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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
802/926

802 NY新生活 2

「豪様と咲耶様がご結婚されたのを機に、先代様が知人に貸していたのを空けて頂きました。元は貿易業者で、多くのお客様がお泊りになる屋敷でしたので広うございます。お子様がお産まれになるまでにと改装工事を行われました」

豪の(かたわら)で世話係を務めた老人が懐かしそうに目を潤ませる。

彼は、関東の在野の陰陽師の子孫で(はやて)家の事を知っていた。

元々は式神使いの家系で、式神を使って主人の身を守る。

豪の祖先が渡米する際に、次男である上谷の祖先もついて行く様に命じられて今に至る。

その為か、管狐がよく懐き美沙緒が預けた管狐が増えて、今では結構な数の管狐がこの屋敷には住んでいる。

上谷の家族は二つある離れの一つに居住していて、今後も、この家で洋樹たちの為に尽くしてくれると言う。

豪の日本の自宅は、上谷の息子の家族がついて行っている。

上谷はお茶の用意をさせますと言って出て行った。


上谷の息子と賃貸の話を進めていた美沙が詳細を述べる。

「武田家の御当主がアメリカに渡ったのも明治になってすぐで、武田の名を隠していたそうよ。でも戦後に武田の姓に戻した。日系人の奥様が豪さんのひいお祖父様に強く進言したそうよ」

「でも戦後だと、日本名を名乗るのは大変だったんじゃ無いですか?」

真弓が疑問に思う。

戦時中は、日系人は収容所送りになっていた。

「だからこそよ。米軍に功績があった日系人は市民として迎え入れられたけど、一般の日系人は私財を失った者や家族を失った者もいるわ。だから彼らの為に働くと決めての事よ。言語学者であった彼が、例え戦時中に日本軍の暗号解読をした功績を讃えられても、新たに歩き出した日系人の復権と地位向上に尽くしたわ」

すっかり、日本の史実に詳しくなった美沙。

『成程、武田の名を聞いた時は、まさかと思ったが、信玄の隠し子の末裔だったとはな』

「信玄殿の死を聞いた母親が、このままでは家督争いに巻き込まれると、幼い息子を連れて甲斐の国から離れて京で暮らし、成長した息子が京の萩月一門の娘と縁あって横浜で商売を始めて絹の取引をしていた。そしてその後、子孫の一人が明治の時代にアメリカに渡り、お互いを窓口にして横浜の本家とアメリカとの交易を続けた」

『なるほどな。信玄の血が海を越えたか・・・奴の子孫らしいわ!』

信長は御堂で暮らした上杉謙信だけでは無く、その血を継ぐだけとは言えかつて覇権を争った信玄の縁者がいる事は嬉しくもあった。

まさか、本当に信玄殿の血を引く者とは・・・

『ほんにな、帰蝶。縁とはふしぎなものじゃな』

『はい』

「そう言えば、信長様のご長男、信忠様と武田家 に繋がる仁科家息女 松姫との悲恋は有名ですね」

香織は真弓に誘われて、東京での試合の後に八王子にある信松尼の墓所を訪れた事がある。宿泊先は八王子の両角寿美のマンションを使わせて貰った。

『勝頼のバカが、偉大すぎる父親に負けじと織田に戦いを挑んだせいじゃな。大人しく下れば命まで取る気はなかった。その価値も無い。そのせいで多くの優れた将や民を失う事になった。勝頼を担ぎ上げた連中の気がしれん。アイツではどう転んでも武田は終わっただろう。

じゃが、勝頼の気持ちは解らんでも無い。

ワシとてそうで有ったし、信忠にもそうで有って欲しいと常々願っていたからな。

洋樹、お主もそうで有ったであろう?

父を越え母を凌ぐ者になりたいと思ったから、我の勧めに従い家を出たのじゃからな』

「信忠様は本能寺の変の際に、自害されたと聞いておりますが、御堂には招かれ無かったのですか?」

『残念ながら、サトリでは無かったからな。

尼となり一生を終えた松姫は御堂に入ったが、信忠の魂が輪廻の輪に乗ると聞いて縁を結ぶ為に出ていった』

『松姫が御堂を出て行ったのは、明治の終わりの頃ですね。それから、輪廻の輪に乗ってですと大正になりますか?』

『松姫の事。どこぞで信忠を捕まえて縁を繋いだ事だろう。

それほど、信忠を思っていたからな』

「そんな、事があったんですね」

『松姫の子であれば、サトリの能力がついているやもしれん。

在野の陰陽師の中に子孫がいるやもな・・・・・』

『そうであって欲しいですね』


「会ってみたかったですね」

真弓は帰蝶から信松尼の話は聞いており、中学の頃に菩提を尋ねたのも帰蝶の頼みだ。

父、道三の墓よりも先に行きたいと願ったのは、神田から中央線を使えば子供の身でもいけると言う事もあろうが、輪廻の輪に乗った二人のそれからを知りたかったせいもあろう。


『あぁ。息子の許嫁ではあったが、在世では会った事はなかった。だが、御堂で会ってみれば良い娘じゃった。信忠の嫁には勿体無いほどの娘じゃった。

今考えれば武家とは不自由な者じゃった。

好きな女子、男と添い遂げる事は先ず無い。

実家の為に、子を作る為に嫁してくる娘もいる。

大名はその娘が、どんなに意が合わなくても娘の為には子を成してやらねばならん。娘は家の将来の為に嫁してきているのだからな。

戦働きで功績が上げれない家系は、それこそ娘に全てを賭ける。

ワシが帰蝶を大事と思ったのは正妻であったのもあるが、自分に子ができぬとしてもと織田家を考えて信忠らの面倒を見てくれた。それが、ありがたかったからなぁ〜

そんな帰蝶の教えを守って、信忠の奴も手紙のやりとりを続けていた。

高遠城の戦いの際にも信忠は、城を守る仁科家から松姫を救出しようとしたが松姫は居なかった』

『松姫も、その事を聞いて泣いておりましたね。サトリの力が出家してから開いたのですから。もっと早ければ信忠の元へ行けたと・・・・・・』

『仁科も松姫だけは逃したかった様で、先に城を出したのだが・・・・』

『行き違いですか?』

『・・・・いや、勝頼の手の者が攫った』

「歩き巫女ですか?」

『流石 美沙だな。その通りだよ。帰蝶から聞いたか?』

『いえ、私は何も。戦に着いては美沙には話しておりませぬ。私は人から聴くばかりで事実とは限りませんから・・・・・』

『そうか・・・ワシも迂闊だった。

武田の歩き巫女が、あの様に情報戦に長けているとは・・・・偽の信忠の文を見せられて信じて籠に乗ったらしい。だが、眠らされて着いたのは武田の城じゃったそうだ。勝頼の命だろうな』


2025/04/05

タイトルから【間話】を外しました。

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