081 従姉妹
ルース、イバ、タリムの三人は丘の上を飛んでいた。
今日は一番奥の開拓地で生活を続けている集団に、こちらの意志を伝えるのだ。
最終勧告。
もし、彼らのうち誰かが残ると言い出し【遠見の陣】で【黒鳥】が現れたら、悪辣兄弟が彼らの退路を断つだろう。
今日は、その投下地点の下見も兼ねている。
聖地へは向かわせない。
【ジューア】【呪われた街】への街道と抜け道、聖地への道、肉屋の港があった場所への道、ここには『馬鹿蔦』の種をばら撒く。
【転移陣】でしか逃げ出せない。
タリムは、二年前にもこの一帯の集落へは、妻となった双子達と治療訪問をしに来ていた。
その時よりも牧草地が広がっている。
彼らの開拓心には頭が下がる。
集落への入り口には、男が一人立っていた。
手には、肘から先程の長さの釘が5本並べられた様な農具を手にしている。
彼らはその農具を飼い葉や、羊や山羊の餌となる長い葉を持つ草を寄せ集める為に使う。
だが、彼らはその農具を山羊を襲う狼の首筋に突き立てる。
家族を守る為には、盗賊の胸にも槍の様に突き出す。
「やぁ、しばらくぶりです。お母さんの具合はいかがですか? 今日はお薬をお持ちしました。他の皆さんの分も預かって来てます。」
こう、先に声をかける。
「おう、やっぱり二年前に来た治癒師の娘さん達の護衛をしていた・・・・・確かタリムか! おぉ、お袋は変わりない。あれから、ずいぶん調子がいいんだ。他の連中も少しは怪我をしたりはしたが概ね変わりないよ。ガキどもが喜ぶぞ!又、空の散歩をさせてくれ。ところで、こちらは? 会った事あったと思うんだが思い出せない」
「あぁ、済まない。私はルース。今は聖地の長をしている。その前はルイスと名乗っていた。浜の村長をしていた」
「あぁ、そうだ! ルイスさんだね。ライラさんの名変えの宴で紹介された。もう20年以上前かな?」
「あぁ そうだ。身体強化を開花させた時以来だな。 本当に頑張っている様だ」
「おぉい!カァちゃん。 ルイスさんとタリムさんが来てくれたぞ! えとそれと・・・・・?」
「イバです。ルースさんの娘サランの娘婿です」
家の中で様子を見ていたのか、扉が開いて恰幅の良い女が出て来た。
「アレアレ、八年ぶりかねぇ〜」
「元気にしている様だな。しかも、奥の方まで牧場が広がっている」
「身体強化のお陰だよ。多少の岩や気なら引っこ抜ける。時には砕く!」
「ほほう、それは凄いな。聖地の中の獣人でもそこまでやれる奴はそうはいない」
「まぁ、上がってくれないか。立ち話だと何かと人目をひいてしまう」
「・・・・・そうだな。タリムは悪いが先に預かって来た薬を配って来てくれ。お前さんだけの方が相手も出て来やすいだろう」
「・・・・・解った。じゃあ行ってくる」
「あの話をしに来たのかい?」
「話をし易くしてくれて済まないな。そうだ、アイツらがやって来る」
「・・・・・間違いない様だね。【遠見の術師】がそう言っていると聞いた」
「これ以上、他の集落に伝わらなければ良いが・・・・・」
「言うだろう。人の口に戸は立てられないと。この集落から先だと【ジューア】に方向に一日のところに二箇所ある。
こっちとは付き合いがないが、ウロウロしている盗賊や放浪生活をしている連中が伝えるかもしれない」
「そいつは困った」
「ちょっと、待ってくれ! 治癒の双子が言っていたけどこの土地を捨てなければいけないって話か?」
「・・・・・そうだよ。あんた」
「お前、簡単に言うなよ。ここまで牧草広げるのにどれくらい、頑張った! 汗を流した! 血を流した!」
「解っているよ。みんなで、苦労して来たんだよ。誰もそれを責めてはいない」
「なら何故!」
「アイツらが人殺しと破壊を楽しんでいるからだよ。普通の人間ならわざわざ、自分がやられる事もある人殺しなんてしない。命は一つしかないからな。だがアイツらは機械を操って安全なところから人殺しをする。それこそ、ワシらが蟻を踏み潰している様な物さ」
ルイスが出された茶を啜りながら話した。
「勝てないのか?」
「勝て無いことはないが、その数倍の被害が出る。反撃を喰らう。今は手を出し返さない。待つしかない」
「・・・・・何を待つんだ?」
「アイツらがこの大地に降りて来るのを待つ。お前たちも同じ虫でも蝗の群れには敵わないだろう? アレと同じことだ。同じ、この大地の上なら数はこちらが多い。何かしらの反撃は出来る」
「だから、土地を捨てて聖地に籠もれと・・・・・」
「今日、明日とは言わない。早い方が良い」
「・・・・・解った。俺はウチの嫁の従兄弟のあんたを信じる。こいつの力を引き出してくれたんだ。信じるしか無いだろう。・・・・・そもそも、アンタは何者だい?」
「ファルバンと言う家を知っているか?」
「あぁ、術師の一派で【領主の街】【アレ】【蔵の街】を焼いたって馬鹿な話をした奴がいたが、それは無いな。でも、それが、どうした?」
「あんた、鈍いねぇ? 私の一族に術士、術師が多いのは知っているだろう? 私もファルバンの血を引いているんだよ。だから、この子たちも術持ちじゃ無いか!」
「いや、それは知っていたが・・・・・じゃあ?」
「ファルバン家 当主 ルース・ファルバンだよ。私は。 そして、嫁婿 次代の当主 イバ・ファルバンさ」
「ヒェ〜ッ!」
「じゃあ、俺ら術師になれるの? 聖地に行ったら!」
そばで聞いてた男の子が聞いて来た。
「そうだな。修行は厳しいぞ。 うん? 土だけでは無いな。イバと同じ多くの才能持ち。だな コレは来て良かった。タリムが言っていた通りだな。死なす訳にはいかない」
こう言われた3歳くらいの子供は、眼を輝かせていた。




