085 一月前
丘の人々を迎え入れる準備が進む中、イバの二人の妻が出産した。
ルナが男の子を出産し、ゲーリンが名付け親となって『メルカ』と名付けた。
黒髪の茶色い目をした元気な息子だった。
サランは女の子で『サヤ』と名付けた。
やはり金の髪をした、青い眼の【サトリ】だった。
同じ様に、周囲のサトリに呼びかける。
『お腹が空いた。お漏らしして気持ち悪い。早く【飛行】を覚えて自分で用をたしたい』
僅か1ヶ月の赤ん坊が、『念話』で語りかけて来る言葉じゃ無かった。
『サラン以上ね』
サトリと言えば、丘のジャリムの子の中に、金の髪をしたシュウより一つ上の娘がいた。
名を『サラ』
この子は、サランが面倒を見ている。
能力も身体能力も高く周囲の大人を驚かせていた。
今では、サランと一緒に住んでいてシュウの世話をするのが楽しい様だ。
シュウも、やはり黒髪に茶色の目をした少年になっていく。
【サトリ】で【転移】に興味がある様で、特別に許されて【遠見の部屋】に出入りしている。
【遠見の術】にも長けている様で、イバに言わせれば『俺より天才』と言わしめている。
かく言うイバも、ルースから遂に記録用の『黒石板』を渡され、手が空いた時間には記録を保存した黒石板をルースから貸してもらって読み解いている。
ルクアも成長しているが、まだ黒石板を収納できるまでには至っていない。
農園の上に展開した魔道具で、陽光を浴びで木々は恵みを与えてくれる。
侵略してくるルベルの連中が見たら、コロニー艦に取り付けたいと思うのだろうが魔素はこのアーバインの大地ににしか無い。
今日も、子供達が外で連れてきた犬や猫、羊や山羊と一緒に遊んでいる。
ルナとサラン、それを取り巻くサトリの少女と何人かの男のサトリ。
お互いに意識し出すとサトリの場合は大変だ。
感情が漏れてしまう。
今は感情の調整をする為に男子、女子で手を握らせたり、肩を組ませたりで壁を作らせる事をさせている。
サランとルナは元々、レベルが高く感情を溢れさせる事がなかったし、特にサランはイバと言う心に決めた男がいた。
ルナもルースやサランから聞いたり、ミオラから聞いていたサキアとマウアの子という事から、イバに逢ってからだと決めていた。
だが、子供たちの中に機嫌が悪い少女がひとり。
僅か四歳を越えたくらいなのに『シュウ』が他の少女と手を重ねるのを睨んでいる。
「あらあら、まるでサランみたいね?」
「そうね。あの子シュウにゾッコンなのよ。私がシュウを抱いていても睨んでくる事あるわ」
「じゃあ、決まりね」
「ルナ。アンタ人事だと思っているでしょう? イバの悩みになるわよ」
「でもあの子、優秀でしょ? しかも、綺麗になるわ。あなたにそっくりよ。きっとシュウと一緒になって【赤い目】になったら見分けつかなくなるわよ」
「そうそう、それでね。この【赤い眼】の秘密は喋らないでね。」
「どうして?」
「面白いじゃ無い」
「あなたねぇ〜 良いわ。黙っていてあげる。お母様たちとイバにも口止めね。あぁ、平和ね。何時迄もこうしていられたら良いのにね」
「そうもいかないわ。でどうなの?アイツらは?」
「起きたわ。この前みたいに大勢じゃ無く、多分三人。やっぱり一月後には警戒する必要があるわ」
「そうなの」
「イバはルース様と毎日遅くまでやり残しが無いか、周辺の街や村からの接近者が、いないかを獣人たちに聞いているわ。獣人たちもみんな身を隠すための【魔絹布】の魔道具持って出ているわ。あの体温を検知できなくする奴ね。もし、誰かがそれでも見つかったら、ここも危ないわね。取り敢えず、黒鳥感知したら逃げ込む為の横穴に入る様に言ってあるわ。この農園にあった家も土を盛って隠したから見つからないだろうって言っていたわ」
「見落としか・・・・・今いる妊婦達の準備はどうなの」
「それも、大丈夫。ミクマが避難所の換気設備と同じ様に【魔素を取り除く遮蔽の陣】と魔道具を使って聖地の中でも魔素が少ない場所に出産用の部屋を作ったわ。静かになる様に【遮音】も入れている。勿論、換気の魔道具も予備も使うと今の倍、ううん、3倍は換気できるって言っているわ。魔素は外に出さない様にしている。魔素を感知する魔道具もあるからね」
「妊娠を望む人達にも有効ね」
「だから、それも建設中よ。お爺さん張り切っちゃって大変よ。意見があれば聞きたいって言っているわ」
「私も遠見の部屋と自宅の行き来だけだから、情報が入って来ないわ。これも考えなくてはね」
「食糧も配給が主になるから、良い方法を考えなきゃね。どうしても、種族間の好き嫌いや食べれる、食べれないが出てくるわ」
「そうね。アレの臭いもだいぶ収まっているけど特に犬獣人の方には辛いわね。ルクアがl頑張ってくれるけど完全じゃ無いから」
「あの子の事だからきっとなんとかするわ。私達の弟だもの」
「あと一月か。きっとまた大勢殺されるわね」
「ルース様も逃げ込んできたら、遠い場所で受け入れて転移で送る。場合によっては記憶を操作しろって言っているわ」
「仕方ないわね。ここにきたら最後、出て行かせる訳には行かないわ」
「この子達のためにも・・・・・ 」
サトリの力の使いすぎで男女関係なく草の上で眠る子供と、お互いの腕の中で眠る赤ん坊の顔を見ながら二人は頷いた。




