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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
851/928

851 間話 レディース 09

さて、鈴鹿サーキットで真悟が、理不尽なお仕置きをされていた頃。

岩屋神社の神楽殿では、大勢の参拝客が自分の幸運に酔いしれていた。

何しろ、ここ一年ほど、この神楽殿に上がる事が無かった岩屋 桜が、舞を披露する事が社務所に挙げられていた。


本日午後1:00より

奉納舞 1手より13手

巫女 岩屋 桜

巫女 星里恵梨

岩屋神社

と、記されていた。


桜は岩屋神社を半年程空けていた。

治癒師と共に、懐妊して眠り続けるアンの様子を見に行っていたのだ。

この世で生殖能力を持つ唯一のドラーザの女性。

だが、ドラゴニアであり医師でも有るアンの記憶、知識にも、妊娠中期から出産まで眠り続けるドラゴニア、ドラーザは覚えに無い。

そもそも、アンがマナの泉に腰を掛け(つが)う事ができる脩との接触を仮死状態に等しい状態で待ち続けた事、そして覚醒した事は驚愕に値する。

『まるで、白雪姫の物語じゃない?』

紗羅が、その場にいたらきっとキスを強要して目覚めさせただろう。

『どうしてかしら?』

キャミとアリアを産んだ時よりも眠りが長い。

それでも、天測で胎児は順調で法力をゆっくりと吸収し、成長している事がわかった。

今度は男児一人。

前回は、出産の一週間前から目が覚めた。

脩にはわかる様で、アンの覚醒の際には枕元にいた。

その時は、覚醒に合わせてキスをさせた様だ・・・・

今回の帰国は、アーバインで間も無く出産を迎える麗子の付き添いに備えて岩屋神社に戻ってきた。

旅は大変だが、喜び事が続く事は何にしても嬉しい。

そして、待ち望んでいた女の春を迎えた巫女頭代行の代行(?)を務める為だ。

これも喜ばしい事だ・・・・。


だが、桜は戸惑っていた。

先日、千秋と引き継ぎをしたが、どうも評価が厳しいと思われるのだ。

星里恵梨に対しては特に厳しい。

書に関しても(ゆかり)は、十分に護符を任せられると言っている。

新たな護符や陣を創作する手腕。

朱雀が、その能力の高さに天上書庫への出入りを許している程だ。

舞も、恵梨の同学年の巫女達が口を揃えて

『千秋様は、特に恵梨さんにご期待をなさっています。

それこそ、次の巫女頭は星里さんにされるのでは?と思うほどです』

と、桜に恵梨を褒め称えていた。

(あれ? 舞がダメダメだから居残りを命じたと聞いたのに?)

そこで、参拝客や巫女を目指す少女、そして神職の目の前で舞わせてみようと試す事にした。

あがり症なのかも知れない。

恥をかかせない為の、千秋の優しさなのか?

でも、人前で舞ってこそ巫女。


通しだから1時間を少し越える。

破邪の舞として最も重要な舞になる。

天上書庫に残されていた、神事に関する記述を参考に作り上げた破邪の舞。

14、15手と、巫女が次々に数を増していき大きな邪を滅する舞になる。


幼少の頃より巫女を務めて義母、沙羅と岩屋神社の巫女として、巫女舞を舞っていた華麗な桜の舞。

その名の通り薄い桃色の花びらが舞う様にさえ見える。

それに対して、身の丈と手足が長い恵梨の舞は、大きな動きの中に繊細な指遣いが美しく、誰もがその美しさを誉める。

光の帯が広がる様な気がする。

舞を終えて神楽殿で礼を収める二人。

周囲の巫女と神職。幸運な参拝客。

舞を目にした参拝客は、拍手してしまうほど。

神事なのだから頭を下げるだけなのに・・・・・

その観客の中には、東郷雅樹とロイアの姿が有った。

ロイアの目が潤んでいる。

熊野大社で地脈を呼び起こした際に見た巫女舞 【重舞】以来の舞だ。

ロイアの目には舞を舞うたびに、舞台上の二人の指先から、地脈の力が光の霧となって周囲の観客に降り注いでいる事が見えていた。

普段はこうした光景を、スケッチブックに書き留める事を趣味にしているロイアがスケッチブックを開かず見入っていた。

「綺麗だったね?」

「えぇ、ねぇ、雅樹にはみえた?」

「何が?」

「二人の指先から、光の霧が周囲の観客に広がっているの。不思議だったよ」

「いや、そう思えはしたが実際には僕には見えなかった。でも、寒さが気にならなくなって、心まで温かくなった。それが、巫女舞の力なのかも知れないね。そして、それを見る事が出来る。

もしかしたら、それがロイアの能力なのかも知れないね。

この舞の映像は収録されている筈だよ。見てみよね」

「うん!私もスケッチブックを開くの忘れちゃった!」


神楽殿から降りた二人。

桜は元より、恵梨が巫女仲間から称賛され続ける。

「こんなに綺麗に舞えるだなんて!」

「人前で踊ってくれないから、知らなかったわよ!」

「いや、舞台で舞わせてくれなかったのは、千秋さんが禁じていたんで・・・・・」

桜が評価を下す。

「非の打ち所がない合格点よ! これ以上何を求めるのよ!

もう、千秋と代わってもらいたいくらいよ!」

袖で見守っていた紫がボソッと呟く。

「桜さん。千秋のやっかみじゃない?

早くから幼馴染の雅樹さんと婚約関係にある恵梨に対しての。

ホラ、アニメなんかで幼馴染と結ばれるシチュエーション?

彼女、その手のアニメ見ていたし・・・・自分のせいじゃ無いにしてもボッチだったし・・・・菜摘が巫女を辞めて、代理を押し付けたからね〜」

「・・・・・あ〜ん、もうどんだけ千秋は、東郷兄弟に恨みがあるのよ!」

恵梨は、ひたすらに我慢した。

『あの!色ボケ巫女頭代理!』

と、叫ぶのを必死で止めていた。

これで、恵梨は唯一赤点を付けられていた『巫女舞の評価』が爆上がりして進級できる事になった。



一方、熊野の別荘から横須賀の修造に魔石板で会話をする脩とカミラ。

「まぁ、お前さんというよりカミラの為に、ウチの別荘貸しているんだが?

なんで、アマゾネスとCCFの手打ちの場になるんだ?」

「良いだろう? 有効利用だよ。いつも使っている訳じゃ無いだろう?」

「ッタク! 相変わらず調子がいいな。

親父の友嗣は、あんなに堅物なのに、なんでこうも息子は柔らかい?

しかも、その息子の娘の婿が義理の父親似。

呆れて来るわ!」

「そう言うなよ。修造さん。

色々悪さを、俺と真悟に教えたのは修造さんだぜ?」


そうなのである。

真悟が京優学園を抜けて、京都の街や大阪でブイブイ言わせていた時も、レースの道に入って行った時も、脩と修造が手助けをしていた。

幼少時代から桜に全く頭が上がらない脩。

脩は、次世代のリーダーとして模範的な生活を強いられていた。

その脩を、京都の外で、そして海外で遊ばせたのはこの男。

『男は遊んでなんぼ』の昭和親父。

もう、70を優に越えている筈なのに50代と思わせる程に若々しい。


CCFの京都会議を終えて、脩は直ぐにカミラを連れて、この別荘にやって来ていた。

この別荘は、カミラが好きな場所。

有田の丘には、あの地脈に繋がる井戸を守る施設があって、そこも宿泊地として使えるが海の妖精 カミラはこの地を好む。

何より海に面して地下から直接海に出れる。

それに、新たに増築された海中に面した客室が売りになっている。

一般客に貸し出したら度肝を抜く光景が、そこには広がっている。

それに、この頃カミラは単座タイプの新型潜航艇【シャーク】がお気に入りで、秋に入って英国王室の部屋は空き部屋状態だ。

「イギリスの海は冷たいし、空は低い雲に覆われているからな。

それに比べればここは、冬でも暖かい」

脩に身体を寄せて甘えるカミラ。

やはり、CCFの会議は疲れた様だ。

元々、人前に出る事が好きでは無い。

ステージ上で、電撃を見せつける事などやったことが無かったのに、『女王らしく威厳を持って!』と桜に念を押されていた。

「カミラの出産場所を考えたいが、イギリスもアンが眠っているので避けておきたい。

今は鹿児島も騒々しい。

カミラが、ここを気に入っているからな」

「それは、有難いね。

本当に何にも無いとこだが、ゆっくりするには丁度いい。

で、いつ頃になるんだ?」

「前は、二年くらいかかったかな?」

「あの時は、未だマナが無かったから。

でも今は、奉石と月夜石がある。

それに、何よりここには地脈が通っている。

まさか、地脈の力を奉石が受け止めると法力になるとは思わなかった」

「だが海のマナを作り出す貝を育てないとな。

今回のCCFの会議に隠された目的の一つだからな」

「ありがとう。脩」

カミラは脩にキスをする。

「やれやれ、幾つになってもお熱い事で。

いつでも使ってくれ。

友恵の奴も忙しくって・・・・・不便すぎて寄り付かない。

パンダも居なくなったしな。

息子達も伊豆の別荘ばっかりだ」

「そう言えば、あの毛玉の式はどうなった? 」

「未だ、孫娘にしかなつかんよ・・・・・・

なんだ、お前の様な遊び人の息子にはウチの孫娘はやらんぞ!」

「うふふ、おじいちゃんね」

「その遊び人を育てた教育者だぜ。修造じいちゃん!」

その言葉に笑いそうになった、修造の肩に式が現れた。

「オッ。ご一行様がご到着の様だ」

サメの姿をした式。

このチビザメが、今は熊野灘の沖で眠っているサメの姿をした式神の分身とは誰も知らない。

天上書庫で調べて、これが(みずち)

どう言う訳か修造は、(カイ)と呼んで見守っている。

熊野大社の舞台の普請が済んだ頃から海中に現れて育ち出した。

(まさかコイツが、地震を起こすのか?)

天上書庫には、萩月の式神の一人とあった。

人化できるほど鍛錬を積んだサンゲや大猿、光鶴も知らない。

「記録にも名しか残って居ないんだよ」

資料を事細かく調べた朱雀の意見。

「それこそ、産まれはしたが、成長を止められてしまった式神では無いかな?

余りの深海故に、こちらも見守るしか無い」

「俺が生きている間に、コイツと遊んでやりたいなぁ〜」

そう思い、修造は発見されて直ぐに別荘にやって来た。

毎日、大海の目覚めを待つ、待つ、待つ・・・・

「ダァ〜やってられるか!」

一週間。

熊野の別荘で海を見て過ごしていたが、流石に暇すぎて修造には無理な話だった。

だが、収穫はあった。

それが、今修造の肩にいる依代【(かい)

熊野の別荘を離れて横須賀に着いた、その時修造の肩に現れた。

未だ、言葉は使えないが、別荘を訪ねる意思を持った人物が接近すると、修造の肩に現れて頭を擦り付けてくる。

「目覚める時はコイツが教えてくれる。自分の事をしろって言ってくれるんだ」

初めて自分の元に現れた本物の式神。

今まで使ってきた陣和紙で作った【(みずち)】可哀想・・・・

「そうでも無いさ。

陣和紙で作った蛟とコイツは良く遊んでいる。

きっとそれが海の、心じゃ無いかな?」

・・・・・今は、修造と繋がっているが・・・・

人化出来た式神。

サンゲを始めとした三人の式神。

巴も霊界で過ごすしか無くなった時に、式神を知りその存在を調べていたがお手上げ。

いつの間にか産まれ萩月の一門に使える。

御堂の主さえ知らない様だ・・・・

「我とて、我が何で有るかわからない存在だぞ?

人と同じじゃ無いか?

人は何故に有る?

答えられまい?

有るが故にある」

妙に、悟り切った答えが返って来た。

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