829 桜(オウ)の企み 02
いつもより、激しく求めた。
門との夜の生活の間は、ドラーザの二人は完全に感覚を切って眠っているそうだ。
ルコにいた時代からの取り決め。
サポにも、始まったら干渉するなと誓約させていた。
アンだけが、薄く意識を保って二人の行為を見守る。
桜は、最初は信じられなかった。
覗き見されている?
だが、アンが嘘を言っている様には感じ無い。
門からも、ドラーザの二人は桜との時間には眠っていると言われていた。
アンは様々な事を教えてくれる。
長い大陸での生活の間。
身体を借りたのは、何も男だけでは無い。
女も居た。
道士の娘でも、怪我をし、病になる者がいた。
子供を守る為に、銃口に身を投げ出した母親の身体を借りた事もある。
子供達には事実を伝える事なく、それぞれが家庭を持ち子を成した。
孫の顔を見れるとは・・・・そう、言って祖母になれた女は道士の長に骸を預けた。
安らかな顔で棺に横たわる母親。
初めて告げられた、心臓が無い母の秘密。
死すべき運命を捻じ曲げて、命の炎を燃やし尽くした。
それを聞いた子供達は、驚きながらも泣くしか無かった。
門と共に助け出されてから、母親を知ら無い桜にとって、アンは母親の様に今まで身体を借りた女の記憶を使って、大陸の地方料理を教えてもらい門を喜ばせた。
門も、学生時代は寮で生活し、国費を受けて海外で学びそのまま海外で外交官となって、国で内政についた時には母は料理をさせられない状態だった。
そのまま、認知症が悪化し亡くなった
前の妻との離婚は、母に続いて父まで介護が必要になった事も理由にされた。
そのせいか家庭料理を好む。
『外での食事は煩わしい。常に周囲に気を配らなければならなかった。
後で、同じ料理店に居たのに挨拶にも来なかったと言われたり、上司が不倫の相手といた時に酒を持って行ったりでね・・・・だいぶ、苦労したよ』
だからだろうか、門は他の二人と違いアンが桜に家事を教える時にも、桜の姿を見ているそうだ。
『目で見るわけじゃ無いんだ。
私は桜の姿が見える様に、窓辺のカウチに座って外の光景を見ている。
不思議な事にアンと桜の姿を見る事ができるんだ。
私の体を借りて、自分に関係無い行動を三人の誰かがしている時には、目を瞑って意識を消している。
それは、残り二人も同じだね。
めいめいに気に入った場所で目を閉じて横になっている。
でも、アンが桜の傍にいる時はテラスに置いたカウチで目を開けているよ。
それが、僕らがいる世界だ』
彼の中に竜の姿を持つ男が二人、そして竜の女がいる。
夫の身体を使い、その三人を生きながらえせているのは異界の物。
神とは思えない・・・・魔物?
門と自分の命を救ってくれた事には感謝はしているし、サポには悪意は感じない。
ただ、サポを作り出した存在に悪意を感じる。
付き合いが浅い桜にでも、その異常さは解る。
御堂の主、寮監とも呼ばれる存在と一緒なんだろう。
様々な人類を宇宙に旅立たせて、どう生きていくのか、どう変わるのかを見ている。
その目的を達成する為に、私と門の間に子供を作らせない様にしている。
桜は誰にも話してはいないが、そう感じている。
だから、子供を作ってみようと思っている。
もしかしたら、サポを創り出した存在は神かも知れない。
だからこそ、神にアガらってやる。
それ程、桜は門との間に子供が欲しくなった。
命をかけても構わない程に。
一度目の射精を受け止めて、本当は、その心地よさに身を任せて寝ていたかったが、うたた寝をし始めた、夫の身体をそっと押し退けて奥の浴室に駆け込んだ。
門の様子を伺いながら若菜が精子を抜いた。
ベッドに帰る前にシャワーを浴びた。
遮蔽を張った隣室のクローゼットから出て来た若菜。
手には美耶が借りて来た、人工授精に使う精子の採取瓶が握られていた。
「あのさ、なんだか量が多いんだけど・・・・」
目の高さに、パイレックス瓶を持ち上げる。
受け取ろうとした美耶が今度は赤くなる。
「もう!そんな生々しい事言わない! 直ぐに検査に出すわ!」
美耶が消えて行く。
残されたのは紗羅と若菜。
言われた通りに、桜の股間に触れる様にして精液をアンプルに移した若菜。
医療用ゴム手袋をはめての作業・・・・まぁ、手に触れずに移し替えはできたけど・・・精液を手にした感覚は残っている。
「相変わらず。この方面は産ねぇ〜」
そう言われて真っ赤になる若菜。
「姉さんも、サイコキネシスは訓練していたんじゃ無いの?」
「私だと、精子だけで無くサポが仕掛けた避妊具まで外しちゃうわ。
精密性では若菜には敵わない。それに、桜の身体を傷付けるかもしれない。
これが終わったら、私達は南米と南極そして、恋歌の付き添いだから、しばらくは旦那様を独り占めしていいわよ。
次の仕事も大変なんだから・・・・」
「次? 何やるの?」
「卵子の取り出し」
「あ〜そういう訳か!」
このまま、数日経つと桜は排卵日を迎える。
成熟した卵子が卵管に入って精子との受精を待つ。
その成熟した卵子を取り出して、門の精子と体外受精させる。
日本でも行われているが、ドーンの移動艦に積まれていたユニットの方が安全で、確実だ。
アーバインの術者も待機させる。
「私達の身体で練習して貰うわ」
「良いの?」
「私だって閉経していないから、大丈夫よ」
「医療行為よね?」
「魔法による医療行為です。って登録できると思う?」
「思わない」
そこへ、美耶が帰ってきた。
「結果は、これ以上無い程、健康な精子よ。数もだけど、正常な精子の割合が27%あるわ」
「えっそれって、多いの?」
若菜が驚く。やはりこの分野には疎い。
「多いわ。通常15〜20%よ」
「そんなに、異常な精子の割合って多いんだ!」
「だからよ、子宮の奥底まで泳いでいく力と能力が有る精子だけが受精できる。
ファルトンの人工受精装置は擬似的に、この状態を再現して正常で健康な精子だけを受精させる様にしてあるわ。
だから、受精確率もその分下がるけど、異常精子で受精しても死亡する確率が上がるから、人工子宮から生まれてくる赤ん坊の先天的異常は抑えられているわ」
「ほぇ〜そんな仕組みが有るんだ」
若菜は、自分のお腹をさすって見た。
「そうなんだ。人間の身体て良く出来ている」
「シャワールームに桜が入ったわ・・・・・
二度目の回収に行ってらっしゃい」
シャワールームに入ると、ピンク色の身体の桜が居た。
首筋にキスマーク・・・・
こっちが、恥ずかしくなる。
『じゃあ、摂るわよ』
手にアンプルを置いて、桜の股の間に密着させる。
『1回目で判ったのは、精子の数も状態も良いそうよ妊娠できるわ』
『そうですか・・・・・良かった』
接触している事で、外に漏れずに念話が出来る。
『今度も、量が・・・・多いわね』
『それじゃ・・・』
『このまま人工授精の準備に入るわ。
今度は、受け止めてそのまま寝てしまいなさい。眠くなるものね・・・』
『はい。でも、やっぱり・・・』
『騙している気になる?』
頷く桜。
『門を騙しているわけでは無いでしょう?
あなたの身体に、そんな細工をした連中を騙し返すだけよ。
幸せになりなさい』
この調子で朝まで三度
流石に最後は門を受け止めたまま眠る。
心地よい。眠り・・・・・・・
門は、今度は身体を重ねたまま背後から桜を抱きしめて、満足して眠りに入る。
彼も、やっと会議を終われてホッとしていた。
だからだろうか、妙に桜の身体が欲しくなったのは事実だった。
眠りについた門。
頃合いを見て、アンが門の体を借りた。
サポをドラーザの二人に任せて、アンの姿になって桜の裸体を優しく撫でる。
身体を変えられた事にも気付かずに、門はカウチに丸くなって眠っている。
『今度は、私達の番ね・・・・・・・』
少しだけ考えて、直ぐに桜の身体を撫で続けた。




