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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
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871 NY新生活 21

透歌達の部屋のキッチンでは、香織と真弓が瑠璃と早苗の手を借りて腕を振るう。

二人の夫で有る洋樹は、美沙緒と巴と共に最上階のフロアでCCFの副所長と、明日の早朝に開かれる会議に備えて、ファッジスとの衝突について調査資料を纏めている。

帰宅は深夜になるかも知れない。

明日、香織達も早朝からの会議には、傍聴席で参加する事になっている。

食事を済ませて、先に明菜を寝かした香織がリビングに戻って来た。

打ち合わせの休憩時間にでも、英国からの承認が得られたのだろう。

巴が送って来たメッセージがスクリーンに表示されていて、添付ファイルを広げながら真弓が香織に告げた。

「香織。巴さんは、フロリダには行かないそうよ」

イギリス王室の紋章が添えられたレポート。

王室が受領した証。

「新たな符術が上手くいった様ね」

「ならば一緒に行けば良いのに・・・・・。

後は、CCFに任せておけば良いんじゃ無いの?」

透歌には、巴の考えがよく解らない。

どんよりと曇った冬のNYより、フロリダで過ごした方が楽しいだろうに・・・

「巴ちゃんは、責任感が強いからね。レポートを読むなら、お茶を入れるね」

香織がそう言いながら、お茶を準備する。

「添付されたデータでは・・・・・探知距離に不満があるみたいね」

真弓が巴の不満を推察した。

「捕らえて来たファッジスの下っ端だと、検知距離は20メートル・・・・呪旗で吸収した呪素を使う輪道とは違って、ファッジスだと検知距離が短くなってしまったのね。この距離だと、あの連中に風上で自爆されたら危ないわね」

「でもそれは、術者の手を離れた状態でしょう? 

術者が身に付けていれば、探知距離は伸びるんじゃ無い?」

透歌が自分で陣に魔素を送り込めた時の効果からそう聞いて見る。

それに対して

「確かに、私達は公園のはるか手前に停めた車から、草原の中に潜んで穴掘りをするファッジスの下っ端を見つけたけど、その為に常に意識を張り巡らせ続けるのは無理です」

早苗が遠見を使い続けた場合の疲労をつげる。

更に真弓が

「透歌。忘れていない? コレは未彩姉さんや明菜を守るためよ。

二人だけでは無く、このビルに通うCCFの職員の身も家族も守らないといけないわ。

直接の護衛を控えている影護衛だと、守り切れると言い切れないわ。

何しろファッジスが付いている。

航空機やドローン。

衛星軌道から仕掛けて来る可能性も無いとは言えない」

「ドローンによる攻撃! もう戦争じゃない!

そんなの防ぎようが無いわよ! 

それに呪糸蟲。

まさかとは思うけど、ここ(NY)で再び仕掛けて来るんじゃ無いでしょうね?」

透歌の言葉に、皆んなが思わず身を震わせた。

何度も、その異常さに震えた。

脳を侵され、呪糸蟲の新たな宿主となる男を求めて身体を許し、最後には干からびて黒い炎をあげて死んだ女達の姿。

女で有る自分達の身に降り掛かりかねない地獄、恐怖。

そうでなくとも、呪糸蟲に脳に寄生された赤ん坊が中学生ほどに変貌を遂げ、大阪湾に裸体を溶かしながら消えていった映像は、忘れられるものでは無い。

「起こり得ない事では無いわ。

一条の暴走で、多くの呪旗を失った輪道(ジャイ)には難しいのかも知れないけど、輪道とは違う大陸の術師が、アフリカの大地溝帯で『毒竜』を呼び出した事実が有る。

そこには輪道の術師 人形使いもいて、人を操って使役できる呪糸蟲を使いこなしていた。

随分前からケイランドや周辺諸国に輪道(ジャイ)は入り込んでいて、金やダイアモンドを手に入れているのが、その後の調べで解ったわ。

毒竜が次元の狭間に居たのなら、呪糸蟲を再び呼び出す事も可能では?

そう考えるのは当然でしょう?

これからは、どうなるか解らない。

未然に対処策を編み出す為に巴は残るのよ」

真弓が透歌達に納得させた。

今も、この部屋の窓には人型の符が張り付いている。

この符が反応すれば魔石に繋いだ【盾】が展開する。

だが、危険な事には変わりは無い。

「明日は、出かける訳では無いにしろ朝が早いわ。みんなも眠ってね」

香織が皆に念押しする。

「巴は?」

「明日の会議が終わったら、私たちは明菜を屋敷に送った後にフロリダに出発よ。

巴さんは、ここに残るわ。

だから、洋樹さんと二人っきりにする様に美沙緒さんには頼んでおいたわ」

「あの・・・・大丈夫ですか?」

早苗が赤い顔をしながら聞いてみる。

「一線は越えない様に、洋樹さんには言ってある。中学生じゃね・・・・」

真弓がそう答えるが・・・

この身に宿る帰蝶は10歳で政略結婚をし、帰蝶が家人を操って警護を緩めさせた。

父斎藤道三が送った刺客が、帰蝶の夫を自害に追い込んだ。

道三も【サトリ】

人の考えを読み、自分に対しての敵意を持つ他家へ娘を嫁に出す。

緩んだ相手を、帰蝶のサトリの能力を利用して周辺諸国を侵略する。

帰って来た娘を更に13の時に、又、他の大名に政略結婚で結ばせて、この夫も殺された。

信長は三人目の夫。

道三の誤算は、この信長もサトリであった事。

父道三の駒として使われる帰蝶の中の絶望を掻き消し、身体だけではなく心を抱きしめた。

帰蝶は、こうして救われ信長の正妻となった。

今の巴は15歳の身体。

平安の時代では、当然、妻になっても不思議では無い。

事実、妖狐として生まれ変わった巴は、10代に霊界で眷属を産み出し若武者として自分の夫とした。

立浪の祖となった綾姫を産んだのは18の時。

だが、この綾姫も眷属であった・・・・・・

男を知らず妖狐の力で萩月を起こした。


武家の娘の中には13でも子供を産んだ娘がいた。

・・・・・そう、前田利家の妻 松。

12歳で妻となり翌年には長女を産み、11人もの子供を10歳上の利家との間に産んだ。

だから、巴は抱かれても良いと思っているだろう。

ただ、それは今の時代では犯罪になる。

身を隠して生活する事になる。

我慢してね・・・・二人とも・・・・

「・・・・複雑ね。身体は中学生。でも、心は永い時を過ごして来た女性。

まさか、自分が赤ん坊の頃から見守っていた男の子の妻になる事を定められるなんて・・・・」

透歌が真弓の心を見透かす様に呟く。

「巴ちゃん。洋樹さんの事。本当に好きなのかな・・・・」

「そう言う瑠璃はどう思う?」

「・・・・好きだと思う。

ハイキングの最中も、先頭を行く香織さんと真弓さんに注ぐ視線は怖かった。

その後に続く明菜ちゃんを肩車した洋樹さんには、優しい眼差しだったけど・・・」

『我も靜も、その事には気付いていたよ。

余計に複雑な気持ちじゃろうな。

御堂で、この世の事を教えてくれた巴が、あの様な姿になり、同じ男の妻になるとは思わなんだ』

『私も、殿と帰蝶様と御堂で交わした来世での縁の約束に立ち合わられた巴様まで縁を結ばれるとは思ってもいませんでした。

ですが、今なら、巴様の気持ちが解る。

限りある命となった今。

萩月の行く末に囚われる事なく、一人の女として時を過ごす。

私は、歓迎しますよ』

「真弓さんは、どうされるのですか? 香織さんはアーバイン人ですが・・・・」

静香は前から気になっていた事を聞いてみた。

自分にとっては義理の姉にあたる三人。

巴さんは地球に残って、新たな陰陽師の家を立ち上げるとも言っていた。

「私? 私は香織と未彩姉さんと一緒にアーバインに行くわよ。

何より、私の中にいる帰蝶様が信長様から離れたがらないわよ」

「三人で、約束もしているしね」

「アーバインを、帆船で周るという計画ですね?」

「アーバイン儀も有るから航路は、もう出来上がっているわ。

その気になれば、最新鋭の技術と魔石を使えば一月も有れば一周できるけど、それじゃつまらないじゃ無い。

敢えて帆船で周るわ」

「それで、坂本龍馬さんの転生者 リカルド君が、フロリダに留学を予定しているのですね?」

静香が帆船とフロリダで思い出した。

「カルフォルニアや、他の教育機関もあるけど、帆船に特化しているのがフロリダだからね。

ヨットの扱いは、もう申し分ないそうよ。

だから、今のままでは契約者である彼もアマゾネスに狙われかねない。

その為にも、アマゾネスとファッジスを何とかしないとね」

真弓の言葉に皆同意した。


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