816 CCF の企み 29エトランゼ 17
新しく建設される事になった。
ロースイア海に浮かぶ妖精の街。
水上都市 【ファミール】
洋上に立てた杭の上にパネルを敷いて、その上に作られた街。
ヘルファーの中空杭とパネルは塩害にも強い。
きっと素材の調査をしに来る奴等が出るだろう。
そう考えて表面はチタン合金で覆ってある。
赤外線を使ったハンディな計測器が有るから、隠し立ては効かない。
ヘルファは、このタイプの分析器にデータが無いから削ろうとして、その強固さに気がつかれたら不味い。
表面を他の物で覆ってやる。
チタンでも、かなり高価なのだがコンクリートパイルを打ち込む気にはなれない。
数十年経てばチタン合金のカバーは取り替えになるだろうが、遮蔽を使っての工事だ。
それまでには、CCFかファッジスのどちらかが傘下に置かれているはずだ。
負ける気はしない。
ウルマから持ち帰ったヘルファー原石の精錬には碧も随分と苦労をした。
アシの一族の単為生殖の鍵が、一定幅の高濃度の魔素の存在。
この、魔素の環境濃度で無ければアシは生きていけなかった。
アシの一族の最後の棲家。
存在するのは高濃度の魔素が溶け込んだ湧水。
それを、代々のポアーザが調整をして皆を生き延びさせてきた。
だが、そこを近代兵器で襲撃されたアシには守る術が無かった。
地に潜る事も忘れてただただ、蹂躙される。
全ては一人残されたダイアを守る為に、我が身を晒してあがらった。
人族の姿を残したダイアをノアに託した。
人間のノアとアシで有るダイアの間に産まれた二人の子供が、竜種の姿を取ったのは一気に魔素を吸収をしない様に、ドラゴニアの体組織を呼び起こした結果。
当時ミアラと名乗っていた美耶の空の魔石が、アシが住んでいた洞窟で一気に充填された事から魔素濃度が高かったのが良くわかる。
ドラゴニアの姿を保つのには限界がある。
限界を越えれば魔素酔いに陥り最悪死に至る。
高い濃度の魔素が無くなれば元に戻る。
現在、ルースとウルマで家庭を持ち人として暮らすペータとシータ。
もう高濃度の魔素に晒される事も無く平穏に暮らしている。
美耶が湖から引き上げて置いた柔軟性を持ったエトナ鉱石を、魔素の泉の側に配置して置けば魔素を吸収し次第にヘルファーに変異する。
成熟したアシの雌が魔素の影響で単為生殖を開始した際に、ヘルファーの鉱石の中に含まれるエトナを吸収して魔素を調整しながら、自らの身体を犠牲にして産み出す娘。ダイアは次代を産み出す為にたどり着いたウルマ。
ノアとの間に子供を宿したが、同時に二人の娘が彼女の身体の中で生育を開始していた。
ウルマは、ダイアにとって喜びと恐怖が重なる地だった。
エトナ鉱石は、魔素に対して優秀な防護材の役割をする。
そこで、高濃度の魔石の周辺を探したところヘルファーの鉱石が見つかった。
ルースでも、見つかってはいるがその量は少ない。
ルースの青の間は何故、エトナを使って防御されていなかったのか?
疑問は残るが、陣と空の魔石。掘り出した岩石を使って、岩屋の中を漂う魔素の量を制御している。
ウルマで見つかった制御装置の様な物。
とてもじゃ無いが、もう侵入できる状態じゃ無い。
ヘルファーを使って遮蔽しているが、余計に濃度が高くなってしまった。
魔素の泉があったアーバイン上の古代遺跡を復活させて、制御装置の部屋に入室するしか無い。
魔石を地球で使用するのは、こうでもしないと魔素が溢れてしまいかねない。
ルースは地球との転移陣の稼働で、魔素を消費できているがウルマでは魔石での吸収に頼るしか無い。
地球での活動を続けるのは、そう言う事情も存在していた。
新たな空の魔石とエトナ鉱石が欲しい。
そこで、慧一達が向かったのはジューア。
あの、ルベルの攻撃で地殻が捲れ上がった港街の跡。
ここにも、魔素の泉が存在した。
防護の陣を描き入れた防護服を身につけて、冬の終わりにウルマから出発して海岸沿いに、回り込んでみた。
そして、エトナ鉱石とヘルファーを見つけて帰って来た。
これで確信が持てた。
古い街で古代遺跡を持った街の地下には、エトナ鉱石とヘルファーが存在する。
こうして、隠密行動に長けた慧一の部隊が洋樹を伴ってジューアに再潜入。
掘り出す前にルベルの周回タイミングに合わせて遮蔽を張り地中から、掘り起こして持ち帰った。
ヘルファーにして数十トン。
エトナは5トンほど。
「相変わらず桁違いだな」
「いや、キツイですよ。
収納を意識していないと持っていかれそうです。
放射線を出している訳じゃ無いですよね」
「なんだ? 子種を心配しているのか?」
「そりゃそうです。
もし、そんな事になったら慧一さん。
真弓と香織、そして巴が相手ですよ。美沙だって加わるかもしれない」
「それは勘弁してくれ。で、どんな感じだ」
「不思議ですよ。僕の魔素を確かに吸収しようとエトナが働きます。
だから、エトナを中心にしてヘルファーを配列したら、それが止まります」
「なるほどな。
君ぐらい【収納】に長けている者じゃなければ出来ない相談だ」
こうして得たヘルファーを、海上都市の為に使う。
そして、プロットされた泉をノア達が自分の脚と魔道具を使い調査している。
もう、2年。
間も無く帰るはずだが、監視が厳しい赤道を越えてくれたのかも解らない。
陰陽師もついて行っているが、赤道からある程度離れないと式を飛ばせない。
黒鳥が飛んで回らないのが幸いだ。
あの【泉の球】が役に立っている。
そのレプリカをいくつか作って、碧達は元より透歌にも渡して置いた。
彼女の記憶力はアシの一族に匹敵する。




