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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
812/926

812 NY 新生活 7

「おじいちゃん!おばあちゃん!」

乗用車から降りた西郷夫妻に駆け寄ってくる明菜を抱きしめる夫妻。

数時間、離れただけなのに、もう泣きそうだ。

それ程、可愛くて仕方が無い。


これから、この屋敷で美沙と明菜と共に過ごし、早乙女を招いて美沙の出産を待つ。

美沙は、もちろんCCF職員の登録がされて就労ビザを習得している。

引っ越してきた日本人。

しかもCCF職員。

情報を掴んで、この地域に入り込もうとする連中が出るかも知れないが、目につく事この上ないだろう。

それに、車では入れない。

【インペリアル】

この高飛車な名前の高級住宅地。

周囲はフェンスで囲まれた広大な分譲地。

その為に安全が確保され、賃貸に出される事はあっても転売はされない。

ここに土地がある。

それだけで大変な信用と価値を持っている。

賃貸に出されることが有っても、住民による審査が有る。

近隣住民達も、その為にここに屋敷を構えている。

道路やパークも含めて私有地なのだから。

勿論、コンビニもなければ郵便局すら無い。

警察も無いが、消防車と緊急搬送用の救急車と医師、看護師が常駐する警備会社の施設があるのみだ。

スクールバスも使用人の子供が使う物。

この一帯の生活道路には、主要幹線道路から出入りする場所にゲートが設けられている。

ドローンは元より、軍の航空機も上空通過を認められていない。

通るのは緊急時の大統領専用機だけだろう。

そのせいもあってCCFに対抗する連中は、自らが打ち上げた監視衛星で見ている様だ。

だが、それすらも欺瞞されている。


そのまま、奥の離れへと向かう精密機器運搬車。

この車の方が何かと便利。

外部からの視線は隠せるし、改装された離れに荷台を着けられる。

「お疲れ様です。お父さん。お母さん」

「やぁ、洋樹君。遅くなって済まない。保税倉庫での手続きを済ませて来るのに手間がかかった。

向こう側の奴の様だな。

根掘り葉掘り聞いてきた」


よりによって、特別監視地域と設定された区画に持ち込まれる年季が入った医療機器。使い古しの椅子さえ持ち込まれている。

書類上の審査項目に不備はない。

係員による審査や関税の支払いも全て完了していて留め置く事はできない。

だが、係官は何か引っ掛かる様で質問を繰り返す。

その回答に齟齬が有れば取調室に連行だ。


想定通りだ。

主治医として娘夫婦と、その婿の姉の家族を見守る為に居を移す。

就労ビザも取ってあるし、日本医師会の紹介状も持っている。

数年前にNYでの医師免許試験にも合格しているし問題は無かった。

係官は通関の書類にサインをして、入力端末で出庫許可を出した。

「良いでしょう。ドクターサイゴウ。NY(ニューヨーク)」にようこそ!」

「ありがとう。君の健康を祈るよ。

右膝の痛みが心配なら、この電話にかけてくれ。相談に乗る」

「・・・・どうして、それが?」

「そこのドアから入ってくる時の足の運びが不自然だった。今も、こうして向き合っていても右足に負担をかけない様にしている。長いのかい?」

「ディフェンスエンドで出場した試合で膝を痛めてしまって、手術を受けたんですがどうも気になって」

「カレッジでアメフトをやっていたのか! しかも、ディフェンスエンド。そうか、随分と体重を減らす様に努力した様だが、大学を卒業する為に無理をしたみたいだな?」

「体重を落とさないと日常生活に支障が出る体になってしまいましたから。何とか卒業出来て、この職場に付けたのですが・・・・少しはマシになりますかね? 今では、左足も痛みます。職場から帰る頃には痛みが酷くって車に乗ってからも、しばらくは車を動かせない。アクセルがうまく操作できないんです」

「それは、いけないね。どうだい? ()()()()()をしてもらったという事で、ここで私に少し見せてくれないか?」

躊躇する係官。

「良いんですか?」

「あぁ、自分なら治せるかもしれない。そんな患者を見て放って置けるほど僕は薄情ではない。それに、もう君は、書類にサインを済ませた。

おまじないをする事で便宜を図って貰う訳じゃ無いからね。この会話や映像も記録されているんだろう?」

「えぇ、そうですが・・・・・」

躊躇する係官。

その様子を見ていた同僚が声をかける。

「見てもらえ。ダニー。おまじない程度なら問題ないだろう。それに、これで今日の検査は終わりだ。ただ、何をするか俺も見せて貰えるか?」

「あぁ、君の胃潰瘍も診ておこう」

「えっ!・・・・やれやれ、このドクターは魔術師か?」

「なぁに、胃腸薬の匂いがするからな。それに、その体型だ。

猫背なのもその証拠。医師なら気づく事だよ。

どうれ・・・・そうか・・・ダニー。軟骨が変形しているんだな?

MRIで診て貰ったか?」

「うちの主治医は、そんな事言わなかった・・・・手術が必要か?」

「そうだなぁ。後でサポーターをあげるよ。

私の手持ちのサポーターに相撲レスラー用の物が入っているはずだ。

こっちでは、使う事ないから進呈するよ。捨ててしまうよりマシだ。

電話してくれれば、渡す手筈をする」

「有難いが、サポーターだけで治るのか?」

「あぁ、心配なら医師を紹介しよう。内視鏡で削り取ってもいいが、しばらくサポーターを使ってみてくれ。手術代・・・・高いだろう?」

「あぁ、子供が大学に進むから物入りなんだ」

「それは、俺にも身に覚えがあるからな」

「済まない。助かるよ」

「え〜と、君は? ジムなんだね。ジム、シャツの前を開けてくれ」

少し触診をして、卓也は袋入りの緑の飴を取り出した。

「二人とも、これを舐めるといい」

そういうと無造作に自分でも、ひとつ口に入れた。

この飴玉の中には、治癒の陣が刻まれている。

勿論、普通の人間には日本の抹茶飴にしか見えない。

(NYに住む治癒師の元に行かせる方が、確実に治るが・・・・)

「粉を塗してあるのか? 匂いも・・・・何だこれ?」

「茶だよお茶。日本の抹茶。聞いた事ないか?」

「俺知っている! ほら、ジム。前に事務所に来た日本人が、京都のお土産でロールケーキを配ったじゃないか!」

「へぇ〜。京都に行った奴がいるんだ。奇遇だな。俺、学生時代は京都で暮らしていたんだ。あぁ、変な物は入っていない。

茶の成分には、胃を穏やかにする成分が入っている。毒なんかじゃない」

医師だと名乗る男に続いて、口に飴玉を放り込んだ二人。

「なんか、渋さと甘さが混じりあった不思議な味だな」

「でも悪くない」

「さっきも、お土産に貰ったという様に、京都はちょっとした抹茶ブームだ。

ダニー。息子が職に着いたら彼に連れて行って貰えばいいさ」

「へぇ、そうなのか!憧れるよ。京都の舞妓さん!見てみたい」

そんな会話をして、飴が溶けるのを待って倉庫を後にした。

そのせいで出発が遅れたのだが、この二人は何かと役に立ちそうな気がする。

そう判断したから、治療を行い繋ぎをつけた。

二人とも、治癒の陣が効いて、しばらくは健康に過ごせるだろう。


彼らの背後には、CCFに敵意を向ける『ファッジス』がいる。

ファッジスを率いるのは、40を越えたばかりの若き野心家。

【フランク・バーンスタイン】

近年、急速に力を伸ばして来た実業家。

バーンスタインの実家は、米国の軍事部門に食品を卸す小さな商会だった。

それが、徴兵制の廃止と冷戦で軍需産業は冷え込んだ。

バーンスタイン商会は、軍への納品に頼っていた同業他社や軍備、兵器関連の企業に投資をして、いくつかの会社の実権を手にした。

併せて斜陽となっていた国内の自動車産業と通信部門にも手を伸ばす。

特に現在のCEO フランクは、ロケットや航空機、宇宙開発部門に対して力を注ぎ、世界で初となる宇宙に人類を送り出した民間企業【ファッジス】を率いている。

今では、国際宇宙ステーションへの宇宙飛行士と物資の搬送を引き受けていてJAXA、欧州宇宙機関ASE(仏)、ESA(英)と協調関係にあるが、内心はどちらも潰したい。

大陸の宇宙進出も不愉快。

北の大陸が経済破綻に近づき自爆しているのには溜飲を下げているが、やはり地球に現れ突如姿を消した外宇宙からの宇宙船の技術が欲しい。

それに同調した多くの科学者を取り込んで開発と消えた宇宙船の探索を続けている。

その中で、キッシンとエルベと言う米仏の首脳経験者が参画した謎のCCFと言う財団が絡んでいる事を掴んでいた。

それに、萩月と言う日本企業。

当主 萩月忠義。日本の皇室とも繋がる陰陽師の家系と言われている。

陰陽師の復興。

それを眉唾物と一笑にふすほどCEOは、現実主義者では無い。

アメリカが世界大戦に巻き込まれる遥か昔。

バーンスタイン家の躍進には東洋から渡り来た魔術師が関わっている。


この事については萩月との会食でキッシンも憎々しげに言う。

「いつの間にか侵食されていた。

国家予算を決めても、バーンスタインがその金額に満足しなければ補填をする。

特に、私の後の政権はバーンスタインの言いなりだ。

そんな奴らが、宇宙開発に乗り出した。

ドーンの船を探すのは当たり前だろう?」

「JAXAの職員にも、接触して来ていますね」

「済まない。末端のCIA職員の中には鼻が効く奴がいてな。いつの間にか情報を掴まれていた」

「無理も無いですよ。機密事項の秘匿義務と言っても、『口に戸は立てられない』の諺通りですよ」

そんな、やりとりが萩月 真との間でなされたのは、京都で開かれている会議のスケジュール調整の会合だった。

「でも、【ファッジス】とは不思議な名称ですね」

「洋樹君も、そう思うか?」

「えぇ、ファッジスと言う菓子やドリンクも有りますが、曖昧とか掻き混ぜるという意味です」

「記者やマスコミに、企業名について質問されても彼は答えない。

まさに曖昧な笑いをするだけなんだ」

「気持ち悪いですね」

「探りを入れてはいるが、どうにも上手くいかない。

CIAにも入出国管理、豪のいた商務省やペンタゴンにも内通者がいる。

金の動きも良くわからない。

兎に角、そういう訳でアメリカでの行動には気をつけてくれ」

「日本に居ても、それだけの規模の連中ならどこに居ても危険でしょう?

キッシンさんもヤバくなったらアーバインで暮らしますか?」

「あぁ、妻もウルマが気に入っていてね。自宅周辺でもシークレットサービスが鬱陶しいと嘆いているよ」

「そこにも入り込んでいるんですか?」

「恐らくな。いざとなったら、亮太に頼んで傀儡を事故にあわせてアーバインに行くさ」

そんな、会話があった。

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