849 間話 レディース 07
「お待ちしていましたよ」
「もっと早く来ると思ったのに、遅かったわね」
すっかり片付けられたパドックに、二人だけが残っていた。
「誰かが傷つけた男の心のケアをしていたんだ。無茶言わないでくれ」
「やっぱり、契約者ね。誰と契約しているの? 」
「いやいや、勘違いするな。俺じゃない。確かに浮名は流したが契約者は俺の義父だ。
先に自己紹介をするのは、そっちじゃないかい?
ファミールのマリアさん?」
二人の表情が変わる。
「どうした? 二人とも固まって?」
「ファミールって言葉が出るとは思わなかったわ。
人魚って言葉が当たり前なのに。
伝承に過ぎないと思っていた言葉よ」
「悪いが俺の大事な継承者だ。潤を連れ去るのは無理だぞ!」
「連れ去りはしないわ。どうせ、フロリダには来るでしょう?」
「ほう? そんな事を言ってもいいのか?」
確かにMotoGPフロリダが開催されて、その事前にレディースが開催される。
「私は、彼を傷つけたくはないし欲しいのは子種だけ。
でも、あの体に組み敷かれたいのは嘘じゃない。
あなたもいい体しているけど、もしも、あなたに手を出したら色々と問題になりそうね?」
「そうか、まぁ解った。
でも、珍しいな。
男のファミールは知り合いに数人はいるが、良く生きていられたな。
将来の禍根を無くす為に、産まれてすぐに土に帰される事も有ったと聞いているよ」
「そこまで知っておいでですか? 私達にはある薬草があるんですよ」
「それ、貰えないか? もしも妻の・・・アレ? ロイアは俺にとって何にあたるんだ? 妹? 姪っ子? まぁ良いや。ファミールに男の子が生まれた時に使いたい」
「余り、お薦めはしませんよ。
でも、レディースに参加される、お嬢様達は人でも無く人魚でも無い。
違いますか?」
「君らに近しい仲だよ。彼女達は」
「「近しい?」」
「あれ。知らないのかな? ドラーザと言うんだが?」
「ドラーザ?」
「知らないわ」
「じゃあ、ドラゴニアは?」
「知らない」
「ふう。やはり根本的な歴史が伝わっていないんだな」
「興味深い話ね。でも、良いの? 娘さん達不味い状況よ。
あらいけない。妹? 姪でしたっけ? 世間では娘と噂されているわね?」
モニタには、多くのライダーに囲まれた状態のキャミとアリアが居た。
ファッジスの二人は、ヘルメットを外してピットの中でモニタを見ている。
【more】の二人が、囲まれた二人を助けようと前に出ようとするが塞がれている。
アトランティスの二人は、ピットロードに入る事も出来ずにいた。
(いや、入ろうとしていないな! あのお転婆達め!)
「おやまぁ〜困った事だね」
田尻が、オフィシャルに抗議しているが、肝心のアトランティスは動かない。
オフィシャルも判断に悩んでいるが、ぶつけている訳でもなくフリー走行が行われている中、こう言った集団になる事は良くある事だ。
旗は出なかった。
「監督が、いないからじゃない?」
「まぁ、心配するな。今、あの二人は冷静に対策を練っている」
「大した自信と信頼ね。私ならS字でグラベルに逃げるわ」
「嘘を付くなよ。誰かを操って前を開けさせるだろう?
ただし、3メートル以内に近付かないと出来ない様だが?」
「私の映像から見出したのね? でも、レースでは使わないわ」
「狩には使う訳か?」
「そうね。実生活でも役に立っているわ」
「まぁ、モニタを観ながら話そうか。まず、先に教えてくれ。潤は契約者か?」
「えぇ、間違いないわ。抜いた子種はそう言う味がした」
「そうか、やつも大変だな」
「あなたは?」
「だから、俺じゃない。契約者は義父 岩屋 脩だ。
娘が二人。海の妖精の長カミラは、先日2回目を身籠ったそうだ」
「海の妖精? カミラ? お父さん聞いた事ある?」
「・・・・・イギリスでそう呼ぶと聞いたが、アトランティスを最後に出て、アドリア海とエーゲの同族の世話をした女王と聞いている」
「へぇ。女王ね。
じゃあ、あの娘達の母親は? ドラーザって何?」
「その前に、昔話から始めよう。信じ難い話だが事実だ。
ドラゴニアって星があって、そこには竜人が住んでいたんだ。
だが、その星は滅びた」
「いきなり、SFの世界?」
「まぁ、そう言うな。取り敢えず聞いてくれ!
その星の女王はアンという。
彼女の祖先の体組織を使って、他の星の人間をやはり竜人に変えた存在がいた。
その竜人がドラーザだ」
「ドラゴニアから、人工的に作られたのがドラーザね」
「オッ!理解が早いな!」
「馬鹿にしないで!
それで?
・・・・・コーナーは、この娘の方が上手いわね」
「アリアだ。だが直線になるとキャミが早い」
「若い頃の君らだな」
「オッ!俺らのレースを知っているんだ!嬉しいね〜」
「あぁ、英雄だ」
「ありがとうよ。えと・・・
そうだ。でな、この作られた竜人の星も消滅する事が解った」
「あらら、」
「だが、こいつらは新しい星へ移住し出したんだ」
「宇宙に出たのね」
「そうだ、その最中に宇宙へ飛び出していたアンを救出して、新たな星で暮らし出した」
「でもドラゴニアは、一人じゃない?」
「あぁ一人だ。だが、アンは男女を妊娠していて、彼らを産み出した」
「まさか、その二人で・・・母親も混ざって?」
「いや、この二人は受け入れ合わなかった。
何故なら、オスはメスをセックスの最中に食い殺す」
「狂っているわ!でも、アンは妊娠していたんじゃ無い?」
「人工受精だよ。アンは処女で妊娠した」
「まるでマリアね。同じ名前でも、私は、そんなのゴメンだわ」
「あぁ、娘は・・・・・兄だったそうだが彼を拒絶。
『単為生殖』の道を探る研究者になった」
「単為生殖って?」
「メスだけで子供を産む方法だ。
フロリダに詳しいなら、『ミステリー クレイフィッシュ』は知っているんじゃないか? ザリガニの突然変異でマーブル模様の奴らしい」
「聞いた事あるわ。フロリダでも多くの水辺から藻が消え失せて大騒ぎになっている」
「時事問題に、興味があるのは助かるな。そいつと同じ様な事を考えたんだ。
卵子に刺激を与えると分割を開始して、母体のコピーを作るんだ。
ただ、その娘の研究は、なかなかうまく行かなかった。
そこで、さまざまな生物に自分の卵子と結合させて宇宙に放り出した」
「なんて、育児放棄!」
「まぁ、それだけ設備が整った状態なんだろうさ。
話を続けるぞ。
もう直ぐ動き出すと思うから、話を終わらせて起きたい。
で、住んでいた星で地中を掘り進み生きていける生物や、海洋生物との間に新たな生命を誕生させて宇宙に放り出した。
地中を進み続けれる土竜。
アースドラゴンはアシと言う種族名を名乗り別の星で生き延びた。
この星はアーバインという」
「で、海の生物から生み出したのが私達という訳?」
「そういう事だ。
まぁ、良ければ話をしないか。流石に今日、この後は不味いがね」
「あのスタンドにいる二人は?」
「あぁ、念話で煽った夫婦か?」
「煽って来たのは女の方よ!何!アイツ、タチが悪い。人間なの?」
「どっちかというと、男の方が人間じゃ無いんだがな。
その辺も含めて、話を聞いてくれると助かるよ」
「彼も同席させて!」
「彼って?」
「速水 潤。私は、あの男の子供が産みたい。
私が、ここまで来て見つけ出したんだから私の夫にしたい。
私は、他の娘との共有なんてしたくない!」
「ファミールは、契約者の縛りがあるからな。
でも、父親だったとは・・・・・あの意識を外させたのは君だね」
「あぁ、私たちの居住地を荒らされない様にする為に編み出した能力だ」
「でも、下流から太陽光パネルが迫って来ているよね。
ファビアンカ川だっけ?」
「どうしてそれを!」
「君らを助ける為さ」
「お父さん!」
「CCFは、やはり油断ならないな!」
「ム!」
「無駄だよ。君が術師とわかって何も準備しないと思うかい?
この術を解いてくれ!
でないと、ここの隣のチームがウチの娘達が暴れた時に対応が出来ない」
「お父さん!」
「ふう。同じ契約者でも、ここまで力が違うとは・・・・」
「違わないさ。
色々企業秘密を持ってんだ。
そろそろだよ。あの二人の本気を見ててご覧」
ちょっと、竜の娘達と話をさせてくれ。
どうやら、友好的になれたな。
彼らを通して、アマゾネス達に門戸を開いてもらいたいもんだが・・・・・
モニタでは、どうやら準備が整った様だった。
しかし、脩と真悟を間違えるとは・・・・
設定を難しくしたのが原因なのはわかってはいるんですが、これもストーリーに必要な設定なんです。
本日は、ここまでですね〜
週末までには、このエピソードを終わらせたいのですが・・・・
又のお越しをお待ちしています。
Saka ジ




