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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
836/929

836 間話 巫女頭代理 04

夕食時。

夕食は割と質素な物だった。

日向さんが、お酒を断ったので父も手をつけない。

食事も、料理の話以外出ない。

淡々と食事を済ませて、フローリングの部屋に移った。


日向家の三人の雰囲気が変わった。

そして、私も胸に勾玉の胸飾りを付けて、巫女装束に身を固めて家族の列に加わった。

それに、なんと言っても胸の下に短刀が隠されている。

私の巫女装束に息を呑む両親と兄。

フローリングの床に座布団を敷かれてそれに座る。

対座する両家。

『まるで、兄貴と菜摘のお見合いみたい』

と、ふとそう思った。

「変な宗教勧誘なんかじゃありません。鬼頭様。

かつて、この博多を含めて日本中で起きた怪異な事件を、知ってらっしゃいますか?」

「もしかして、あの風俗店の女性たちが、黒い炎をあげて燃え上がった事件ですか?」

「そうです。

東京を始めとする首都圏、そして関西、博多、北九州。それこそ、日本全国だけでは無く海外でも東アジアを中心に世界中で起こった事件です。

原因は未だ不明」

「えぇ、それに新宿御苑と大阪城公園から立ち昇った光。

赤い月での三匹の竜の闘い。

時折思い出したように話にはあがりますが、どうしてあんな事が起こったのか政府からの発表は有りません」

「僕も、その話は聞いた事は有る。

大学の校舎の一角が壊れたままなのは、そこで亡くなった男子学生の霊魂のせいだって言われている。

なんでも、講師の隣を歩いていた学生が急に苦しみ出して、巨大な体躯をした真っ裸の怪物に変身して暴れ出した。そう聞いた」

日向(ひなた)さん。あなた達は一体?」

「呪糸蟲と言う物が居ます。こう書くんです」

(のろい)の糸の蟲?」

お母さんが、身震いし肩を抱いた。

「そう。コイツが身体のとこかに食い付くと性器の奥。

卵巣か精巣に向かい食い込んで、そこで増殖。

性行為を通じて異性に感染させる。

呪糸蟲は最後には脳を支配して、その宿主を操る。

大学の学生は、脳を支配されたんですね」

兄さんの顔が引き攣る。

「水辺で、カマキリやその他の昆虫に寄生して成長。

脳を支配して水辺に向かわせて、そこで体外へ出て繁殖を繰り返す。

ハリガネムシともツリガネムシとも言われる物が地球上にも居ます」

「えぇ、見たこ事あります。

カマキリがフラフラと川へ向かって行き、躊躇なく水に飛び込んで暴れる。

するとその身体から黒い線虫が出てくるのを見ました」

「なかなか、レアな経験ですね。

実は私の父は、女を抱かされて呪糸蟲を身体に入れられた」

「「ウッ!」」

「ヒィ!」

「でも、大丈夫ですよ。

こうして私は、産まれていますから。

父は元気に暮らしています。

お陰で私には、多くの妹と弟が居ます。

(たま)に実家に帰る時は、彼らの家族へのお土産で破産しそうですよ」

菜摘が、何度も指を折っていた。

何度繰り返すの!

20は超えているよ!まだ指を折るの?


「それが、今回の事と何か関わりがあると?」

「えぇ、実はあれ以来、表立って人体発火現象や怪物化の事件は起きていません。

ですが、呪糸蟲を操っていた奴らの壊滅は出来ませんでした。

日本国内にいた連中は、ほぼ壊滅させましたが、それでも一部は地下に潜り、大陸にも恐らく他の海外諸国にも多く残っています。

そいつらが、新たな手法を取ろうとしているんです」

「それは・・・」

「壊滅させたのは、陰陽師を中心とする者たちです。

実は、この博多にも在野の陰陽師が残っていますし拠点が存在します。

私共も、その一つです。

そこで、鬼頭家、返橋家の家系図がこれになります」

日向さんが、家系図を書いた巻物を両家間の床に置いた。

あれ? 今何処から取り出した?

末席に座る私には周囲が見える。

何も置いて無かったはず。

菜摘が唇に人差し指を当てて笑った。

成程、陰陽師の術ってやつか・・・・・

促されて、両家の間に広げられる家系図。

確かに合っている。

と言っても私には3、4代前しかわからない。

【鬼頭家】の家系図は、見た事がある。

佐賀にある鬼頭家の本家で見せて貰った。

武家の出で、その影響からかお父さんの兄弟姉妹は剣道を趣味にしていて、その影響で兄貴も大学には特待生で入学した。

脳筋というわけではないが、福岡市で行われる九州地区の大会には応援に行かされたものだ。

でも、この数年は休日も自宅に引きこもっている。

通学するのもやっとの思いだ。

返橋(かえしばし)】いう姓は、他には数件有るだけとサイトに載っていた。

【帰り橋】と言う地名から変化したと言われていたと思う。

でも何で家系図?

「お母さん?」

母が、何代も前に嫁してきた女性の名を差した。

「うん。ここよ。

我が家は、元は大陸から来た血筋なの。

平安時代の中期。

そして、日本で暮らし日本人として【返橋】と名乗り、京都で貴族の女性を妻に迎えた」

「貴族の娘を嫁にするという事は、権力者になっていたという事?」

兄が、お母さんに聞く。

この話は初めて聞いた。

「えぇ、陰陽師と同じ様に術を操る大陸の術師。

道士の家系よ。

そして、その家系に嫁入りした秋姫。

陰陽師の家系よ」

「じゃぁ、私には道士と陰陽師の血が流れているの?」

なんだか、ドキドキしてきた。

「もう何代も前の話。

他に婚姻をしているから、血は薄まっているわ。

お父さんも、黒田藩の武家の血筋。

明治維新後は大変苦労されたわ。

先程、呪糸蟲の話が出ましたが、病床に合った祖父が泣いたそうです。

誰かが『呪旗』を使って蟲を集めたと・・・・・」

突然、日向家の面々が平伏した。

「そうでしたか。それは申し訳ありませんでした。

私共が、返橋(かえしばし)家を探し出せずに、ご苦労をおかけしました」

涼やかな男性の声が聞こえた。

母が、勢い良く振り返る。

「脩様!」

兄貴が止めなければ、父を蹴飛ばして飛び付く寸前だった。

「ありがとうございます。まだ、私の事を覚えていてくださって!」

「・・・・・・・」

母は言葉も出ない。

まぁ、無理はない。

憧れの君の肉声を聞き、その姿を目にしているのだから。

声だけで直ぐに反応できるとは・・・・

(でも、何処から来た?)

このマンションは、オートロックだから専用の磁気カードか、部屋番号と暗証番号の入力でロビーのドアは開く。

でも、ここの玄関ドアが開かない。

玄関ドアは、私から目に入る。

誰も入っては来ていない。

貸家だから、そんなに多くは合鍵と磁気カードを作る訳ないと思う。

しかも、脩様の後ろから、ちょっと豪華なと言うか着慣れているせいで、余計に美しく見えるのだろうが三人の巫女が姿を現した。

アレ? さっきDVDで見た。

菜摘が、一人一人の名前を教えてくれた。

変な杖を持っているのは美耶さん?

幼いが威厳があるのが脩さんの娘 麗子さん。

そして脩さんの横に立っているのが桜さんだっけ?

「私からも礼を言います。夫の事を慕って頂いて」

うぁ〜、まさかの脩さんの奥さんだった。

カチッと凍ったお母さん。

まぁ、そうなるわな。

もう何年経ってんだ?

お母さんもお父さんと恋をして、結婚したんでしょう?

脩さんだって結婚して子供もいるわよ。

でも、この桜さん。

綺麗な金髪で目が赤?

美耶さんも目が赤い?

アレ? 麗子さんは目が少し茶色いけど赤くない?

でも、桜さんにそっくり。

やっと、お母さんの解凍が進み、ぎこちなく桜さんを見た。

知ってはいた事とは言いながらも、やはり憧れの人を独り占めした女性だ。

「いいえ。我が夫 脩には他にも妻が二人いますよ。他にも居そうですがね」

心を読まれた?

脩さんは、罰が悪そうに顔を逸らす。

まさかの、重婚発覚。

更に浮気? 不倫?を追求する妻?

お母さん。事件です!


「その事については、後ほどお話ししましょう。

千秋。舞は何手(なんて)舞う事ができる様になりましたか?」

何故か、麗子さんが私に問いかけて来た。

「はい。通しで八手まで舞える様になりました」

「これは、早い。菜摘。やはり貴女が見抜いた通りの巫女ですね」

「ありがとうございます」

DVDには24手まで収めて有った。

最初の四手までが5分程度。

それ以降は10分程の舞が続く。

12手からは20分ほどで一人、二人と巫女が増えていく。

24手にもなると大勢の巫女が役を持つ。

菜摘も、24手の一員として舞を舞っていた。

「成程、それで早くも守刀を授けたと・・・・

面白い。

その懐に持つはハルカが使っていた【紅葉(もみじ)】という銘が有る守刀。

怪異を切れる力を持つ。

抜き放つ事が出来るかな?」

「刀!千秋に守刀とは言え、真剣を持たせるのですか?」

お父さんが驚く。

懐に有るのは、模造刀だと思っていた様だ。

結構、重いんだよ。これ・・・・

でも、踊り出したら気にならない。

それどころか、もう手放せない気分。

「奴らが狙うは千秋の身体。もっと言えば子宮と卵巣だ」

「えっ!」

「そんな!何故、そんな事を!」

「先程、拳一が言ったであろう?

呪糸蟲を操る連中は壊滅させたが、地に潜った連中がいると

返橋家の祖は呪旗を扱い大地の穢れを祓う、言わば大地の蘇生ができる道士の一族。

それに対して、一条と言うやはり大陸から渡ってきた道士が、陰陽師の術を取り込み呪旗を使って呪糸蟲を産み出し操った。

そして、一条家は陰陽師の祖を名乗り、萩月家と対立してきたのだ。

室は、その萩月家を守る為に影に隠れた一族。

影護衛の一族だよ。

長谷山も陰陽師で、身体を使う事に特化して西の守りについた萩月家の一門」

「そして秋姫は、その長谷山の姫だ」




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