて貰う」
羽と尾を引っ込めた。
肩甲骨と尾骶骨が身体に収納されていく。
何度見ても理解出来ない。
羽は勿論、尾も空を飛ぶには必要だが、地上で暮らすにはこの姿が楽だ。
頭の中で、アンとハイデマンが文句を言ってくる。
『本来の姿を見せてやれ』
と言ったのは、この二人。
門は、自分の居場所のカウチに横になって二人と外の様子を見ていた。
アスアッドは、余り竜人の姿が好きでは無い。
その姿で相手を脅している様な気がして、国民の前でも竜人の姿を控えた程だ。
開いたシャツのボタンを留めた。
羽の部分が有るから、背中の部分が開き二重になった、ゆったりした白いシャツ。
以前、トウラで着用していたシャツを参考にして作って貰った。
「ルコへの移住が成功したのは、ボーズの存在と次元航行、次元通信の確立があってこそだ。
ただ、この三つの技術についてはドラウド8世の時代に確立されたが、ドラウド達からの支給品で、製法については明かしてくれなかった。
だから、今から話す事は推測も混じっている。
ドラウド7世とは対立している事になっていたからな」
「どうしてですか?」
「国として、アスアッドとドラウドは対立していた。
元は同じ王族から分裂した国家だが、アスアッドは竜人で有るドラーザを最上位にして、ファスタバと呼ばれる人間とドラーザとファスタバの混血ファスラーザを迫害していた。奴隷以下の扱いだった。
時には、彼らを野に放ち狩りの対象として殺害し、その肉を喰うなどの行為もした程だ。
ドラウド達はそれに対して、それぞれの得意分野を任せて農水産業、工業を発展させ周辺友好国と共に貨幣を共通通貨にして経済も統一したんだ。
武力だけで周辺国を押さえつけていたアスアッド国が、これに反発しない訳がない。
更に貴族の存在も対立の要因。
他国の反ドラウド国の貴族達の妨害も激しく、移民計画に妨害を入れてきていた。
ドラウド国王は自国の観測データも公開したし、観測所にも各国の科学者を招いた。
科学者の多くがドラウドの、観測結果と予測が的確でトウラは消滅すると、自国で報告したんだ。
我が国でも同じ様に曽祖父に報告が入ったが、彼は世迷言と切り捨てた。
科学者は一族を率いて、その日のうちにドラウドの元に逃げたよ。
間違いなく殺されるからな。
アスアッドの王族は、ドラウド国には強い嫌悪を持って居たからね。
そんな彼らを誘導して、古来からのしきたりや技術をもって、ドラウドに対抗する一団を作りトウラに閉じ込めた。
瓶の蓋の役割を引き受けたんだ。
覚えて居るだろうか?
京都で東アジアの諸外国に見せた我が星トウラの最後の光景。
あれを観測、予測したのがドラウド三世。
彼は、何度も観測と計算を繰り返ししたんだ。
だが、何度観測をやっても計算をやり直ししても結論は変わらなった。
学園の寮監に相談したんだよ。
異例の事だった。
学園を卒業した王族が、学園に帰って図書館に籠もりっきりなる。
ドラウドの子女は、三世に習って図書館に通った。
図書館には他の星の技術についての書籍や、政治経済、教育、医学、中には幼児向けのおとぎ話すら書籍があった。
持ち出せない以上、その事を理解し記録につける。
紙だって元は無かったんだ。
だがそれを学び自国の産業にする、そんな国すらあったんだ。
その頃、他の諸国の王子、王女、貴族の子女は享楽の学園生活を続けていた。
ドラウド三世は、周辺国の学生に協力を持ちかけた。
滅びを待つか、星を捨てるかだ・・・・・
更に、ドラウドの代が重なるにつれて一気に技術が発展する。
同時に身分制度が廃止される。
その頃、書かれたノートをドラウド7世、8世が持ち出していて、アンが研究を続けた。
ボーズの製法。
白銀の非常に柔らかい金属があるそうだ。
それこそ粘土の様に柔らかい。
だが、決して他の金属と合金を作らない。
アルミの様に軽く加工が容易だ。
まず、底に当たる部分に萩月やファルバンで使っている様な陣を刻む。
アンが記憶していてくれて、萩月で試してみたが何も起きていない。
碧が・・・・星里所長が魔墨で試したが起動しなかった。
素材の影響だと思うが、ポーズの素材が何なのか判明していない。
ボーズは陶器の様に回転する台の上で回転させて作られて、我々の翼に代わる推進力を得て空飛ぶクルマを作った。
そのうちに、大型の型を作って成形しシャトルやコロニー艦のエンジンを作り出した。
出来上がったツボの様なボーズの原型。
それを焼成する。
ドーン氏の船を訪ねた者ならわかるだろう?
硬く黒光りするボーズに触れているからね。
ダイアモンドより硬い。
熱にも強く、温度による歪みもない。
故に削れない。
金属の分析を続けているらしいが謎ばかりだ。
この焼成の秘密は、アンが見せてもらったノートにも記載されていない」
「でも、それではただの金属の壺では?」
分析官の一人が声を出す。
「あまり、陰陽師やファルバンの術に詳しくない様だな?
さっきも言ったろう?
内側の底には、陣のような物が刻まれている。
焼成すると外側に陣が浮かび上がるんだ。
この状態で同盟国に支給された。
ここからは、見た事があるし知っている。
2個 ひと組。
ボーズは、一つづつ台車に乗せて口を合わせる。
すると、凡そひと月後、ボーズ自身がゆっくりと離れるんだ。
底の部分に浮き上がっていた陣は消えて、代わりに金色の電極の様なものが盛り上がる。
誰もいなくても、台車をどんなに固定していても、壁を壊してでも距離を取る。
磁石が反発する様にね。
そこで、艦に組みこむんだ。
後は、ボーズの底の中央部分に浮き出た出っ張りに、これも支給された制御装置をとりつける。
おそらく陣は、近くに存在する恒星の炎の海に浮かんでいるんだろう。
これで、終わりだ。
私達に解っているのは、そこまでだ。
ドーン艦長や、そこのペニーさんが運用には詳しいだろう。
あくまで、ノートと使用者の立場でしか解らない。
君たちだってそうだろう?
車のエンジンの作り方は解らない。
ただ、壊し方は知っている。
ノートに残っていた。
ペアじゃ無いボーズの口を合わせて反発を抑える。
制御端子をクロスさせる。
それだけだ。
憶測だが、内部でループが形成されて中の陣が消えていくんだろう。
黒金の壺が高温になって、白銀となり溶けるそうだ。
たが硬いまま。
一度使ったボーズは再使用、再製作はできない」
アスアッドが一息付く。
「もう一つの破壊の方法はペアの物。
小指の先ほどのボーズを作って試した。
同じ様に口を向き合わせて制御端子をショートさせる。
すると、互いの口の中に真っ白な光が弾ける。
こちらは、爆発するがね。
爆発力は予想外だった様で、実験に使った施設は吹き飛んだそうだ。
この話をした時にドーン艦長が悔しがっていたね。
レリア艦隊を破壊し損ねたと・・・・・」
合成音声でドーン艦長が同意を告げてきた。
「この艦もそうだが、トウラの民が残した艦は、ロックを外すとボーズが向き合う様になっているんだ。
理由が解らなかったが、自爆させる為の構造だった訳だ。
それを知らなかったから、レリアの艦隊を自動操縦で次元航行から出た時点で周囲に恒星が無い暗黒空間に置いてきたんだが、不安で仕方ない」
「バッテリータイプもそうですよ。
軍用アンドロイド犬に使っていたボーズをクロスさせたら、他のアンドロイド犬のボーズを誘発したせいもありますが、この庭園がこの様なクレーターになりました。
ハイエル皇帝一家の庭園と温室の跡地ですよ」
映し出された皇帝ハイエルの就任式。
テラスの横に広がる皇帝一家の専用庭園には、花が咲き始めていて巨大な温室が建てられ、葡萄やバラの様な鉢植えが置かれていた。
その横に立つ、メガネの青年。
軍属登録されているが、目の周りが落ち窪んでいる様に見える。
アレンは会った事なかったが、バッフィムがジャガーに農業の指導書を持って行かせた事は知っていた。
「トウラの最後を憂いた歴代のドラウドが手に入れたボーズ。
どの様にして製法を知ったのか?
学園の図書館で見つけた書物が出どころだろう。
持ち出しを禁じられて、自分で書き写すのが学生の務めだった。
その書物を準備したのは緑の寮監。
おそらく、君たちが御堂の主と言う存在と、私たちが学園の寮監と読んでいた存在は一緒だろう。
寮監と呼ばれていた時代の姿を思い出そうとしても、ファスタバの様な姿であったとも、ドラーザであったとも記憶が定かでは無い。
書物に残されていたという事は、同じ様な物がこの宇宙には存在しているのかもしれない。
近い将来。いや、この時にも。
コーカはエネルギーを吸い尽くされ、宇宙のチリとなって漂う。
エネルギー供給が停止すれば、ボーズが存在している惑星系の恒星に黒点が移動してくる。
ルベル艦隊へエネルギーを送っていたボーズのブラックホールはアーバインの太陽に移る」
「そんな・・・・・」
「ルベル船団が、動き出すと・・・・・最悪、黒点が40個増えます。
ですが、これは戦艦とコロニー艦のエンジン数です。
探査船がどうなるか解りません」
アレンが今まで聞いた艦隊のエンジンの数から推測した。
「ハイエルは、その事を知っているのか?」
豪が重要な事をついてきた。
「知ってはいますが、何が起こるかは知らない可能性があります」
ペニーが辿々しくも答える。
「何故だね?」
「探査船もボーズを2基使っています。無人で小型ですから比較にはなりませんが、それでもコーカからのエネルギー供給を受けている」
「それなのに、探査船を打ち出した・・・・次元航行中にはボーズへのエネルギー供給ができない。
次元航行中はボーズに残ったエネルギーを使って、次の通常空間まで惰性的に進む。
もし、その際にブラックホールが行き場を無くしていたら何が起きるか解りません。
ですが、彼らは探査船を打ち出した」
アレンがペニーが意図する事を読み取って幹部達に答えた。
「それが、ハイエルが現実を知らない根拠と?」
今度は、星里 碧が答える。
「えぇ、コーカから消えたブラックホールが、対となるボーズの元へ移動して来るまでに、どれくらい時間がかかるのか。
研究所でバッテリータイプのボーズを地球に持ち込んだ場合、減衰していたバッテリーが復活したデータを再確認しました。
その結果12日でした」
「想像よりも時間がかかっているな・・・・・」
「量子計算機を当てはめましたね?」
「それはそうだろう」
「これは、実験データを再検証したバッテリーの出力です。
砂漠の中ですからね。直流仕様の冷却装置に接続しました。
一般家庭で使うクーラー5台を改造して連続で使用してましたが、半年ほどで出力が低下。
最終的に2台分の出力が47日続いたのが、一瞬出力がゼロになって復帰した。
それ以降は、元のクーラー5台分の出力を出し続けています。
この太陽に黒点が張り付いているのでしょう。
ですが、黒点が増えたと以前報告しましたがそれが、確かにそれと確証できません」
「大型のエンジンだったら、黒点の中に紋様が浮かび出る」
アスアッドが、平然と答えた。
その資料は、持ち合わせてない様だ。
ファルトンでは、観測しているかもしれないと資料を探す事にする。
「直流と言いましたが、緩やかな変動がある事がわかります。
そしてここ、ここですね。
出力の波にスパイクが入っています。
研究所ではここで、この電力型のボーズのブラックホールが、太陽系の太陽の表面に移動したと考えています」
「先ほども言ったが、トウラで新規に組み込んだボーズのブラックホールが起動するまでひと月ほどだ。新規だった為か解らんが、それでも目の前の太陽に取り付く迄ひと月かかっている。
距離が離れれば、それなりの時間がかかるのでは無いか?」
アスアッド・・・・・流石に、自国に蔓延った反ドラウドへの貴族達を出し抜いて、国民を移住計画に参加させた経歴の持ち主。
脳筋じゃ無い。




