853 間話 レディース 11
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Saka ジ
2025/05/14
マリオを見送りに来た脩にマリオが告白した。
「マリアが、まさかあんな行動に出るとは思わなかったよ。
きっと、姉達に聞いていたんだろう。
居住地に【タン】と言う果物がある。
コイツは実っても苦い。
だが、それを干してやると甘みが出てくる。
滋養にも良い果物だが、契約者の物はそんな味だそうだ。
俺は自分の物を、舐める気はしなかったから解らんが・・・・」
マリオは後部座席の、娘の横に座る男の顔を見た。
「そう言う訳か・・・・納得したよ。それじゃ、潤達と仲良くなれる様に話をしてくれ」
そう言うと、脩は自分の車に向かった。
『マリアはコイツの物は、タンを干した味がしたと言った。
確かに契約者の様だな。
俺の義理の息子になるのか?』
そんな考えを邪魔する様に、ハンドルを握った田尻が助手席のマリオに尋ねる。
「マリオさん。あのバイク。エンジンはどうしたんだ?
Kawasaki のエンジンなんだろうが結構古いな」
「あぁ、20年ほど前にアメリカで活躍していたライダーが残してくれた物だ」
在野の陰陽師 田尻 渉。
覚醒が遅かった。
何よりも、真悟と亮太の世話をしたレース屋の監督だ。
若くして立ち上げた、真悟と亮太を擁していたチームは解散。
だが、羽田家が話を付けて新たにチーム【more】を立ち上げた。
それ以来、この分野でのマネジメントを任されている。
メカニック・スタッフの殆どは、在野の陰陽師。
ライダーの中にも陰陽師が居るが、陣が無ければ式を使えない。
身体強化だけは会得させていた。
ほぼ一般人として生活している。
羽田の学園卒でも、在野の陰陽師の殆どがこの程度。
落ちこぼれに見えるが、多喜姉妹はアレでも優秀な方だ。
実践を積まないと、成長出来ないタイプ。
速水姉弟、如月は一般人だ。
熊野に向かうメンバーを除いては、羽村のファクトリー向かって車載車を帰途に就かせている。
アトランティスのトレーラー、マリアージュの車載車は亮太が率いて、京都市郊外のファクトリーに帰って貰った。
関西で室や綴の配下が使う車両も、ここで整備している。
マリアージュのスタッフは、マリオのチームに以前関わった老人達ばかり。
観光がてら1台のマシンだけの為に揃えた3人。
彼等も、松坂から京都と東京へ観光して帰るそうだ。
車もレンタルで関空からバイクを載せて運んでもらっていた。
個人にしては、資金を持っている。
今、2列目のシートに潤を挟む様にして、プラムとマリアは並んで座っている。
ポツリ、ポツリと自分の事を話すマリア。
車中で長い髪をあげて見せてくれた頸の鱗は濃いブルー。
ラピスラズリで作られた芸術品に見える。
資料代わりのタブレットを膝に置いたまま、潤はタブレットを見ずにマリアを見つめていた。
【ファミール】
まさか、本当に人魚がいて人の中で生活しているとは・・・・
手足は普通の女性と変わりはない。
身体も・・・・胸は潤の好みの大きさだ。
つい、見惚れてしまう。
宇宙の彼方から連れてこられた、竜人と海洋生物の間に産まれた海の竜人。
人魚と言ってもおとぎ話の様に異鰭があるわけでもなく、ただ身体をくねらせて泳ぐ。勿論、水中での活動が長時間可能。
やはり、休息が必要で最低でも数時間に一回、水中から顔を出して浮かんでいる。
男児が生まれる事は稀で、人間の雄の中でも特定の者『 契約者』と番う(つがう)しかない。
そして一度、その雄と番うと、その雄以外とは番えなくなる。
更には、その雄を巡って女同士で殺し合いすらする・・・・・
前の助手席に座り、田尻と話すマリオの頸にも少し縁が茶色いブルーの鱗が見て取れる。
意を決して姉が、前のシートに座るマリオに
「マリオさん。少し鱗に触らせて頂けますか?」
速水らは、そこそこ英語とスペイン語ができる。
それで、コンビニでも重宝されていた。
「ええ、構いませんとも!」
指先で触れると結構硬い。
それこそ、刃物なら弾ける程に。
「でも良くパスポート取れたな? 特にマリアの分」
「入手方法は違法だが、パスポートは本物だ。入手方法に関しては金を要求されたが、それよりも価値が有る物を私は持っている」
マリオは頸の辺りに手を添えて鱗を一枚抜いた。
血が滲む。
「ヒィ!」
「大丈夫かい?」
「あぁ、もう血は止まる。驚かせてすまないね。プラム。
どうせ、CCFに渡すつもりだから心配しないでくれ」
「鱗をかい?」
「人魚の雄を共有化させる秘薬。そいつが、この鱗に蓄積されている。
そしてこれが、人の男にとってはとんでも無い価値を持っている。
精力剤だよ。
それこそ、不能者でも枯れてしまった老人でも、本当に空になるまでその気にさせる。
そして、女性には強い催淫効果がある」
「オイオイ、仕舞ってくれ!」
「大丈夫。少しばかり加工しないと、ただの鱗だ。
これを代償に、チームを再開、運営させる為の資金と娘に必要な全ての書類を揃えた」
マリオは、血を拭ってハンカチに包み、鱗を小梅に渡す。
落ち着きを取り戻した彼女。
大きさは人差し指の先程で薄いが、とんでも無く硬い。
それこそ、刃物でも弾き返してしまいそうだ。
「薄いのに硬いですね。どう言う働きがあるんですか?」
「水中に入ると此処から水中の酸素を取り込むんだ。
魚の鰓の様にね。
だが、私達はそんなに酸素を必要としない。
だから私やマリアの口と鼻を塞いでも無駄なんです。
それで、命拾いをしましたよ」
マリアに視線が飛ぶ。
「マリアさん。そんな事が有ったんですか?」
「アマゾンの奥地から、メキシコまで迎えに来た父と一緒に逃げ出したんだ。
6年いや、もう7年前になる。
メキシコで、父を待っていた時に変な野郎達に襲われてね。
誘拐されかけた。
相手は、私が人魚だとは気づかなかった様だが、後ろから麻袋をかぶせられた。
そこで、ぐったりとして見せたら油断してくれてね。
あんたらは経験ないだろうが、麻袋を被せられると呼吸困難になって人間は意識を失うんだ。重いし嫌なもんだよ。
一人になったところを操った。
あとは、ご想像通りだ。
麻袋に身体を縮めて入って貰ったよ。
どっかに売り飛ばそうとしていたんだろうね」
「私が連中を始末しました。大事な娘ですからね当然ですよ」
誘拐犯達は、タダでは済まなかったのだろう。
「それじゃ、マリオ。お前さんはどうやって、レースの道に入ったんだ?
アマゾンの奥地に居たんだろう?」
「俺が姉を相手にする事ができる様になるまで、探検家の一行を捕まえていた。
男の精を受け入れなければ命に関わる事は無い。
女達は、その対策を探検家達が持っていたコンドームで知った。
女達は、下流の街に川から忍び込んで、雑貨店を荒らして日用品や食料、そしてなによりもコンドームを盗んできた。
代替品もあった様だが俺は知らない。
魚の浮き袋か、腸かそんなところだろう。
男達は長い者で三年。オモチャにされ続ける。
この鱗に染み込んだ成分を持った薬草を、タバコの様にして吸わせ続けるんだ。
それこそ、ちょっと女が触れればその気になる。
その中の一人に、フロリダから来た青年が居た。
男達に休みを取らせる時に、その世話をするのが俺だった。
女達に世話をさせたら直ぐに跨るからな。
その時に彼が持っていたんだよ。
バイクレースの本と鍵の束をね。
俺は休む彼らの相手をして、言葉を習い生活習慣を覚えてバイクを知った。
3年後。
動かなくなった彼の代わりになった時に、俺は生まれ変わった。
解るだろう。
その彼が【マリオ ライドル】なんだよ。
彼の知識と記憶を受け継いだ。
そして、彼のマシンと財産もね」
「だからか!その名前に聞き覚えがあった。潤!調べてくれ!」
「驚かないで欲しいが、俺が使い物にならなくなったのは未だ20代だったんだ。
ライセンスはもう、60を迎えている事になっているが、俺は40を超えたばかりだぜ。この顔と名前は他人の物だ。
化ているんだ。
これも俺の能力でね。
若くして精を吸い取られきった俺は、マリオ ライドルとしてフロリダに帰り、自分に代わる契約者探しだよ。
契約者の方が、彼女達に言わせれば味が良いそうだ。
逆らえば、自分が産んだ俺の娘を殺すと脅すんだ。
もう、集落の女達にとっては種の保存は、どうでも良くなっていた。
禁忌となっていた薬草を使い、
マリア以降は、新たなファミールは産まれて居ない。
マリアの直ぐ上の姉も契約者の男と、今頃薬草を燻した煙の中に落ちているよ。
詳しくは、脩と言う名の契約者の男の前で話す事になるがね」
車内に、重苦しい空気が流れる。
それを打ち消す様に潤が報告をする。
「有りました。マリオ ライドル。
フロリダ出身。マリアさんが娘として登録されていますが、母親は登録されてません。出生証明・・・・施設の名前です。これ、捨て子ですか?」
「母親の記録を偽装すると、又探られるからな。戸籍を作るにはよく使われる手だよ。俺が施設から引き取った事になっている」
「続けます。探検家の叔父、ジョンソン ライドル氏のアマゾンへの探検に同行。三年三ヵ月の失踪の末メキシコにて保護。
失踪期間の記憶の混乱が見られるも、本人と確認されアメリカへ引き渡し。
尚、ライドル探検隊の消息は不明。
ライドル家の申し出もあり死亡認定。
リハビリ後、地方のレースに復帰。
以降、フロリダを中心としたレースで活躍。
チーム名【ハリケーン】
2017年。マリアを引き取り養女とする。
マリアを引き取り後。
チームを解散。
2020年マリアをライダーとしてチーム名を【マリアージュ】と変更。
本拠地 シアトル。
現在に至る」
「ふぅ。ファミールも室や綴といい勝負だな」
田尻が、やっと声を出す。
「室?綴?」
小梅が、後ろを振り向く。
「まぁ、向こうに着いたら話にあがる。それに、室なら後ろに座っているよ」
「それで、同乗されているんですね」
「あぁ、サーキットでは多くの室がいた。キャミ達の作戦を知ってデグナーに集めておいたそうだ。
今は、ライダー達を収容した施設を守っている。その部隊の副隊長様だ」
「河北です」
「あなたは、デグナーで私達を回収した方ですよね?」
「覚えられてしまいましたか!不味いなぁ〜まぁ、こうなった以上。
如月さんも関係者ですから、お見知り置きをお願いします」
「でも、良くアレだけのアクシデントで、怪我人出ませんでしたね?」
「それも、河北さん達のお陰だよ。詳しくは言えないけどね」
「河北さんが、私たちに同行されていると言う事は、やはり危険なのですか?」
「えぇ、ここにいらっしゃる方だけが危険という訳じゃ無いんです。
歪んだ能力を持つ者の存在が全ての人。
日本だけでは無く、世界中の人々の明日を奪おうとしています」
「えぇ!そんな大それた事が起きているんですか?」
思わず、河北の横で声をあげる如月。
「前から知りたいと思っていたんですけど、あの紫の霧もそうなんですか?未だ、公的な発表はありませんよね」
小梅が、田尻に問いかける。
「あぁ、アレが何だったのかは判っていない
判りようがないと言った方がいいのかもしれない」
「田尻さんは、何か知っているのですか?」
「そうだね。あの現象を起こした存在が、私達が住むこの世界とは違う場所からやって来たとだけは聞いている」
「超常現象ですか? それでは、やはり、わからないと言う事ですか?」
「そう。今回のライダー達を操った方法も、催眠術の様だがキッカケがある筈だ。
今、とある組織が調査をしているけどね」




