866 間話 レディース 23
翌朝。
食後しばらくして地下のドックに現れたのは、
マリア、速水姉弟、そして如月明日香。
健と天河、それぞれに付く二人の護衛。
ボッチの姉。
更には海中を自由に行く事ができると聞いて、この二人も参加した。
如月咲恵と美代。
他にも、陰陽師の面々。
全員がウェットスーツを着ている。
千秋が咲恵と美代には、通常タイプの奉石と月夜石を組み合わせた物を渡した。
明日香も交えて、法力を吸わせてみるとうなじの皮膚の奥底に、緑色の鱗が透けて見えて来た。
「なんだろうね。身体の動きが軽いよ」
「ですね。お母さん!膝痛くない?」
碧が声をかける。
「ドルフィンを使う前に、海中で少し動いて頂けませんか?
海中なら皮膚の表面に鱗が浮き出てくると思うんですよ」
如月家の女に、混じってマリアも一緒にゆっくりと海中に身体を沈める。
11月だと言うのに、海水の冷たさを感じない。
マリアの鱗も青く光出した。
必要になるとマナが自然に供給される。
ペンダントを操作すると、青い鱗は見えなくなった。
「確かに!見えなくなっても苦しくない」
「でしょう!」
千秋の鼻が伸びる。
如月家の3人にも変化が現れた。
結構長く潜っていると、うなじに鱗が現れた。
それから二分以上経って3人は水面に顔を出し
「まだ慣れないけど、息苦しさは無くなったね」
美代の言葉に頷いた。
流石に少し動くと息継ぎが必要になるが、静かに海に漂うかぎり息苦しは無い。
「えぇ、マリアさんとは鱗の数が違います。
補助的な役目はできている様ですね」
3人の様子を観察していた碧がダイバーウォッチから送信されたデータに納得していた。
「でも、法力で鱗が活性化して人魚の身体に戻る事はないのかなぁ〜
やっぱり、男の子も産んでみたい!」
「その心配ないわ。抗体検査でもファミールとの差は歴然よ。
でも、健診は受けてね。マリアもよ」
「解ったわ」
「解りました」
準備運動がわりの潜水訓練。
熊野灘に面した、この海中洞窟の水深は20メートルを越えている。
ただし外からは海底から立ち上がる断崖絶壁にしか見えない。
入り口部分に向かって段差を切って有り更に深度を増していく。
その海底に平然と居並ぶ人魚の血を引く四人の女性。
後を追う様にしてマースルが海に入って来た。
『海中は、おだやかね〜』
咲恵が頭に言葉を浮かべると、家族に伝わる。
『本当』
『でも、今は足が海底に着いているせいで恐怖感はない。
でもわかる。今の私たちはこの深さが限界。
マリアは?』
『・・・・明日香が言う通り、この先に行こうとすると、恐怖心が広がって来るわ』
『やっぱり、海から離れているせいね。
私達は200メートルまで行けるわ。
今あなたが抱いている恐怖感で、限界を知ることができる。
無理はしないで、あなた達は今始まったばかり』
マースルの言葉に人魚達は納得した。
海上に上がって碧と早乙女の診断を受ける。
「咲恵さんと美代さんを心配したけど、一番元気じゃ無い? この二人?」
「咲恵さんは鱗の面積が一番広い。美代さんは鱗の数は少ないけど、若い頃の筋肉量に戻りつつあるせいかな? 法力が影響していそうね」
美代が目を輝かせ碧に詰め寄る。
「じゃあ、ドルフィンに乗れるのかい?」
思わず後ろに下がってしまう碧。
「えぇ、楽しんでください。お二人とも」
装備の説明と注意事項が飛鳥から伝えられる。
「血中酸素濃度を含む体調については、腕に付けたダイバーウォッチでモニタしています。警告音が鳴ったら海上に浮上するかドルフィンに戻って。
マスクを装着している方は、自動で酸素濃度が上がる様になっています。
ですから、マスクを装着した人でアラームが鳴ったら躊躇せずに海上に上がって!」
飛鳥が一人一人の、装備を確認する。
「では、水深10メートルまで潜航して私について来てください。
ドルフィンから離れる際には、溺れない様に潜水用のマスクを装着してください」
マースルが手際良く船体と装備を準備していた。
「マスクも試してみたいな〜」
「良いですよ。マリアさんもマナを使い切る事もあるかも知れません。明日香は?」
「確かに必要酸素量は少ないんですけど、マスクを貸していただけますか?
通気量を減らしてトレーニングしてみます」
「でも、そこまでする必要はないんじゃ無いですか? もう人の域になっているんでしょう?」
「でも、それって出し惜しみしているだけじゃ無いですか?
私は、自由に海の中を楽しんでみたいです。
スキューバダイビングにも憧れていました!」
「人魚の泳ぎ方を教えてやるよ!」
「何言っているの? マリアは丘に上がった人魚じゃ無いの?
日本じゃ『丘に上がった河童』って諺もあるわよ!
泳ぎ方を忘れているんじゃ無いの?」
「言ったなぁ〜明日香! フロリダの海で泳げる様になった!」
「明日香。お前だって、秩父の川で流されていただけじゃなかったっけ?」
と小梅が暴露してしまう。
「おやおや、やっぱり人魚とは程遠いいね!」
潤が潜航を始めて海中に涼んでいく。
マリアがすかさず、そのドルフィンに向かって泳ぎ出す。
「く〜う! マリアめ!」
明日香も海中に身を躍らせて、腰から下を上下させてマリアの後を追う。
水中で深度を保ち浮遊するドルフィン。
「それじゃ、訓練海域まで潜航して行きますよ。後に続いてください」
頭を突っ込んだコックピットに、飛鳥の声が伝わってきた。
今回使うのは、上半身を透明なドーム状のコックピットに入れて全身を伸びた板に乗せるタイプ。
潜水深度は100m程だが、海を感じるのには水中バイクに近いこのタイプが楽しい。
上半身の部分には空気が供給、換気されていて推進速度と進路はステック状のレバーで操作ができる。
横移動はステック操作で、体重移動を重ねると更に巧妙な動きができる。
春日 渚達の意見を取り入れて改修してある。
コックピット内は【遮蔽】で身体が動いても、海水が入ってくる事は無い。
三人横になれるタイプに潤を挟んでマリアと明日香。
二人乗りには
健には乙葉、天河には鈴華。
千秋とジェイド
羽田 毅と俊恵、
速水小梅と明日香のお婆ちゃんと言う組み合わせ。
ちょっと大柄な美代と、ボッチ隊長の飛鳥は単座仕様だ。
だが、美代はバイク同様に、すぐに乗りこなして見せている。
重心移動を使って滑る様に海中を進む。
もう、飛鳥の手解きなんて不要だろう。
「楽しい!これ!陸王の代わりに頂戴!」
通話の道具を使って、並走している潜水艇の修造にオネダリをしている。
「明日香のS字コーナーの切り返しは母親譲りだな!」
若い頃に会った美代は、ローライダーを鮮やかに乗りこなしていたが、レース用マシンでも乗りこなしそうだと思う程。
船内から見ている田宮も呆れ返っていた。
先頭を行く飛鳥にとって、冷たく無い筈の海水がとんでもなく冷たい。
最新型のドルフィンなのが救い。
『良いもん。
今日の夕食時には、ジェイドさんの従兄弟達が挨拶に来てくれるもん!』




