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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
863/926

863 NY 新生活 18

地脈の交差点へ調査に向かった時の話です。

霧もなく晴天に恵まれた草原の中を行く一行。

洋樹に肩車された明菜が燥ぐ。

荷物を、収納に入れているから楽なものだ。

だが、流石に何も持っていないと怪しまれるので幻影を纏わさせている。

明菜だけ、お菓子と飲み物が入っているリュックを背負っている。

まぁ、お菓子も自分の為のものでは無い。

頭上と前後左右を行く管狐達のオヤツだ。

ハイキングコースの入り口まで車で来た。

車2台は、洋樹の収納の中。

相変わらず化け物じみた容量だ。

転送陣を使っても良かったが、運転に慣れておきたかった。

「地脈に沿って植生が変わるわね」

美沙緒が、タブレットにデータと映像を落とし込んでいる。

ここまで、強い地脈だと瑠璃で無くとも良く分かる。

瑠璃には、地下深い部分を探らせ、早苗には周辺のハイカーの動きを見させている。

季節柄、もう冬が近い為かハイカーには出会わなかった。

もう、何箇所か地脈が潜り込む場所を見つけていて、気になる痕跡が残されていた。

熊は現れていないが、小動物は結構姿を見せてくれる。

中には餌付けされた経験が有るのか、一行の目前に出て来て食い物をねだる狐がいる。

「いけないわね」

「あぁ、お互いの為にならないのに・・・・・」

威圧をかけて追い払う洋樹。

「可愛いんですけどね」

動物付きの香織がため息をつく。

この草原に入って、放置された人間の食べ残しの跡がいくつか有った。

草原の中では水以外の飲食が禁止されている。

見えて来たビジターセンターでの飲食だけは認められている。

アルコール類の持ち込み、喫煙も禁止されている。

「・・・・・霧の中を歩いていた昨日と同じ人たちですね。それに、先程のセンサ」

交差する遊歩道に設けられていて移動方向と人数が把握される。

大学の名前が記されたプレートが置かれていて、時間と人数、移動方向しかデータを収集していないと説明書きが添えてあった。

『同じ大学で、防犯の実証実験でパークにセンサを設置して調査を行った事がある』

と透歌が調べていた。

だが、気になる。

早朝のせいかもしれないが、大学に連絡がつかない。


早苗が、注意を呼びかける。

逆方向から来る集団。

8人組。

男性5人、女性3人。いずれも若い。

ハイキングを楽しんでいる学生?

それにしては、荷物が少ない。

フェンス内にテントが3張り有るから、そこで寝泊まりしている様だ。

「どうする? 先にフェンスを開けて中に入る?」

真弓が聞いて来た。

気配感知には、この8人とフェンスの中に管理人らしき二人が居るだけだ。

それに、彼等がやって来た方向の草原に二人。

管理人達は動かない。


「立ち止まったら怪しまれるわね」

すっかり、ゲリラ相手でこういった状況に慣れた真弓。

「明菜。建屋の中を調べてくれ。トイレの中も頼む」

「うん!解った。パパ」

姿を消した管狐達が、ビジターセンターに向かっていく。

「瑠璃?」

「全員、ナイフを持っている。コンバットナイフよ。それに、二人は熊や狼撃退用の威嚇用のデッカい音が出る音響銃も持っているわ。勿論、スプレーもね」

「他に気づいた事は?」

洋樹は、敢えて口を出さない。

「左手首にスマートウォッチ。メーカー名は無いわ。・・・・・水筒が無いわ」

天測で見る訓練をしている。

「よく気づいた。そこをついてみようか」

「パパ、トイレは大丈夫。テントの中には荷物がいっぱい。

おじちゃん二人が縛られていたわ。お漏らししていて苦しそう」

「そうか、やっぱりここに何か仕掛けているか、俺たちを待っていたかだな。

美沙緒さん」

「えぇ、上空からの景色は偽装にかかったわ。

私達の姿は隠してある。向こうの連中だけ見せている」

「何処かのエージェント? 衛星電話が切れて、向こうもキレている」

早苗がコチラに向かってくる女の口元を見てそう報告して来た。

「はぁ、見習いか・・・・・」

連絡が切れたら、リダイアルをかけるのは悪手だ。

向こうからの発信を待つのが、現場の駒のセオリーだ。

少し早歩きにしてビジターセンターのフェンスに近づく。

向こうはフェンスの前に慌ててやって来た。


「ヤァ、いい天気で良かったですね!」

「そうだね。いい天気で幸いだ。可愛い娘さんだね。

ハイキングかい?」

「えぇ、そちらは何かの調査ですか?」

「どうして?」

「いや、フェンスの中にテントが見えたもんだから。

この時期じゃ、寒くってハイキングには遅いでしょ?

熊は居ないから助かりますが・・・・・」

「熊は居たよ。

それで俺たちも引き上げて来たんだ。

冬眠前の熊は危険だからね。

帰った方がいいよ」

「そうですか!どこに出たんですか?」

「ほら、ちょっと離れているけど向こうの丘の下の林だよ。

アソコの谷が熊の寝床になっている様だ」

男の一人が、自分達がやって来た方向を指差す。

指し示した熊が出たと言う林は霞んで見えない。

1キロ以上は有る。


「解りました。引き上げますが、お昼とトイレを済ませます。

中に入りましょう」

「パパ! 早くトイレ!」

「あぁ、ミキ!すぐに行こう!」

明菜と呼ばずに、ミキと呼んだ時には同じ行動を直ぐに取るという合図。

念話を使えるから無意味だが、向こうに聞かせる為だ。

娘に急かされたフリをしてフェンスを開ける。

美沙緒達も駆け込んだ。

向こうも入ってこようとしたが先に飛び込んだ。

そして、フェンスをロックした。

傍目からは、ただ後ろ手に閉めただけに見えて居るだろうが、ガッチリと閉まっている。

フェンスポールとの間に見えはしないが遮蔽の術が発動されている。

乗り越えるには鉄条網が邪魔だ。

さて、どう出るか?

建屋の中に入る際にも、罠の類は確認されなかった。

ただ、鍵がされて居る。

だが、鍵はあっさりと開いた。

「オイ!鍵が開いているぞ!」

「そんな馬鹿な!鍵は一緒にかけただろう!」


鍵は内側から管狐が開けて待っていた。

館内に入ると、真弓と香織がペアになって、縛られている二人の救出に向かう。

温水シャワーを使わせて着替えさせないと、いかな男性でも恥ずかしいだろう。

顔は認識阻害で隠して居る。

静香と瑠璃は裏口から素早く柵を越えて、離れた現場でコチラを伺っている女達の対応に向かった。

綴と室に鍛えられてスッカリ忍の域に達して居る。

一つづつ透歌から受け取った飴玉を手に握り込んでいる。


仁王立ちになって対峙する洋樹。

ガチャガチャとフェンスを揺さぶる連中

「おい!ここを開けろ!」

「何をした!」

「開けなさい!」

「鍵なんかかけていないですよ」

フェンスポールを挟み込む方式のストッパー。

確かにフェンスポールを挟み込んではいない。

だが、ビクともしない。

「くそ!お前たち何者だ!」

(おや? こっちの素性を知らない? 偶々か・・・・だが、何かをやっていた筈だ)

『透歌!早苗! コイツらのテントの中の荷物。調べてくれ!

向こうの視線は外しておく!』

『『はい』』

何人かが周囲を回った様だが、もう一箇所の出入り口は元から鍵が掛けられている。

『コッチも、念の為に動かない様にしたわ・・・・解った!私が外す。

二人はビジターセンターに戻りなさい』

『助かるよ!』


「おい!そっちからも開けるの手伝ってくれ!」

「じゃあ、質問に答えてくれ。

コッチは、ご覧の通り子連れで女ばっかりだ。

安全を担保したい。

何故、こんな季節外れの時期に、テントを張ってここに居る?」

「俺達は大学の研究で、ここに居るんだ」

「何の研究?」

「冬季に移る際の、草原に住む小動物の行動だ」

「そうか、で、さっきここから1キロは越えている場所で熊を見て引き返して来たそうだな?」

「あぁ、デカい灰色熊だ」

「そうか、それで音響銃か・・・・だけど、皆さん。学生としては不相応な、お揃いのナイフを利き腕が届く位置にぶら下げている。

本当に学生か? 仲間のシンボルか? それとも支給品?」

「・・・・・・・」

全員の手がナイフか音響銃に手が伸びる。

「それに、お前ら水はどうした?」

「バックパックの中だ!」

「入っていないだろう?」

「お前・・・・・」

「ここから、そうだなぁ、300メートルってところか? 

その草原の中で、何の為の穴を掘っている?

水はそこで飲んでいたか。穴掘り役はやはり男か? 

膝に土がついてるぞ。

女達はセンサに引っかかった連中の行動監視役みたいだな? 

そして、オペレーター。未だ二人女が残っている」


「ドローン?」

「いや! そんな姿は見えない!」

「お前ら、萩月だな!」

「君達は、ファッジスの下っ端かな?」

センターの中から声が聴こえる。

「アイツら、一昨日センターの中に入って来ていきなり殴りつけて来た。

奴が持っている銃は音響銃じゃ無い! デーザー銃だ!

高電圧のワイヤーを飛ばしてくるぞ!」

その声に煽られて馬鹿な二人が、音響銃に偽装したデーザー銃を抜いて、いきなり発砲して来た。

洋樹は平然としている。

何故なら・・・・

「馬鹿!」

女が慌てて、射手から離れようとしたが遅かった。

ターゲットに当たると例え服の上からでも、超高電圧で相手を無力化させる。

二人とも良い腕だ。左右に挟み込む様に撃ってきた。


電極は潜り抜けたが、ワイヤーが金網にあたって盛大にスパークが走る。

動画を見た事がある人は知っているだろうが、デーザー銃は丸まったワイヤーを引っ張って電極が飛んでくる。


偶然、電極が網を抜けたとしてもワイヤーがフェンスの金網に触れるわけで、ショートして切れたワイヤーが射手に戻って来る。

弾け飛んだワイヤーが、女の一人を感電させた。

バチ!と言う音がする。

気絶はしないが痛みが走る。


うぐ!

悲鳴をあげないところを見ると鍛えられている。

しかも、何とかテントの中の荷物と目撃者を消そうと、スマートウォッチを操作するが反応しない。

「物騒な奴ね。自分の荷物に軍用プラスチック爆薬仕掛けるなんて」

プラスチック爆薬に突っ込んでいた信管が外されて宙を飛んで足元に落ちた。

ならばとヘッドセットに向かって叫ぶリーダーらしき男。

「撤退しろ!コッチは俺たちが食い止める。

応援を呼んでコイツらを草原から出させるな!」

ナイフを構える8人。

感電した女も気丈に立ち上がっていた。

フェンスから出さなければ良い。

ビジターセンターの、電話線は切ってある。

無線機も壊しておいた。

もう暫くしたらヘリで埋め込む機材が届く。

ヘリに乗って来る連中は、気味が悪いが腕コキの魔術師だ。

奴等が始末してくれる。

「健気だね。で、お仲間から返事はあったかい?」

「おい!セブン!返事しろ!」

セブンを始め2人の女達は草原の中で、口に飴玉を放り込まれて昏倒していた。

鈍い地響きが2回伝わって来た。

顔を見合わせる下っ端共。

「何の爆発音だ?」

「現場には、爆薬なんて置いていないぞ!」

「お前たち!手榴弾でも投げ込んだのか!」

リーダーがコチラを睨んでくる。

別働隊が居たのか!

「どうやら、君達は何も知らされていないんだね? 装備品が自爆する事を」

チラリと自分の左手首を見るリーダー。

釣られて他のメンバーも気付いた。

「手を触れるな!ハッタリだ!」

「あぁ、もう外しただけで爆発するぞ! 手を触れないでくれ!」

草原の中では二人の女が、この冬空の下、真っ裸にされるところだ。

静香と瑠璃は予め左手首の時計は鎌鼬(かまいたち)を使って切り飛ばし、瞬間に盾で地中に押し込んで自爆させた。

「クソ!何が起こっている!」

「デーザー銃に軍用プラスチック爆薬。

まぁ、ここで何をしていたかは調べさせてもらうよ」

「散開しろ! 連絡が途絶えたんだ! 直ぐに応援がやって来る。このまま、フェンスの向こうに閉じ込めておけばこっちの勝ちだ!」

そう言った筈だが、口に何かを詰め込まれた。

残りの連中も同じ様に、口の中にゴムの様なものが入り込んで歯を食いしばれない。

早苗と瑠璃が、全員の奥歯に何かがある事を見抜いた。

道士では無さそうだが、ファッジスが道士と接触しているのは明らかな以上。

セサミの存在が疑わしい。

転送を使って口の中に送ったのは、陣を抜けたら膨らむ飴玉。

口蓋部分だけを広げて呼吸困難にはしない。

歯に引っかかって指を突っ込むことすら出来ない。

舌で押し出すなんて無理だし意識も無い。

悪辣発明家兄弟の跡を継ぐ者達が考え出した人道的な兵器。

鼻腔に抜ける衝撃的な匂いが堪らない。

洋樹は倒れた全員の腕から、転送でデジタルウォッチを一気に外した。

針が飛び出して、本体が粉々になる。

「本当、トカゲの尻尾切りだよな」

「この人たちは、この仕掛けを知っているのかしらね?

爆発した煙に含まれる有毒ガス。

「サンプルしたけどVXに間違いないわ。地中に押し込んで盾で覆わせて正解だったわね。二人は無事よ。裸にひん剥いて見ているわ。

蟲の鳴き声はしないそうだけど注意は必要ね」

「ヘリが来るそうだが、来そうもないな。何を仕掛けるつもりだった?」

「呪旗じゃ無い?

それも、態々(わざわざ)ヘリで運んでくるほど大掛かりな物よ」

「だろうな。回収を呼んでくれ」

「もうじき来るわよ。その為に影護衛が居るんだから」

「とんだ、ハイキングになったな。心理師も呼んで職員の記憶を・・・・・」

「私がやるわよ。

CCFにも入り込んでいるんだから、情報は出さない様にするわ」

「やれやれ、又、早朝会議か・・・・・」

「向こうも、収穫があったそうだから長い会議になるわね」

「ポストに泊まろうか?」

「「そうね」」

嬉しそうな真弓と香織。

今夜は、二人で洋樹を挟んで寝る事になる。


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