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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
864/928

864 間話 レディース 21

夕刻 祖母の如月咲恵と母 美代を連れた一行が、名古屋で新幹線を降りて知多半島から、九鬼の高速船で伊勢志摩を周り、沖で試作の潜航艇に乗り換えて別荘の地下ドッグから上がってきた。

天河も健も、もう随分と慣れて驚く事も少なくなったが、流石に潜航艇には驚くしかない。


「羽田さん」

「うん。なんだい?」

「この技術があれば、原潜なんか不要ですよね?」

「まぁな。だが、オープンにはできない技術だろう?」

「まぁ、そうですね」

健が初めて目にした潜航艇。

魔石と陣を使って推進力を得る。

スクリューは無く、ハイドロジェットの海水の放出口が船体の側面後方4箇所に付いていた。

「悔しいなぁ〜」

「まぁ、極秘に進めてきたからな。でも、これは試作機だぜ。

これからまだまだ、開発・改良の余地がある。

波防石の設置、監視用だ。

ボーズが使えれば、もっと性能が上がるさ」

「ボーズですか・・・・」

ヘルファーの船体に、遮蔽の術を使った30mほどの潜航艇は次第に姿を消してドックには波音だけが響いた。


予想に反して咲恵と美代は、船内で大はしゃぎで耐圧窓から見える海中の光景に興奮して明日香に伝えている。

如月家の出自に関わる真実なんて問題でも無い。

娘の結婚相手なんて、こっちはもう織り込み済み。

話は美代がつけていた。


祖母の咲恵は明日香が将来こうなるのかな?と思わせるような小柄な女性。

対して母親の美代は、豊かな肉感がある大柄の女性だ。

養子の父 行雄と兄 学は、ごく標準的な日本人の身体つき。

実は、バイクに興じていたのは美代で、ハーレーで日本一周を達成していた。

この旅の中で速水の両親と出会って、結婚後も友情を繋いでいた。


蔵には戦前の陸軍用バイク。

修造が、蔵の中で古池の秘書が撮ってきた映像を見て固まった。

カバーを掛けられ保管された大型のバイク。

黒光した車体が美しく、錆どころか埃さえ付いていない。

かなり古く

「これ・・・・戦前のハーレーに似ているが・・・・まさか陸王?」

角度を変えた映像を見直して、エンジンフレームに【三共】の文字を見つけた。

静かだった修造が咲恵に土下座した。

「【陸王】を私に譲って下さいませんか!」

「陸王・・・・確かそう言う名前でしたね。

祖父が軍にトラックを供出させられて代わりに押し付けられましてね。

サイドカーを着けたまま使っていました。

トラックを使う程物資がなかったですから二つ返事で頂いたそうです。

私も父母が仕入れに行く姿を見たり、母に抱かれて浜に行ったりしたもんです。

動くようになりますか?

そうでしたら、お譲りしますよ」

「勿論です。京都の田尻のファクトリーに持ち込ませます!

田尻!青には伝えて置く。金属加工なら遠慮なく言ってくれ!

資料なら揃えて見せよう。【陸王】を必ず復活させてくれ!」

余りの剣幕に、「解りました!」と言うしかない。

「陸王? そんなバイクあったのか?」

「あぁ、マリオ!コレだよこれ!」

修造が、マリオを捕まえて興奮している。

「・・・・・なんだ、大戦中のハーレーのコピーだろう?」

「違う! コイツはハーレーから正式にライセンスを購入して、日本で作った750ccのバイクだ!」

「動くのか?」

「動く!動かしてみせる!」

「俺も、戦時中のハーレーを何台か手掛けたが面倒だぞ。部品はどうするんだよ?

キアも作り直しだろうし、エンジンは別物になりそうだぞ」

「手作りしてでも、なんとかしてみせる」

「マリオ。お前、このタイプのレストアの経験があるのか?」

「あぁ、南部の男は、こう言った古い物には目がないからな・・・・

ハーレーは元より、あのカワサキのエンジンだってそうだ」

「なら、決定だな。お前、京都にしばらく住め! お前に任せた!」

「なんで!」

「いや、俺このタイプのバイクは、あんまり経験無いんだ!

失敗したら、どんな目に遭わされるかわからん!」


「パパ・・・・面倒くさそうって言いながら、写真から目が離せないでいる」

「私も、九鬼先輩がバイクにも興味があるとは思いませんでした」

「修造は、こう言ったおもちゃ感覚の物が大好きだよ。

だから、FRP全盛の、この時代に殆ど木で組み上げたヨットを大事にしているよ」

「私もヨットについては、その意見に賛成ですね」

「そうだったな。だから、潜航艇の開発に金まで出して」

「萩月程では無いですよ」


「明日香! なんで、そんなお宝の事教えてくんなかったの?」

「いや!なんでこんな動かない、古いバイクがあるんだろうって思っていたんだけど・・・」

「俺も蔵の奥に、そんなバイクがあるなんて知らなかった!」

「私も、サイドカー付けてお爺さんが、お婆ちゃんを乗せていたのを覚えている。でも、動かなくなったしね。

コイツに憧れてバイクに乗るようになった。

だから、愛車はハーレーにしたし、日本一周の旅で速水さん夫妻に出会ったからね」

挨拶もなしに、一台のバイクで盛り上がってしまった。


「鈴華は、車の運転はできるんだろう?」

「えぇ、無免許ですがシュミレーターと教習コースで訓練しますから。

バイクも乗りこなしますよ」

「じゃあ、陸王が動かせるようになったら!」

「ダメです。大型自動二輪免許を取るには18歳になる事が必要です。

本当!天河さんも、こう言った物が好きですねぇ〜」

「乙葉?」

「私も運転できますが・・・・出来れば助手席で居たいです」

「解った。夏には車の免許を取る」


「どうした?飛鳥?」

「なんか、腹が立っています」

「あぁ、健の事を見守る為に近寄って来た男を振ってきたんだものねぇ〜」

「年齢詐称でしたら出来たでしょうに・・・・そうすれば、同じ学校でクラスメイトになれたはず・・・・」

「(いやいや、飛鳥はまず授業について行けないから、だから、隣の女子大に行かせたんだから)

そこが、室と綴の違いかな? 彼女達は化けるの上手いからねぇ〜

でも、任務の際は恋愛関係ご法度。

対して室は、日本の法には従順。でも、恋愛についてはフリー。

その差が出たね。

明日の夕刻にはジェイドの従兄弟達が、先人の工事を参考にここに来るよ。

休みが近いから、ドライブにでも誘ったら?」

「良いんですか?」

「むしろ、お願いするよ。この別荘もしばらく滞在者が多くなる。

悪いけど、ジェイドの従兄弟の相手ができないよ」

「解りました!多喜 飛鳥!拝命いたしました!」

「あはは、大丈夫かなぁ〜」


歓迎の夕餉を開く前に、早乙女医師と看護師による健診が行われた。

マリオ、マリア、速水姉弟、如月一家が男女に別れて別室に入る。


その間、如月家で見つかった妙蓮直筆の日記に記された秘密を読み取っていった。


「日本にもいた訳さ。ファミールの子孫が・・・碧、説明してくれ」

脩に促されて、アン王女とポアーザから得た情報を纏めて、ファミールとアシのこれまでの生殖について得られた情報を碧が説明し始めた。

「まず最初に、如月明日香さんにはファミールの血が流れているわ」

「やっぱり・・・・」

カミラが頷く。

「でも、明日香さんには、うなじに鱗なんてないぞ?」

マリアとマリオが疑問の声をあげる。

明日香は小顔で、栗色に染めたウルフカットが良く似合う。

メットをかぶる時に長い髪が邪魔なのだ。

当然、首回りは顕なので横に立つマリアと違い鱗は無い。

小梅は逆に髪を靡かせて走る感覚が好きだ。

「もうそれだけ、血が薄まっていると言う事だ」

脩が皆を納得させる。

「えぇ、明日香の後ろ髪の生え際。皮膚の下に少しゴツゴツした部分が有るんですよ。本人も気にしていて・・・・・」

「潤・・・・」

「如月家。初代のあずさ様の、ご実家は消息がわからないんです。

おそらく途絶えたんでしょう。

ファミールの子孫でしたら、男児は産まれにくいですし、男系相続が殆どですから女児から女児へと人間の中に紛れ込んでいるのでしょう」

如月咲恵に帯同してきた古池一郎の秘書が、調査中の報告書を読み上げた。

マリアが明日香に断りを入れて、うなじに指を這わせる。

「確かに皮膚の下に鱗の名残はあるね。お婆さまにも有るんですか?」

「あぁ、明日香よりハッキリした物がね」

カミラが同じ様に指を這わせる。

「有りますわ・・・・・」

「私にも有るけど、この二人ほどハッキリしていない。首筋にお肉もついているからね!」

豪快に笑う美代。

「カリブのファミールでも、時代が重なっていくと殆どウロコが見えなくなっています。もう数世代で同じ様に消えていくんでしょうね。

と同時に、契約者の縛りは無いようで男児も産まれて来ています。

今回の移住計画でも、人と変わらぬ生活をしている女性はカリブに残ります」

「そうね。私達みたいに髪を長くして頸を隠す必要無ければそれで良いわ」

「それに、私達にはCCFからこれが支給されていますから」

そう言うと首から下げていたクロスのペンダントの裏側をマリアに見せた。

そこには、小さな黄色い魔石が埋め込んであった。

「ここを押すんです」

アップにしていたマースルのうなじの鱗が消え失せた。

「消えた・・・・」

「陰陽師の術か?」

「陰陽師では無く、アーバインの術です」

差し出されたクロスを見ると、非常に細かな細工で陣が浮かび上がっている。

これを彫り込んだアトリエに置いたレーザー加工機は、まだまだ現役だが近々、更新せざるを得ない。

国の安全規格が厳格化した事ともう部品が無い。

アーバインに持ち込む事も考えたが、主要部品の廃棄マニフェストの提出が必要で断念した。

多くの技術者を育てた故阿部先生の愛機も眠る事になる。

「隠蔽とか偽装とか言っている術ですね。

アーバインでは、洞窟から海に繋がる広大な台地を覆う様に広げた布が覆っています。ですから、私達はアーバインの太陽の光を知らないんです。

衛星軌道上から監視している侵略者からの攻撃を避ける為です」

「えっ!星里さんって、アーバイン人なんですか?」

「そうですよ。CCFには多くのアーバイン人が参加しています」

「俺も、アーバイン人だよ」

脩がニヤリと笑った。

「監督は知っていたんですか?」

「あぁ、知っていた。

脩のお父さんが居たからこそ、陰陽師達は力を取り戻し、幾つもの人類の危機を救って来た」

「私達や、陰陽師の力だけじゃないですよ。

CCFの皆さんや世界各国の警察、軍。

何よりも耐えてくれた一般の方々のおかげです」

「あの紫の霧の災害もそうですか?」

「あぁ、脩がアフリカの大地溝帯から発生していた、あの霧を止めたんだ」

「話すと長くなる。後で映像を見せるよ。

ファミールの件に戻ろう」

「あぁ、その前に! マリアとマリオに渡したそのペンダントにも、ウロコを隠す陣が準備されている。

必要なら起動させるが試すかい?」

ソファーに、腰掛けたままのマリオに千秋が膝をついて話しかけた。

このソファーが、この屋敷の端末と繋がっている。

まだ、日本語がぎこちない二人を補助する為だ。

だが、若いせいかマリアはもう明日香と話し込んだりしていた。

「あぁ、頼む。冬は良いが夏は首筋を隠すのに苦労をする。

特に、このアクアマリンの鮮やかな色合いは目立ってしまう」

「そうね。刺青で周囲を描く図柄も有るけどね」

マースルが、幼気な少女の首筋を覆う刺青の写真を見せた。

「やはりそうか。マリアも刺青を入れられる儀式の直前だったんだ。

アマゾネスは、男を迎え入れる前に一年をかけて刺青を入れる。

それが終わると、男が待つ煙で燻された部屋に入って女となる」


マリオが、その部屋を思い出したのか目を閉じていた。

最初は快楽だったが、青の洞窟で横たわって身体を休める間は苦痛でしかなかった。

身体は、すこぶる健康になるのだが心はささくれ立っていく。

そして、又夜も昼も無く女が跨る。


マリオのペンダントを操作して、うなじの鱗が消えてマリオの肌が広がった。

マリアも術の発動と解除を繰り返す。

「術が起動していても、鱗の働きには影響ないわ。

それは、明日試す事になるわね。

ただ、マリオさんは心臓の事もあるから明日は精密検査と治療ね」

明日になれば、治癒師と心理師、マインとスインが子供と弟子を連れて来る。


「でも、潤は良く明日香のうなじの鱗の跡に気がついたわね?」

「そりゃ、子供の頃から一緒に抱き合って寝ていたからね」

「あぁ、そういやちっちゃい頃は、秩父で潤と明日香は抱き合って寝ていたわね」

「これかい?」

お婆ちゃんが数枚の写真を取り出した。

そこには同じ背丈の、小学生にあがったばかりの男女が抱き合って眠っていた。

潤の腕枕で、頭を胸に押し付けている明日香。

潤の右手は明日香の後頭部に添えられていた。

「学兄さんが、やきもち焼いたけど・・・・どうしても潤が良かった」

「それを聞いて、潤君を婿にする事に決めたんだよ。

うちに遊びに来てくれた時に確信したね」

「それって、二人が10才くらいの時よね!」

「オヤジ達には話していないけど、俺はそのつもりだよ」

「・・・・小梅 ゴメン・・」

「・・・・結婚は、本人達の自由だよ。私は邪魔する気がない。

それに、明日香ならば昔から妹みたいなもんだ!応援するよ!」

「ありがとう。姉貴」

「・・・ありがとう。小梅ちゃん」

「それは、良かった! でも、不思議・・・ファミール同士が一人の契約者を巡って殺し合いをするのに明日香には殺意が湧かない」

促されて明日香は潤の胸に抱かれてみた。

「やっぱり、殺意は湧かないわ・・・・薬が身体に染み付いているのかしら?」

「違いますよ。マリアさん。私が潤さんに視線を送ったら、私に対して殺意をむけて来たじゃないですか? 如月さんのファミールの血が薄まっているんですよ」

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