877 NY新生活 27
会議冒頭。
ファッジスが、北米を監視する為に静止軌道に置いた衛星を、軌道を変えて極衛星軌道に移り、地球全体を監視する見込みだと報告された。
鴻が提案した監視体制が承認され、JAXAと CCFが協力してあたる。
門国家主席も軍への揺さぶりを受諾した。
会議は本題に移る。
参加者に寄っては深夜。
予め予告された会議とはいえ、他の業務との兼ね合いもある。
熊野からの映像に千秋が現れた。
岩屋神社の巫女装束を身にまとい凛とした姿。
(まさか! 脩に任せるのではなく、自ら会議に出てくるとは・・・・・『溜め込んだ休暇使い切るって』言っていたでしょう? 本当に・・・・バカなんだから・・・)
巴は、呆れ返ると共に、その気持ちが嬉しかった。
(バカは、私だけじゃないのね・・・・)
マリオとマリア、そして如月家の事が千秋から報告される。
アマゾン奥地のファミールの一族。
【アマゾネス】
そして、最初に地球に降り立ったファミールの血を引く女達。
「今、瀬戸内を中心に繁華街で、女性のうなじを真眼で見るカメラを取り付けている。と言っても彼女達を、こちら側に引っ張る気はないよ。
今の平穏な生活を送って貰えば良い。
ただ、この地域にファミールの血を受け継いだ証があるかを知っておきたい」
脩がそう報告する。
(そうね。三辺綾香さんも観音寺出身と言っていたわね)
紗羅は、チラリと熊野の会議室に居る早乙女の姿に視線を送る。
早乙女の指示を受けて、今頃、平田は治癒師とカウンセラーの手で体質改善中だろう。
(子供は出来ないけど、彼女が彼の胸で眠れる様になれば良いわ)
緊張気味の早乙女が、契約者の条件と出産を終えたファミールの女性が提供してくれた胎盤を使って調べたY染色体への抗体反応を調査した結果を報告し、男児を欲するファミールへの対応を報告した。
そして、ファミールの呪いの為に、思いを遂げられなかった女性の話をして席に着こうとした。
こう言った会合では、岩屋美耶が報告をするのだが
『ルースで急用が出来た』
と早乙女に会議での報告を任せて、若菜と共にルースに行ってしまった。
発表を終え頭を下げた際に目に止まる原稿に書かれた一人の女の名。
三辺綾香
早乙女は、席からもう一度立ち上がり、拳をにぎりしめて言葉を続けた。
「ファミールの女が、好きな人と結ばれる様にする。
心理師と治癒師の手を借りてでも、必ず成し遂げてみせる!」
日頃、産婦人科医としての報告と助言だけしか述べない医師。
だが、今日は全ての参加者に向かって拳を握りしめて決意を伝える。
その姿に、全ての会議室から拍手が送られて、早乙女医師は初めて自分が拳を握りしめて天に突きあげている事に気がついた。
慌てて腕を下ろし赤くなって席についた。
それでも、拍手が続いた。
「頼むわよ。先生」
「女帝〜、もう拍手を止めて〜」
「ううん。ありがとう。感謝しているの。ファミールの呪いを解いてあげて」
「・・・・・解ったわ。皆、力を貸して!」
その言葉に、より一層の拍手が贈られて、やっと次の議題に移った。
次に、ファミールの血を引く彼女達に施した法力の効果。
モニタに現れたのは祝 天河。
勿論、医師ではない。
だが、優れた天測持ちで父の木場 昴の影響からか医学にも詳しい。
修造が無理矢理CCFにデビューさせた。
ファミールの鱗には、水中の酸素を直接脳へ供給する仕組みを持つ事は以前から知られていた。
そして、親水性が高い法力を溶かし込んだ水中では、脳の損傷を癒す効果が二人のファミールの血を引く女性で確認された。
そして、脳だけではなく身体にも。
膝の痛みを訴えていた二人の膝軟骨の修復。
そして、肌に浮かんだシミが薄くなっていた。
マリオの鱗から穢れたマナを抜いて、精力剤の効果がある麻薬成分を抜き、男性機能を復活させた。
勿論、法力だけで得られた奇跡では無く、治癒師と心理師の手助けを得ている事を付け加えた。
言い淀む事も無く堂々と発表を終え、万雷の拍手を受けて席に戻る天河。
(流石ね。胆力は大先生譲りね)
(これが、天河さん・・・・・・)
(ほぇ〜、天河の奴凄いなぁ〜俺なら緊張で挨拶だって出来なかっただろう・・・・)
(もう、修造さん。息子を出すなら先に言って置いて欲しかったですよ。
でも、天測の精度が上がりましたね。頑張っていますね天河。お疲れ様。
昴さんも、これで少しは安心かな?)
様々な人が、それぞれの想いを籠めて新たな一員を迎え入れた。
「ポストのバスとシャワーにも組み込んで置きたいですね。疲労回復にも役立ちそうだ」
そんな話すら出ている。
「最初にワシが、治験者になると言っているんだ!」
九鬼修造が、海中浴場の完成予想図をアップしてニタニタしていた。
海中から立ち上がる崖の壁面に浴槽を置くのでは無く、海中に置かれたドームの中に浴槽がある。
勿論、外からは岩にしか見えない。
周囲が海で、怖いくらいの静けさだろう。
転移陣での行き来で使う。
これなら、関係者以外は入れない。
ちょっとした要塞だ。
来週末には完成するそうで、効果が見られれば、有田の井戸を利用して同じ様に海中浴場の建設を修造が確約した。
「オープンセレモニーには、みなさん。ご招待するぜ!」
悪戯小僧の様な表情で笑う修造。
身体全身を詳細に調べて、脳に存在した出血痕などもマップに取られている。
身体の治癒能力が上がるという事は、傷跡や老化によるシミすら治癒できる可能性があると聞いて【b-Kai】も期待している。
「エリファーナ!若返って我が当主を驚かせてやれ!」
「あら、失礼ね? 私は若いわよ。キャプテン?」
気丈にも言葉を返すエリファーナ。
「ウフフ。修造様。貴方のその腕の傷も消えるかもしれないけど?良いの?」
エリファーナが、逆に言い返す。
「・・・・あぁ、冬になると皮膚が引き攣って仕方が無い。
朝から温浴マッサージが欠かせないんだ。
寂しい気もするが、あの煩わしさから解放されるなら受け入れよう」
「そうなの。気付かなくて御免なさい」
「いや、良いんだ。若気の至りさ」
この二人。年齢が近い事もあって仲が良い。
常義は、アーバインから帰って来なかった。
修造にも、もう脩と真に後を託すからとCCFの会合にも出ないと理由を偽っていた。
(気づかれているかもしれないけど・・・・きっと、みんな解っている。
ここにイバも居ない・・・・ルース様に法力の効果が有ります様に・・・)
エリファーナを一刻も早くアーバインに帰す為に、中継基地のインド洋にはアーバインⅡが、会議の終了を待っていた。
次の報告は脩から。
「フロリダへの派遣は、予定通り週明けからファロンを派遣する」
そこで、マリオ達から得られたアマゾネスの女が持つ攻撃的な術の詳細。
ファロンの背筋を凍り付かせたのは・・・・
フロリダで接触するであろう族長の女は、人に手を触れて相手の身体を破壊出来る。
マリアの母親は、マリアと同様に精神干渉と【見えない手】の能力がある事を知らされた。
サーキットを走行している潤を操り、潤の精液を抜いたマリアの映像には驚愕するしかない。
温かみを持った女性の手が、シートに覆いかぶさった自分の股間をまさぐる。
次第に快感が全身を包み、身体を起こしコースの端をノロノロと走る潤の姿。
グラベルでマシンを止めて、空を見上げ射精した。
混乱したが、どうにも出来なかったそうだ。
マリアによると潤の男根の感触は解るし、受け止めた精液の暖かさと感触すら解ると言った。
まさに、彼女の長く見えない手が潤の身体を弄った。
性技は、居留地で教わったそうだ。
体温と触感を持つ長い手。
これは、同じ様にサイコキネシスを使える若菜や美沙緒、真、ユリ達とは全く違う術だ。
凄い女達だ。
男達は、その時の潤の気持ちを押し測り同情した。
ファミールのマリオに名前と知識、そして資産を与えたマリオ ライドル。
そのマリオの血を受けた娘達。
数は少ないが、その娘達とファミールのマリオが産ませた娘達。
契約者以外でも避妊具を使い、性的欲求のオモチャにしている。
その集落から、たった一人、助け出されたマリア。
だが、集落にはまだ幼い娘達がいる。
「マリオとマリアから娘と、姉妹を助け出して欲しいと頼まれたよ」
脩が、集落の位置を指し示して皆に伝える。
「今もマリアさんは、精神干渉と見えない手を使えているのですか?」
精神干渉と、見えない手に興味が出た信長様に急かされて洋樹が質問した。
「法力に慣れていないせいか苦労している。
法力を使う様になって、まだ1日だからね。
でも、本人はそんなに焦っていないよ。
攻撃的な能力は、使わないならその方がいい」
脩が、映像を切り替えてマリアが水中で発射する水の球の威力を見せつけた。
水中で彼女が腕を振り抜くと、高速で打ち出される水の塊。
様々な大きさと数の、水球が打ち出される。
周囲の海水との間に、薄い空気の膜ができて居る事が見てとれた。
岩屋神社の会場では、雅樹の横で同じファミールのロイアが左右の腕を振っている。
すると、突然、水飛沫が飛んで行った。
「うぉ! アブね〜」
危うく水浴びさせられるところだった恵梨が飛び退いた。
「エッ?」
「今の何? ロイア」
「わかんない。ただ、こうして手を振るんだって、真似したら手のひらに水玉が出てきた!」
その光景は、他の会場にも届き
「ロイア。ちゃんと掃除をしなさいね。それと、後でトレーニングね」
巴が声を掛ける。
「あっ!はい・・・・」
「恵梨。大丈夫?」
紗羅が声を掛ける。
「私は、大丈夫でしたけど・・・」
バスタオルを収納から、出しながらテーブルの上を指差した。
テーブルの上で、オヤツをもらっていた管狐がびしょ濡れになって固まっていた。
「可哀想に。早く拭いてあげて。ロイア!お詫びのオヤツをあげなさい」
「解りました。雅樹。クッキー持っている?」
「・・・・・マー君は、コッチだよ」
収納から、マシュマロの箱を取り出してロイアに渡す。
好きな男の名を捩って名を付けている。
また、千秋の入れ知恵だ。
「俺は、気分を損ねた族長に触られたら一瞬でお陀仏だぜ?」
「心配するな。
現地にファロンを招待させる事はやめだ。
位置も特定できたし、先方の能力と穢れたマナと麻薬の件はリスクがデカ過ぎる。
だから、ファロンを餌に接触してファミールの存在を知らしめるよ。
だから、同行者を出す」
「同行者? カリブ海のファミール?」
「いや、アリサを付ける」
「えっ!アリサ!」
「ウッソ!」
脩の言葉に思わず声が出た。
テーブルを拭いていたロイアも息を呑む。
「あぁ、そんな顔するな。
カミラが適任だが、妊娠中だから無理をさせたくはない」
「まぁ、解るが・・・・」
【アリサ・イバルート】
ロイアの双子の姉。
姿形、顔はロイアと瓜二つだが、誰もが見分けられる。
目だ。
冷静で動じない。
カミラの跡を継ぐのは、間違い無くこの女だ。
ロイアが雅樹と結ばれて、より一層ファロンへの視線が冷たい。
「やれやれ、竿の持ち主がカミラ様から、アリサに変わった訳か・・・・・」
ファロンは、アリサが自分に向ける冷たい目を思い出して震えてしまった。
「娘は間も無くアトランタに到着する予定だ。
フロリダ直行は目につきやすい。
念の為に君たちが到着するまで、アリサにはベイエリアには接近させない。
【シャーク】3隻と【ドルフィン】2隻を海底に隠す手配をしている」
ダイバーウォッチに、コール機能を組み込んである。
大体2キロの範囲に入ったら呼び寄せれる」
「自動遠隔操縦機能付き? 相変わらずチート装備だ事!」
仮眠を取ってスッキリした紗羅が、脩が準備した水中バイクの性能に呆れた。
「将来、アーバインで使う事もあるかもしれない。
人口が少ないアーバインでは、万が一の事故でも人を割けない。
自動運転ができる移動手段は欠かせない。
転移陣は有るが、解放されたら他の生存者を探しに行かなくては行けない」
脩の気持ちもわかる。
「なるほどな」
「それは、有用性が高いな」
キッシン等の重鎮も、アーバインが置かれている現状を思うと頷くしかなかった。




