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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
831/928

831 NY新生活 16 付喪神01

少々時間が巻き戻ります。

洋樹と美沙緒が、日本に居る女帝【紗羅】との会議の為に朝から『ポスト』に出かけて行った。

日本との時差を考えれば早朝でも仕方がない。

香澄も朝からNYに応援に来た【B-Kai】の、ヨーロッパメンバーの出迎えに向かっている。

いよいよ、ウェディング部門をNYでスタートさせる。

アメリカでの出店を目指していた。

だが、NYのお針子を高額の移籍金で引っこ抜かれたり、出店予定地の交渉をしていた物件を強引に転売させられるなど様々な妨害を受けてきた。

今、妨害して来ている男やニュースキャスターも奴等の仲間。

管狐を使って、その裏採りは掴んである。

だが、こうして足場を作れた。

何よりネットでの販売で圧倒している。

今まで受けた借りは必ずかえす!


屋敷で食事を済ませた後に、自由に使えと言われた美沙緒のロッジへ向かう。

「鍵は要らないわよ」

と言われて、その理由が推測できた。

高級住宅街では、最も新しく小さな建物。

ビルダーを呼んで建てたログハウス。

木の香りが色濃く漂う。

多くの管狐がいる事が判る。

木陰の庭石に囲まれた、妙にそこだけ雰囲気が違う祠。

その軒先に吊るされた様々な大きさの管。

東北の民家の軒先には、蜂を呼ぶ為に笹の束を重ねて吊るしてあった。

管狐が好んで、この中に入るのだ。

美沙緒も日本から、完全に乾燥させて建材として持ち込んで使っている。

大型の管狐も居るが、この地について来た管狐は小さい姿で居る事を好む。

ここから自分で、この笹の管をを何カ所かに自分で持っていって、インペリアルの彼方此方に住み着いている。

自分たちのテリトリーを守る為に分散している事もあるが、その時期に合わせた居心地が良く、その時に応じた眺めの良い場所に別荘を作る様になっていた。

本当に自由な連中だ。

美沙緒の性格が影響しているのだろう。

本来は、人との接触を極端に嫌っていたのに・・・・

今日も、収納からチーズボールか氷砂糖を取り出して齧りながら、庭に入って来た住人を眺めていた。


成程、この子達の事を信頼して上手く使役している。

まるで、私が萩や白美そして雪に頼った様に・・・・

でも、それで良いの?

美沙緒。

あなたは『眷属』

自分の『分身』は必要ないの?


ログハウスは、生垣で囲まれていて中の様子が伺えない。

こういう生垣は危険だと、条例を設けて禁止している地域もある。

この地域でも、生垣を植える場合は、敷地内が伺えるフェンスとの組み合わせを奨励されるのだが、このインペリアルでは問題無い。

居住者や予め申請がされている人物以外の立ち入りが制限されている。

高位の術者でもない限り、管狐の姿を認める事など出来ないのだが、彼等は視線を気にする。

だから、生垣を密に植えてプライバシー保護を優先した。

それに、この敷地に入る事が出来る者は、そうそういないだろう。


玄関の前に立つと、管狐と式神がドアを開けてくれた。

中に入ると、そこは下足置き場になっていて、(すのこ)が敷かれた三和土(たたき)になっている。

この辺りは雪も多い。

此処で、コートと靴にへばりついた雪を落とす。

色とりどりのスリッパが置かれていて、丁寧に名前が書かれていた。

そして、もう一つ開戸を開けて室内に入る。

「それで、好きな色を何色も聞いて来ていたんだ。となると・・・・・」

やはり、ベッドルームもその色で統一されていた。

明菜の部屋も用意されていて、ぬいぐるみまで置かれていた。

「もう本当に甘い、おばちゃんだね?」

真弓が笑っていた。

「気を付けて、美沙緒さんは管狐達の言葉がわかるのよ。チクられるわよ。

でもまぁ、笑って睨まれるだけかな?」

香織が、更に大笑いする。

リビングは、暖炉の前に大きなラグが敷かれていてゴロゴロ出来る空間だ。

巴は、美沙緒が尻尾と耳を出して手足を広げて寝ている姿を思い出した。

「何?、巴ちゃん何を思い出し笑いしているの?」

「いや、此処で美沙緒が寝ている姿を思い浮かべてしまった」

「「「「「「「ぷッ!」」」」」」

皆も釣られて思い出して笑いだす。

「このラグ。美沙緒さんの好みに合っているんだろうね」

「来年の調査の時には、間違いなく此処でゴロゴロしている美沙緒が見れる」

そんな話をしながら見て回る。

お風呂は、そんなに広く無い。

シャワースペースは広い。

もう、風呂に入りたい時は屋敷に行く気でいる。

ただし、トイレと洗面台が上下階に有って全て洋式で有った。

寝室が有る二階にはトイレが、両端に配置されていて便利な作りだ。

「よくこんな家を・・・・ログビルダーは大変だったろうなぁ〜」

それに、真弓が

「瑠璃ちゃん忘れていない? 熊野の海賊が、ウルマでヨットの工房やっていたでしょう?」

「あ〜、あの職人さん達を使った訳だ!」

「私達が、友恵さん達から頂いたフィヨルドの家も彼等達の施工よ」

「でも驚かないでね。私達の別荘も、この家の設計も家具のコーディネートも、このスリッパとベッドのデザイン。修造さんよ」

「「「「「えっ、えっ」」」」」

「もしかして、貴女達が身に付ける岩屋神社の巫女の衣装が、木場 (すなお)先生のデザインだと知らなかった?」

「嘘でしょ!」

「紗羅さんのデザインとばっかり思っていました!」

そこで、秋葉原の書店やフィギュア店で有名だった執事服を着た木場先生の話をすると、その事を知らない静香達は驚きを隠せなかった。

医師であった木場 (すなお)が、萩月家で執事をしていた。

確かに似合っているが・・・・・八人の狐巫女のスモックやワンピースを自ら縫い上げたのがあの大先生だとは知らなかった。

今も、アーバインで獣人達の健康診断を行なって、多くの獣人達の信頼を勝ち取っている。


「明菜ちゃん!今夜は、こっちで寝てみようか?」

「うん!楽しみ」


「まさか、私達の履き物まで用意されていて、客間のベッドが色を合わせてあるとはね」

「喧嘩したら、すぐにコッチで愚痴が言えるね?」

「私は、喧嘩なんかしないわよ」

香織に言われて、真弓が膨れている。

昨夜、急に会議が開かれる事になって、洋樹が朝からポストに美沙緒と向かう事になった。

楽しみにしていた、ハイキングが一日延期されてしまったのが、どうしても腹立たしい。

やっと、一緒の時間が持てる様になった筈なのに・・・・。

お陰で多分今夜も、洋樹は未彩とベッドを共にする。

未彩と明菜をNYに残して、日本に帰るから仕方ないとは思うが・・・・・

ちょっと、やきもちを焼いてしまった。


巴は明菜と、真弓達の誘いを断った静香と透歌を連れて外に出て庭を回る。

丁寧に手入れされた庭園。

トレーニングウェアとシューズに着替えた、真弓と香織の後を追ってジョディとジョアン、瑠璃と早苗は走りに出る。

許可車両しか通行できないし、何よりランニング用のコースが何本か作られている。


巴は透歌に明菜を任せて、庭に置かれたベンチに静香を誘い遮蔽で囲った。

寒さ避けと言うより話をする為だ。

「静香。どうしたの? 浮かない顔をして? いつもなら、真っ先に香織を追いかけて走っていくんじゃ無いの?」

「巴様」

「様付け?

いつもなら巴ちゃんと呼ぶのにどうしたの?

もう、妖狐であった萩月 巴は、この世には居ない。

ここに居るのは、ただの陰陽師 萩月 巴だ」

「・・・・じゃぁ、巴さん。どうなんですか? 

未彩さんの事。どう思っています?

彼女だけじゃ無い。香織さん、真弓さんをどう思っています?

巴さんは、洋樹さんの為に、どんな存在になろうと思っています?」

「なんじゃ。昨夜の瑠璃の様子を見て不安になったか?」

「・・・・はい」


瑠璃は

『日本に帰って母と祖母と相談する。

何よりも雅樹と静香と恵梨、ロイア、家族で相談してから』

と言っていた。

だが、瑠璃の顔は

『もう自分はNYへ引っ越してこようと考えている』

のは明らかだった。


事実、ハイスクールで学び、休日や時間が取れれば碧の研究所で、地質学だけでは無く、様々な事を学びたいと思う様になった。

何よりも、この真眼。

ただ物を見透すだけでは無い。

ルースでの鍛錬で、見えないと言われている真力、法力、マナ、魔素そして、呪素を見る事も出来る様になった。

まだ、上手く使いこなせないし連続的に探し出す事はできない。

今、航空機に取り付けられている真眼の陣は地脈に特化しているが、その内他の力との区別ができれば、道士が仕掛けた呪術の罠や、呪糸蟲の存在が探知できる様になるやもしれない。


そう、自分の能力が開花しつつある事を知った瑠璃。

その目が、新たに現れた扉を見ているのは明らかだった。

恵梨が、JAXAの研究室に通う様になった時と同じ表情だ。

恵梨とは、幼い頃から張り合っていた仲なのに・・・・・

ロイアとは、元々繋がりが薄かった。

南極で一緒に過ごした時は仲良くなれたけど、今は滅多に会話も交わさない。

忙しそうだ。



「確かに静香の立場は私と同じだな。

子供がいると言え、未彩もこの地で学ぶだろう。

香織と真弓は、これからも洋樹を支えながら学び闘うだろう。

NYで一緒に過ごす。

私は、まだまだ、日本を離れるわけにはいかない。

アーバインの術を取り込んで、形を変える萩月家と陰陽師。

何より、随分と壊滅させて来てはいるが、道士どもが地に潜り機会を窺っている。

日本を守らなければいけない。

我もその手助けをしながら、新しき術者の宗家の祖を産む事になろう。

静香。

雅樹が、ただの料理人だけで終わると思うか?

兄は陰陽師の術とアーバインの術を複合させて新たな、陰陽師としてアーバインを解放していくだろう。

恵梨もそうだろうし、瑠璃や早苗もその事に尽くすだろう。

ロイアも、人生をかけてファミールの未来を考えている。

雅樹もアーバインとファミールの為に働くだろう。

だけど、帰る場所が居る。

お前の元だ。

それで、いいじゃ無いか?

自分のできる事をすれば良い」

そう言われて静香は、少し気分が楽になった。

そうか、自分は家族の中に居る事が一番重要なんだ。

「そうだ! 忘れておった。

お前には、先に知らせなければいかん事が有った。

皆が帰って来たら、屋敷に戻るぞ。

合わせたい者が居る。

向こうも、お前に気付いているやもしれんな」


静香には、洋樹の屋敷に他の人間に存在は感じられなかった。

式神の存在は解っていたが・・・・・

「式神ですか?」

「う〜ん。あえて言えば付喪神(ツクモガミ)だな」

「付喪神!」

「あぁ、それもなりたての幼い付喪神」


詳しく聞こうとした静香を遮る様に香織達が帰ってきた。

遮蔽を解いて香織達に近づく留守番組。

クールダウンの為に、庭でゆっくりとストレッチとマッサージをする。

早苗が西の丘を越えた、その先を見ている。

雲がかかっている様だ。

「ここは、こんなに晴れているのに、ハイキングポイントは霧がかかっているわ」

「やはり、そうか。一日延びて(さいわ)いだったか」

「そうだね。真弓。早苗ちゃん。霧の中は、見通せないの?」

「えぇ、まだそこまでは出来ません」

「ならば、私が術を重ねて・・・」

瑠璃が、背後から早苗の両肩に手を乗せて意識を合わせる。

巴が展開した遮蔽の板の上に映像が浮かび上がる。

「まだ、ぼんやりしているね」

「でも、ハイキングしている人のウィンドウパーカーは見えるわね。

もう、この季節だから冬装備ね」

「ねぇ、この地域には熊はいないの? それにオオカミとか?」

香織が、ふと心配になる。

真弓や自分なら対処できるが、透歌達は実戦経験が無い。

香織とて、人間は所詮人間なので怖くは無い。

意識を刈る為に電撃を喰らわせるし、攻撃から身を守るのも電撃だ。

だが、野生の獣はあくまでコチラを獲物として攻撃してくる。

それに早い!

「う〜ん。草原の中には見当たらない」

早苗が、捜索ポイントを周囲の森に移したが人影以外は見当たらない。

「遭遇件数は、ここ5年無い様です」

レンジャーの報告書をネットで調べた静香が報告する。

必要な情報を探し当てる良い連携。

これに、恵梨がいればドローンを飛ばして居るのだろう。

「じゃあ、安全なハイキングコースなのね」

「地下にはとんでもない魔物が蠢いているけどね」

そんな、話をしながら輪になって話をしていた。

「香織、真弓。この子達にも【松姫】を紹介したいのだが?」

「えっ 松姫!」

静香は松姫を知っている様だ。

「誰それ?」

「誰か、他の人間居た?」

「式神は、他にも気配があったけど・・・・」

「でも、泣き声はここでも、少し聴こえている」

「・・・・・静香、大丈夫?」

「うん。大丈夫。でも今も聞こえる」

指差す先は、洋樹の屋敷の最奥。

「お風呂場?」

「ううん。その奥」

「成程、静香には解るか」

真弓が差し出したのは、昨日、屋敷を訪ねて帛紗(ふくさ)から出された、赤と黒の漆に彩られた守刀の映像。

「刀?」

「小刀?」

懐刀(ふところがたな)と言う。守刀(まもりかたな)ともな。

護身用に武家だけではなく商家の娘が持っておった」

帰蝶の声で真弓が説明する。

巴の考えに気がついた様だ。

「それがどうして、泣いているの?」

瑠璃には理解ができない。

「可愛い。お姫様ね!」

「ふふ、明菜にも見えるか?」

「うん。巴お姉ちゃん!綺麗な長い髪のお姫様。四角が四つ重なった柄が入っている」

驚いた。

静香にも同じ光景が見えている。

「着物の柄解る?」

静香は聞いてみる。

「色は薄い紫の襟で不思議な青色のコート。カルタのお姫様」

「間違いない。紫の襟足に透かしで入れられた武田菱(タケダビシ)

浅葱の打ち掛けを羽織っている」

何よりも、彼女の姿が浮かび上がっているのは、柄に入れられた桔梗の象嵌の部分。

「真弓さん、この方は・・・・・」

「あぁ、織田家嫡男、織田信忠の妻となる筈だった松姫。

彼女に信忠殿から贈られた懐刀だよ」

「それが、何故ここに?

それに何故、私と明菜ちゃんには、その姿が、この魔石板の映像でも見えるんですか?」

それから、真弓が昨日の話をした。

「では、お婆さまが、その生まれ変わりと?」

「本人に、この懐刀を抱かせてみれば、全てが判るかもしれない。

その前に、静香に抱かせてみようと思う」

「巴さん。大丈夫?」

「何が?」

「付喪神なんでしょう? 付喪神って人に取り憑くんじゃ?」

瑠璃が心配して、静香の手を握りしめた。

「心配するな。この付喪神には、その様な力は無い」

「ならどうして?」

「静香に助言を与えてくれそうじゃからな」

「何だか、言葉使いが巴様になっている!」

「仕方ないでしょう。何百年も、この喋り方なんだから!」

香織に弄られて、つい怒ってしまう。

いけない。落ち着こう。

「丁度、お昼時だ。良い頃合いだ。

身体も落ち着いただろう。

昨日の残りも勿体無い。

上谷には

『昼には昨夜の料理を使ってくれ』と言っておいた。

又、風呂に入って食事を済ませるが良い。

上谷に食後に懐刀を、リビングに持ってこらせよう」

巴が、促すと皆が洋樹の屋敷に向かう。

管狐の何匹かもついて来る。

『料理』の言葉に惹かれているのだ。

「ありがとう。瑠璃ちゃん。心配してくれて・・・・」

「当たり前じゃ無い。友達なんだし!家族なんだから!」

「ありがとう」




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