888 変化 10 入植地 05
居住区を見下ろす宮殿。
閉ざされた門扉すら蔦に覆われて、人の立ち入りを遮っている。
蔦の下には、ドーンが使っている物より小型の連絡艦が埋もれているが、小型と言っても高さは20メートルを越える。
それを覆い尽くす馬鹿蔦。
そしてテラスの様に張り出した前庭。
ハイエルが宮殿を、ここに決めてからしばらくの間は、ここは様々なレセプションの場になっていた。
宮殿の傍らには庭園が広がり、花々やファルトンから持ち込まれた果物が実りを待っていたはずなのだが、今では、見る影もない。
中央には温室が有ったが、構造物の残骸が蔦で覆われていて、窪地になった場所には焼き焦げたコンクリート作りの収容施設があった。
立ち入り禁止のテープが貼られている。
ここが、ワグル終焉の地。
遺体は骨も残らぬ様に焼却処分された。
二人が見下ろす先には、司令部の屋上が見える。
宮殿に蔓延った蔦の中から、作戦に支障が生じない様に司令部を監視していた二人の陰陽師が見つめる中、昼過ぎになって屋上から大型のドローンが発進した。
急上昇をかけて一気に高高度に上がって行く。
『くっ!やっぱり動き出したか!』
『卓也さん、剣俉さん! 親衛隊のドローンが発進しました! 以後、注意願います!』
『あぁ、予想通りだな!』
『あぁ!続けて監視宜しく! 今から6人目を送る!』
『了解! 昴さんに連絡入れます』
『頼むよ! 月ちゃん!』
『剣俉!お前も丸くなったな!』
『嫁に感化されたんだよ! 親父と一緒だ!』
『そんなとこは、俺に似なくても良いのにな! 月ちゃん。こっちも作業にかかる。
5分後に将軍を送る。立て続けに、奥様も送るから昴と天河に伝えてくれ!』
『もう忙しい! 昴さん!聞いていますよね! よろしくお願いします』
『あぁ、将軍を優先しよう。天河も今4人目を終えた。
ワグルさんが予測した通りだ。
脳に異常が出ている人物ばかりだ。
法力の効果が出ると良いな!』
かなりの高高度まで上昇したドローンは、長い時間そのまま、ホバリングを続けている。
陰陽師の二人は、手を取り合ってドローンの動きを見ている。
『回転しているわね?』
『あぁ、まるでここからの景色を確認している様だな。
あの高度からなら、ルースが有る丘が見えるかもしれない。
浜の断崖も見えるからな』
『コロニーから見つけられたわけじゃ無いよね?』
そんな念話を交わしていると、ドローンは、ゆっくりと下降してきて、居住区を人の歩く速さで街並みに沿って移動を開始した。
左右に機体が揺れる様は、まるで散策している様。
家々の窓を覗き、焼き焦げたペニーの自宅でホバリングをした。
次に開拓団の、農園に向かい植えられている作物や果樹を見て回る。
『まるで、初めてここに来た様な動きだな? ハイエルじゃ無い』
『初めて来た場所? ハイエルじゃ無いってどうして?』
『ハイエルなら、先ず軍の関係施設か宮殿・・・もう宮殿跡地で良いかな。ここに、来るんじゃ無いか?』
『そっか!そうだね。将軍がドローンを操作するなんてなさそうだものね!』
『しかも、皇帝様だ。脳だけのな・・・・・・』
『ドーンさんと同じね。でも、ドーンさんは器用にアバターを使いこなすけどね』
『確かに!』
ドーンは時折、地上にアバターを出して雪原を歩いたり、ファルトンに伝わる体術をやって見せたりしている。
短い時間なら組手すらやって見せた。
だから、アバターアンドロイドを使ってドローンの操縦も出来るはずだが、どうもこのドローンは動きがおかしい。
ドローンは、開拓団の農園で飼われている牛馬がいる柵へ近づいたが、牛馬は逃げ回る。
慌てて高度を取って観察に移った。
やはり、この土地の事。
更に言えば、人びとの生業を知らない。
そうやって、方々を見て回っていたドローンが一直線に南に向かう。
『うん? 動きが変わったぞ!』
『操縦者に、誰か命令を出した?』
『多分な。軍の施設が集中している南に移った』
『じゃあ、卓也さん達には伝えておくわ。
ハイエル親衛隊のドローンが慣らし運転を終えたってね』
『あぁ、あのドローンには、機銃とナパームが積まれているそうだからな。
気取られない様に頼みますぜ!』
それから、夕闇が迫る頃から動き出した管理局のドローンも含めて、陰陽師の二人は居住区と宿営地に侵入して、工作行動を続ける二組の偽医官たちに動向を伝え続けた。
伏せた三郎の背中に月が重なる様に伏せて、鬱蒼と生い茂った馬鹿蔦越しに視覚を飛ばしていた二人。
その二人が隠れたテラスに、大型のドローンが急速に接近してきた。
まるで、宮殿を穢しにきた二人を見つけて排除する様に、接近して来て長い事ホバリングをしていた。
重なったまま動きを停める二人。
そんなはずは無いはずないのに、ドローンから怒りに震える老人の気迫を感じる。
身構える事も出来ずに、身体をずらして抱き合った。
やがて、ドローンはバルコニーから庭園だった窪地に移動する。
元は温室を備えたハイエル皇帝一家の為の庭園が広がっていたが、その中央部に存在した温室を中心にクレーターの様な窪地が広がり、温室の残骸に蔦が絡まりついている。
更には鉄格子が放ったコンクリート造りの収容施設が焼き焦げて真新しいテープで囲われている事を確認する様に周囲を周回した。
その後、大型ドローンは何事もなかった様に、司令部の屋上に戻って行ってバッテリーチャージの為のスロットに固定された。
コントロールランプが消えている。
遠見が出来る二人は息をつく。
『ふう。デバガメちゃんは飽きたようね』
『あぁ、さっき頭上で停止した時は見つかったかと思ったぜ』
『緊張したね〜オシッコちびりそうだった。
でも、又二人で死ねるんだって思いもした』
『俺は嫌だよ。もう少し生きていたい。今度は生まれ変われる保証はないんだぜ!」
『だね〜』
この居住区に住む軍人、数えれば5千人を越える。
当然、タグの連続的な受信は管理局の設備に負荷がかかるので、凡そ10分おきに信号を十数秒受信している事はペニーからの情報で解っていた。
特定のタグを指定すれば、リアルタイムでタグの信号を受信できるが、今は、それどころでは無いだろう。
心停止の信号が出ても、再度の読み込みで心停止が確認できてから卓也と剣俉に連絡が来る。
もう、手遅れと管理局も軍部も諦めている。
防護服を着た医官に化けた卓也と剣俉が、ジャガーとダルトンを連れてターゲットを心停止させてタグを抜き傀儡に埋め込む。
ターゲットを蘇生させて転送陣でアメの遺跡で待つ、昴と天河の手で更に調べを受けて眠ったまま、治癒師の治療を受ける運びになっている。
その作業のサポートとして、管狐にカメラを持たせて監視をしようと考えていたが、コロニー鑑のセンサーが起動したと言う事で電子機器が使えなくなった。
そこで、この二人が前線に立った。
前世は、二人とも優れた陰陽師。
特に月は、眷属の血とはいえ色濃く巴の血を引く。
男の三郎もすっかり逞しくなって、日本で東北から北海道まで慧一の留守を守っている。
赤ん坊の頃から管狐と月夜石を扱い育った二人。
管狐に身に付けさせた陣を使えば、その視覚を借りれる。
アーバインには無い陰陽師の術だ。
イギリス。で生まれ変わった12歳の二人。
日本に帰り羽田と両角に分かれて育ったが、羽田の学舎で机を並べた。
そして、青年になり・・・・・
計画で挙げられていた、ターゲットの回収が終了したのは昼前だった。
このまま二人で夜を待つ。
次の騒動が起こるはずだ。
だからしばらく、このまま待機になる。
日差しの照りつけで暖かくなってきた。
艦の影で用を足してきた月が三郎の背中に這い上る。
白魔石で洗浄をかけても良いが、流石にそれはやりたくない。
背中にあたる柔らかい感覚。
コイツ! ノーブラだ! 奥で外してきやがった!
『月!わざとだろう?』
『えへへ、だって二人きりって久しぶりだよ? 嬉しく無い?』
『嬉しいけどさ〜』
更に、月が胸を押し付けてくる。
『綴さんが、見たら怒るぞ!』
『何を?』
『・・・・・任務中だ!』
『そうだよ?
任務中だから、こんな危険な場所で、二人で忍び狐扱っている」
『月・・・関係を持つまでは、奥ゆかしい女だったが・・・・』
『あなたが、変えたのよ・・・・』
頸や耳に沿わせた月の唇が熱い。
唇の間からチョロチョロと舌を当ててくる。
『あ〜辛抱たまらん』
素早く身体を反転させた。
互いに前開きのボディスーツタイプの忍び装束。
唇を重ねて舌を絡める。
手を入れるとやはり忍び装束の下は全裸。
乳首が硬く膨れていた。
月の手が、三郎の股間に潜り込む。
潜入に備えて、二人で2時間休憩して来たのに・・・・
次の任務まで、仮眠が取れるのだろうか・・・・・




