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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
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886 変化 08 入植地03

入植地は混乱状態になっていた。

特に管理局と軍司令部が有る中央区画に住まう高官達。

そして入植地の南に位置する宿営地に住まう下士官達。

この区域の感染率が高く、担当する医官達も注意を払っていたのに罹患してしまっていた。


ドランドルは寝室に運び込まれて、防護服を着用した医官にゼリー状の栄養食品と服用薬を、子供の世話をする様にして看護されてしまう。

定期的に訪れては、水分補給をさせてくれて優しく微笑んでくれる。

「メイトラ・・・・妻は、大丈夫か?」

入植地の感染状況を聞くべきなのに・・・・・・

「はい。罹患されましたが回復されて居ます。ご心配なさらずにお休みください」

「ほ、本当か・・・」

「えぇ、ご心配いりません」

そうか・・・・開拓団には重症者が出て居ないという話しは本当だった・・・

目を閉じて、眠ることにしたが・・・あんな、女性医官がいたか?

疑問が一瞬浮かんだが、意識を手放した。

翌日にも医官が訪れて看病をしてくれて、翌々日の夕方には水入れと共にメッセージが置かれていた。

【ご回復おめでとうございます。執務室の準備はできています】

水を飲み干し、自分で歩き用を足した。

汗ばんだ身体をシャワーで流し、用意されていた着替えに身を包んだ。

執務室のドアに張られた警告書を剥ぎ取る。

【除菌処置済み。入室時には換気の事】

あの女性医官は来なかったが、枕元に置かれたメモと同じ筆跡だ。


誰かが色々と手筈を整えてくれていたのだ。

ドランドルは、自分を看護してくれた女性医官だと確信していた。

メッセージには記名が無く

「ネームプレートを見ておけばよかった」

と、ドランドルはちょっと後悔した。


ドアに近づくと、尻のタグに反応して解錠モードになる。

軍籍番号に続いて、解錠コードを入力しドアを開け放って、換気用のフィンのスイッチを入れる。

僅かに残る消毒剤の匂い。

ライトに照らされた執務室。

真新しい簡易ベッド。

この部屋の前の主人(あるじ)は、ここにあったベッドごと運び出された。

今日から、ここは私が主人(あるじ)だ。


自動で管理局のモニタが映し出されて、ドランドルのアクセス権を求めて来る。

秘書官を決めて居なかったのは、失敗だったか・・・・

有能な秘書官としてワグルをサポートした。

アンジェラ 

護衛としても優秀で、誰もが夫ペニーを羨んだ。

ドランドルは、介護してくれた医官の目を思い出した。

眼鏡の奥に感じた知的な女性。

あの医官・・・・やはり、声をかけてみよう。


階下の管理局に繋ぐと何人かは出ていた。

執務室での執務にかかると言うと皆が驚く。もう夕闇が深い。

そのくせ交代時間のはずだが、誰も自室に帰ろうとしない。

勝手にやるからとモニタで状況確認に入る。

喉が痛く会話が辛いのは、お互い様なので口頭での報告はやめさせてモニタで確認する。

居住区毎に色分けで示された罹患者の状況。

管理局の赤い点。

『ドランドル将軍 重症』

将軍とは・・・・・・やはり、昇進したのか?

本人すら知らされていないのに・・・・・・

妻は喜んでくれるかな?

それとも、余計に早く軍を辞めて、農園で暮らそうと強く求めて来ただろうか?

ドランドルは 重症の文字を『回復』へと変更した。

軍関係者なら尻に埋め込まれたタグが、位置と体温そして心拍をセンサーがあるエリアで有れば教えてくれる。


『処置済み』のタグ・・・・多いな・・・

処理剤・・・・足りてくれればいいが・・・・

いや、もう使わないほうが良い。


タグからのデータを探すドランドル。

ドランドル夫婦の一人息子は身体が弱く、コールドスリープに耐えれるか懸念されたが、幸いに生きてこの地を踏めた。

虚弱体質なので、軍には入らず開拓団に入り、そのお陰で若くして日常生活に支障が出て来たメイトラの介護を任せておける。

息子と開拓団で結ばれた嫁も、妻に良くしてくれている。

西の農園に居る開拓民で、タグを埋め込んでいるのは妻だけだ。

元軍属であった妻には、タグが埋め込まれている。

抜こうと思ったが、認知症を発症した。

『私が徘徊する様になったら、見つけるのに役立つんじゃない?』

先輩に当たる軍属が、自宅に帰れず居住区跡地で見つかった時に妻が言った言葉。

まさか、本当に必要になるなんて・・・・・

まだ、若く認知症を発症するとは思えない年齢なのに・・・・

良かった・・・・メイトラは平熱だ・・・・タグのログを見ると自分が罹患した時には回復している。

朝から畑に出ていたのだろう、記録では活発に動いている。

そうか、元気にしているか・・・・

息子が所属している第11開拓団の団長の自宅に無線連絡を入れ、状況を確認すると開拓団には重症者はいないとの事だった。

軍や管理局に対して、冷たい応対をする開拓団の中で、唯一友好的な応対をしてくれる。

無理もない。

彼らに取って軍と管理局は、対価らしい物を与えずに、手をかけた生産物を奪い取るならず者だ。

ドローンで送った医薬品と栄養補助食品に嗜好品の礼を告げられる。

コロニー艦から送られた物だと告げると

「だろうな。今なら良く見えてる。ルベルと一緒に南の空で傘が開いている」

「まさか!」

慌てて、南に面した部屋の奥のカーテンを開けた。

周囲より高い管理局のビルの最上階。

新しく私の仕事場となった執務室から、目を凝らすと夜空にキノコに張り付いたルベルの艦影が見えた。

モニタを切り替えると、画面一杯にコロニー艦とルベルが映し出された。

「嘘だろう・・・・・」

キノコの姿を見たのはどれくらい前か?

ルベルのサブエンジンが光を放っている。

「見えたかい?」

「あぁ、これが見えないやつはいないさ・・・。でもなんで、コロニーにルベルが接舷している・・・」

「見え出したのは、昨日の深夜だ。南の空から上がって来たそうだ」

「ちょっと待ってくれ!」

回線を切り替えて、隣の軍司令部に噛みついてみた。

だが、通話をすぐに終えた。

「今、軍に問合せをかけたが、回答出来ないと言って来やがった!

何か知っているか?」

「噂程度なら・・・・いいか? 」

「私が情報収集の一つとして、調書を取ったと話しておくよ」

「あくまで、噂で・・・・皇帝閣下は、この星に見切りをつけた」

「そんな!」

「では、なんで、もう一隻戦艦が近づいてくる?」

そう言われて無線機を握ったまま、屋上に駆け上がり天空を探した。

あれは! 

司令部の上空。

この星の月の影から、一隻の護衛艦の灯りが見えた。

あの灯火パターンはトーラス!

「ハイエル閣下は、何を考えている?」

「だからだ。コロニーから幾つもの光が飛び出したのを、監視させていた仲間が見ている。外宇宙に向かった。映像もある」

「後で、私のドローンを送る。コピーをくれないか?」

「あぁ、早めにな。バレたら没収される。

まぁ、無意味な事だがな。

それに、親衛隊のドローンも飛び回っている。

大型で回転翼の音がデカいから直ぐにわかるから、皆んな家に引きこもっている。

気をつけな」


ドローンを使えるのは軍か管理局。

そしてハイエル皇帝親衛隊だ。

親衛隊がいない今。

大型ドローンは、ハイエル閣下が直接操っている。

不味い。

トーラスには、小型のパルス砲がある。


そこで、この話は打ち切りにした。

他の開拓団に状況を聞くと、他の開拓団にも重症者は出ていない。

開拓団同士で連絡をして、医官の指示に従って周辺との行き来を絶っていた。

互いに礼を言って無線を切る。

防疫にも詳しい医官がいる様だ。

ワグル将軍が使っていたドローンを、第11開拓団にオートで送った。

今、月明かりだけで、手動でうまく操れるか自信がない。

コピー映像を入れた通信カードが、ドローンのスロットに差し込まれて戻って来る。通信カードを抜き取って、開拓団を周回する様に設定して月明かりで見て回る。

焼き焦げたトレーラー。

宿泊ブースがある前法部分とキャビンの損傷がひどい。

あれは、ペニーのトレーラー・・・・

自分で火をつけたのか?

アンジェラの死を伝えた事は、朧げに覚えている。


自動周回で居住区と駐屯地、を回っていると、ハイエル親衛隊が使う大型ドローンとすれ違う。

あのドローンの映像は、軍司令部からハイエル閣下に次元通信で送信される。


急がないと・・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


部下達には、ワグル将軍とアンジェラ秘書官の遺体を見た時から、重要機密と告げてある。

そして、特殊装備を医官に装備させる。

『死亡』者が出たら、使う様にと厳命をかけた。


軍で遺体の保管に使うカートリッジがある。

これを、タンクに入れた水と共に遺体に向けて噴き出させると、遺体が泡まみれになり、泡は遺体に張り付き皮膜となって表面を覆い硬化。

遺体は、青い樹脂に包まれて固形化された。

腐敗を防ぐ仕組みだ。


今回は、ずべての遺体をコイツで固めさせた。

医官も動ける者は・・・・数える程だ。

キーボードを叩く指が重い。

『処理待ち』の表示は無い。



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