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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
885/928

884 変化 06 入植地 02

入植地の南に広がる牧場に、大型の投下用カプセルがユラユラと落ちて来た。

待ち構えて居た軍人達が、消防車を先頭に駆け寄り牧草に火が回らないうちに散水して冷却させる。

濛々と上がる水煙。

更にもう一本。

同じ様にして回収を行う。


ドランドルは横に立つ指揮官の少尉と、一緒に双眼鏡でその光景を見ていた。

「連絡通りですね」

「あぁ、これで発熱を抑えて咳を抑えられれば乗り切れる。

皆、予防措置は実行してくれているな!

昨夜も聞いたが、この駐屯地には患者の発症は無いんだね?」

「えぇ、今の作業で煙を吸い込んで、くしゃみをする奴はいますが健康ですよ」

「中尉は?」

「・・・・今朝は、・・・・体調を崩されて。回収作業には出てこられて居ません。

代行も奥様の介護で、除隊を考えておられます」

「もう半分もいないな・・・・・」

「実は、私も父が徘徊をするので、妊娠中の妻に負担がかけられません。

母も寝たきりですから・・・・休職か除隊かで迷っています。

父の功績も有り、軍のお情けで、この駐屯地に併設された宿舎で暮らし続ける事を許可されました」

「それは良かった。居住区も衛生的では無いからな」

「下水管に詰まった、あのロボット・・・・爆破破壊するしか無いでしょうね?」

「その前に、上流側に溜まった汚水をなんとかしなくてはな・・・・」

手旗信号で安全が確保されて、ハッチか゚開けられる。

二人並んで歩き出した。

「ドランドル将軍も大変ですね」

「将軍と言っても代理だがな。

あぁ、そう言えばガルズ博士が認知症に効く薬を送ってくれている。

予防薬も、新しい物が来たから全隊員に服用させてくれ。

勿論、ご両親にもな。

薬効を調べるキットも送って来て居た筈だ。

医局に有るやつは、メンテナンスして居ないから配管が詰まってしまって、テスト値が出鱈目だ」

「簡単そうな機器ですけどね?」

「原理、構造は簡単だ。

製剤を温めるか溶剤に溶かして温めるかをしてガス分析するだけだ。

だがサンプリング配管の径が細いんだ。

それに、クリーニングの際に薬剤を吸い込むことがある。

私も学生時代に吸い込んで何度も吐いた。

コロニー艦には新品がまだまだ残っているから、使わせてもらおう」

「でも、いつかは製薬工場を建てたいですね。知識はあっても作れないんじゃ宝の持ち腐れですよ」

「・・・・・知っているか?ドンゴの話?」

「あの、怪しい宗教家の開拓団の罠に引っかかった軍属の事ですか?

そもそも、何で軍属か゚軍用アンドロイド犬なんて貸与されたんです?

私怨による物だと聞いていますが、軍から貸与された武器を持っての襲撃だなんて考えられませんよ。

ギャング同士の抗争ですか?」

「・・・・・詳しくは話せないが、ドンゴは裏の世界の人間だ。

我らか゚知らないところで、上と繋がって居たんだろう。

奴は専門的な教育を受けていないが、彼の父が天才だった。

その辺に生えているいる草花から薬剤を取り出して、合成する技術を持っていた。

そういう家系の生まれで、奴はそう言った植物を使った麻薬合成に手を出した。

その辺りに答えか゚有る。

これ以上の詮索は止めておけ。

まだ、隠されている【おクスリ】か゚有るんだ」

「アレですか? 若い奴らが言って居ましたよ。

眠らずに女と狂えると聞きました」

「ふっ。嘘をつくんじゃ無い。使った事があったか?」

「まぁ、一度だけ。そりゃ、回って来ましたからね。

お試しって奴です」

ハッチが、開いて歓声が上がる。

「他に、娯楽もないしな。無理もない」

「残って居ないんですか?」

「・・・・・・無い事はない」

「・・・・・・ワインですか? ブランデーですか?」

「ワインでいい。

後で届けるが、妻が妊娠中じゃなかったか?」

「妻はそうですが、居ますからね。そういう女は・・・・

紹介しましょうか?」

「・・・・・3日後で良いか?」

「取りに行きますよ」

「良いだろう。医局に来てくれ。

今回の薬剤の仕分けもある。

マスクを忘れるな」

「わかりました。それじゃ、仕分けやりましょう」

「わかりやすい性格だな」

「えへへ、溜まっているもんで・・・・・」


惜しい才能だった。

外科手術に使う塗布タイプの痛み止めは、ドンゴか゚処方した薬草だ。

今でも医局で作っている。

我が家の専売にしたいくらいだ。

家内か゚歩けていたのも、そいつのお陰なんだがな。


食糧も合成食だが、随分と質の良い物が入っていた。

懐かしいルベル料理が食えそうだ。

開けてみた少佐が、親指を立てて見せる。

腹を壊す事はなさそうだ。

ドランドルは、薬のリストと内容をチャックする。

ドランドル宛の箱があった。

『初期の認知症で、記憶が途切れるという事ならこれを服用せよ。医官にも分けてやれ』

と、メモが貼られた白い錠剤が入った箱があった。

「こりゃ! とんでもない品だぞ!」

ガルズが開発して、直ぐに売り切れた認知症の特効薬。

治験では一週間もすれば、記憶能力が8割ほど改善した筈。

居住区にも置かれて居たが、先任者の保管が不味かった。

薬効を示すインジケータは地を這っていた。

『薬効は後で測ろう』

震える指先で、薬剤を取り出して飲み込んでみる。

何となく頭がスッキリする。

『気のせいには間違いないが、・・・・試す価値は有る』

ションベン垂れ流しで、農園に引っ込んだ妻と一緒に徘徊する姿は考えたくも無い。


白い作業着を着た医官に混じって、送ってこられた医薬品のデータをメモに取るジャガー。

顔を変えていて、マスクとメガネのせいで誰も気にしない。

それより、一緒に送られた嗜好品の箱に軍人も医官も釘付けだ。

菓子や酒、タバコまで入っていた。

食料品の半分は、嗜好品だった。

素直に居住区に渡す訳がない。

渡すとしても身内には口止めをかける。

ジャガーは、群がる軍人達を見ながら、その量の多さと意味を考えていた。

『まるで、餞別だな・・・・』

ファルトンにも地球と同じように、長い別れの時には互いに豪華な贈り物をする。

その慣習が同じ事に驚いた事がある。

「お前も、いくつかポケットに捩じ込んでおけ!」

ドランドルに、肩を叩かれて慌てて人混みに入った。

懐かしいが見慣れた商品。

いつも、バッフィムの机の引き出しに入っていた。


「へぇ〜本当にルベルの製品だ!」

「笑うしかないな。賞味期限は切れているぜ?」

「大丈夫か?」

もう口に運んでいる連中に聞いてみると。

「食ってみろよ!」

「これ、本物だぜ!」

「人工バウンの味がするぜ!」


確かに、そうだ・・・・・妙にねっとりとした食感。

チョコに似た味。

地球で買って食べるチョコに比べれば、食感はともかく香りがきつく安っぽい。

でも、・・・・誰も本物のバウンを食べた事も無い。

そもそも、ファルトンのバウンはどんな植物だ?


ひと通りポケットに突っ込んでトラックに戻る。

運転席のイバに渡して転送陣で火山島に送ってやる。

イバが追加で、どんどん収納から出して送っていく。

「俺、いなくても良かった?」

「いや、雰囲気を感じて来てくれただろう?」

「あぁ、これは最後のプレセント・・・・そんな気がする」

「最後のプレセント・・・・」

荷台に医薬品が積み上げられる。

駐屯地に残る連中との医薬品と食品、嗜好品の山分けは終わった。

後は少尉がやってくれる。

「よおし!医局へ行ってくれ!

医官は指示された内容で、各家庭を回る事。

私は、ワグル様をズークと一緒に診察する」


その声を聞いて、イバが伝言石を送った。

ワグルは、朝からダルトンが火山島に連れて行った。


居住地までの道のりで、医官は直ぐに異常に気がついた。

ワグルのパルスが消えた。

データを見ると痙攣を起こして死んだ様だ。

「アンジェラは!」

アンジェラも、同じ様に虫の息・・・・・

「もう、間に合わない・・・・・

アンジェラほどの健康体でも、死ぬ程の急激な病状悪化を起こすのか?

今は、この二人以外への感染を止める。

ワグル様の隔離病棟とアンジェラ秘書官の家には近づくな!

近隣の住宅は閉鎖する。

マスクと防護服を、今一度点検しろ!」

ドランドルから無線で伝えられる指令に、医官達は車を止めて装備を確認する。

「どうすると思う?」

「ペニーに許可を貰って、消毒後に焼却処理だろうな。軍人はリスクを避ける。軍令だと言えば逆らえないさ」

更に先に軍人の遺体を運び出した軍人達が発熱している。

ドランドルは若い医官を連れて、その軍人達が収容されている隔離病棟に向かった。



「へぇ〜、200年前の製剤にしては、薬効が残っているな!」

火山島に急遽設置したCCFの研究所で、入手したファルトンの医薬品を調べていた科学者は驚いていた。

「薬効成分を、マイクロカプセルに閉じ込める技術は大した物だ。

薬効成分が濃いめだが、そこは症状に合わせてと書いてある。

子供が、そのまま飲んだら大騒ぎだな。

民間薬には指定できない。

勉強になる。

解熱剤の仕組みは、地球と変わらない」

「抗生物質は?」

「地球と同じ様に、カビの(たぐい)から抽出している様だが、どうかな?」

シャーレに塗った培養用の寒天を、テスターとなる菌が広がっていた。

「今回の風邪には効かないと思う。元々、抗生物質はウィルスには効かないんだ。抗生物質は薬効が失われる日数が短いからな」

「他には?」

「人工チョコは、いい味がしている。

賞味期限は切れているが、保管状態がいいんだろう」

もう一つ口に頬張りながら、モニタの向こうから笑いかけて来た。

「全く、サンプルを食べながら、分析しないでくださいよ」

「後で、君にも分けてあげるよ。碧」

自由気ままな所員達だ。

イキイキとしている。

「じゃあ、作戦に支障はないんですね」

イバが再確認する。

「あぁ、周辺の居住地含めて、一週間は人の気配はないだろう」

「医官達は?」

碧がイバに問いかけた。

「もう、感染しているよ。

うまい具合に、回収現場でマスクを外してくれた」

「あぁ、あの瞬間ですか・・・・・」

側で見ていたジャガーにも見えなかった。

あの回収作業中に、人が集まっている場所で空気感染をさせたのか・・・・

まぁ、誰もが我を忘れてマスクを散った。

俺もだがな・・・・・


翌日

居住地で煙が見えるそうだ。

上がる煙は二条。


きっと、傀儡の臀部に仕掛けたタグが小さく弾けている頃・・・・

ドランドルは、二人の遺体がある2箇所に、予定通り入室する事なく消毒して焼却処理させた。

ペニーに連絡を入れたが、キャンピングカーの中で咳き込む二人の声がした。

取り敢えずペニーも含めて、全ての住民に薬をドローンを使って運ばせる・・・・

ドランドルは、咳をしてしまう。

『まずい・・・・咳が出る』

テスターで見ると抗生物質は、口一杯に含んでも効果が出るか怪しい。

もうそうなると副作用が心配だ。

そもそも、感染してからでは遅すぎだ。

でも、いつ感染した?発症が早すぎる。

自分用にも同様に解熱剤と栄養補助食品、そして咳止めを10日分処方して居室に帰る。

あぁ、連絡を入れないと・・・・・・

痛む頭を振りながら通信機の前に座り、緊急連絡用のスイッチを押す。

「緊急事態?」

ハイエル皇帝ではないが代理の様だ。

映像は出ない。

「ドランドルです」

「ガルズだ」

声を聞いた事はないが、これがガルズ先生か・・・・

「ガルズ先生!

ありがとうございました。

気にして頂いているんですね!

感謝いたします。

居住地、駐屯地、農園。

全ての入植地に、発熱性の疾患患者が発生しました。

農園も含めて2%ほどの乳児を除いて感染しています」

「乳児以外?その子供達は母乳を与えられているのか?」

「えぇ、その様です。

子供も大人ほどではないですが、発熱しています」

不思議な症例だ・・・・乳幼児や幼児は何らかの方法で抗体を獲得しているのか?

「・・・・・それで?」

「すでに発症していたワグル将軍とアンジェラ秘書官は死亡しました。

手に負えないと判断し消毒後、焼夷ペレットを室内に放り込み焼却処理しました・・・・医官も私同様に、感染しています」

「・・・・・なんだと! まぁ良い」

「送って頂いた解熱剤と咳止め、栄養剤補給食品を一人10日分ずつ、ドローンで運ばせました。報告は以上です」

そこまで話して、咳が出た。

「失礼しました・・・・・」

「・・・・・お前も、感染しているのか?」

「はい。解熱剤が効いて来ていますが、喉と呼吸が・・・・」

「解った。無理をするな。

医官まで感染したのであれば手が打てまい。

療養に尽くせ。

何かあったら、回線を開け!

大事にな・・・・」

「ありがとう・・・・・ございます」

回線が切れた。

切断された事を知らせる信号音が執務室に響く・・・・

『そうだった。この部屋の消毒を忘れていた・・・・』

ドランドルは、自分がした失態を思い出した。

『それで、発症が早かったのか・・・・・もう他の医官も感染したな・・・

消毒をするのは、自分が動けるようになってからだ・・・・』

震える手でスイッチを切った。

ドランドルは、もうこの回線が繋がらない。

そんな気がして身体を震わせた。





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